【試し読み】間違いでさらわれましたが、たっぷり愛されています

作家:鳴澤うた
イラスト:米谷たかね
レーベル:夢中文庫セレナイト
発売日:2020/2/7
販売価格:500円
あらすじ

巷では修道院から娘をさらって結婚する『誘拐結婚』が流行っていた。修道院を出たい娘たちも、むしろそれを望んでさらってくれる者を募集する始末。そんな中、マリエルはすでに婚期を逃し結婚自体あきらめモード――が、なんと誘拐されてしまった! 私にもいよいよ! と思いきや、それはラウルの間違いによるものと判明。ガッカリするマリエルだが当のラウルも自らの行いを反省。マリエルに謝罪、紳士的に接する。そんな実直な人柄にマリエルはビビビ! ときてしまう。修道院を出たい思いと初恋に揺れるマリエルは、衝動的に偽装結婚を申し出てしまうのだが――間違いでさらわれてしまったマリエルの恋の行方は!?

登場人物
マリエル
修道院の中では最年長。婚期を逃し結婚をあきらめかけていたところをラウルに攫われる。
ラウル
誘拐という罪の意識を持ちつつもマリエルを攫う。誘拐後、自らの行いを反省し誠実に接する。
試し読み

序章 誘拐結婚が流行らしい

「エリーヌ嬢、どうか俺とともにきてくれ!」
「……え?」
 小さな部屋に質素な部屋。
 そして、蝋燭一本の拙い明かりしかない。
『質素倹約こそが美徳』
 というアザレー女子修道院は、その名の通り子女のみ入ることが許されている修道院だ。
 そこへ夜中に壁を伝って、窓から男が入ってきたのだ。
 片上げ下げ型の、下半分しか開かない窓からよく入ってこれたな、というガタいのいい男が。
 しかも恋に憧れる女性なら、一度は言われたい情熱的な言葉を告げて。
「頼む。俺のことなど知らないだろうが、きっと貴女を幸せにする! だから俺とともにきてほしい!」
 しかし告白された相手は、言葉を発しないまま薄闇の向こうでポカン、としている。
 それは致し方ない。夜中に壁を伝って窓から侵入してきた男など夜這いか、盗人が前提であろう。女が叫ばないでいてくれたことは幸運だ。
 しかし部屋に侵入された当の子女は、この状況に頭が追いつかないらしく、ただ呆然と男を見つめている。
 そんな彼女に痺れを切らしたのか、男は、
「失礼!」
 と言って子女を肩に担ぎ上げ、窓から出ようとする。
「待って! 待ってください! あの、私……っ!」
「騒がないで! 見つかってしまう……!」
 小さな声で囁くように注意され、彼の勢いに押されてなのか、元々従順な彼女は黙ってしまった。
 手慣れているのか、彼は手際よく彼女の腰に縄をつけ反対を自分の腰に縛る。
 自分が先に窓から出て、彼女を抱き上げた。
 正直、彼女はこういった体験は生まれて初めてだ。
 しょっちゅうこんな目に遭っては逃げ出しているエリーヌと違うので、どうしていいのかわからず、ただ彼のなすがままにその胸に抱かれている。
 それでも頭の中は、混乱しすぎて気を失いそうになっていた。
 部屋は二階だとしても彼女にとっては十分に高いし、命綱は腰に一本だけで掴むものなどなにもない。
 ぐるぐると目が回る。気が遠くなる。
「も……ぅ、駄目……」
「──えっ?」
「私、エリーヌじゃ……なくて……マリエ……ル」
 そこで意識は途切れた。

 婦女子誘拐結婚事件──誘拐された子女がそのまま犯人と結婚する事例がこのロクロール国中で多発していた。
 事件というと大げさに聞こえると、誘拐されて結婚した子女達の大半は口を尖らす。
 一種の催しのように取っている者が多いのだ。
 というのも、起きるのはロクロール内にある教皇が定めた三つの女子修道院のみ。
 なぜか?
 答えは簡単だ。
 両親が亡くなり、莫大な遺産を受け継いだ子女が収容されているから。
 親族がいない未成年、または被後見人の令嬢達の後見人は教皇、または国王がなっていた。
 未成年で両親を亡くし、行くあてのない子女は修道院に送られる。そこで成人して結婚相手が決まった、あるいは己で管理できる力をもったなら出ることが許される。
 成人しても修道院にいるということは──まだ結婚が決まっていないということだ。
 実は、こういう子女は結構多かった。
 なにせ、親戚からも縁遠い者達だ。良い見合い話を持ってきてくれる伝がないのだ。
 なら教皇なり、国王なりが見繕ってやればいいというのにそれを渋った。
 これも理由は簡単。
 このまま結婚しないでいてくれれば、いずれ彼女らの財産は国、または教会に贈与されるからだ。
 それを知った有力貴族達や屈指の騎士達、勇敢な上級庶民などが、
「欲のために花の盛りの女性達を閉じこめて、枯れさせるつもりか! 許せん!」
 と英雄気取りで乗り込み、子女達を連れ去ったのが始まりだった。
 これがまた裕福な子女ばかりなため、借金を抱えた男達が駆け込み、誘拐を始めたのだ。
 頻繁に起こる誘拐に業を煮やした教皇は、ある子爵に『死刑』という厳しい判決まで下しているが、それでもなくならなかった。
 というのも、子女達も嫌々にさらわれている者ばかりではなかったからだ。
『修道院から出たい』と強く希望している者などは喜んでさらわれたし、自分の容姿に自信のない者なども然り。
 手紙で外の友人に頼んで、自分をさらってくれる男性を募集するという強者も出てきた。
 こうなるともう娯楽的な要素が前面に出てしまい、子女にとっては誘拐されることは一種のステータスになり、誘拐する側も娯楽で何人さらえるか、とかゲーム感覚になってしまっていた。
 最近では国王と教会側が音をあげて、風紀をこれ以上乱すわけには──と、献金をした子女には相応しい相手を紹介する、まで考えを改めた。

