【試し読み】欲情証明~今夜、鬼上司をお持ち帰りして誘惑します~

作家:涼川凛
イラスト:海月あると
レーベル:夢中文庫クリスタル
発売日:2020/10/9
販売価格:800円
あらすじ

文具メーカーの企画開発部で働く千鶴は、恋愛をしたいと思うものの、男性に不慣れなあまり冷たく接してしまう天邪鬼な性格。男性に対して鉄壁のガードを崩さない姿から、いつの間にか『千鶴の恋愛対象は男性ではない』という疑惑が広がっていた! これじゃ一生恋愛できない!? 焦った千鶴が思いついた方法は……信用できる人ナンバーワンの鬼上司・天野に噂を払拭してもらうこと! ――「課長、うちに来ませんか」お酒の力を借りて、天野を逆お持ち帰りする千鶴だったが……「俺をその気にしてみろ」誘惑ってどうすればいいの!? 戸惑う千鶴を天野は熱っぽく見つめるばかりで――

登場人物
朝倉千鶴(あさくらちづる)
綺麗な顔立ちで男性からアプローチを受けることも多いが、気持ちとは裏腹に冷たい態度をとってしまう。
天野東吾(あまのとうご)
千鶴の上司で、仕事に厳しく『鬼』と言われる。可愛らしい文具を考案して大ヒットさせている。
試し読み

一章 クールビューティ?

「おはよう」
 静かなオフィス内に渋めの声音が響いて、部署の入口付近がにわかにざわめき始めた。
 その声と社員の反応で、誰が来たのかすぐに分かる。待ち焦がれていた人の出社に、朝倉あさくら千鶴ちづるの胸は途端にそわそわとして、落ち着かなくなった。
 ──課長だ……!
 パソコンのモニターから目を離して振り返ると、焦げ茶色のスプリングコートを羽織った課長がツカツカと自席に向かってくるのが見える。
「おはようございます、課長」
 通りざまに挨拶をすると「ん」という短い言葉が返ってくる。こんなふうに、笑顔もなく視線も合わせないのはいつものことだ。
 勤め始めて間もない頃は無視をされたような気がして落ち込んだりしたけれど、五年も経った今は慣れてしまってなにも感じない。
 ──課長が笑顔だと、却って不気味だものね……。
「課長、出社早々にすみません。後程ご相談したいことが……」
 千鶴の背後にいる男性社員が話しかけると、課長は腕時計をチラ見して「じゃあ十六時に」と簡潔に受け答えた。
 方々からかけられる声に対して短めな受け答えをしながら、足早に自席に向かっていく姿は、仕事のできる男性特有のオーラが漂う。全身が自信に満ちていると言うべきか、一分も隙がない。
 颯爽とコートを脱いでビジネスバッグから書類を出すのもそこそこに、すぐにパソコンを立ち上げた。
 課長が姿を見せただけで、職場の空気が一変する。
 青一色の布の上に白い糸をぴんと張って置いたような、静かだけれど確かな存在感は、どんなに無視しようとしてもそれを主張してくる。さっきまで猫背だった男性社員も、自然と背筋が伸びてしまうくらいに、程よい緊張感を職場に与えるのだ。
 それは管理職にありがちな雰囲気だけれど、課長の場合は群を抜いていると思う。仕事に厳しく、『鬼』と言われるほどの迫力には、社内に敵う者などいない。唯一、社長が対抗できるくらいか。それほどの強さを持っている。
 現在午前十一時を回ったところ。事前に連絡されていたスケジュールよりも少し遅めの出社は、訪問先で想定外のトラブルがあったのだろうか。
 課長の出社を待ち焦がれていた理由は、彼に恋をしているとかそういうことではなく、確認してほしい書類があるためだ。
 千鶴はパソコンモニターを見るふりをしながら、こっそり課長の様子を観察した。
 ──今、話しかけてもいいかな。
 タイミングを見計らわなければ『後で見る』ことになって、すぐに返事がもらえないかもしれない。課長は多忙ゆえに『後で』になると、返事を催促するのも一苦労する。
 それに、たしか今日は会議があるはずだ。加えて『男性社員からの相談』があれば、ますます午後は体が空かないだろう。
 眉間に寄るシワとパソコンモニターを睨むようにしている目はいつもの表情だけれど、今日は時間だけでなく心理的にも余裕がないのか……。話しかけてもよいのか、判断に迷う。
 課長の強面ともいえる厳しい顔をじっと見つめていると、唐突にこちらを向いたので千鶴の心臓が跳ねた。慌てて視線を逸らしてデスクの上の書類を見る。
 ──見てたの、気づかれたかな。なにか用かって訊かれちゃう?
