【試し読み】恋焦がれる生真面目王子との淫魔な夜

作家:こいなだ陽日
イラスト:吉崎ヤスミ
レーベル:夢中文庫プランセ
発売日:2020/7/28
販売価格:600円
あらすじ

一途な王子から想われ続けていたようで困りました!? 体力が自慢の男爵令嬢ターニャは家族のため城への出仕を決意。トントン拍子に採用された先で待ち受けていたのは特別な仕事──なんと、淫魔憑きの第二王子・ベルスラフに生気を分け与えること! 破格の条件で引き受けるが、彼は二年前に出逢った女性を思い続けている模様。その女性の正体が自分だと気付くターニャ。ベルスラフは生真面目で好感を持てるけれど、平凡な幸せを願うターニャには王族の妻になるなど厄介。当時の姿とは違うし、気づかれぬよう祈るが……ああ、食べられてる──快楽を与えられ、生気を淫らに貪られ、行為も毎晩エスカレートしていき……

登場人物
ターニャ
男爵令嬢。自慢の体力を買われ与えられた仕事は、淫魔憑きの王子に生気を分け与えることで…
ベルスラフ
ひとりの女性を思い続ける一途で生真面目な王子。特定の時期になると淫魔のように生気を食らう。
試し読み

プロローグ

 砂塵が風に舞い、雲ひとつないはずの空がにび色に淀んで見える。
 十六歳になったばかりのターニャ・バルツァルは、砂塵を吸いこまないように口元をしっかりと布で覆いながら、腐った材木を乗せた孤輪車ひとつわぐるまを押していた。
 自慢の銀髪は砂で汚れ、くすんだ茶色になってしまった。薄紅色で形のいい唇は布で隠され、意志の強そうな緑色の瞳だけがターコイズのように鮮やかな輝きを放っている。
 周囲の材木や汚泥を運んでいる者たちは、みんな男性だった。女性で力仕事をしているのはターニャくらいだ。
 今ターニャがいる場所は、大規模な水害があったばかりの村である。連日の大雨で川が氾濫はんらんし、村人たちは高台に逃げて一命をとりとめたものの、水に呑みこまれた村の状況は酷いものだった。
 建物は壊れてばらばらになり、あちらこちらに木材が散らばっている。水と泥を吸った木材はところどころ白いカビが生えていて、とても再利用できそうにない。
 今、大勢の者が後片付けにあたっている。とはいえ、そのほとんどがこの村の者ではなく、災害で心身ともに疲れきった村人たちの代わりに働くボランティアたちだ。災害後の後片付けが難航しているとの噂を聞き、集まったのである。
 もっとも、なんの見返りも求めない、善意のボランティアはほんの一握りだ。ここにいるボランティアたちは、皆同じ目的を抱いている。
(これで何度めのボランティアかしら……。もうそろそろ、我が家の貢献度も高くなって、貴族の一員にしてもらえるかもしれない)
 孤輪車の把手をぎゅっと握りながら、ターニャはそんなことを考える。
 ターニャが生まれるより前、この国は近隣諸国と大きな戦争をしていて、国中の至る所が荒れ果ててしまった。その戦争も無事に終わり、復興に向けて国は動いているものの、優先されるのは王都や国境・港付近の貿易都市である。
 それ以外の土地は、生活するのに不便がないよう簡易的に整えただけで、大雨や強風など、自然が猛威を振るえば簡単に危機にさらされた。国もなんとか対策を練っているが、国内のすべての場所を整備するのには膨大な時間と資材、人材、資金がかかる。人口が少ない村は、どうしても後回しになってしまうのだ。
 川側や崖下など危険そうな場所に住む村人に対して、設備の整った大きな村に移住するようにと積極的に勧めているが、長年慣れ親しんだ土地を離れる者は少ない。
「今までここで暮らしてきて大丈夫だったんだから、問題ないだろう。ご先祖様の墓から離れるわけにはいかない」
 そんなことを言って、同じ土地に住み続ける人が大半だ。
