【試し読み】いじわるしないで

作家:森田りょう
イラスト:まろ
レーベル:夢中文庫クリスタル
発売日:2015/11/10
販売価格:300円
あらすじ

出張先で、苦手な上司・松田が彼女に電話であっけなくフラれた。やけ酒に付き合った歩実だったが、酔った松田は「俺を慰めろ」と言って、歩実を押し倒してしまった。あまり恋愛経験のない歩実は、松田の優しい愛撫に翻弄され抱かれてしまう。そこから始まる体だけの関係。オフィスで秘密の逢引。いつもいじわるな松田が与えてくれる快感にだんだんと溺れていく歩実。だけど、時折見せる優しさに胸が苦しくなってきた。もっと優しくしてって……言いたいのに……言えない。そんなとき、松田の元彼女が現れて、歩実はショックを隠し切れなくなり……。大人なラブストーリーの行方は?!

登場人物
牧野歩実(まきのあゆみ)
新人OL。仕事に厳しい上司・松田のことが苦手だったが、出張先で関係を持ってしまい…
松田泰弘(まつだやすひろ)
歩実の教育係。爽やかな風貌だが、無愛想で辛辣な物言いをすることも。
試し読み

「あの、松田さん。そんな気難しい顔して……わたしの作った資料、どこかおかしかったでしょうか?」
 牧野歩実まきのあゆみ松田泰弘まつだやすひろの顔色を窺いながら、おそるおそる尋ねてみた。教育係の松田は一見、見た目はさわやかそうな風貌ではあるが、仕事のことに関するととても厳しい。新人OLの歩実にとって、とても恐ろしい存在なのだ。
「どこが悪いか自分で考えてみろよ」
 無愛想な表情で資料を突き返された。
「と……申しますと?」
「だから作り直しだって言ってんの!」
「ええっ? なんでですかっ? わたし、一日かけてこの資料作ったんですよっ? 全部やり直しってことですか?」
 歩実は若干、不服そうな表情で松田に詰め寄った。
「わかってんじゃん。なら、さっさと仕事しろよ」
 突き返された資料がデスクの上に無造作に広がった。そのまま松田は歩実に背を向けて、他の社員と仕事の話をする。歩実は松田の言葉に言い返さない。逆らえないのだ。ぐっと言葉を呑みこんでばらまかれた資料を掻き集めると「わかりました」そう小さく呟いた。

◇◇◇

「ああ、もう! 松田さんの言うことも一理あると思うけど、全部やり直しって有り得なくない?」
 昼休み、ランチを食べながら同僚の相沢美里あいざわみさとに愚痴を聞いてもらう歩実はパスタをくるくるとフォークに絡め合わせながら怒りを露わにしていた。
「本当、松田さんと歩実って相性悪いっていうか……最悪じゃんね?」
「うん、松田さんとは性格が合わない!」
 とにかく怒りが治まらない。パスタやピザをいっぱい口に頬張って、怒りを鎮めるしかないのだ。
「でも、ずっと付き合っている彼女がいるって噂があるけど……。しかも結婚秒読みとか。すごく綺麗な人らしいよ~?」
 美里の言葉に歩実は一瞬、パスタを絡めたフォークを止めた。
「へ~、あんな怖い松田さんでも彼女いるんだ」
「でも、実際付き合ってみると案外優しいのかもね~? 松田さんみたいなタイプって」
 美里の言葉にごくりとパスタを呑みこむ。少し考え黙っていた歩実だったが、唇を尖らせてゆっくりと口を開いた。
「優しいなんて……ありえない」
 そう、本当に松田さんは怖い。少なくとも歩実はそう思っている。

◇◇◇

「え? 明日出張ですか?」
 帰り支度をしていると、松田に呼び止められた歩実。エレベーター前で振り返ると松田がゆっくりと近づいてきた。
「そ。一泊二日。大阪支店のほうにな」
「え? え? 誰と誰が出張ですか?」
「俺とお前」
 歩実は目を見開いて驚いた。と同時に大声で叫んでしまった。
「松田さんと二人で出張っ?」
 社内の廊下で叫んでしまい、慌てて口を自らの手で塞ぐ。
「なんだよ? 嫌なのかよ?」
「え? いや……そういうことではなくて……嫌……じゃないです」
 松田の視線は無言の圧力をかけてくる。歩実は委縮しながらも、頷いて、苦笑いを見せた。