 しかし、すでに時は遅し。
 監視の目をくぐり抜け、女は外にいる男の情報を集め、さらってくれる相手を募集し、男はそれに目星をつけさらう。
 そうして今回さらわれたのは、マリエル・オードラン二十一歳。
 エリーヌ・カプレ十六歳と間違われた結果だった。

第一章 ラウル・ベクレルが彼女をさらったわけ

 ラウル・ベクレル、二十四歳。

 彼は一般の兵でありながら五年前に隣国との戦で功績を挙げ、ナイト爵を王室から叙任された青年である。
 準貴族として仲間入りをした彼は謹厳実直で、国王陛下の覚えめでたく、近衛騎士にまで出世した。
『立身出世』の象徴とまで言われ、「こいつを崇めれば出世できる」と、一時期は顔も知らない相手から身体を撫でられたりしたものだった。
 この出世の礎を築いてくれた体格と能力を授けてくれた両親に感謝をし、ラウルは下賜された土地に屋敷を建て、両親と妹を住まわせ面倒を見た。
 しかし──今まで質素な暮らしをしていた両親は、そこではしゃいでしまったのだ。
 息子が手に入れた賞金も働いて稼いできた給金も、湯水のように使い込んだ。
 綺麗な衣装に目映い宝石。贅沢な食事。観劇に賭け事。
 また、怪しげなクラブに入って狂乱に興じた。
 そしてクラブで覚えた『魔薬』が起こす幻覚の虜になり、大量摂取をした結果、中毒死してしまった。
 国王に仕えてなかなか実家に帰れなかったラウルは、後悔した。
 そしてまだ幼い妹の面倒を見るために職を辞し、実家に帰ってきた。
 そして──帳簿を見て驚いた。
 贅沢をしなければ妹の教育費を含め、十年は暮らせるであろう蓄えは空っぽで、逆に借金だらけになっていたのだ。
 帳簿の付け方を知らない両親のために雇った計理士も、一緒に雇った使用人と共謀して金を使い込んでいた。
 ラウルがそれに気づいたときには、すでに時は遅し。
 金目のものを盗んで逃げたあとだった。

 それ以来ラウルは妹と二人で、広い屋敷の一画だけを使用して住んでいる。
 小さな土地だったが、幸い肥沃な土地で豊かな森もあった。
 良い場所を下賜されたおかげで、住民達はひもじい思いをしなくて済んでいる。
 借金も、計理士が持ち去らず、残していった宝石や衣装を売って、どうにか精算できた。
 それだけが不幸中の幸いだった。
 ベクレル領に住んでいる者達は皆善良で、貧困に喘いでいるラウルにと余分に税金を納めようとしてくれたが、彼はそれを断った。
 これは自分の油断と愚かさが招いた結果だ。
 それを領民達に背負わせるわけにはいかない、という彼の謹厳な性格ゆえに受け取らなかったのだ。
 けれど、金がなくても幸せだった。
 両親は贅沢に狂ってしまったし、信用していた使用人に金を持ち逃げされたが、領地に住む人々は彼と同じくらいお人好しで、根が真面目で正直者ばかり。
 そして残された妹も素直でしっかり者で、賢かった。
 気の良い人達に囲まれて、ラウルはまた昔のように農耕に、狩りに勤しみ、暮らしていたのだ。
 しかし──何にしても可哀想なのは妹のフラヴィだ。
 幼少の頃から賢くて『聖童』と呼ばれていたフラヴィ。
 金がなくて寄宿制の名門学校にいられなくなり、領地に帰ってきた。
「家でも勉強できるから大丈夫よ。それに私の方が、今までいた計理士よりずっとまともな計算ができるわ」
 なんて健気なことを言ってくれるが、学ぶ師はいないし、教えとなる教本も足りない。
 日がな一日、兄の農耕の手伝いと、子供達に文字を教えている。
 それがラウルにはとても不憫だった。

