【試し読み】恋わずらいの処方箋~奥手令嬢の純真は幼馴染みの淫らな診察で暴かれる~

作家:冬島六花
イラスト:壱也
レーベル:夢中文庫プランセ
発売日:2020/7/21
販売価格:500円
あらすじ

「声を我慢できたら、君が純真だと診断しよう」──音楽教師志望の奥手な令嬢クレアの悩み。それは、幼馴染みの医師・アンソニーが頭から離れず、彼との淫らな妄想で体の奥を熱くしてしまうこと。悪い病気なのではと不安なクレアは診察を受けることに。しかし現れた主治医はなんとアンソニー本人!? 自分が淫らでないお墨付きが欲しいとねだるクレアに、アンソニーが準備したものとは──淫具を使った検査! 執拗なアンソニーからの責めに、たまらず声は漏れてしまい……罪悪感とともに彼への思いは膨らむばかり。そんな折、アンソニーの同僚医師・ジェシカはクレアに堂々とライバル宣言! 果たしてクレアの初恋と純真の行方は──!?

登場人物
クレア
音楽教師志望の奥手な令嬢。アンソニーを想い淫らな気持ちを抱くことに罪悪感を覚えている。
アンソニー
幼馴染みの医師。クレアの悩みを聞き困惑しつつも、淫具を使った検査を行う。
試し読み

プロローグ 深夜のいけない妄想

(ああ、アンソニー。早く、こちらへ来て……)
 寝台の中で、クレアは身を捩る。ある男性のことを思い浮かべながら、自らの下肢にそっと手を伸ばす。
 腰まで届くほどのまっすぐな金髪は、額にしっとりと張りついている。透けるように白い肌は、頬だけぽっと上気したような桃色に染まっている。身に纏った柔らかい木綿の夜着も、汗を吸って皺ができていた。
 月明かりが窓から斜めに差し込み、クレアの顔を青白く照らす。
 クレアはここ数ヶ月、夜になると自分を襲う悪夢に悩まされていた。ある妄想が、頭に張りついて離れないのだ。
(お願い、今すぐに)
 茂みの奥にある秘裂を、クレアはそっと撫でた。
(駄目よ、クレア。こんなことをしては駄目!)
 自らをたしなめる。
 クレアを悩ませる妄想とは、ある男性とともに裸で寝台に入り、抱き合うというものだ。
 細身だがしっかりと筋肉が付いた腕、たくましい胸、端正な顔……。
 その男性は、クレアが幼い頃から仲良くしている人物だ。妄想の中の彼は、どれもうっとりするほどに美しく、クレアはもっともっと、ずっと抱き合っていたいとさえ思う。
 そしてなぜか、下肢が疼いてしまうのだ。
(ああ、どうしたらいいの)
 秘裂を指で擦りながら、クレアは独りごちた。
 その部分は蜜を溢れさせて、指はじっとりと湿っている。
 よく見知っている男性を思い浮かべて、夜な夜なこんなことをしているなんて……。
(早く眠らなければ)
 そう思うのに、クレアは指を止めることができない。
 脚の付け根の秘花は刺激を欲しがって、クレアの指を食いつくように包んでいる。
(ああ、でも……気持ち良い)
 潤んだ秘裂を刺激すると、得も言われぬ快感が全身に広がるのだ。
 それに、その男性に本当に抱き締められているような気さえしてくる。
 だからクレアは、それが止められないのであった。
(ああ、駄目。でも……もっとしたいの)
 クレアは、たまらずに指を動かし続けた。
 甘い痺れが、その部分から全身へと広がっていく。
「っ……あっ……!」
 寝台の中で、クレアは大きく身震いした。
 ──ついに、達したのである。
 全身がじんじんと火照る。快楽の余韻が、女芯から全身へと、じわじわと広がっていく。
(ああ、また今夜も、こんなことをしてしまったわ)
 クレアは、自らのまなじりに浮かんだ涙をそっと指で拭い取る。
 指は先ほどクレアの秘裂から溢れた蜜のせいで、しっとりとふやけている。
 罪悪感にさいなまれながら、クレアは今宵も、眠りにつくのであった。