 翌日の新幹線の中でも、二人は終始無言。松田はずっと気難しそうな顔をして、昨夜まとめた資料に目を通している。口を開けば、仕事の話。
──こういう移動のときくらい、世間話しようっていう気にならないのかしら?
 本当にこんな無愛想で面白味のない男に綺麗な彼女がいるなんて、信じられない。でも、よくよく見ると、鼻筋の通った高い鼻。熱っぽさを帯びた瞳、薄くもない太くもない唇。肌の質もいい。黙っていれば本当にかっこいいのに……。
 そう思いながら、歩実はじっと松田の横顔を見つめていた。その視線に気づいた松田。
「なんだよ、牧野」
「ふぇっ?」
 松田の言葉に歩実は慌てて我に返る。すぐさま顔を正面に向け、真っ赤な表情をなんとか隠すのに精一杯だ。
「な……なんでもありません! すみませんっ……」
「……変な奴」
 再び、松田は視線を資料へと向けた。
──ああ、焦ったァァ。松田さんと目が合うんだもん。びっくりして顔が火照っちゃった。思っていたよりも整った顔だったから……。
 火照った顔を手で扇ぐ歩実。
「あ~、なんか顔が熱いな」
 なんてひとりごとを言ってみる。
「熱でもあんのか?」
「いえ、そういうわけではないですけれど……」
「俺に移すなよ」
 言いながら、松田は無表情のままふいっと顔を背けた。そんな松田の態度と言葉にだんだんと怒りが込み上げてきた歩実。

「ほんっと、なんなの? あの態度!」
 大阪支店に着き、仕事を終えるとホテルにチェックインした二人。部屋に入るや否や、歩実は怒りを露わにしてベッドに荷物を放り投げた。ビジネスホテルのシングルルームなので、そこまで部屋は広くはない。壁越しに声が聞こえるかもしれない。そう、隣の部屋は松田なのだから。慌てて、口を押さえる歩実。ベッドに寝転がると天井を見据えた。ため息を吐くと同時に、松田の部屋の方向を見た。
──静か……だ。寝ているんじゃないかって思うほどに……。
 しばらく壁と睨めっこをしていると、松田の部屋から何やら声が聞こえてきた。思わず歩実は壁に耳を当ててみる。松田の話し声が歩実の鼓膜に響いてきた。松田は電話をしているようで、内容はところどころ聞こえない部分もあり、はっきりとはわからないが、どうやらもめているようだった。
──俺が……とかお前が……とか、すごく親しい人との会話のよう。もしかして……彼女さんとケンカ?
 ごくりと息を呑み込んだ歩実はそのまま聞き耳を立てている。向こう側から軽く、壁にコツンという音が響いた。会話がよりいっそう聞こえるようになった。松田がすぐ傍にいるということだ。歩実はバレないように息をひそめる。多分、きっと声を発したらこの薄い壁越しに伝わってしまうだろう。
「わかった。お前がそんなに言うなら……俺たち別れよう」
 別れようという言葉だけが歩実の耳に響いた。目を見開く歩実はそのまま壁に耳を当てたまま、体を固まらせた。
──え~と、別れるって……彼女さんと? そんな電話で簡単に済ませちゃっていいの?
 頭の中でぐるぐると色々なことが過ぎってしまう。自分が言われたわけでもないのに、他人の別れ話のはずなのに、壁越しに盗み聞きをしてしまった罪悪感なのか、歩実は未だ呆然としたままだった。恋愛経験がほとんどない歩実にとって、目の前で一つの恋が終わるということはとても衝撃的だったのだ。
「くそっ……」
 ドンッと壁を思いきり叩きつける松田。
「ひゃっ!」
 いきなり壁を思いきり叩かれたせいで、思わず声が漏れてしまった。慌てて口を塞ぐも、すでに遅い。
「おい、牧野」
 壁の向こうから響く声が、どことなくぴりぴりとした緊張感を含んでいるよう。いや、怒っているようにも聞こえる。
「す……す……すみませんでしたああ!」
 そう震える声を張り上げると、そのまま布団を頭から被った。
──ああ、どうしよう。盗み聞きしているのがバレちゃった。明日、どんな顔をすればいいの? もう、仕事休みたい! でも出張中だからそんなことはできないし……。
 そうこう考えていると、扉からドンッというノック音が聞こえた。気のせいだと思いたい歩実は聞こえないフリをしたが、もう一度ノック音は続いた。今度ははっきりと二回。ゆっくりと時間をかけて扉を開ける。誰が扉の外にいるかわかっていたからだ。
「……はい」
「お前、開けるの遅ぇよ! どんだけ時間かかってんの?」
 目の前にいたのは、予想通り、松田だった。
「あのっ……さきほどのことは……その……本当にすみませんでした……」
 消え入りそうな細い声を絞り出す歩実。よっぽど松田のことが怖いのだろう。体が委縮してしまっている。
「別に、そのことはもういい。それより……付き合えよ」
「え? なにを……ですか?」
「酒。ふられたんだからさ、朝まで付き合え。上司命令だ」
「え、えええ?」
 松田は酒を手に持ち、にっこりと悪魔のような笑みを歩実に見せた。

