【試し読み】野獣後輩の危険な恋愛条件

作家:藍川せりか
イラスト:夜咲こん
レーベル:夢中文庫クリスタル
発売日:2020/4/17
販売価格:300円
あらすじ

瑠衣は三歳年下の貴成に片思い中。意を決して告白したら、なんとすんなりOK! でも一つだけ条件があるという。ドキドキしながら聞けば、「僕は性欲が他の男性に比べて強いほうだと思います。僕が求めたときに、嫌がらずに応じてくれますか?」と。え? 性欲が強い? 驚く瑠衣だが、好きな人に求められて嫌なわけがない。二つ返事で了解。ところが、いざ付き合い始めたらとにかくすごくて! 濃厚なスキンシップばかりでコミュニケーションが取れないことにつらくなってきた瑠衣は、なんとか気持ちを伝えようとするけど、貴成は体を求めるばかりで瑠衣の話を聞いてくれなくて――「野獣先輩」「野獣王子」に続く、野獣シリーズ第三弾。

登場人物
春日瑠衣(かすがるい)
会社の後輩・貴成に告白した際にある条件を提示される。戸惑いながらも承諾し、恋人になるが…
瀧沢貴成(たきざわたかなり)
アンニュイな雰囲気を持つハーフ顔イケメン。性欲旺盛で瑠衣と濃厚なスキンシップをとりたがる。
試し読み

──瀧沢たきざわくん、好きです。付き合ってください。

 そう言うだけでいいんだ。回りくどいことは言わず、思っていることをストレートに伝えるだけでいい。
 よしっと気合を入れて、約束の場所へ向かう。
 私──春日かすが瑠衣るいは、オフィス文具用品を取り扱う【V‐office】という会社に勤めていて、MDと呼ばれる媒体作成部署に所属している。簡単に言うとオフィスに置いてもらうカタログを作っている人だ。
 部署には六人ほどのメンバーがいて、その中に瀧沢貴成たかなりという入社二年目の男性がいる。彼は学生時代にモデルをしていたそうで、一八〇センチを超える長身のすらっとした体型をしている。そして顔は小さく、ハーフのような顔立ちで、肌は白くて髪の色も瞳の色もライトブラウン。本物のハーフかと思いきや、両親は日本人らしい。
 いつも一定のテンションで嬉しいときも悲しいときも落ち着いている。彼から漂っているアンニュイな雰囲気が独特な魅力を放っていて、周りの女性は掴みどころのない瀧沢くんに夢中になっていく。
 他の男性とは違う空気感は独特で、一緒にいると彼のペースになって癖になっていく感じ。
 無表情で女性に対して興味なさそうな素振りなのに、落ち込んでいると、さり気なく励まそうとしてくれる。飲み会で酔いすぎるとちゃんと介抱してくれて、手を繋いで家まで送ってくれたこともある。
 そんなギャップにやられてしまって、まんまと恋に落ちた。
 私は今年で二十八歳。彼は今年で二十五歳。三歳も年の差があるし、私のほうが年上だし、先輩だし。
 会社の先輩だから優しくされている可能性だって充分に考えられるのに、その優しさを全部真に受けて好きになるなんて、空気の読めない女になっているんだけど、好きな気持ちを止められない。
 瀧沢くんが他の女の子から好意を持たれているところを見るたびに嫉妬してしまう。彼の恋人になれたら、独占できるのに……と何度も考えてしまう。
 だから思い切って、後先考えずに告白しようと決意したのだ。
 誰かに取られる前に、自分からいかなきゃ。ぐずぐずしていると、誰かに取られてしまう。