 何事もなく慣れ親しんだ土地で一生を終える人がいる一方、予想外の災害で壊滅状態に陥ってしまう村も多い。今ターニャが片付けを手伝っているこの川沿いの村も、初めて氾濫したそうだ。
 戦後の土地整備が終わっていないこの国は災害が多く、復興のために人手を欲している。そこで国が打ち出した政策が、ボランティア制度だった。
 この国には、貴族と庶民、ふたつの階級がある。たとえば国に仕える役人は、同じ仕事をしていても庶民と貴族では給与に差があり、貴族にしか許されない特権も沢山あった。貴族になりたいと望む庶民は多い。
 そして、国が雇用する庶民階級の文官や騎士が優秀な功績を収めた場合、男爵位を与える習わしがあった。よって、国に登用された庶民たちは貴族になるために励んでいる。
 全国各地における災害復興の人手不足に悩む国は、ここに目をつけた。
 ──貴族になるには大きな功績を立てるだけではなく、その家族の国への貢献も必要だ、と。
 つまり、貴族になりたいと願うなら、家族も一丸となって努力する必要があり、その唯一無二の手段がボランティアなのだ。
 ここでボランティアをする者は、貴族階級になりたい庶民たちである。
 ターニャの家では、父親が騎士として王城に勤めている。剣の腕も立ち、王族の近くで護衛をすることもあるらしい。あとは、家族が沢山ボランティアをして国への貢献が認められれば、男爵位を受けられそうなところまできている。
 だから、ターニャは頑張る必要があった。
 母親は体が丈夫ではないため、過酷な環境である被災地でボランティア活動などできない。十歳下の弟はまだ子供なので、ボランティアは無理だ。
 貴族階級になりたいという悲願のため、せっせと廃木や汚泥を運ぶ。休む暇なく動き続けていると、一人の男性に声をかけられた。
「おい、そこの君。休憩をしなくて大丈夫か? 先ほどから、少しも休んでいないではないか」
「え……」
 足を止め、声のしたほうを向く。
 そこには長身の男性がいた。ターニャと同様、口元を布で覆っているので顔の全貌は見えないが、切れ長の目は長いまつげが生えていて、琥珀色の瞳をしている。鼻も高そうで、おそらく美形なのだろう。
 緑の髪は若草のように鮮やかで、ターニャの瞳の色と同じだった。緑色の髪は珍しいので、思わず見惚れてしまう。
「言葉も出ないくらい疲れているのか? 貴重な人手に倒れられては困る。休憩だ。水と塩をとれ」
 彼は近くにいた男性にターニャの押していた孤輪車を運ぶよう命令すると、ターニャの手を掴んで休憩場所に向かう。
「ま、待ってください。驚いて話せなかっただけで、大丈夫です。まだまだ元気ですから、働けます」
「いいや。女性が力仕事をしているから珍しいと思って見ていたが、大の男も休憩を挟みながら仕事をしているのに、君は一度も休んでいなかった。大丈夫なわけないだろう」
「きちんと水分も摂っていますし、塩も舐めているから平気です」
「それだけでなく、休憩をするのも大切だ」
 ターニャがいくら言い返しても、手を離してもらえそうになかった。
 偉そうな態度からするに、彼は被災地を観察しにきた国の役人に違いない。氾濫のあと、衛生状況の悪化で病気が流行り、病院は患者で溢れていると聞く。これ以上、医師の手をわずらわせないように、彼はボランティアの健康状態にまで気を遣っているのだろう。
 ターニャは大人しく言う通りにする。
 藁で編んだ絨毯が敷かれた休憩場所には、薄汚れた男性たちが休んでいた。彼は空いている場所にターニャを座らせると、腰につけていた水筒を取り上げる。
「殆ど空ではないか。水を入れてきてやるから、君は休んでいるように」
「……はい」
 役人様の機嫌を損ねるわけにはいかず、ターニャは頷いた。淀んだ空を眺めながらしばらく待つと、彼が戻ってくる。
「ありがとうございます」
 礼を言って水筒を受け取った。ここは空気が悪く、口元を覆う布を外さなくて済むよう、水筒には水を吸うための細い筒がついている。