第一章 奥手な令嬢の密かな悩み

 麗らかな陽気の春の午後──。
 街は咲き誇る花に溢れ、道行く人々は思い思いに楽しく歓談している。王都の端に位置するロバートソン男爵家のタウンハウス。その二階の窓から、美しいピアノの旋律が流れてくる。
 窓を覗くと、そこにいるのは落ち着いた面差しの貴婦人と、ピアノに向かって腰掛け、鍵盤の上で指を踊らせる乙女だ。彼女は腰まで伸びた艶やかな金髪を持ち、爽やかな水色のデイドレスを身に纏っている。ぱっちりと大きく開いた青色の瞳に、滑らかな白い肌。そして薄桃色の頬。
 ──彼女の名はクレア。十八歳になる男爵家の娘で、しっかり者の兄とおてんばな妹がいる。
 クレアには悩みがあった。二年前にデビュタントとして社交界デビューし、それ以降も折りを見ては舞踏会へ顔を出している。けれどもピンとくる──つまり結婚相手として意識できるような男性には、未だに出会えずにいるのだ。
 クレアは曲がりなりにも男爵家の娘である。しっかりとした家柄の男性に嫁ぐのが、この国では貴族女性の最上の幸せとされているから、これは困った事態だ。もちろん、昨今では職業を持つ女性も多いし、クレアも音楽教師を目指して日々レッスンに励んでいる。だが、それとは別の問題で、クレア自身、生涯をともに過ごす相手を得たいとも思っているのだ。
(アンソニーのような男性に、出会えたらいいのに)
 ついつい思い浮かべてしまうのは、幼馴染みのアンソニーだ。七歳年上で、サラサラと流れるような栗色の髪に森のような深緑色の瞳をした彼は、幼い頃からクレアの憧れだった。
(駄目よ、アンソニーのことを考えたら!)
 伯爵家の次男として育ったアンソニーは二十五歳、現在は医師として、王都の診療所で修行中の身である。
 幼い頃は、クレアの世話をよく見てくれた。それが縁で関係が続いており、クレアも誕生日に贈り物をしたり、折を見て手紙を書いたりしている。
 つい先ほどまでも、アンソニーからの手紙を読んでいた。クレアはそれだけで胸が高鳴り、いてもたってもいられなくなってしまった。
(私、どうかしているわ。アンソニーはあくまで幼馴染みとして接してくれているだけなのに)
 その後、ピアノレッスンが始まっても──クレアは、その気持ちを引きずったままなのだ。
「クレア。今日はなんだか、レッスンに身が入っていないようですね」
 母親より年上の音楽教師・コンスタンスが、クレアの肩にそっと手を置いた。彼女はいつも長い黒髪を一つにまとめ、露出の少ないデイドレスに身を包んでいる。生真面目さの垣間見える薄茶色の瞳で、幼い頃からクレアを見守ってきた。
「コンスタンス……ええ、そうなの。ごめんなさいね。練習はしっかりしたつもりなのだけれど」
 長い睫毛まつげに縁取られた瞳を伏せ、クレアは溜め息を吐いた。
「最近、いつもこうですよ。私には、あなたが何かとても大きな問題を抱えているように見えます。私で良ければ……話を聞きますよ?」
 コンスタンスが、まっすぐにクレアを見つめて言った。
 その瞳には、心配そうな光が宿っている。
「ありがとう、コンスタンス。……けれど、あなたに打ち明けて解決する問題ではないの。ここのところ体が怠くて、体調が優れない日が多いのよ」
「それはいけませんね。お医者様に相談してはいかがでしょう?」
 穏やかな声で、コンスタンスは提案した。
 彼女は単なる音楽教師としてだけでなく、クレアの精神的な支えにもなってくれている。
 しかしクレアの悩みは、医者に診てもらえば治るような類いのものではないのだ。
(だって……それは、とても淫らなものだから……)
 クレアは、コンスタンスの手をさりげなく振りほどいた。
「大丈夫よ、コンスタンス。ゆっくり休めば治るわ。……ごめんなさい、今日のレッスンは、ここで切り上げてくださらないかしら」
 落ち込んだ調子でクレアは告げる。心の内を悟られたら、とてもではないが生きていけない。
「分かりました。では、しばらくレッスンはお休みにしましょう。そうですね、ちょうど二週間後──再来週の水曜日から再開しましょうか。それまでに体調を戻して、きちんと曲も仕上げるのですよ」
 コンスタンスは静かな声で言った。
 つまり、レッスンは二週間、休みというわけである。週に三度のレッスンをそれだけ休んだら、指がなまってしまいそうだ。
 しかし今のクレアには、それを押してでも休養が必要だと、コンスタンスは判断したのだろう。
「ありがとう。ピアノは継続と休息が大切ですものね」
 コンスタンスがいつも口うるさく言う言葉を、クレアは口にした。
 彼女はクレアを見守る母親のような存在だが、こと音楽に関しては、とても厳しいのだ。
「その通り。音楽の道というものは、教師になれば、あるいは何か賞を獲れば終わりというわけではありません。たゆまぬ日々の努力を続けて、生涯かけて実績を積んでいくものなのです。……だからこそ疲れたときは、ゆっくり体を休めるのも肝要ですよ」
「分かっているわ、コンスタンス。いつもありがとう」
 クレアは微笑みながら、ピアノに立てかけた楽譜を畳むのだった。