 それならば却って都合がいい。千鶴は課長に声をかけられる心づもりをした。
吉永よしなが、ちょっと来てくれ」
 予想に反して呼ばれたのは、千鶴の向かいのデスクに座っている男性社員だった。
「げっ、やべぇ……朝倉さん、俺なんかミスったかな?」
「は?」
 課長に対して返事もせず、千鶴に意見を求めてくるのはいったい何故なのか。
 同期入社の吉永みつるは、女子社員の間ではイケメンだと人気があるけれど、千鶴はそうは思わない。チャラくて口調が下品なところが好きじゃないし、上司に呼ばれているのにすぐに立ち上がらないところも気に入らない。
 ──吉永くんよりも、課長のほうが素敵だと思うのだけど。
「私に訊かれても困りますから」
「あ~、相変わらず朝倉さんは冷たいなぁ」
 突き放すような言い方をしてしまったのは自分でも分かっている。それに普段から早口なうえに、今は特に急いで言ったため、余計にそう聞こえたかもしれない。
 けれどそもそも吉永は同じ部署の仲間ではあるが、仕事のパートナーではない。彼が行った仕事内容も知らないのに分からないのは当然で、冷たいなど心外である。
「早く課長のところへいったほうがいいです。お待ちですよ」
 さらにきつめに言うと吉永はようやく立ち上がり、課長の元へ向かった。
「すみません、課長。俺、なにかミスりました?」
「昨日吉永が提出したJIS規格の成分表と製品仕様書に誤りがある。単純なミスだ。見直して訂正。今すぐに。午後の会議に使う」
「は、はいっ、承知しました!」
 課長からてきぱきと指示をされ、自席に戻って来る吉永の表情には焦燥感が溢れている。
 千鶴と目が合うと、あからさまに眉を下げた。
 ──う、なにかを頼まれそうな予感がする!
 五年も同じ部署で過ごしていれば、行動パターンを読むのも容易だ。
「朝倉さ~ん」
 案の定、弱弱しい声を出して、千鶴に書類を見せようとしている。これから出世していくには、すぐに人に頼ってはいけないと思う。
「私は手伝いませんよ」
「ぐあ~、だよなぁ……課長も朝倉さんもキビシイなぁ。今からって……時間もないのに、ひとりでできる気がしねぇよ」
「そんなことないでしょう。嘆いていないで、さっさと取り掛かったほうがいいです。ますます時間が無くなりますよ」
 午後の会議といえば十三時始まりのはずで、昼休みも含めてもあと一時間半ほどしかない。焦るのは分かるけれど、課長が単純なミスだと指摘したからには、一度見直せば簡単に修正できるのだろう。手伝うと本人のためにならない。
 それに今の千鶴は、他人のミスの修正に構っている余裕がない。
 定期的に作成する書類の提出期限が迫っている。昨日出来上がったばかりのそれを、早く見てもらいたい。
 出社早々に用事が加わっていたことだし、午後になればますます捕まりにくくなるだろう。
 ──やっぱり、デスクに座っている今しかないよね!
