【試し読み】プリプリなのに!~相手にされない若妻なんてありえないっ~

作家:大北麗月
イラスト:角砂糖
レーベル:プレシウーズノベルズ
発売日:2017/10/27
販売価格:300円
あらすじ

香織は親戚の紹介で見合いをし、そのままスピード婚した若妻であり新妻。夫の陽介はIT系ベンチャー企業の社長をしている。コンシェルジュのいるハイタワーマンションでの生活も二週間が経ち、ハイソな暮らしにも少し慣れてきたところ。ラブラブな毎日、不満はないけれど、不安なことが一つだけ。それは陽介が求めてこないこと!? 知り合って交際し、結婚した今に至るまで、キスもしていない! どうして!? もしかして陽介って……。香織は幸せな新婚生活を得るべくあの手この手で陽介を誘惑することに。だが、あの手もこの手もうまくいかず……? 悩んで凹んだ香織に陽介が言ったこととは――悩める若妻と思いやり夫の溺愛ラブコメディ。

登場人物
香織(かおり)
キスもそれ以上も求められない新婚生活に不安を感じ、あらゆる手段で陽介を誘惑する。
陽介(ようすけ)
IT系ベンチャー企業の社長。自ら望んでお見合いをし、香織にプロポーズする。
試し読み

香織かおり、あっという間にこんなところまで来ちゃったんだね」
 私の新居に初めて訪ねてきた美咲みさきは、ソファに深く身を沈めながらため息まじりに言った。心の底から感心しているような、呆れているような、羨ましそうな、いろいろな気持ちが入り交じったなんともいえない複雑な表情だ。
「こんなところって何よ」
 私は苦笑まじりに言い返す。美咲とは小学校から大学までずっと一緒だったけど、こんな微妙な顔を見るのは初めてだ。
 美咲は立ち上がると窓に向かって大股で歩き、高い天井から下がるレースのカーテンを左右にじゃきっと開き、午後の陽光を全身に浴びるとそのまま息を呑んで固まった。
「なにこの景色……」
 ぼそっとつぶやく。美咲の向こう側には、はるか彼方にぼんやりと東京湾、その手前にさまざまなビル群が広がり、高速道路がうねっている。お台場、レインボーブリッジ。東京タワー、東京スカイツリー。詳しい人なら、このパノラマ空間の隅から隅まで指差しながら名前を挙げていけるだろう。私はお台場と東京タワー、東京スカイツリーくらいしかわからないんだけどね。
 と、その絶景を眺めながら美咲が言った。
「まるでバベルの塔の住人ね」
「は? なにそれ」
「旧約聖書の時代に人々が作ろうとした天国に届く塔よ。ところが神様はそれを見て、自分への挑戦だと激怒した。そして、人々の言葉を乱したのね。それまでみんな同じ言葉を話していたのが、急に違う言葉を話すようになってまったく通じなくなった。その結果、人々は混乱し、塔の建設をやめて、世界各地へ散らばっていったというわけ。まあ、人間の傲慢さを戒めるお話ね」
 美咲はそこまで話すと、振り返っていつものいたずらっぽい目で笑った。
「あ、別にそんなに深い意味はないよ。ただ、この景色、神話的なほどすごいってこと」
「……たしかに最初は圧倒されたけど」
「もう慣れちゃった?」
「まあ、毎日ここで生活しているわけだから」
「はあ。私はこの部屋にたどりつくまでにいくつもカルチャーショックを受けたよ。タワーマンションといってもいろいろあるんだろうけど、これは特別だね。だいたいなに、入り口に管理人じゃなくてコンシェルジュがいて、訪問先を確かめてからカードを渡されて、それでエレベーターに乗ったら決まった階にしか行けないじゃないの。きっといろんなところにモニターカメラが仕掛けられていて、さっきのコンシェルジュたちが監視しているのかと思うと、おちおち痒いところもかけないよ。すごい緊張感」
「どこか痒いの?」
「見られてると思うと痒くなってくるでしょ」
 美咲はキッと眉毛を引き上げ、またソファに身体を沈めた。
「すごくくつろぐんだけど、なんか落ち着かない」
「慣れてないからよ。私も最初はそうだった。気がついたら、今の美咲みたいに貧乏ゆすりをしてた」
「あら」
 美咲は組んでいた長い脚を元に戻す。
「さすがに今は貧乏ゆすりはしなくなったけど、でもこの生活にすっかりなじんだかというと……ね」
「どのくらいだったっけ? 結婚してから」
「えと……ここに来てから二週間くらいかな」
「まだ、そのくらいなんだ」
「結婚式も新婚旅行もまだだから、あまり実感がないんだけど。引っ越しも自分のものはそんなに持ってこなかったから大変じゃなかったし」
「全部新品で揃ってたってわけね」
 美咲は腕を組んで、もう一度足を組んだ。
「しかしちょっと引っかかるのよね」
「なにが?」
「彼の名前、何だっけ?」
陽介ようすけさん」
「なに、あんた彼のこと、陽介さんって呼んでるの?」
「う、うん」
「大丈夫? ……まあ、お見合いしてすぐのスピード婚だからね。無理ないか」
 美咲は少し考え込んで言った。
「あまりにも早すぎて、いろんな段階を踏んでないって感じなのよね」