(駄目ね、私)
 私室のソファに腰掛け、ピアノの楽譜を広げながら、クレアはぼうっと考え込んでいた。
 先ほどまでは暖かい春の光が窓から差し込んでいたというのに、今は一転して、空には雲がかかり、今にも雨が降り出しそうな気配すらある。
 今練習している曲は、もうすぐ街で行われる春祭りの日に、由緒正しい教会で演奏するものだ。
 毎年、若手の演奏家が指名されるその役目に、クレアは幼い頃からずっと憧れてきた。
 だから今年初めて自分が指名されて、クレアは天にも昇るほど嬉しかったのだ。
(それなのに、どうしたらいいの。練習に身が入らないわ)
 毎日決まった時間に、ピアノに向かってはいる。
 手を動かし、曲はほぼ暗譜あんぷして、スラスラと指を動かせるようになった。
 テンポも正しく、メロディを間違えることもない。
 けれど──クレアの指先が紡ぎ出すメロディは、なんだかとても無機質なのだ。
 以前のように、情感が豊かで歌っているかのような感覚が、全くといっていいほどない。
(だって、アンソニーの姿が、頭をチラチラよぎってしまうのだもの)
 曲を弾いている途中にも、アンソニーが優しい顔でクレアへ微笑みかける姿を思い浮かべてしまうのだ。
 想像の中の彼はすぐ隣に座り、クレアの演奏に静かに耳を傾けている。
 そして演奏が終わると、クレアの手にそっと自らの手を重ねて……。
 ドキン、と胸が高鳴る。
(ああ、そんなことになったら、私、どうなってしまうの?)
 うっとりと、クレアは目を細める。
(やだっ、いけない、いけない。また気が散ってしまったわ)
 クレアはそこで、パタンと楽譜を閉じた。
 ひとたびアンソニーを頭に思い浮かべると、止まらなくなってしまうのだ。
 それで練習もままならなくなってしまう。
 こんな状態では、気持ちのこもった演奏などできるはずがない。
「私、本当に駄目ね……」
 溜め息混じりに呟いた言葉は、案外大きく響いた。
 クレアはソファに思いっきり背中を預け、瞳を閉じる。
 こういうときは、無理に難しいことを考えず、空想の世界に身を委ねるのが一番である。
(それにしても、ああ、アンソニー)
 脳裏に描くのは、もちろん、アンソニー。振り返ってみれば、クレアはいつも、七歳年上のアンソニーに憧れていた。
 クレアが十一歳の頃のことだ。
 アンソニーは当時、離れた地方の寄宿学校に通っていたが、夏の休暇にはこの王都へ帰ってきていた。クレアは折を見てアンソニーに手紙を出し、自分の屋敷に誘っては、アフタヌーンティーでもてなしていた。
 金縁で草花の描かれた繊細なデザインのティーカップには、濃い飴色をしたダージリンの紅茶。ケーキ皿には牛乳の風味がたっぷりの、サクサクのスコーン。脇にはふわふわのホイップクリームと、屋敷の菜園育ちのイチゴで作ったジャムが添えられている。
 クレアは精一杯のもてなしでアンソニーを出迎えた。今思えば、ずいぶんと拙い、ままごとのようなものである。けれどアンソニーはクレアの誘いに嫌な顔ひとつせず、にこにこと笑って応じてくれたのだ。
(あのときは、私も幼かったわよね)
 数日前に十八歳の誕生日を迎えたアンソニーのために、クレアはハンカチと手袋を用意し、縁に勿忘草わすれなぐさの刺繍をした。〝思い出〟という花言葉が、二人の関係を象徴していると思ったからである。
(今となっては、笑ってしまうくらいに下手な代物だったけれど)
 もともと刺繍や編み物などは不得手な方である。頑張って仕上げたものの、自信は全く持てなかった。しかし、それを差し出したクレアの手を掴み、アンソニーは言った。
 ──素晴らしいね、クレア。この刺繍は何の花だろう?
 ──勿忘草よ。青い花なら、男の人でも使いやすいかと考えたの。
 ──ありがとう。大切にするよ、クレア!
 アンソニーはクレアを抱き上げ、その場でくるりと回って見せた。
 クレアのドレスの裾がふわりと宙にひるがえり、まるでおとぎ話のように優雅に舞う。
 ──喜んでくれて嬉しいわ。では、お祝いの歌を歌うわね。
 クレアは脇にあったピアノを弾きながら、アンソニーの誕生日を祝う歌を歌った。この国に古くから伝わる、祝福の歌である。
 ──クレアはピアノや歌が上手だね。聴いていると僕まで幸せな気分になるよ。
 ──アンソニー、本当に? 私ね、音楽教師になりたいと思っているの。
 ──それは良い考えだ。クレアならきっとできるさ。僕のお墨付きだ。
 ──ありがとう、アンソニー!
 クレアは黄色い声を上げて、アンソニーに抱きついた。
 心の底から幸せだった。
 ──私、必ず音楽教師の夢を叶えてみせるわね。
 クレアはそのとき、将来は絶対に音楽教師になろうと決めた。
 自分の夢を、大好きなアンソニーも応援してくれる。それはたまらなく喜ばしいことだったのである。