◇◇◇

 追加のお酒をコンビニへ買いに行き、無言のままお酒を飲み続ける松田の姿に、歩実は息を軽く吐き出した。
「なんだよ? 俺がいちゃ迷惑なのか?」
「い……いえっ……滅相も御座いませんっ」
 慌ててかぶりを振って、否定する歩実。空になった缶ビールがたまっていく一方で、松田はしだいに酔っぱらっていった。ベッドに寝転んで、歩実の荷物を枕にして寝息を軽く立て始める。時計を見ると時間はすでに夜中の十二時を過ぎていた。
──あ~、早くお風呂に入って寝たいのに。松田さんがいる部屋でお風呂なんて入れないし……。あ、そうだ! たしか大浴場が午前一時まで開いてたはず。
 着替えを取ろうとした歩実だったが、松田は歩実の荷物をしっかりと抱きしめていて眠っていたので、うまく着替えが取れない。なんとか下着だけは取り出したものの、松田の腕がそれを邪魔する。ふうっとため息を吐いて、歩実は備え付けの浴衣とタオルを持ち出した。
「松田さん、もうすぐお風呂終わっちゃうので、大浴場に行ってきます」
 そう一言声をかけても反応しない松田を後目に、歩実は大浴場へと向かった。

 ゆっくりと湯船に浸かって、疲れた体を癒した歩実。この後どうしようかと散々考えた挙句、答えはなにも出なかった。ドアを開けると、松田がベッドの上ですやすやと眠っていた。朝一番の新幹線で東京から大阪にやってきて、仕事をして、接待で軽く晩御飯を食べて、ホテルに着いたと思えば彼女との別れ話。疲れて眠ってしまうのは仕方がない。そう歩実は思っていた。
──でも、わたしもゆっくり寝たいしなぁ。そうだ! 松田さんの部屋で眠ればいいんだ!
 歩実は松田の部屋のカードキーを探す。
「たぶん……どこかポケットにある……かも……」
 松田を起こさないよう、慎重にカードキーを探す。ゆっくりとポケットに手を突っ込んで、弄っていると、いきなり腕を掴まれてしまった。
「ひゃっ……」
 そのまま、ベッドに押し倒される歩実。
「どこに手、突っ込んでんの? 牧野」
「ま……松田さ……ん? 起こしちゃい……ました?」
 両手首はしっかりと松田の大きな手によって固定されて、身動きがとれない。
「そりゃ……こんなとこゴソゴソと弄られたら誰だって起きるっしょ。なに? 煽ってんの?」
「ちちち、違いますっ! 松田さんの部屋で寝ようと思って、カードキー探してて……」
「牧野が慰めてくれんの?」
──ちょっ……話聞いてないっ、この人!
 首筋に軽く舌を這わされた。
「ひゃあっ」
 驚いて目を見開く歩実。顔を真っ赤にして松田を見据えている。
「ま……松田さん、酔って……ます?」
──そう、きっと酔っぱらってる。松田さんはいつも怒ってばかりで……わたしなんかのことなんか眼中になくて……それでいて……仕事もできないミスばかりしているから、多分……わたしは彼に嫌われている……と思っていたんだけど……。
 一瞬、びくりと体が跳ね上がった。松田の手がするりと歩実の足に触れたからだ。
「ま……松田さん……」
 松田は息を吐き出して、ネクタイを無造作に緩めた。
「そんな浴衣着ちゃってさ。俺に襲えって言ってるようなもんだろ」
「ち……違っ……んんっ──っ」
 いきなり唇を奪われた。ぐちゅぐちゅと舌先が絡み、口内を探索しているようだ。水音が奏でられる。歯の裏側まで舐められて、喉の奥までくまなく舌先があてがわれる。
「ふうっ……ァ……」
 息もできないほどの深いキス。こんなキスはしたことがない。キスだけで、下肢が熱くなるキスなんて、されたことない。
「あっ……あ……」
 頭が痺れていた。なにも考えられなくなるまで与えられ続けた口づけに、歩実は放心状態だった。風呂上りのせいで、頬がほんのりピンク色に染まっている。石鹸の淡い香りが、松田の本能を揺さぶった。
「牧野……」