 その筒を布の内側にくぐらせて口に含むと、冬の井戸水のように冷たい液体が喉を通り抜けていった。初夏の時期に、これほど冷たい水が飲めるなんてと驚いてしまう。
「……! とても冷たいわ。まるで真冬の水みたい」
「その水は特別だからな」
 この休憩場所にはボランティア用に清潔な水が用意されているが、いかんせん生ぬるい。これは、ボランティア用の水ではないのだろう。
 王族や上級貴族は冬の間に氷室に氷を蓄え、夏でもその氷を使って冷たい水が飲めるという。これほど冷たい水を用意できるのだから、彼はかなり高位の貴族らしい。
「ありがとうございます、美味しいです」
 ターニャは素直に礼を言った。
 休息は必要ないが、冷たい水はありがたい。動き続けたせいで上がっていた体温が、すっと下がる気がする。ついでに塩を舐めると、もっと元気になった。
 水を飲み干せば、彼は再び冷たい水を入れてきてくれる。どこかに、彼専用の水が用意されているのだろう。
 ターニャはそれを受け取ると、立ち上がった。
「休めました。ありがとうございました」
「もう? まだ少ししか休んでいないだろう?」
「私、少ししか休まなくて大丈夫なんです」
「いや、君がここに来る前に休憩していた男も、まだ休んでいるではないか。今日は暑いし、短時間で回復するはずがない」
 彼は再び座らせようと手を伸ばしてきたが、さっと避けた。
「私は生まれつき、人の数倍体力があるのです」
「なに……?」
 彼が訝しげに瞳を細める。
「私が生まれた時もほとんど寝なくて、心配した母がお医者様に連れて行ったみたいなんです。ここまで寝ない赤子は初めてだったようで、色々調べた結果、人よりも体力があるらしい……ということがわかりました。しかも、睡眠時間も少しでいいらしいのです」
「それは本当か……? そういえば、かつての戦争の時に、短い睡眠時間で人の何倍も戦うことができる将軍がいたという話を聞いたことがある」
「そうです。まれにそういう体質の人間が生まれるみたいで、それが私なんです」
 ターニャは自慢げに胸を張った。
「確かに君は驚くほど動き続けていたな」
「そんなに私を見ていたのですか……?」
 思わず指摘すると、彼の目の下が微かに赤くなった。
「じょ、女性が力仕事をするなんて、珍しいだろう? この場所でも、女性のボランティアは煮炊きや針仕事に従事しているぞ」
「ええ、それで女性のボランティアの人手は十分足りているのですよね。だから私は、いくらでも人手が必要なこちらを手伝うことにしたんです」
 その通り、被災地での女性ボランティアの仕事は、煮炊きや針仕事が主なものだ。しかし、貴族になりたい庶民は多く、女性ボランティアには大勢が集まるので、かなりの数が追い返されてしまう。
 だが、ターニャはその辺の男性より体力がある。しかも幼少期には、元気すぎて夜もなかなか眠らないターニャの体力を奪うため、毎日かなりの運動をさせられたのだ。騎士である父親から鍛錬を受け、それなりの筋力がついた。
 どの被災地でも、力仕事を志願すると最初は「邪魔だけはするな」と過小評価される。それでも、ひとたび仕事が始まれば、他のどんな男性よりもよく働くターニャは重宝された。
 この被災地でも、ターニャが一番働いているはずである。
「では、冷たいお水をありがとうございました。お国のために、頑張ってきますね!」
「あ、おい……!」
 制止する声は聞こえないふりをして、ターニャは颯爽と仕事場へと戻った。
(私はまだまだ動けるわ。被災した村人たちが再びこの土地に住むかどうかはわからないけれど、一刻も早く綺麗にしてあげたいもの)
 ボランティア活動のきっかけは、貴族になるためだ。とはいえ、災害に遭った人たちから感謝されるうちに、人の役に立つことが嬉しくなったのである。
 ターニャは再び動き回る。
