【試し読み】訳あり専務の溺愛~寝取られた私でいいのでしょうか?~

作家:あかし瑞穂
イラスト:川野タニシ
レーベル:夢中文庫クリスタル
発売日:2020/11/27
販売価格:800円
あらすじ

私達結婚するの。──ある日恋人に呼び出された綾音は、彼の隣で腕を絡めて立つ女性にそう告げられた。恋人を奪われた挙句、退職にまで追い込まれた綾音だったが、ひょんなことから大企業の専務秘書として新たな生活をスタートさせることに。専務の春彦はもさっとした長い前髪に、色のついた眼鏡をかけ、なぜかいつもネクタイが曲がっている。これまで何人も秘書を替えてきた癖のある人物らしいのだが、綾音には可愛く思えてしまうのだ。仕事にも慣れてきた頃、綾音は春彦から「付き合ってもらえないだろうか」と告白される。恋愛なんてと思っていた綾音だったけど、春彦の真剣な眼差しに見つめられ……──それは、俺に抱かれてもいいってこと?

登場人物
都築綾音(つづきあやね)
突然、恋人と仕事をいっぺんに失う。気持ちを切り替え、気合十分で就職活動に勤しむ。
二之宮春彦(にのみやはるひこ)
大手総合商社の専務。長い前髪に色付き眼鏡、ネクタイは曲がり、もっさりとした印象だが…
試し読み

1.寝取られた私

「だからね、都築つづきさん。私達結婚するの。そうよね、わたる?」
「あ、ああ」

 ──いきなり会議室に呼び出されて、何を言われたんだろう、私は。

 私、都築綾音あやねの目の前でそう言ったのは、丸華まるか杏奈あんな。小柄でふわふわとした茶色の髪にくりっとした大きな瞳、白い肌に薔薇色の唇の彼女は、まるでフランス人形のようだと社内でも評判だ。薄ピンクのワンピースを着た彼女は、正にいいところのお嬢様という雰囲気を醸し出している。
 そして、彼女が右腕を絡めているのが、長谷部はせべ渉。若手営業マンの中でトップの成績を収めている彼は、同期の中の出世頭。グレースーツがよく似合う長身の渉は、茶色がかった癖のある髪にやや垂れ目の、優し気なマスクが人気の男性だ。腕を組んでいる彼女との身長差は、私が横に並んだ時よりもある。
 ……だけど、何故。
 頭の中が真っ白になって事態を理解できない私に、杏奈さんが憐れんだような視線を投げてきた。
「金輪際、渉に近付かないでね? 社長令嬢の私の婚約者に手を出しただなんて知られたら……あなたも辛いでしょ?」
 ……何を言ってるんだろう、この人は。だって渉は、私の恋人で。
「……渉?」
 私がそう呼びかけても、渉は私と目を合わそうとしなかった。いつも優しい笑顔を浮かべていた彼は、口元を引き攣らせ硬い笑顔を杏奈さんに向けている。
「それに……」
 くすりと笑った彼女が、左手を自分のお腹に当てた。
「私、渉の子を妊娠してるの。だから結婚式もなるべく早く挙げる予定よ」
 声が、出ない。世界が色を失い、グレーアウトする。

 ──妊娠? 杏奈さんが……渉の子を?

 ……それはつまり。二人がそういう関係だったってこと……?

 あまりにも生々しい衝撃。ひゅ、ひゅと息が途切れる。

「じゃあね、都築さん。私が言ったこと、忘れないで」
 杏奈さんが渉の腕を引き、会議室から出ていく。ちらと私の方を見た渉の瞳には、罪悪感が浮かんでいる──ように見えた。
 ぱたんとドアが閉まり、私はようやく我に返った。
「一体……」
 呆然と会議室に立ちすくんだ私は、しばらくその場から動くことができなかった。