 今度は首筋を思いきり吸われた。そのまま舌先で鎖骨をなぞられて、浴衣の隙間に指を這わせる松田。
「待っ……てっ……、松田さっ……ん……」
「こんな格好しているほうが悪い」
「やっ……だってっ……、着替えが……」
 肩ごしからするりと浴衣がはだけ、ふくよかな胸が露わになった。
「松田さん……ほんとに……ダメっ……」
 歩実の言葉も聞かず、松田の舌先が歩実の胸の尖端を一舐めした。
「ひゃああっ……」
 ぬるりとした舌の感触。そして、ゆっくりと桃色の蕾を口に含んだ。甘い声が漏れて、歩実は体をくねらせる。
「やああっ……松田さっ……ァんん」
 もう片方の乳房の尖端は、何度も爪でコリコリと弾かれ乳首はすでにぴんと上を向いていた。
「んんっ……」
 感じてしまう。久しぶりの快感に、歩実はすでに息を荒くさせていた。
「牧野……」
 びくんっと体が跳ね上がった。腰辺りに触れていた手が、そっとショーツに触れられていたからだ。
「あっ……」
 声を漏らすも、するりと指先がショーツの中へと滑り込んでくる。そのまま茂みを掻き分けられて、指の腹でそっと窪みを撫でつけられた。
「ふあっ……ま、待ってぇ……」
「待てない」
 言いながら、またもや唇を塞がれた。窪みに触れた指がくの字に軽く曲がると、蜜壷からはくちゅりと卑猥な音がした。
「んんっ……やあっ……」
 浴衣は乱れ、ほとんど裸と言っていいほどの状態だった。かろうじて帯が結ばれている。だが、そのいやらしい姿もまた松田の本能を引き出してしまった。ゆっくりと指が蜜壷の中へと挿入される。歩実は強く目を瞑ると、体に力を入れてしまった。思っていたよりも狭い蜜壁に、松田は言葉を漏らす。
「おい、力抜けって」
「んっ……そんなこと言われて……も……力入っちゃ……うんですっ……」
「なに? 痛いの?」
「い……たくはないですけれど……」
「もしかして、初めて……とかじゃないよな?」
「ち、違います! いくらなんでもこの年になれば男の人の一人や……ふた……」
 もごもごするように、歩実は口を噤んでしまった。
「え? もしかして一人としか経験ないとか?」
「れ、恋愛よりも仕事なんです!」
「ただ単にあんま恋愛経験ないだけだろ」
 よいしょっと言いながら、松田は歩実の足を広げ、間に入り込んできた。
「へ? な……なにをするんですかっ?」
「なにって……舐めるんだよ。指が苦手ならそっちのほうがいいだろ?」
「やっ……そ、そ、それはやですっ! こ、こんなところ、汚いしっ……ひゃああ」
 ぬるりとした初めての感触が、歩実の体に衝撃を与える。脳天がびりびりと痺れる感覚。なんともいえない快感が、歩実を狂わせた。
「あっ……あ……ああ」
「なに? まさか舐められたことないとか?」
 松田の言葉に、歩実は顔を真っ赤にさせ、唇を噤んだ。
「お前さ、なに? ほんと経験ないわけ? 仕事だけじゃなくこっちのことも俺が教育しなきゃなんないの?」
「そ、そんなの……教育しなくてけっこうですっ……って……ァ……あっ……」
 再び、松田の舌先が赤く熟れた蕾を刺激した。
「ひっ……ァ……あうっ……」
 なんとか快楽に耐える歩実。下肢に埋もれた松田の頭を掴むが、うまく力が入らない。体のすべてが麻痺するように、じわじわと力を失っていった。子宮辺りがきゅんと締めつけられる。蕾だけをぐりぐりと舌先で弾かれて、ときおり強く吸われ、歩実の頭の中は真っ白だった。顔を両手で隠し、無意識の内に溢れ出る甘い声を抑える。
「ふっ……ァ……んん……」
──なにこれ……。気持ち良すぎて……なにも考えられなくなっちゃう……。
「あっ……あ……やだっ、そこっ……」
 じゅっと思いきり蕾を吸われて、体が跳ね上がる。
「ここ? そうだな……こっちと一緒だとなお、気持ちいいと思うけど?」
 松田は親指をゆっくりと蜜壷に埋めた。入り口だけを浅く掻き混ぜて、同時に熟れた果実を唇で挟む。