 ──その翌日、ターニャに休憩を命じた緑髪の男の姿はなかった。彼は一日で視察を終えて帰って行ったのだろう。
(あの人にまた会えたなら、冷たい水をもらえたかもしれないのに、残念だわ……)
 彼に対して思っていたのはそれだけで、ターニャはぬるい水を飲みながら働き始めた。

第一章「彼女に恋をしてしまったみたいだ」

 少し前までは家畜のけたたましい鳴き声と、早朝労働者の喧噪が目覚まし代わりだった。しかし今は、ささやかな小鳥のさえずりで目が覚める。
「んーっ!」
 ぐっと体を伸ばしてから起きると、ターニャは窓を開けた。下には美しく手入れされた庭園が広がっており、一望しただけでは隣家が見えない。前の家なんて、窓を開ければ目の前にあるのは隣家で、手を伸ばせばその壁に触れるほど家同士が密集している場所に住んでいたのだから、大違いだ。
 ターニャが十八になってすぐに、父親の騎士としての功績と家族の国への貢献がようやく認められ、バルツァル家は男爵位を授かることができた。これで貴族の仲間入りである。
 その際に貴族階級の者が一般庶民と同じ暮らしをするわけにはいかないと、国から借家が与えられた。借家といっても、大豪邸である。ターニャたち家族はそこに移り住み、生活することになった。
 ──だが、そこで新たな問題が発生する。
 実は、父親が授かった男爵位は、父親が死ねば返上しなければならないのだという。いわゆる、一代貴族というやつだ。
 ターニャは貴族制度について詳しいことを知らなかったから、まさかそんな制度だったなんてと落ちこんでしまった。夢にまで見た貴族になれたというのに、一代限りなんて酷すぎる。
 もっとも、結婚して家を出て行くターニャにとって、自分の身分が一代貴族だろうが永世貴族だろうが、分不相応な相手を選ばない限り影響が少ないだろう。
 心配なのは弟だ。
 今のところ父親は健康だし、よほどの不幸がない限り、弟の髪が白くなる頃までは貴族でいられるに違いない。
 しかし、父親の死後に爵位を返上したら、その後の生活はどうなってしまうのだろうか?
 弟はこの豪邸での生活にもすぐに慣れたようだ。小さいうちからいい暮らしを満喫してしまうと、老年になってから庶民階級に戻った時に辛い思いをするだろう。
 そもそも、この豪華な屋敷も、ターニャたちが引っ越してくる数ヶ月前まで人が住んでいたのだ。一代貴族だった当主が死亡し、彼らは退去を余儀なくされたのである。
 最初は「貴族になったから屋敷を与えるなんて、国はすごい」と思ったが、別に新築しているわけでもなく、実情は一代貴族の間で屋敷が受け継がれていくだけだ。
 この屋敷は、結婚をしたら家を出て行くターニャのついの棲家にはならないだろう。
 だが、いつかここを出て行かなければならない弟のことを思うと胸が痛む。しかもそれは、父親が死んで悲しみの淵にいる時に起こるのだ。母親だって、父親のほうが先に亡くなれば、高齢での引っ越しとなる。
 なんとかしなければならないと、ターニャは思った。
 幸い、一代貴族の子息が爵位を獲得するのは、庶民が貴族になるよりは敷居が低いらしい。弟が父親のように国に貢献すれば、家族がボランティア活動をしなくても爵位をもらえるようだ。
 弟はまだ小さいけれど頭がいい。きっと文官として活躍できるだろう。
 文官になるには登用試験に合格しなければならないが、その試験は難しい。勉強するためには、専門の家庭教師をつける必要があった。
 貴族になったおかげで父親の給金は上がったが、この大きな屋敷を維持するには多くの使用人が必要で、人件費だけでもかなりの額になる。
 庶民よりもいい生活を送れても、家庭教師のお金を出せるほどの余裕はない。
 そこでターニャは城に出仕することにした。
 ターニャは十八歳で、もうそろそろ嫁に行ってもおかしくない歳だ。けれど、最近は女性の結婚年齢も遅れている。昔なら嫁き遅れと言われた歳で結婚する女性も少なくはない。