 そんなラウルに「王都で流行っている修道院にいる身寄りのない資産家の令嬢をさらって、結婚したらどうか」と囁いた者がいた。
 かつて同僚だった近衛騎士ユベール・バランドだ。
 王城にいた頃は、世間話をするくらいでそう仲良くもなかったのに、どうしてか酒を片手にフラリとラウルの領地にやってきては、飲み食いして数日泊まって帰っていく。
 最初はフラヴィ目当てか? と疑わしく思っていたラウルだったが、そうではなくただの憂さ晴らしのために、ラウルを下げて満足しにきているらしい。
「陛下の覚えめでたくても、貧乏でこんな田舎で腐っているお前よりはマシだと思うけどさぁ。でもお前のような生活もいいなぁ、なんて思ってるんだよな。ほら、気楽じゃん? 誰かを守る緊張感もないしさ。自分の生活の糧だけ考えてればいいんだしさ」
 なんてユベールは言うが、とんでもない。
 一応、自分は領主だ。領地に住む者達の生命を守らなくてはいけない。
 のんびりなんてしているつもりはない。
 人や穀物を狙う野生動物が現れたら退治をするし、強盗が出たら剣で戦う。住民同士の争いが勃発したら、双方の話を聞いて裁かなくてはならない。
(でも俺はこんな顔だから、のんびりしているように見えるのかもな)
 とも、
(こいつも、王城で苦労して息苦しいのかもな)
 とも思って、ラウルは彼を聖母よろしく受け入れていた。
 そのユベールが持ってきた『令嬢誘拐の話』には続きがあった。
「エリーヌ・カプレという令嬢が、自分を修道院から連れ去ってくれる気骨のある男性を求めているんだ。彼女は修道院から連れ出してくれたら、どんな苦労さえも厭わないそうで、自分が受け継いだ遺産を有効に使ってくれたら、なおいいそうだよ──どうだ? ラウル」
「……俺が?」
「そうだ! お前がだよ! そろそろ嫁だって欲しいだろう? 『気骨のある男性』なんて、お前そのものじゃないか! それに彼女は遺産持ちだ。うまく連れ出して結婚したら、妹をまた王都の学校で学ばせてやれるぞ?」
「フラヴィを……」
 ユベールがどうしてそんな情報を持っているのか、ラウルは疑いもせず彼の話に乗ってしまった。
「国に三つある女子修道院の中で、一番遺産持ちの令嬢がいるアザレー女子修道院にエリーヌ・カプレはいる」
 南側の棟の二階。一番左の部屋だ。
 さすが資産を持つ令嬢達が住まう修道院だけあって、赤煉瓦の美しい建築物だ。棟が重なるように建てられていて、容易く二階にはいけそうな造りだった。
(……しかし、どうしてさらわないと結婚を認められないのだろうか?)
 いくら親がいなくて修道院にいても、普通に書簡で結婚を申し込むとか、また後見人に頼むとか、やりようがあると思う。
 ユベールが言うには、
「これが今の求婚の仕方。流行なんだよ! エリーヌ嬢は流行に敏感な方で、垢抜けないことをやるとその場で突き落とされるぞ」
 とか。
(エリーヌ嬢は情熱的な求婚を望んでいる、とユベールは言うしな……)
 彼の情報では情熱的な相手を求めてはいるが、普段は慎ましい性格で、おそらく未婚の可愛らしい夢を抱いているのだろう。
「だから、その夢を叶えてくれたなら彼女はきっと、お前に夢中になるさ」
「ならユベール。お前がやればいいんじゃないのか? お前は現役の近衛騎士だし、顔だって良い。ここに十人娘がいれば大抵は振り向くじゃないか。さらうほど愛されてると実感を得たいのなら、顔がいい方が浪漫がある」
「俺はいいんだ。今回はお前に譲るつもりで話を持ちかけたんだから。てっとり早く大金が欲しかったら、もうこれしかない!」
「しかし……それでは金目当てじゃないか」
「結婚したら大切にしてやればいい。妻一筋で愛せばいいんだ。それに、こうやってさらって嫁にする奴は結構いる」
 ということは、金策に喘いでいる男が多いってことか。
 道楽につぎ込んで、破産寸前の貴族もいると聞いている。
 片や両親を失って、代わりに遺産を手に入れても居場所がなくて、こうして修道院に連れてこられる未婚の女性達。
(持ちつ持たれつ──ってやつかな)
 自分は、なるべく早くまとまった金が欲しい。
 そうとしたら確かに、これしかないのかもしれない。
 あまり迷ってウロウロ彷徨っていたら、見つかってしまう。
(覚悟を決めるか……)
 ラウルは落下防止の縄を腰に巻くと、修道院の壁を登り始めた。

※この続きは製品版でお楽しみください。

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