 気合を入れるように拳をにぎって意を決し、席を立った。
 一般社員よりもひときわ大きなデスクに座っているため、それだけでも威圧感があるのに、常に放たれている〝俺に話しかけるなオーラ〟は半端じゃない。
 ──もう少し親しみやすいと、とても助かるのだけど。
 声が震えないよう気を張り、緊張した面持ちでデスクの脇に立った。
「課長、今よろしいでしょうか」
「構わない」
 そう言いつつキーボードを打つ手を止めない。いつものことだ。
「企画を作成しました。ご確認お願いします」
 課長はすぐに手を止めてパソコンモニターから目を離し、千鶴の差し出す書類を見て少し首を傾けた。
「ようやく出来上がったのか。今回は遅かったな」
「案を練りに練りましたので、遅いのは当然です。が、締め切りには十分に間に合ってますよ」
 デキる男性の気力がじゃぶじゃぶ溢れる課長の眼力に負けまいと、きりっとした表情を作り背筋を伸ばした。
 かなり気張らないと、この場に立っていることさえ難しい。課長の目を見ていると、なにもかも放り出して逃げたくなるのだ。
 でも怖いからといって、目を逸らすこともできない。作成した案に自信がないと判断されて、確認する前にやり直しを命じられてしまうこともある。実際、二度そうなった。
 それゆえに書類の確認を求めるこの瞬間、千鶴の頭の中では毎度課長との闘いのゴングが鳴り響くのだった。
「ほう、今回は、かなり自信がありそうだな」
「勿論です。できれば、今すぐ見ていただきたいのですが」
「無論だ」
 課長は千鶴の顔を一瞥したあと、受け取った書類の束をぺらりとめくった。
 文字を追う二重の切れ長の目は鋭く、眉間に力の入った厳しい顔つきは、出勤してきたときと変わらない。というよりも、普段からずっと同じ表情なのだ。そのため感情を読み取れず、毎回企画の良し悪しを判断されるまでドキドキする。
 ──そういえば。課長が笑ったところ見たことないな……。
「うん……時間をかけたのは伝わってくるな」
「はい、ありがとうございます」
 今までもらったことがない言葉にうれしさがこみ上げてくる。
 ──ひょっとしたら、このまま、イケるかもしれない!
 夜遅くまでかかって、眠い目をこすりながら仕上げた甲斐があるってものだ。千鶴は心の中で小さなガッツポーズを作った。
 千鶴が勤めているのは文具メーカー『コトハ』。オフィスなどの業務用の事務用品を中心にデスク周りの商品を製造販売している会社だ。
 そしてここは商品企画開発部。定番商品の企画制作は勿論だが、千鶴の所属する第二課は、オフィスや普段使いなどで生じる困りごとや、不便に感じる部分を解消する、アイデア商品を生み出す部署だ。内容としては、既存の商品の改良が中心である。
 昔からある商品でも、時代の変化とともに不便さを感じてしまうこともある。そのため千鶴たちはアンケートやお客様相談室などに舞い込む事例を収集し、より便利な商品を提供するために日々アイデアを練っているのだ。
「どうでしょうか? もうすぐお昼休みですし、急いでしまうと判断も狂いがちでしょう? 後程ゆっくり確認いただいても構いません」
 気が急いて、今日中に見てもらうのが一番だと思っていた千鶴だったが、いざ企画に目を通されていると、明日でよかったんじゃないかと思えてくる。こんなふうに短時間で相反する思考を持つのは、千鶴の天邪鬼あまのじゃくな性格のせいかもしれない。