 瞳を閉じたまま、クレアは大きく息を吸った。
(この気持ちは、どうすれば消えてなくなるの? どうしたら、もとの私に戻れるのかしら?)
 身を起こして姿勢を正し、クレアは前を向いた。暮れなずむ私室で、じっと薄闇を見つめる。
 アンソニーは医学校を出て国内各地の病院や診療所で研修をした後、最近王都へと戻ってきた。王都の端にある診療所で、今は街の人々のかかりつけ医をしている。
(私も気付けば、あのときのアンソニーと同じ十八歳。けれども、まだまだ子どもね。……なんて、ここのところ、いつもアンソニーのことばかり考えてしまうわ。私、おかしいのかしら?)
 アンソニーは王都へ戻ってすぐに、クレアの屋敷へ挨拶をしに来た。
 会話を交わしたのはほんの一言二言だが、そのときのことが、ずっと頭から離れない。
(ああ、アンソニーの姿……たまらなく格好良かった!)
 サラサラと流れるような栗色の髪に、神秘的な深緑色の瞳。アンソニーの人柄そのままの優しくて穏やかで、そして聡明そうな外見に、クレアは胸を高鳴らせたのである。
 その日以来、クレアは一日に何十回も彼の姿を思い出しては、アンソニーとの会話を反芻はんすうするのであった。
(アンソニー……もっともっと、あなたと話したいのに)
 それが無理な願いであることは、クレア自身も承知している。
 診療所の仕事はとても忙しいのである。アンソニーがクレアにかまっている時間など、少しもないのだった。
 だからクレアは、会いたくて堪らない自分自身の気持ちを、必死に抑え込もうとしている。けれどそれも、難しくなりつつある。
(それでも、あなたに会いたいわ。ああ、アンソニー!)
 どうしてこんな気持ちになるのか、クレア自身にも分からない。
 誰かを強く欲したことなど、これまでクレアには経験がなかった。
 アンソニーへの思いで胸がいっぱいになるあまり、ピアノの練習にも身が入らなくなったほどである。
 コンスタンスに注意されたのも、アンソニーへの思いが原因だ。
(この気持ち、どうしたら治せるのかしら? ……やはり、お医者様に相談した方が良いわね……)
 とっぷりと日の落ちた暗い自室で、クレアは一人、決意を新たにするのであった。

※この続きは製品版でお楽しみください。

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