***

 何も考えられなくなった私は、ふらふらと洗面所に来ていた。
「結婚……する? 渉が? それに子ども……?」
 洗面台の鏡に映る自分に話し掛ける。癖の無いワンレングスの黒髪を肩まで垂らした私の、ノーメイクに近い顔は真っ青になっていた。さっきの華やかな彼女と比べるとごく普通の顔立ちで、オフホワイトのブラウスに紺色のタイトスカートという服装の私は、とても地味に見える。
(どうして、こんな突然)
 大体、渉との付き合いはもう四年になる。短大卒で入社した私と四大卒で入社した渉は同期で、配属先が同じ営業一部だったことから親しくなった。営業の渉の事務処理を営業補佐の私がやっていて、自然と話す回数が増えて……そして。
『俺と付き合ってくれないかな。いつも丁寧にサポートしてくれる都築さんが好きになったんだ』
 そう渉から告白されたのは入社三年目の頃。私も渉には好意を持っていたし、付き合っている相手も特にいなかったから、すぐにOKした。
 同じ部署だから、結婚が正式に決まるまではと、付き合ってることは周囲に内緒にしていた。仕事がやりにくくなるし、私が異動させられる可能性が高かったからだ。でも、そろそろ結婚をって話をしてたはず……なのに。
『俺のマンション、結構広かっただろ。一緒に住む?』
 そう言われたのはいつだった? 決算期の前だから、ほんの二ヶ月ぐらい前じゃない。渉がワンルームからファミリータイプのマンションに引っ越して。片付けを手伝った後、二人でカフェに行って一息付いた時に。渉はいつものブレンドコーヒー、私はココアで。
『そうね、準備しようか。年度末の処理が終わったら、一緒に家電見に行く?』
 そう答えた私は、渉と一緒に笑って……なのに。どうして?

 何も考えられない。どうして? ばかりが、頭の中をぐるぐると回っている。
 彼女の勝ち誇ったような笑みが、目の前から消えてくれない。
 指の先から冷たさが這い上がり、心臓まで凍ってしまいそうだ。

「あ、都築さん。ここにいたの?」
 鏡の中に、見慣れた姿が映った。振り向いた私の方へ、入り口から入ってきた工藤くどうさんが近付いてくる。彼女のボブカットの黒髪がゆらりと揺れた。
「顔色真っ青じゃない! 調子が悪いなら、後半休したら? 今日は月末でもないし、急ぎの伝票とかもないんでしょ? 何かあれば、私フォローするし」
 心配そうにそう言う彼女に、私は辛うじて小さく頷く。三年先輩の彼女は、私と同じ営業補佐。新人の頃から面倒を見てくれたいい人だ。
「お言葉に甘えていいですか。寒気がして」
 身体が芯から凍えてる。私が小声でそう言うと、工藤さんは「席から鞄持ってきてあげる。真中まなか部長にも休むって伝えておくから、あなたはもう玄関ロビーに行って座ってて」と背中を撫でてくれた。
「……はい」
 今この状態で、部署に顔なんて出せない。私の席からは渉の席が見える。彼に会ったら、何を言ってしまうか分からない。
 私は工藤さんの言葉に甘えて、そのままエレベーターで一階ロビーへと下りる。ロビーの長椅子に十分ぐらい座っていると、工藤さんが私のショルダーバッグとジャケットを持ってきてくれた。
「部長もお大事にって言ってたわ。早く治してね」
「はい、ありがとうございます」
 ジャケットとバッグを受け取った私は、工藤さんに会釈して会社を後にした。四月の空は青く、温かい日差しが私に降り注いでる。だけど私の周囲の気温だけは、まるで真冬の寒さのように冷たく感じられたのだった。

***

 翌日。ほとんど眠れなかった私は、目の下にできた隈をファンデーションでカバーして、会社までの歩道を歩いていた。
「はあ……」
 衝撃が強すぎると涙も出ないというのは、本当だった。昨日は泣く元気すらなく。何とか渉にはメッセージを送ったけれど、返信は今もない。結局、訳の分からないまま、悶々と一晩過ごすことになってしまった。
 ミントグリーンのサマーセーターにジーンズ色のフレアスカートというお気に入りの格好にしたのも、少しでも気分を上げたいから。だけど、会社に向かう足取りは重い。
(やっぱり渉に直接聞かないと、納得できない)
 杏奈さんと腕を組んでいた渉は、私を見ないようにしていた。結局彼は、何も言わなかった。どうして何も言ってくれなかったのか、どうしてこうなったのか、渉の口から聞きたい。付き合ってきた四年の間、小さな喧嘩はあったけれど、渉と私は穏やかな日々を重ねてきたはずだ。
「それに……」

