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【2話】不埒なあなたはこの愛に沈む~狡猾な夫の思惑と従順な妻のはかりごと~

作品詳細

「君は本当読めない人だな。まさかこういうのに興味があるとはね。……僕に見せていない顔があといくつあるんだろう」
「ウィルフレッド様の影響です。現状に満足することなく邁進する貴方の姿に感化されただけに過ぎません」
 ウィルフレッドの腕に手を添えたエヴァリンは、下から覗き込むように上目遣いで謙虚な言葉を使う。
 ――ほら、やはりこういうのも効果的だ。
 エヴァリンは内心ほくそ笑み、添えるだけだったその手で彼の腕を撫でた。
「私はいつだって、貴方の隣に並ぶのにふさわしい妻でありたいと思っておりますから」
 謙虚な妻。健気な妻。貞淑な妻。従順な妻。――愛らしい妻。
 この人が望むのであればどんな妻でも演じることができる。この男の心を掴めるのであれば、エヴァリンはどんな女にでもなれた。
「なら、そんな可愛いことを言ってくれる君にお願いしようかな」
 ウィルフレッドは腕を撫でるエヴァリンの手を取り、もう片方の手を腰に回してくる。吐息がかかるほどの距離に顔を近づけて、その榛色の瞳をすぅっとすがめた。
「今夜相手した女性がいまいちだったんだ。君で口直しをさせておくれ」
 およそ妻帯者とも思えない発言を平気で自分の妻にしてくる、酷い夫。
 それでもエヴァリンは、微笑んで従順に頷いた。
 