(二十五歳くらいで結婚する人も多いもの、それまでは働けるわよね。弟の家庭教師代ぶんくらいは稼がないと)
 一代貴族とはいえ、現時点でターニャは立派な男爵令嬢である。城では貴族だと給金が上がるし、勤め先としては最適だ。
 まずは書類審査があるので、ターニャはいかに自分に体力があるかを綴った。通常、女性ならばどれだけ針仕事が得意か、掃除が得意か、外国語が話せるか……などを訴える。
 しかしながら、そのどれもがターニャが苦手とすることであった。男性以上に体力があるけれど、女性らしい仕事はてんで駄目なのである。
 それでも、体力のある女性だからこそ任せたい仕事があるかもしれない。たとえば、生まれた王子の子守だ。何度夜泣きされてもターニャなら大丈夫である。
 よって、出仕届には睡眠時間が短くても平気で体力があることを強調して記入した。第一王子の妃が懐妊中だというので、体力のある子守が欲しいに違いない。歳が離れた弟の世話をしていたおかげで、赤子の抱きかたもばっちりである。
 採用の連絡は、出仕届を提出したあと早くても一ヶ月はかかると聞いていた。
 だから、書類を出したあとにのんびり待っていたところ、なんとわずか十日で返信がきたのである。城の紋が入った赤い封蝋は、紛れもなく本物だ。
 城に住みこみの仕事で、必要なものはすべて準備するから、取り急ぎ城に来るようにと書かれている。
 これには、両親も驚いていた。
「体力自慢の女性なんて珍しいもの、きっと私にしかできない仕事があるのね。第一王子の子供が生まれるのはまだ先でしょうし、もしかして隠し子でも生まれたのかしら?」
 何気なく呟くと、父親にたしなめられる。
「ターニャ、滅多なことを言うものではない。今の発言を聞かれたら、不敬罪として投獄されてもおかしくはないぞ」
「そ、そうね、父さ……お父様。ごめんなさい。もう出仕するんだもの、いつまでも庶民と同じ感覚でいては駄目よね。しっかりしないと」
 ゴシップが大好きな庶民感覚がまだ抜けていなかったようで、反省する。
 実は、王族や貴族は庶民階級にあえてゴシップを提供していた。
 庶民階級は、この格差社会に少なからず不満を抱いている。王族や貴族にはそれ相応の責任が伴い、法を犯した際の刑罰も重くなるので、貴族だからといってすべてが優遇されているわけでもないが、それでも羨まれる立場だ。
 この国では、ただでさえ度重なる自然災害の対処で大変なのに、クーデターまで起こったらたまらない。庶民階級の鬱憤のやり玉になるように、彼ら向けの新聞には王族や貴族の醜聞が取り沙汰された。
 第三王子が婚約者に逃げられた、末の姫は太りすぎて夜会の最中にドレスの金具が外れてしまった、一流貴族である女官長の娘が駆け落ちをした、どこぞの貴族の不倫密会現場に夫が現れて修羅場になった──などなど、新聞記事には毎日面白おかしく王族と貴族のゴシップが載っている。
 王族も貴族も、庶民階級の娯楽であるゴシップには寛容であり、どんな醜聞を載せられても咎めることはなかった。
 だが、貴族が王族の醜聞を口にすれば、不敬罪として処分されてしまう。庶民から貴族になったばかりだと、庶民の感覚が抜けきらず、つい城で王族を馬鹿にするような発言をして処罰される者も多い。
 ターニャも城に出仕する以上、今後は気をつけなければならなかった。
「採用してもらえるにしても、まだ先のことだと思っていたから気が緩んでいたわ。荷物も持たずに来いだなんて、よほど急ぎみたいだもの。すぐに頭を切り替えるわ」
 気合いを入れるように、両頬を手で叩く。
 ──その翌日、ターニャは父親と一緒に城へと向かった。

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