 ──丸華杏奈。今まで彼女とは話したことすらない。だって彼女は、株式会社丸華商事まるかしょうじの社長の娘なのだ。たまに社長と一緒に歩いているのを見掛けたことはあるけれど、一営業補佐の私なんて、彼女との接触なんてある訳もなく。私だって、ああお嬢様っぽい人だな、としか思っていなかった。それが、どうして渉と?
(渉……)
 営業補佐の私は、三月決算期は忙しい。期日までに会計部にデータを渡さないといけないし、顧客への請求書の送付、年度末処理とてんてこ舞いなのだ。四月に入ってからも新年度体制に切り替わるから、様々な雑務をこなさないといけない。四月中旬の今になり、ようやく落ち着いてきたところだった。渉だって年度の切り替わりに顧客への挨拶回りに出ていたし、ここ一ヶ月ぐらいはちゃんと会えていなかったのも確かだけど。
 それが昨日になって渉から電話があって、会議室に行ったら──あんなことに。

 ──一緒に暮らそう、と言われてから二ヶ月で……何があったの?

 いくら考えても分からない。私は少しの間立ち止まり、青い空を仰いで溜息をついた。
「とにかく、ちゃんと話を聞かないと」
 ぱんと右手で頬を叩き、私は前を向いた。バッグの紐を持つ左手にも力が入る。ぐっと足に力を入れて、私は再び会社へと歩き始めた。

「おはようございます」
 営業部の部屋に入り、いつものように挨拶をする。始業三十分前の営業部は、人がまばらに座っていた。渉はまだ来ていない。少しだけ、ほっとしながら席に着く。バッグを引き出しに仕舞い、パソコンの電源を入れていると、ちらちらと周囲の視線を感じた。何だろうと辺りを見ると、何故か視線を逸らされてしまう。
「……都築さん、ちょっといいかな」
 部屋の奥から、グレースーツ姿の真中部長が私の席に来た。恰幅が良く、いつも元気な部長が心なしか疲れているようだ。
「はい」
 私は立ち上がり、部長の後をついて部屋を出た。私達二人を営業部中が注目してるみたい。
(部長からの伝票は処理したはずだし、何だろう)
 しばらく廊下を歩いた後、真中部長が小会議室のドアを開けた。私も中に入り、部長に勧められるまま、長机を挟んで部長と真向かいの椅子に座る。
「はあ……」
 大きな溜息をついた部長が、白髪交じりの前髪を掻き上げた。口元の皺が、いつもより深く見える。
「……都築さん。体調は大丈夫かい?」
「え、は、はい」
 私が頷くと「そうか」と部長が目を伏せた。机の上で指を組む部長は、いつもの部長らしくなく、何か迷っている感じがする。
「都築さんは仕事ぶりも真面目だし、営業からの評価も高い。だから、こんなことは言いたくはなかったんだが」
 部長の目が、私を真っ直ぐに捉えた。
「都築さんが長谷部君に付き纏っている、嫌がる彼に交際を迫り、断った彼に嫌がらせをしている──そのような話があってね」
「えっ」
 ひっ、と私は息を吸う。一体何を言われたのか、一瞬理解できなかった。
「どういう……こと、ですか」
 口元が強張り、掠れ声しか出ない。真中部長は、困り顔のまま話し始めた。
「実は都築さんが後半休した午後に、社長が杏奈さんと共に営業部に来られたんだ」
(丸華杏奈……!)
 顔が強張る。そんな私に気が付いたのか、部長がゆっくりと説明する。
「杏奈さんが長谷部君と婚約することになった、と社長が発表してね。そこまでは良かったんだ。部署の皆でお祝いを言って……だが」
 真中部長の目に何とも言えない色が浮かんだ。
「杏奈さんが声高々に言ったんだよ。都築さんは長谷部君のストーカーだと」