「ひゃあっ……ァァんん──」
 蜜壷が収縮を繰り返し、松田の指を締めつけた。歩実の体はびくびくと小刻みに痙攣けいれんを繰り返し、絶頂を迎えた。こんな快感は初めてだ。歩実は虚ろな瞳で天井を見据えている。イッたばかりの歩実の艶めいた姿に喉を鳴らす松田。
「……牧野……」
 ごくりと息を呑みこんで、そのまま首筋に舌を這わせる。同時におのれの膨れ上がった雄を歩実の腰に押し当てて、蜜壷にゆっくりとあてがった。異物がずずっと入ってくるのがわかった歩実は目を見開いた。
「や、やだ、松田さんっ、酔って……る……んでしょっ……?」
「もう酔いは醒めた」
「え?」
「お前のこんな姿見たら、酒なんてあっという間に体から抜けちまう」
 真っ直ぐに見つめる松田の真剣な眼差しに、どきんっと胸が高鳴った。
「ま……つださ……ん……」
 あまりのかっこよさに、一瞬、力が抜けた。その瞬間を見逃さなかった松田は、ずずずっと雄を窪みへ埋め込んでいく。
「あっ……ァァ」
 ギュッと松田の体を抱きしめる歩実。
「ほら、牧野。力抜けって……」
「やっ……無理っ……ァあ」
 松田はため息を吐きながら、唇を寄せた。そのまま、くちゅくちゅと舌先を絡ませ、腰をゆっくりと沈ませる。
「ふっ……ぁ……んっ……んんっ……」
 乳房を揉みしだかれて、歩実の体から力が抜けていき、下肢の気持ち良さを感じ始めたところで、「全部入った」と耳もとで囁かれた。甘い囁きに、歩実の顔は真っ赤になる。
「ま……つだ……さん……」
「動いていい?」
 頬にキスをしながら、腰を動かしていく松田。
「んっ……あっ……」
 最初はゆっくりとした律動だったが、次第に早くなっていった。
「んっ……やああっ……声っ……がぁ……」
「壁、薄いもんな、ここ。俺の別れ話が聞こえるくらい……」
 自分から話を蒸し返してしまったと、歩実は顔を背けてしまった。
「……声、抑えとく? それとも……こっちの壁は誰か泊まっているかもしれない。壁際に近づいて、見ず知らずの他人にいっぱい聞かせてやるか?」
 にやりと唇を吊り上げて、松田は意地悪く笑みを見せた。歩実の顔は真っ赤で、ただでさえこういう行為になれていないというのに、さらに羞恥を掻き立てるなんて、松田は最低だと心の中で思った。
「……いじわる……」
 涙目になりながらも、松田を睨む歩実。その姿にぞくっと体を熱くさせたのは松田のほうだった。
「悪い……牧野。動くっ……」
「え? あっ……松田さんっ? やあっ……」
 ずんっと、奥底に到達した松田の雄は、歩実の体を何度も激しく突き上げた。
「ひゃっ……あっ……やめっ……激しっ……」
「……っ……ま……きのっ……」
 足を持ち上げられて、恥ずかしい格好でリズミカルに蜜壷を掻き混ぜられる。
「やあっ……もっ……とっ……ゆっくりっ……」
「……んなのっ……無理」
 言いながら、さらに奥ばかりを責め続ける松田。ベッドのスプリングが激しく軋み、歩実の体が浮き沈みを繰り返す。
「だ……だめっ……これっ……おかしくなっちゃっ……うっ……」
「おかしくなれば? ほら、牧野……そろそろ、イけよ」
 先ほどよりも激しく体を揺すられた。赤く熟れた蕾をキュッと摘み上げられ、歩実の体がびくんっと跳ね上がった瞬間、小刻みに痙攣を繰り返した。
「松田……さ……ん……」
 それから意識がなくなった歩実が目を覚ますと、もうすでに朝だった。汗まみれだった体も綺麗に拭かれ、浴衣もきちんと整えられていた。隣に眠る松田の横顔を見ることはとてもじゃないができなかった。東京に帰った新幹線の中での記憶はない。あるとすれば、松田の熱があまりにも強かったこと。その熱は、しばらく歩実の体に残っていた。

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