【試し読み】異世界に永久就職~聖なる力が強すぎて××スイッチが入りません!?~

作家:日向そら
イラスト:くろでこ
レーベル:夢中文庫セレナイト
発売日:2019/12/10
販売価格:300円
あらすじ

ある日〝聖女〟として召喚されたリョウコ。神様レベルの魔力と『祝福』の加護を与えられ堅実に降臨した異世界は〝魔力量=美しさ〟な世界だった! 甚大な魔力量であらゆる人からモテまくるリョウコ。しかも聖女のお仕事は、毎日十分程度、祈りを捧げるだけ!? 超ホワイトな仕事内容と手厚いもてなしに気分をよくしたリョウコは、この世界へ永住を決断し婚活を始めることに。――ところが強力すぎる『祝福』のせいで、男性とお近づきになれない!? 傍に残ったのは容姿端麗だがやる気ゼロの護衛騎士カインだけ。しかしそのカインも、祝福のせいでリョウコに近づけなくて……? モテ期到来で有頂天!?急降下!?のドキドキ・ラブコメディ!

登場人物
リョウコ
聖女として召喚され甚大な魔力量をもつ。魔力量は美しさに比例するためモテ期到来かと思いきや…
カイン
リョウコを護衛する騎士。容姿端麗だが無口でやる気ゼロな無気力系男子。
試し読み

一、聖女、召喚される。

 ふと顔を上げると、見知らぬ部屋の中にいて、見たことのない人達に囲まれていた。
 ……冷静に考えればかなりの衝撃体験だったんだろう。だけど、ファンタジー世界の登場人物のようなおじいさん達の服装と、どこまでも続いてそうなアンティークな長い燭台の灯りが非現実感を煽り、夢かな? と思ったことで完全に叫ぶタイミングを失ってしまった。
 狭いか広いかも分からないそんな部屋の、おそらく真ん中で、私──藤井ふじい涼子りょうこは、とりあえず一番近くにいたオジサンに話し掛けてみた。
「……私、酔ってる?」
 真っ白い貫頭衣に、からし色の長いジレのようなベストを身に付けたオジサンは、声を掛けられると思わなかったのだろう。若干動揺の顔を見せつつも戸惑いがちに首を振った。
「いえ……酒精の類は感じませんが……」
「ですよねー」
 何も納得してないのに、へらりと愛想笑いを返してしまうのは、悲しき営業職の性だろうか。
 今日は金曜日。地元ではそこそこ有名な中堅企業に勤める私は、たまには少なくなった同期で呑みに行くか、と連れ立って居酒屋に向かおうとしていた。確か本社が入ってる雑居ビルの敷地から一歩出たその瞬間だったはず。うん。まだ一滴も呑んでないね!
 その証拠に私の手は鞄を持っているし、片足は浮いたまま。あ、今着地。今までよく持ち堪えてたな。私のバランス感覚。
 しかし感心したのは一瞬で、切りっぱなしの硬い石材の床に、ヒールの音が大きく響いてしまい、自然と身が縮まってしまった。
「えっと」
 なんとなくしっかり鞄を抱え込んでから、声を掛けたオジサンから視線を動かし、今度こそ注意深く視線だけで部屋の中を見回した。
 案外広そうな部屋に、燭台の灯りは端まで届いてはいない。だけど暗がりで見えていない所にも、なんとなく人がいるような気配を感じる。
 ようやくそこで心臓が痛いほど早鐘を打ち出した。
 あ、ヤバい。怖い。
 夢じゃないし、ましてや酔っ払いが見る幻でもない。今更ながら明らかにおかしい状況だと血が下がっていくのが分かった。
「聖女様」
 そんな私の様子を知ってか知らずか真正面からふわふわした──それこそ現実では滅多に見ることが出来ない真っ白な髭のおじいさんが、私を取り囲んでいた人々を割って私の前に出てきた。格好は声を掛けたオジサンと似ているけれど、それよりも仕立ては良さそう。
「宰相」
 私が話し掛けたオジサンが、少し恐縮したような弱り声でそう呼び掛ける。さいしょう、と反芻はんすうしてすぐに漢字が思い浮かんだのは、見るからに只者ではない風格と雰囲気のおかげだろう。
 状況説明というバトンを受け取ったおじいさん──宰相さんは、そのオジサンに軽く手を上げて見せる。そして体重を感じさせない動きで、すっと私の前へ歩み寄ってきた。
 好好爺こうこうやらしい温和な笑顔のせいか、他人にしては近い距離だというのに、不思議と逃げようとは思えなかった。
「ようこそ神国カーネアンへ。女神の申し子、聖女であらせられる稀有けうな乙女よ」
 ──女神。
 低く穏やかな声が耳から脳に伝達するよりも速く、唐突に──美しい声が脳内に響き、次いで『その映像』がコマ送りで再生された。