 一瞬、真中部長の言葉が理解できなかった。
「ストーカー……?」
 私が呆然と言葉を繰り返すと、部長が頷く。
「彼に付き合えと強制した挙句、長谷部君の業務妨害をしたと言われたんだ。杏奈さんと彼との関係に嫉妬して、大人気ない行動を繰り返したと」
 真中部長は一旦言葉を切り、私の顔を心配そうに見た。
「もちろん、そんな事はない、都築さんは真面目で優秀だ、と言ったんだが……社長は杏奈さんの言うことを鵜呑みにされたんだ。杏奈さんは一ヶ月程前に大企業の御曹司と見合い話があったらしいんだが、その話を蹴って長谷部君を選んだとかで……長谷部君と破談になるようなことがあってはならないと、ストーカー行為をした人間を長谷部君の傍に置くな、とかなり強硬な態度だったんだよ」
「強硬……って……」
 信じられない。杏奈さんは何を言ってるんだろう。それに渉は?
 真中部長がまた溜息をついた。
「残念なことに、長谷部君は何も言わなかったんだ。杏奈さんの隣に立って、黙って彼女の言うことを聞いていた。彼が一言違うと言ってくれれば、また違ったんだろうが」
(渉……!?)
 私は大きく目を見開いた。心が真っ黒な霧に覆われていく感覚がする。
(渉は……杏奈さんの言うことを否定しなかった……?)
『一緒に住む?』
 そう言って笑った彼の顔が、黒く染まって見えなくなった。二人で過ごした日々が、交わした言葉が、触れ合った温かさが、その全てが──冷たい何かで覆われていく。膝の上に置いた拳が、固まって動かない。

「都築さんのことを信頼している社員も大勢いる。だが、この現状では、長谷部君と都築さんが同じ部署にいるのは不味い」
「……」
「長谷部君は次の人事で課長になることがほぼ決まっている。彼を異動させるのは難しいんだ」
 震える下唇をきゅっと噛んだ。部長の言いたいことは分かる。渉と私──営業部から異動させるのなら、どちらが影響が少ないのか。
 社長令嬢の婚約者で、課長になる渉と──単なる営業補佐に過ぎない私とでは、比べるまでもない。それに恐らく、社長令嬢である彼女の意向もある。
(今まで……今まで頑張ってきたのに……?)
 入社してから必死に仕事を覚えて、営業マンが動きやすいように気を配って、サポートして……やりがいのある仕事だって思っていたのに。七年も頑張ってきたのに。
 足元ががらがらと崩れて、奈落の底へと落ちていく感覚が肌を襲う。
(それまで、奪われてしまうの?)
 渉がいる限り、もう営業部にはいられない。杏奈さんが目の敵にしている私を受け入れてくれる他の部署があるのかどうかも、分からない。社長が一人娘の杏奈さんを溺愛していることは、会社中の人間が知っているのだ。それに杏奈さんが皆の前で私をストーカー扱いしたことは、もう社内に広がっているだろう。私のことをあまり知らない人達は、その噂を面白可笑しく話題にするかもしれない。そんな中で仕事ができるのだろうか。
(多分、私は)
 渉や杏奈さんに会うことのない、本社以外の場所に行かされるのだろう。

 私は真中部長を真っ直ぐに見据えた。部長の口元の皺が深くなっている。部長はできる限り、庇ってくれたのだろう。だけど、社長は杏奈さんを優先させたんだ。
(このまま私が下手にごねたら……部長を困らせることになる……)