「いや、朝倉の企画書を見るくらいの時間はある。いつも言っているだろう。企画が出来たら、いつでも見てやるからすぐに出せと。今判断するからそこで待ってろ」
 その言葉通り、課長は評価を下すのが早い。アドバイスも的確で、考案者が気づかなかったことをズバズバ指摘されることも多々ある。そういう時は本当に有能な人だと感心するのだが……。
 ──そこが厳しくて、怖くて、鬼と言われる原因なのだけど。
 それにいつも放っている〝俺に近づくなオーラ〟を和らげてくれれば、もっと気軽に話しかけられるが、あまりに気安くなってもよくないかもしれない。
 課長の名は天野あまの東吾とうご。千鶴よりも七歳上の三十五歳だ。学生時代はラグビー部に所属していたらしく、身長が高くてがっちりとした体格をしている。今でも体力づくりは欠かさず、噂ではランニングで出勤することもあるらしい。
 そんなふうに少し強面な外見に似合わず、可愛らしいものを考案して大ヒットさせている。
 代表的なのは『ポイッとBOX』である。
 OLアンケートの『仕事中に出る細かいごみ。いちいち席を立って捨てに行くのが面倒。終業時にまとめて捨てたい』という困りごとから生まれた、デスクに取り付けられる使い捨ての小さなゴミ箱だ。作業の邪魔にならず、デザインは女心をくすぐる可愛らしさで、たちまち人気になった。
 後に撥水加工をしたものを作り、ダイニングテーブルにも取り付けられるようにしたら、食事中に出る小さなゴミが捨てられて便利だと口コミで広まり、OLばかりか主婦にまで広く利用されている。
 その功績と卓越したリーダーシップを買われ、弱冠二十八歳にして課長に昇進したと聞いた。
 天野の顔をじっと見つめていると、眉の間が少し狭まった。
 ──また、キビシイ指摘されちゃうのかな……。
 小さく芽生えていた自信が急激になくなっていく。今までに作った企画案がすんなり通ったことはない。
 この部署ではまず課長に案を生かせるかどうか判断を委ね、良ければプレゼン会議まで進める。試作品を作ってプレゼンをし、社長と重役に承認されれば、プロジェクトが始動する仕組みだ。
 千鶴は案が通ったことはあるが、プレゼン会議を通過したことがない。いつも今一歩の評価でプレゼン会議が終わるのだ。商品化への道は非常に厳しい……。
 今回千鶴が考案したのは、電話受けでメモを取ることが多いOLに向けた、『片手で書いてもずれないメモ帳』だ。既存のずれないメモ帳はあるが、可愛いものは少ない。たとえすぐに捨ててしまうメモ帳でも、可愛いものを求める女性は多いと思う。
 商品化まで進み、ヒットさせれば千鶴のスキルもぐ~んと上がるだろう。是非とも企画を通して成功させたい。
「この企画のポイントは?」
「華シリーズ、彩シリーズとして、大人の女性が好きなモチーフをふんだんに取り入れます。メモ帳だけでなく、ペンも消しゴムも、デザイン豊富に展開したいと考えてます。年齢層も幅広く取り込めるようにしたいんです」
「着目点はいいが、これではありきたりなデザインだな。シリーズ化して出したいなら、もっと顧客に訴えかけるようなインパクトが必要だろう。それに幅広い層よりも、ピンポイントに狙いを定めることも悪くない。コアな購買層から口コミで広がって、ヒットすることもあるんだ。もう少し練り直せ」
「……はい」
 ──ありきたり、か。コアな層って、どんな人たちなのかな? マイナーな好みってことなの? それって、どんなもの?