 美咲は私と違って、恋愛経験豊富だ。私のエ○チ方面の知識はすべて美咲から伝授されたといっても過言ではない。
「なんか、新妻という色っぽさがないんだよねぇ」
 美咲が疑わしげなまなざしを向ける。私の胸がドキッとする。
「ははあ」
 美咲はお見通しだぞというように何度かうなずいた。
「でさ、彼の仕事は何だっけ?」
「ベンチャー企業を経営してる」
「ベンチャーって何系?」
「うーんと……IT系? よくわかんない」
「……忙しいの? 帰ってくるのは遅い?」
「うん。夜遅く帰ってきて、朝早く出かける。でも、休みの日はずっと一緒にいるよ」
「ふうん、そうなんだ。何してるの?」
「買い物に行ったり、映画観たり、食事したり」
 美咲は鼻先で笑う。
「高校生のデートみたいね。で、何回してるの?」
「えっ?」
「週に何回してるのよ」
「な、何を?」
「セ○クスに決まってるでしょ」
「え、えと……」
 私は胸の前で、人差し指と親指で丸い形を作ってみせる。
 一瞬、美咲は絶句する。
「まさか、ゼロ? どうしてよ?」
「どうしてか、私が知りたいよ」
 そうなのだ。私こそその理由を知りたい。
 美咲は天をあおいで目を閉じる。胸の前で腕を組む。うーん、と小さく唸る。人間どもが塔を作りはじめたときの神様はこんな顔をしていたのだろうか。美咲は目を開けて言った。
「ヨースケっていくつ?」
 呼び捨てかよ、と思ったけど、抗議できるようなムードでもないのでしかたなく答える。
「三十八」
「十六歳違うのか。でもそんなに歳ってわけでもないよね。写真ある?」
「あ、自撮りした画像がある」
 私がスマホを開いているのを横目で見ながら、美咲が言う。
「そもそも親友の私が、あんたの夫の顔も歳も知らないなんてありえないことだよ」
「ごめんね。でも、陽介さんには美咲のことよく話してるから。彼も、今度、三人で食事しようなんて言ってる。美味しいレストランがあるからって」
「……そりゃ、高級レストランもいろいろ知っていそうだよね」
 少し美咲の声がやわらぐ。
「あ、それ? 見せて」
 美咲は私の手からスマホを奪い取ると、眉間に皺を作って画面を覗きこんだ。
「すらっとした顔立ちのイケメンじゃない。爽やか系で頭よさそう」
 意外そうに美咲が言う。
「しかし、絶対におかしいよ。ほんとにあんたたち結婚してるの?」
「うん、入籍はしたし、お互いの親にも紹介し合ったし、家族で食事もした。結婚式は仕事が忙しいからすぐにはできないけど、来年あたり、友人や仕事関係の人たちを集めて盛大にやろう、それから日程をたっぷり取って新婚旅行に行こうって話してる」
「ヨースケの両親はどんな人だった?」
「ちょっとあんたさっきからヨースケって」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 両親は?」
「えと、普通の人だよ。真面目そうで優しそうで。こんな息子ですけどよろしくって言ってた。学生時代から会社を始めて、いつまでたっても学生みたいでって」
「はあ。じゃ、結婚詐欺ってことではないのね」
「結婚詐欺?」
 さすがに私も呆れてしまう。
「そもそもこの縁談は私の親戚のおばさんが持ってきてくれた話なのよ。おまけに、私の家には詐欺して取るような資産はぜんぜんないし」
「そうよね」
 美咲もよく知っているけど、私の家は母子家庭で、母が女手ひとつで育ててくれた。今も母は仕事を続けているけど、早く楽させてあげたいと思っている。そんな私を結婚詐欺して騙す動機がわからない。
「そうよね。とりたてて取り柄があるわけでもないしね」
「あのねぇ」
 とはいっても、その通りなのだ。あえて言えば、家事全般が得意なことくらいだ。それは小さい頃から働く母に代わって家のことをやっていたから。そこは陽介さんの両親も褒めてくれた。今どきの娘さんにしては珍しいですね、ほんと、そんなに若いのにって。陽介さんも力強くうなずいていたから、そこは大きなポイントかなとも自分では思うけど。
「あとはそのプリプリの豊満バストかなあ」
「え?」
「そのプリプリは男にとってはかなり魅力的だと思うけど。でも、彼はそこにむしゃぶりついたりしないわけね?」
 私の顔がカッと熱くなる。うなずくしかない。
「キスするときにぐりぐり押しつけたりしないの?」
「……」
「なによ」
「……」
「もしかして。キスも!」
「……うん」
「それ、おかしいよ!」
 美咲は立ち上がって叫んだ。
「金婚式を迎えた老夫婦じゃないんだよ。出会って数ヵ月、新婚ほやほやの若いふたりがキスもしたことないなんて!」
 美咲は仁王立ちになってVサインを出す。
「考えられる理由はふたつしかないよ」
 Vサインじゃなかった、〝二〟だった。

※この続きは製品版でお楽しみください。

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