【試し読み】代筆恋愛~年上小説家に愛されて~

作家:黒田美優
イラスト:にそぶた
レーベル:夢中文庫クリスタル
発売日:2016/12/16
販売価格:400円
あらすじ

今度こそ“代筆”ってやつを手伝わせてもらうんだから!──隣に住む優しい兄のような存在・柚木がちょっとしたハプニングで利き手を骨折してしまった! 彼の職業は小説家…原稿の締め切りが間近に迫った危機的状況に、眞実は自ら「代筆」を申し出る。しかし、その申し出をなかなか許可してくれない柚木。実は、柚木が書いている小説は…大人向け恋愛小説だったのだ! その事実を聞いた眞実は戸惑いながらも、どうしても柚木の力になりたいと彼の書いた小説を読み始める。想像をかき立てられる官能的な表現にドキドキして、次第に体が火照っていく…そんな時、柚木に後ろから抱き寄せられてしまい――!?

登場人物
楠眞実(くすのきまみ)
怪我をした柚木の執筆の手伝いをすることに。官能的な描写に戸惑いながら代筆するが…
安藤柚木(あんどうゆずき)
小説家。妹のような存在である眞実には、どんな小説を書いているかを秘密にしてきた。
試し読み

 楠眞実くすのきまみは言われるがままに文庫を受け取ると、まず表紙を見た。
 赤いドレスを身にまとった女性が悲しそうに微笑んでいた。黒い背景に赤いドレスがよく映える。
「『華は咲く場所を自ら選ぶ』……」
 思わずタイトルを口にした。この女性が〝華〟なのだろうかと直感的に眞実は思う。
 表紙をつまみ、そのページをめくる。文庫本を眞実に手渡した和服姿の男、安藤柚木あんどうゆずきをちらりと見た。眞実よりも高い身長に自然と上目遣いになる。切れ長の色素が薄い瞳、明るめの髪色が和服とミスマッチであるが、その瞳は真剣そのものだ。見つめ合い、沈黙する。そこに男女の甘い空気はない。張りつめた緊張感だけがそこにはあった。
 眞実の目線を読み取るように柚木はうなずく。夕日が柚木の髪を橙色に染め、整った顔立ちに影を作った。
「読んでもいいよ。読んで、眞実が俺の代わりに書けるっていうなら書けばいい。でも、それを読んで俺のことを嫌いになっても知らないから」
 どこか突き放すような冷たい言い方。
 それは眞実の知っているめんどくさがり屋で気さくな、隣に住む〝優しいお兄ちゃん〟ではなかった。知らない〝男の人〟だ。
 眞実は唾を飲み込んで喉を鳴らす。焦りを隠すように、ショートボブに切りそろえられた赤茶色の髪を耳に掛ける。そうして、覚悟を決めて文庫本のページをめくった。
 その様子を見た柚木は照明器具から垂れるひもに手を伸ばし、部屋を明るくした。そのまま畳の上で胡坐をく。
「立ったままじゃなくて座れば?」
「あ、うん」
 眞実が促されるままに座ろうとした時、着ていたパーカーの裾を柚木に引っ張られ胡坐の上に尻もちをついた。
「ゆ、柚木お兄ちゃん!」
「別にいいだろ? 昔はよくこうやってた」
 抗議しようとする眞実に柚木は淡々と言い放つ。眞実はそんな冷たい口調で話す柚木を見たことがなくて、それ以上は言い返さなかった。
「もう……」
 いつもとは違う調子の柚木に居心地の悪さを感じながらも、眞実は本に目を落とした。

 ヒロインが男と交わっているところから、その小説は始まった。
 経験の浅いヒロインが好意を寄せている男性とは違う男性と気の迷いで夜を共にしてしまう。
 男の存在を言動で拒否しながらも、体は正直に反応を示し、流されていくヒロイン。
 卑猥ひわいな隠語、表現、苦し気にあえぐヒロイン、それを意地悪くなじる男。
 激しく始まった冒頭は情熱的で背徳感があった。