 深いため息をつきながら自席に戻ると、吉永が必死の形相でパソコンモニターを見つめていた。いまだにミスした部分を見つけられていないようで、気の毒だと思いながらも手伝う気にはなれない。
 天野が間違い部分を教えなかったということは、自分で気づいてほしいからだ。部下を育てたいという意を汲み、部署の誰もが手助けしない。正解である。
 千鶴も受けたアドバイスをもとに企画を練り直さなければいけない。頑張らねばならないのは一緒だ。
 う~ん、どうすれば……と悩んでいると、向かいで唸っている吉永のアラームがピピッと響いた。昼休憩に入る時間にセットしていたらしく、アラーム音を消す吉永の顔色が青くなった。その気持ちは大変よく分かる。
「朝倉さ~ん、一緒にお昼行きましょうよ。道向こうのカフェ、お値打ちパスタランチの日ですよ! 早く行かないと席がなくなっちゃう」
 千鶴に声をかけてきたのは二年後輩の芝浦しばうら美佳みかだ。ショートカットでボーイッシュな彼女は、セミロングで大人し目な印象の千鶴とは正反対の可愛さである。活発な彼女の元気な声と明るい笑顔で、沈みかかっていた気持ちが浮上した。
 美味しいランチを食べれば気分転換になるし、美佳との会話から良いデザインが思いつくかもしれない。
「そうだね、美佳ちゃん早く行こう」
「お~い、美佳ちゃ~ん、俺もランチ連れてって~」
 元気を取り戻した千鶴とは反対に、情けない声を出すのは吉永だ。
「ダメですよ~。吉永さんは、修正頑張ってくださいね。ランチに行ってたら間に合わなくなっちゃう」
 早口で冷たい物言いの千鶴とは違い、美佳の言い方は明るくて優しい。語尾にハートが見えたような気さえする。
 そのおかげで吉永には激励として伝わったようで、やる気に満ちた表情は、千鶴と話していたときとまったく違う。同じようなことを言っていたのに。
「あ~、俺、なんかやる気出てきた。時間までにできる気もしてきた!」
 以前から感じていたが、吉永は単純な性格をしている。
「その意気です!」
「会議に間に合ったら、美佳ちゃんデートしてくれる?」
「それはダメですよ~! 私彼氏いますから」
「え~、マジで~。あ……またテンションさがってきた」
 本当に単純である。
「吉永さんモテモテなんだから、デートする子は、いっぱいいるじゃないですか~。引く手あまたでしょう?」
 ──だけど……私も彼女のように、明るく男性と接することができていたら、もう少し人生違っていたかもしれないな……。
 次第に本題から外れていくふたりのやり取りに耳を傾けつつ、千鶴は過去を思い出して遠い目になった。
 朝倉千鶴、二十八歳。生まれてこのかた一度も恋愛したことがない。それゆえにキスもしたことがない、純真無垢な乙女だ。
 千鶴とて素敵な恋愛をしたいし、それなりに結婚願望もある。
 学生時代は女子校に通っていたことに加え、両親が厳しかったために友人たちとの遊びも制限され、男性と接触する機会に恵まれなかった。
 コトハに入社してしばらくの間は、先輩や同期の男性から食事に誘われることがよくあった。吉永にも誘われたことがある。
 けれど、うれしいと思うのと同時に照れもあった。素直でない千鶴は、その感情を隠そうとして冷たい態度を取ってしまっていた。それに普段から早口なためか、余計にツンツンしているように感じるのだろう。
 加えて『男性に隙を見せてはいけません』という両親の教えが身に沁みついているため、簡単に誘いにのる女性だと思われたくなかったことも、原因の一つだ。
 そんな理由で誘いを断っているうちに、男性たちは嫌われていると思ったのか、千鶴をデートに誘わなくなった。
 もっと柔らかく接するべきだと反省はするけれども、なかなか実行できない。意地っ張りで素直じゃない性格が邪魔をしていた。
 それに今更態度を変えても不気味に思われそうで、それも接し方を変えられない原因の一つになっている。要するにプライドが高いのだ。
 このままずっと恋愛できなかったら、どうしようか。乙女のまま年を重ねてずっと独り寂しく暮らしていくのか。
 ──ペットを飼ったら、ひとりでも寂しくないかな……。
 想像したらまた気分が沈みそうになり、ふとため息をつくと、吉永と話していた美佳がハッとしたように振り向いた。
「わあっ、いっけない。私ったら! 朝倉さん、待たせてゴメンなさい。早く行きましょう! ヤバイ!」
「……そうだね。急がなくっちゃね」
 思わず吹き出してクスクスと笑った。
 吉永を励ますのに一生懸命になって、急いでいたはずのランチを忘れる天然ぶり。仕事でもよくミスをするけれど、何故か憎めない子なのだ。
 こんなふうに、美佳は愛らしい性格をしていて男女ともに人気がある。千鶴にはない魅力だ。
「席空いてるといいなあ」
 焦った顔の美佳と一緒に道向こうのカフェに向かった。

※この続きは製品版でお楽しみください。

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