『……っとーに、危険は無いんですよね!?』
 ──ええ、大丈夫。貴女の身を守れるような守護を与えます。
『ついでにちゃんと『心』も付け足してくれます? みんな死んでるのに自分だけ生き残って精神崩壊エンドとかごめんですからね!?』
 ──もちろんよ。身も心も健やかであるように、これまでの聖女より強力な『祝福』を授けます──わたくしの名前に誓って。
『じゃ、どっちにしろ今絶対戻れないなら了承するしかないんですよね。……分かりました。三年後には元の時間、同じ場所、今と同じ年齢で戻してくれる約束も忘れないでくださいね』
 ──ええ、三年後にはいつでもかえれるように、道は開けたままにしておくわ。

「うわー……あれ、夢じゃなかったんだ……」
 ポツリと呟いて、溜息をつく。
 多分、一瞬の間に地球でもなければ『ここ』でもない場所で行われたやりとり。
 だから、こんなに落ち着いているんだ、と納得した。……泣いたり喚いたり怒ったり、そういうのは全部女神の所でやってきたから。
 ……今思えばなかなか面倒見の良い女神様だ。
 ある程度説明したら、はい、いってらっしゃい! がラノベで言うところの標準展開だと思う。体感的には三日はグズった気がするけれど、女神様はずっと付き合って「危険はないこと」を説明したり、気分転換に美しい景色を見せてくれたり、私が好きな料理やらお酒、お取り寄せ銘菓なんてものまで指先一つで出してくれたりと、それはもう構いに構ってくれた。
「もしや、時の狭間で女神にお会いしましたか」
 私の小さな呟きを拾い、宰相さんが疑問よりは確信に近い響きで尋ねてきたので、私は一旦顔を上げた。四方から送られる期待の籠もった視線に居心地の悪さを感じながらも、ゆっくりと頷いた。
「……っおお!」
 歓声に近い声が暗闇の中から上がる。
「明かりを」
 宰相がそう言って右手を軽く振ると、手品のように部屋の中がぱっと明るくなった。見渡せば結構な大人数が私と宰相さんを取り囲んでいた。
「貴女が聖女様ですな。ようこそ我が国へいらっしゃいました!」
 はしゃぐような新しい声に視線を向ければ、宰相さんの斜め後ろに頭上に冠を戴いたちょっと太った中年の男の人がいた。五十手前くらいだろうか……頭のてっぺんが少々寂しくて冠が滑り落ちてしまいそうな不安定さがある。
「……王様ですか」
 分かりやすいマークがあって良かった。失礼ながら宰相さんみたいなオーラがないので、さっきのオジサンの位置にいたら、うっかり普通に話し掛けてしまっていたかもしれない。
「確かに私がこの国の王です。聖女様、歓迎致しますぞ」
 聖女と言っても一般市民に違いない私にもそこそこ丁寧な言葉を使ってくれる王様からは悪意は感じられない。それどころかニコニコと満面の笑みを浮かべてくれている。
「……」
 一度目を瞑り、胸に手を置いて深呼吸してみる。
 ……うん、大丈夫。
 女神様とのやりとりを思い出した事で、気持ちは落ち着いていた。
 ──現実問題、ここからが本番なのだ。
 女神様に異世界の安全性を確かめるついでに、私がお世話になるこの国のことや、今目の前にいる王様の人となりなんかも尋ねて知っている。確か王様はカリスマ性はないけれど臣下に恵まれて国はきちんと治めているし、人柄にも問題は無いとのことだった。うん確かに、気弱な雰囲気がそんな感じ。あとぽっちゃりしているのに、何故か顔は若干やつれている気がするけど、大丈夫だろうか。
 元の世界に帰る方法は、祈りの間にある水晶に触れるだけでいい。ただ三年経たないと帰る為の魔力が溜まらず、それまではいくら触れても帰る事はできない。
 女神様に聞いたことをもう一度宰相さんに間違いがないか確認してから、ふむ、と頷いて──考える。
 じゃあ、私がやることは一つ。
「三年間、どうぞ宜しくお願いします」
 どうせこの世界にいなきゃいけないなら、ここは謙虚にいくべきだ。その方が居心地は良くなる。
 私は社会生活で培った常識と強かさでそう判断し、にっこりと愛想の良い笑顔を作って頭を下げたのだった。

※この続きは製品版でお楽しみください。

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