 眞実は柚木にばれないように静かに息をつく。
 顔は火照り、心臓がいつもより早く鼓動を刻んでいた。
 眞実は小説でこんなにも想像をかき立てられることを知らなかった。文字の羅列が次第に脳内に映像を作り出し、キャラクターの息遣いが聞こえてくるようだ。官能的で、体を動かす時に聞こえるであろうベッドのきしむ音や布と体が擦れる音が耳の奥で聞こえる気がした。その事に気づき、羞恥から思わず文字から目をそらしてしまったのだ。
 柚木と密着している太ももが汗ばんできているのがわかる。
(まさか、柚木お兄ちゃんが書いている小説がちょっとエ〇チな恋愛小説だなんて知らなかった……。しかも、結構生々しい。これを、私がお兄ちゃんの代わりに書くの?)
 眞実はそう思うと次第に手のひらからも汗がにじみ始めた。
 中高とエスカレーター式の女子学校に通っていた眞実にとって〝行為〟に知識があっても経験はなかった。高校を卒業してフリーターになった今でもそれは変わらない。
 男性が苦手なわけではないけれど、どう接していいかわからず未だに彼氏ができたことはない。
 そんな眞実にとって柚木は異性の中でも自然体でいられる貴重な存在だった。
「眞実、手が止まってるみたいだけど。もう読むのをやめるのか?」
 突然声をかけられて眞実はびくりと体を震わせた。その様子を見て柚木がフッと笑う。眞実の反応を楽しんでいるようにも見えた。
(吐息が……首筋にかかる)
 今まで眞実は柚木を〝そういう対象〟としてみたことがなかった。小学生の時からいつも近くにいたし、昨日だって隣で眠ったのになんとも思わなかった。
 でも今は違う。それは柚木がいつもと違って冷たい態度をとるからだろうか、それとも今読んでいる小説が眞実を〝そういう気持ち〟にさせているのだろうか。
「も、もういい。わかったから」
 立ち上がろうとする眞実を柚木は抱きしめた。
「で、どうするわけ? 書くの? 書かないの?」
「書く! 代筆する! だからお願い、手をどけて」
 体をうねらせて柚木から逃れようとしたが、細身に見えた柚木は意外と力強くびくともしなかった。
 眞実は焦っていた。
 かつてないほどに体の火照りを感じ、恥ずかしさとこんな自分に気付かれたくない一心から柚木と一刻も早く距離を取りたかった。胸が異様なまでにドキドキし、秘部にジクリと響くうずきを感じる。
 自分の異変から小説の主人公のように〝冷静な判断〟が出来なくなってしまうのではないかと不安が頭の中をかすめた。
「なんでそんなに逃げようとするわけ?」
 お腹のくびれに柚木は腕をまわしたままそう言った。
「い、今は離れたいの」
「眞実、さっきから変だぞ? 顔も赤いし、呼吸も荒い。もしかして……」
 柚木の腕に更に力が入り引き寄せられる。唇が眞実の耳に触れてしまうほどの近さで柚木はつぶやいた。
「欲情したとか?」
 普段からは想像もできない言葉だった。
(よ、欲情?!)
 柚木の言葉が眞実の頭に響く。
「そんな……わけ……」
 ない、と続けたいのに力が抜けていく。
「本当に?」
 少し笑っているような柚木の声は、いやらしく眞実の耳の中にこびりつく。眞実は力なく頷くことしかできなかった。
「ふーん」
 柚木は眞実を後ろから抱きしめながら首筋にちゅ、と音をたてるキスをした。
「え……」
 驚く眞実を無視し、そのまま首筋にキスを何度も繰り返す。その度に眞実は短く自分でも聞いたことのないような甘い声をあげた。乾いたキスの音と色っぽい声が部屋に響く。そうして、柚木はまるで食べるように首筋を甘みした。
「ん……」
 湿った舌が首筋をう。
 耐え切れず下半身をくねらせる眞実だが、柚木の腕の力は緩んでいない。逃げることができなかった。
「汗、かいてる……」
 クスクスと笑う柚木。
「やめて……そんなことしないで。汚い……」
「汚くないよ」
 柚木はそう言うと右腕で眞実を抱きながら、左手を太ももに這わせた。
 汗で張り付くシフォンスカートの中に、柚木の骨ばった左手が潜り込む。湿った太ももは滑りが悪く、柚木のカサついた手が妙にリアルだった。そうして、その手は徐々に足の付け根をで回していった。
「ねぇ、見て?」
 そっと、柚木がスカートを捲る。
 薄桃色の下着が一部分色を変えていた。
「ぇっ……やめ……」
「すっごくれてる。エロいね?」
 それは小さな変化であったが、眞実を辱めるには十分だ。
 下着の上から柚木は人差し指の腹で撫でる。ぴちゃりとわざとらしく音を立ててみせた。
「ぁあ……」
 突然の事に眞実は驚き、甘い声を上げる。ほんの少し触れられただけなのに背筋に電流が流れたようだった。秘部に触れられることは、恥ずかしい事であるはずが眞実の体はそれに反応してしまう。
(なんで……こんなことに……?)
 快感に震えながらそう思った。
(昨日まで、私たち今まで通りだったのに)

※この続きは製品版でお楽しみください。

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