【試し読み】おじさんと結婚したので若妻としてはいろいろ頑張りたいと思います!

作家:大北麗月
イラスト:PIKOPIKO
レーベル:プレシウーズノベルズ
発売日:2017/7/21
販売価格:200円
あらすじ

迫りに迫って落とした大学教授の相沢先生は現在、四十五歳。真面目で生徒思いで、すらっと背も高く、なによりイケメン。とっても素敵なのに、交際を求める私にこう言った。「ぼくはずっと研究一筋で、気がついたら男としてのピークを過ぎてしまったんだ」なんと!それってつまりは枯れているってこと!?いいえ、大丈夫。きっと幸せにしてあげる。導いてあげるからっ。なんとか先生の首を縦に振らせることに成功し、秘密の交際を始め、卒業してついに結婚へー!南の島のハネムーンに出かけていよいよ初夜を迎えるんだけど……。この時のためにいろいろ(※実践をのぞく)勉強してきたわ。若妻である私が成果を発揮して、先生を悦ばせるのよ!

登場人物
長澤亜美(ながさわあみ)
おじさん好き。男としてのピークを過ぎたという相沢のためにいろいろな勉強をして初夜に挑む。
相沢純一郎(あいざわじゅんいちろう)
真面目で生徒思いな大学教授。亜美からの猛烈なアプローチをうけ結婚する。
試し読み

 窓の外でざわざわと椰子やしの木の葉が揺れている。その隙間から見える三日月の周囲をハイスピード撮影のような勢いで雲が流れていく。
 スコールが来るんだろうか──私はぼんやりとそんなことを考えるが、いや、それどころじゃないと考え直す。だいたい、この季節のこの島はスコールなんて珍しくも何ともない、らしいのだけれど、では、どうしてこんな雨季にわざわざやってきたのかというと……いやいや、そんなことを考えている場合じゃない。
 なにしろ、新婚初夜なのだ。
 数時間前まで新郎と呼ばれていた私の夫、相沢あいざわ先生は今、シャワーを浴びている。そういえば、いつまでも先生と呼ぶわけにはいかないよなあ。何て呼んだらいいのかな。純一郎じゅんいちろうさん、じゃちょっと堅苦しいな。純ちゃん。うーん、イマイチ。純くん、かな。なんだか小学生の子どもみたいだ。とても四十五歳の大学教授って感じじゃないな。まあ実際、見た目もふつうの四十代とは違ってすらっとスリムでかっこいい。甘いマスクに知的な渋さがあって、私はそこにときめいちゃったわけだけど。
 いやいや、そんなことは今はいい。どうも私は連想が連想を呼んで、最初に考えていたことがなんだかわからなくなることが多い。妄想系女子、そんなふうに私のことを呼んだのは、同じ相沢ゼミのナオキだった。しかし、ナオキといえば、私と相沢先生が結婚するって聞いたときの顔を思い出すと、今でもふき出して笑いが止まらなくなる。まん丸の目、ぽかんと開いた口。そのまましばらくフリーズしてた。そんなにびっくりしなくてもいいじゃない、と思うんだけど。
 ああ、だめだだめだ。異常事態になると、とくに妄想が止まらなくなる。そう、今は正真正銘の異常事態だ。
 なんといっても新婚初夜、しかも私はバージンなのだから。
 ふと気がつけば喉がカラカラだ。私はテーブルの上のグラスに手を伸ばし、トロピカル色の飲みもので喉を潤わせ……ごぼごぼ……むせてしまう。カクテルだった! 甘いくせにきついアルコールがツンと鼻に抜けた。胸がカッと熱くなる。
 バスルームから声がした。
「おーい、亜美あみちゃん」
 あ、亜美ちゃん? そんなふうに呼ばれるのは初めてだ。たしかに教室で呼ばれていたような長澤ながさわさんとか長澤くんとかは今さらないよね。今日から私は相沢亜美なんだし。
「は、はい。何?」
 私は少しふらつきながらこじゃれたコロニアル様式というのか、籐製の調度品の脇を通って、バスルームの扉の前に立つ。
 と、いきなり扉が開いた。相沢先生が立っている。全裸で。
「ち、ち、ちょっと、何ですか!」
 私は思わず叫んで、両手で顔を覆うけど、その指の隙間から先生の身体を見てしまう。上から下まで。思わず、飲み込んだ唾のゴクリという音が聞こえなかったかどうか心配になった。
 先生も私の剣幕に驚いてそのままの姿勢で呆然としている。気を取り直したようにして先生が言った。
「あ、ごめん。眼鏡がなくて見えなくてさあ。バスタオル取って」
「中に置いてあるでしょ」
「ほんと? よく見えないんだけど。ちょっと取ってよ」
「はい、はい」
 私は先生の横をすり抜けて、バスルームの中の棚の上に畳んで置かれているふかふかのバスタオルを取る。そして大きく広げて先生に差し出した。顔をそむけたままで先生に言う。
「それにしてもその格好」
「ん?」
「なんとかならないの? もう、恥ずかしい」
「あ、ああ。いや、よく見えないからいいかなと思って」
 えええ? 私は二の句が継げない。見えないのはあなたであって、私にはバッチリ見えてるんですけど。自分に見えないから、相手にも見えないとみなす、なんて都合のいい世界なのよ。社会学者のくせにどこか浮世離れしてるのよね。まあ、大学教授なんてみんな似たようなものかもしれないけど。
 くらくらしてくる。
 上から下まで、むだな贅肉のない細マッチョの身体。そこにだらりとぶら下がったそれは、想像していたよりも大きくて、なんだか虫っぽくて。でも、これ、平常状態なんだよね? なにしろ、実際に見るのは初めてだから、思いがけない出会いに動揺が隠せない。
 あら、急にさっきのカクテルが回ってきたみたい。目の前がなんだか白くなってきて……。
「あ、あれ? 大丈夫?」
 先生の声が遠くの方から聞こえて、そのまま海に沈んでいくような気持ちになった。なんだかまずい感じ。何かに抱きかかえられながら、意識が遠のいていく──。

※この続きは製品版でお楽しみください。

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