「……んっ、……んく、……ん、んんっ」
 ちゅぷ、じゅる、と淫靡な音が耳を衝く。この音にいつまでたっても羞恥心を覚えるエヴァリンは、この行為自体苦手だった。
 けれども、ウィルフレッドが望むからこれをする。彼がこれをするとことさら喜ぶから、たとえ苦手であってもするしかない。
 口いっぱいに彼の欲望を含み、扱くように唇をすぼませ上下させる。たったそれだけのことだが、喉の奥まで屹立が入り込んで嘔吐えずきそうになるし、息苦しい。鼻で息をするだけでも精一杯なのに、溢れ出る唾液がエヴァリンの口元や添えられた手を汚し、そしてあの淫らな音を立てるのだ。自分の口から吐息が漏れるのだって恥ずかしい。
 何よりも嫌なのが、そんな痴態を見せているエヴァリンを見下ろすウィルフレッドの目だ。あの榛色の瞳が、こちらを舐るように見てくる。それが何よりも居た堪れなくなるほどの羞恥を、エヴァリンの中に植え付けるのだ。
「……あぁ、いいね、エヴァリン。やはり君は上手だよ。僕のいいところをよく知っている」
 脚の間でひざまずき、その屹立を口で慰めるエヴァリンの赤毛レディッシュを指で梳きながら、ウィルフレッドは褒めそやす。誰と比べられているのかは分からないが、それでも上手だと言われるのはやぶさかではない。
 結婚してもうすぐで一年。こうやってウィルフレッドと夫婦の営みをするようになって、どれだけの回数を重ねたか分からない。その分だけ彼の感じるところを知ったし、どうすれば悦ぶのかも学んだ。おかげで『上手だ』と褒められるまでになったのだ。
 例えば唾液をいっぱい絡めるとやりやすいとか、口で穂先を咥えるのと同時に手で陰茎を扱いてあげるのが感じるのだとか、舌全体で亀頭を舐め回したり、ちゅっと吸われるのが好きだとか。ウィルフレッドが悦ぶすべを学び、そしてその技を磨いてきた。
 苦手であっても、それが今のエヴァリンのすべてなのだから耐えてきたのだ。
「……ンんっ! ふっ、……ぁんっ」
 ピクピクと震える屹立を愛でるように舌を絡ませ、何度もストロークを繰り返す。先走りが滲み出てきて、口の中にしょっぱさを感じてさらにその動きを激しくした。
 もう少し。
 エヴァリンは息を荒げ、そしてちらりとウィルフレッドの顔を窺い見た。
「……気持ちいいよ、エヴァリン。もう、出てしまいそうだ」
 彼も頬を上気させながら、うっとりとした声を出す。懸命にしゃぶるエヴァリンを労わるように髪の毛を大きな手で梳き、そして解れ落ちた横髪を耳に掛けてくれた。
 本当、こういうところは憎らしい。
 どれだけの女性がその歯牙にかけられたか考えたくはないが、その数だけそうやって優しくしてきたのだろう。ここぞというときに女性を褒めてそして触れるその仕草が、手慣れた感じがして仕方ないのだ。
 身の内に沸き起こるモヤモヤを発散させるかのように、エヴァリンは口淫に集中する。ウィルフレッドの口から息を詰めるような吐息が聞こえてきたとき、彼の限界を知り追い打ちをかけようとした。
 ところが、それをウィルフレッドが阻止する。
 エヴァリンの顔を両手で軽く持ち上げて、口を外してしまったのだ。そして、切なそうな声で『エヴァリン……』と名を呼ぶ。
「――――乗って」
 悪気もなくそう要求してくるウィルフレッド。それが当然だとばかりに、性の奉仕を目の前の妻に求めてくる。
 そしてそれにゆっくりと頷くエヴァリンも、相当なものだ。
 嫌がる顔一つ見せずに嬉しそうに微笑み、自ら夜着もドロワーズも脱いで惜しげもなくその裸体を晒すのだから。
 他人より少し大きめだと自負している胸の膨らみを、ウィルフレッドの目の前に差し出すことも厭わない。彼がこの胸を何よりも気に入っているのを知っているからだ。
 ツンと尖った桃色の頂も、綺麗な丸みを帯びている柔らかな乳房も、しっとりと吸い付くような肌も。全部ウィルフレッドのお気に入りだ。
 だから、エヴァリンもお手入れを怠らない。垂れやすい胸が重力に負けないように毎日マッサージしているし、肌にいいという美容クリームはすべて試した。その努力を惜しんだことはない。
 彼の太腿の上に乗ることだって、雄々しく反り勃つ屹立を自らの秘所に受け入れることも今では抵抗なくできる。
 初夜こそウィルフレッドは自らがリードして丁寧にエヴァリンを抱いてくれたが、いつしかエヴァリンを向かい合わせて自分の上に乗せ、その上で淫らに踊る姿を見るのを好むようになった。
 毎度毎度、彼はエヴァリンに『乗って』とお願いをして自ら跨がせて、そしてエヴァリンが懸命に動くのを楽しそうに見る。お気に入りの胸に顔を埋めながら、気持ちよさそうに。
「……ふっ、……ンぁ、あ、はぁ、んっ」
「……っ、あぁ、凄く中がきつくて気持ちいいね」
 充分に潤い切らないままに受け入れた秘所が、刺激を受けてようやく淫靡な水音を立て始める。それによって滑りがよくなったウィルフレッドの屹立が、ぐぐぐ、とエヴァリンの奥の奥まで穿ってきた。
 この最奥に辿り着いたときの感覚が、いまだに苦手だった。一番圧迫感を感じる瞬間で、串刺しになったような気分になる。
 それがまるで罰を受けているような気がして、ウィルフレッドの肩に置いた手に力が入り、自然と膣も慄くように震えた。
 あとはエヴァリンのいいように動くだけだ。
 もうすでに覚えてしまった自分の一等感じるところに屹立を擦りつけて、そして扱くように律動を繰り返す。喘ぎ声は恥じらうように少し抑え気味に。
「…………ウィ、ル、さま」
「……ん」
 可愛く甘えるような声を出し、ウィルフレッドもそれに答える。そしてぷるんぷるんと上下に揺れる胸を両手で鷲掴んで敏感になっている頂を食み、貪るように吸ってきた。痛いくらいに吸い上げられた後に口の中で転がされ、もう片方の頂は指で弾くように何度も摘ままれる。
 その刺激を受けるたびにエヴァリンの腰が震えて動きが鈍くなった。
 快感によがり身体から力が抜けていくのが分かり、目の前の人に縋りつきたくなってしまう。胸にむしゃぶりつくウィルフレッドの頭を掻き抱き、何もかも考えられなくなるほどにこの身を任せてみたい。
 けれどもそれは赦されなかった。
 エヴァリン自身も、ここでそんな醜態を晒すことは望んではいない。
 ――この人を堕とすまでは、まだ。

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