 プライベートの連絡先にメッセージを送って、会社帰りに食事に行くことになった。先日、私の抱えている仕事を手伝ってくれたお礼だと言って誘い出すことに成功。
 目の前にいる彼は、「フランス料理のコースなんて、初めてです」と喜んでくれている。照明が暗めのムード満点のレストランの窓際に私たちは座った。
 夜景を見ながら食事をして、いつもと違う私を演出するべく、セミロングの髪を緩く巻いて右側に寄せて左側の首のラインを出している。
 首筋を出して女性らしさをアピールするんだ。いつもと雰囲気を変えて色っぽいところを見せて意識してもらわなければ。
 ゆらゆらと揺れるピアスをつけて、彼の目線をこちらに向ける作戦だ。
「春日さんは、いつもこんなところでデートされているんですか?」
「え……っ?」
「大人って感じのお店だから。恋人とこんなお店で食事されるのかなって」
 はは、と笑って誤魔化す。いつもこんなところに来ているわけないじゃない。今まで何人か付き合ってきたけれど、なかなかの男運の悪さで長続きしない。三年前に失恋して以来、「もう恋なんてしない」と決意していたほどだ。
 だからこういう店も異性と来たことはなく、飲食関係に勤めている女友達と新規開拓するべくネットで調べて見つけてくるのだ。
 とはいえ、そんな枯れた生活をしているのだと知られたくなくて、曖昧な態度をとってしまう。
 誰からも相手にされていない女性など、魅力的に映らないだろうと深読みして。
「瀧沢くんは、彼女いるの?」
 ああ、こんなことを聞いて大丈夫だったかな。これってセクハラにならない? でも恋人がいる人に告白する勇気はない。一応、ここだけは確認しておかないと。
 どんな反応をされるのかとヒヤヒヤしながら彼の顔を見つめていると、何気ないやり取りのようにすぐ答えてくれた。
「いませんよ」
「そう……なんだ」
 よ、よかった……。ここでいると言われたら、告白する前に玉砕していた。
 ちょっとだけ望みが出てきたと、勇気が湧いてくる。
 緊張しながら話を続け、コース料理をすべて食べ終わった。他愛のない話をして、楽しい時間を過ごすことができたけれど、これからが本番だ。
 気持ちを伝えなければ……。でも店内で言い出せず、私たちは並んで歩道を歩き出した。
「ダメだよ、私が誘ったんだから。私が払うってば」
「女性に払ってもらうなんて、できません。ここは格好つけさせてください」
「でも……」
 奮発した値段のお店だったのに、すべて彼に払ってもらってしまった。こんなことになるのなら、安い居酒屋にしておけばよかったと申し訳なく思う。
「その代わり、今度僕に手作り料理をごちそうしてください」
「え? 手料理? ……どうして?」
「春日さん、料理が上手だと聞いたので」
 一体誰から聞いたのだろうと不思議に思っていたら、私の同期から聞いたとのことだった。以前同期の女子を家に招いてホームパーティをしたことがあった。そのときに簡単な手料理を振る舞ったのだが……そんなに手の込んだものではなかったはず。
「大したものは作れないよ。期待に応えられるかどうか自信ないけど……」
「いいんです。何でも喜んで食べますから」
 そう言ってくれているなら、と快諾する。そういうことで、今日は素直に甘えよう。
 彼からのリクエストの手料理はもちろん、今度食事に行けたら私が出せばいい。そうすれば、また一緒に食事ができる口実にもなる。
 男らしいところもあるんだな、とドキドキしながら、瀧沢くんの隣を歩く。
 ワインを飲んで、少しふわふわしているところに、夜風が頬を撫でていく。六月の心地いい風が気持ちいい。
 もうすぐ駅に着いてしまう。早く言わなければ、せっかく二人きりで食事に行けたのに、何も収穫がないまま終わってしまう。
 でもいつ切り出せばいいかわからないうえに、彼と別れる場所がすぐそこまで来ている。
 全然自然な流れで言い出せなくて、テンパった私は、急に足を止めた。
「春日さん……?」
「あの……っ、瀧沢くん。あのね、私……っ」
 切羽詰まった様子で急に立ち止まって、突拍子もなくいきなり話す。瀧沢くんは、そんな私のことをいつも通りの表情で見つめてくる。
 無表情だけど、どこか優しい。今から私が何をしようとしているか、何となく察しているような甘い眼差しに、一気に鼓動が速くなる。
「わ、たし……瀧沢くんが、好きなの。同じ職場だし、同じ部署だから……迷惑かもって思ったけど……でも、ちゃんと伝えたくて」
「はい」
「私と……付き合ってもらえませんか……?」
 言えた────!
 きゅっと拳を握って、力いっぱい気持ちを込めて好きだと伝える。さっきまでの酔いが吹っ飛ぶくらい緊張しているけれど、言いたいことが言えてよかった。
 返事が怖くて、握った手が震えてる。頭が真っ白で拒絶されたらどうすればいいかまで頭が回っていない。
 しばらくの沈黙に死にそうになりながら、恐る恐る瀧沢くんのほうを見てみた。
 感情が読めないけれど、無表情ながらも柔らかさを感じる。そして珍しく彼が微笑む。
「はい。僕でいいなら」
「え……っ」
 はいって言った? それって、それって……。
 僕でいいなら、付き合うっていうことで合ってる??
 静かに、けどしっかりと答えてくれたのに、意味がわからなくて何度も頭の中で聞いた言葉を繰り返す。
「でも一つ条件があります」
「…………え?」
 条件?
 いきなりの条件の提示に嫌な予感がよぎる。一体どんな条件を突きつけられるのだろうと身構える。
「それって……どう、いう……?」
「引かないで聞いてほしいんですけど」
 そう前置きした上で、すうっと息を吸ってから彼は話を続けた。
「僕は性欲が他の男性に比べて強いほうだと思います。僕が求めたときに、嫌がらずに応じてくれますか?」
────?
 性欲……。
 一体何の話をされるのだろうと構えたのに、まさかそんな話だとは。付き合ってもいいけれど、会社では内緒にしたいだとか、そういう内容かと思いきや、そんなこと……!
 拍子抜けした私は、安堵の表情を浮かべて彼に微笑みかける。
「嫌がるわけないじゃない。そんなの、まったく問題ないよ」
「本当に?」
「もちろん!」
 好きな人に求められて嫌がるなんてあり得ない。
 片想いをしていた瀧沢くんと付き合えるのなら、そんなの気にならない。どんなときでも応えてみせる。
「これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、お願いします」
 私たちはこうして付き合うことになった。

※この続きは製品版でお楽しみください。

シリーズラインナップ
恋に落ちた野獣王子(夢中文庫クリスタル)
藍川せりか/夜咲こん
販売価格:300円
五年ぶりに偶然再会した大嫌いなヤツに路上でいきなりキスされた。もう二度と会いたくない! そう思っていたのに、また――

野獣先輩の甘くて強引な命令に困っています(夢中文庫クリスタル)
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