 熱いものが喉に込み上げてきて、部長の顔が僅かに滲む。
(……泣くな、私っ!)
 泣くのは後だってできる。渉のことは考えるな。今ここで、涙を見せるなんて──七年間働いてきたプライドが許さない。
 ぎゅっと拳を握り締めた私は、一度目を伏せ、そして上げた。
「……真中部長」
 掠れた声だけど、出せた。私は意識して口端を上げて、真中部長に言う。

「……私は──」

 私の言葉を聞いた真中部長は、苦渋の表情を浮かべながらも、どこかほっとしたような気配を漂わせている。
「それがいいと私も思う。何の力にもなれず、申し訳なかった」
 深々と頭を下げる部長に、私は何も言うことができなかった。

***

 公園のトイレの鏡で、自分の格好を点検する。ワンレングスの前髪を留めたピンの位置を直す。後ろで一つに括った髪の乱れもチェック。オレンジに近い赤のルージュも乱れてない。黒のテーラードジャケットも白いブラウスにも目立つ皺はない。ひざ下丈の黒のタイトスカートも、就活には定番のスタイルだ。外に出ると、七月下旬の日差しは眩しかった。
 石畳の広場に設置されたベンチに腰を掛けると、太腿に熱が伝わってくる。ぬるくなったミネラルウォーターを一口飲んで空を仰ぎ見た。
「ふう……」
 さやさやと緑の葉が擦れる音がする。あの日と同じ青い空を見上げ、私は思わず溜息を漏らした。
「もうすぐ三ヶ月かあ……」

 あの日。私はすぐ退職届を提出した。残っていた有休を半月程消化して、正式退職となる四月末まで、なるべく会社に行かないようにしたのだ。仕事は工藤さんに引き継いだ。担当する顧客や営業が違うだけで、仕事の内容は彼女も私と同じだったからだ。
『どうして都築さんが辞めるの。納得いかないわ!』
 工藤さんはぷりぷり怒ってくれたけれど、あまり大事にしないで欲しいと頼み込んだ。庇ってくれた真中部長や工藤さんにこれ以上迷惑を掛けたくなかったのだ。
(それに、解雇されるよりはましだもの)
 渉との交際を秘密にしていたことが裏目に出た。薄々勘付いていた真中部長や工藤さんはともかく、他の人達から見れば、確かに私は渉と話す機会も多いし、陰で彼に迫る機会も持てた人間だ。しかも私の仕事は渉の補佐。渉の仕事の邪魔をしようとすれば、簡単にできてしまうのだから。
 私があのまま居座ったら、また何か杏奈さんに言われたかもしれない。それを信じた社長に、理由を付けて解雇されたかもしれない。そんな目に遭うぐらいなら、自分から辞めた方がましだった。

 会社を辞めた日。私は一晩中思い切り暴れた。悲しいのか、腹が立つのか、情けないのか、ぐちゃぐちゃの感情のまま、クッションを床に叩き付け、髪を振り乱して缶チューハイを呷った。握り締めた缶をこたつテーブルにダン! と叩き付けて叫ぶ。
『杏奈の馬鹿野郎ーっ! 社長令嬢だか何だか知らないけど、あんたなんてただの尻軽女じゃない! 他人ひとの恋人に色目使って! しかもパパに言いつけて! 渉だって、あんな情けない男だっただなんて! 仕事が忙しいからなんて嘘ばっかり! 他の女とよろしくやってたくせに! 四年もあんたに費やした私の青春を返せーっ!』
 私が一番悲しくて腹が立ったのは、渉の態度。同期としては七年、恋人としては四年の付き合い。なのに、ぽっと出の社長令嬢の言うがままになって、私のことを切り捨てたのだ。
(そりゃ、社長令嬢と結婚、ともなれば次期社長への道も拓くけど)
 渉がちゃんと私に向き合って説明してくれていたら、こんな思いをしなくて済んだのに。
『渉とは言いたいこと言える付き合いをしてきたつもり、だったんだけど、ね……』
 一緒に仕事をして、一緒に映画を見て笑って、一緒に食事をして、おしゃべりして。
 一緒に暮らし始めたタイミングで、互いの両親に挨拶して……って、そう思っていたのに。

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