【試し読み】騎士が仕掛ける甘くて強引な片恋と素直になれない魔女の理由

作家:八巻にのは
イラスト:うすくち
レーベル:夢中文庫プランセ
発売日:2022/5/20
販売価格:800円
あらすじ

「オリヴィア、助けてくれ! また惚れられた!」今日もまた魔女の庵に飛び込んできたのは国一番のプレイボーイであり、ハーフエルフの英雄騎士・エルダー。彼は魔女のオリヴィアが作る薬を使い、自分に言い寄ってくる女性たちの恋を数えきれないほど消してきた。しかし今回の相手は隣国の王女。薬を使うことができず、助けを求めてきたのだ。正当な理由があれば断ることができるようで、オリヴィアは「婚約者のふり」をしてほしいと頼まれる。そんなの無理だと突っぱねるが、自分が作った薬のせいで他に協力してくれる女性は一人もいない。オリヴィアは彼への消せない想いを疼かせながら、一日だけ婚約者のふりをすることになってしまい……?

登場人物
オリヴィア
魔女。魔物を倒し国を守った英雄だが、人と必要以上に関わらないよう地下迷宮でひっそりと暮らす。
エルダー
ハーフエルフの騎士。女性に言い寄られるたび、オリヴィアに薬を依頼し恋を消してもらうが…
試し読み

プロローグ

「そなたらは、この国の恩人だ。余に与えられるならば、どんな褒美でも与えよう」
 ネーアと呼ばれる国の王が優しく言葉をかけたのは、四人の英雄たちにであった。
 悠久の昔から、この国の地下には魔物が蔓延はびこる迷宮がある。
 その深部にある『魔核』と呼ばれる特殊な魔石のせいで、迷宮からは絶えず魔物が溢れ出し、それが地上にまで溢れるたび多くの命が奪われてきた。
 国は多くの人員を動員し、有能な騎士から冒険者まで何千人という人々が地下に足を踏み入れたが、迷宮は深く危険で、攻略には長い年月がかかったのだ。
 しかし四人の英雄が悲願を達成し、ついに魔核は砕かれたのである。
 その中でも、魔核の破壊にもっとも貢献した魔女に王は目を向ける。
「魔女殿においては我が国の見識が浅い故に、長い迫害の中にあったと聞く。その詫びも兼ね、何でも願いを叶えよう」
 王の言葉に、魔女はうやうやしくお辞儀をした。
「ありがたきお言葉痛み入ります。ですが私の願いはただ一つ、それを叶えて下されば結構です」
「して、その願いとは?」
「迷宮の片隅に、引き続き住まうことを許していただきたいのです」
 魔女の言葉に周囲の人々は僅かにおののいた。
 そして王も、苦い顔をする。
「……しかしそなたは、ずっと地下で隠れ暮らしていたのでは? 明るい地上で暮らしたいとは思わないのか?」
「地上は魔女の身にはまぶしすぎます。それに一人きりのほうが、平穏に暮らせますから」
 魔女の願いに、戸惑いながらも王は頷いた。
「わかった、それが望みであるなら許そう」
 王の言葉に、魔女は感謝する。
 そして彼女──魔女オリヴィアは英雄たちの顔ぶれを見つめる。
(この人たちとも、もうお別れか……)
 ひょんなことから仲間になり、一緒に国を救うことになった者たちは皆オリヴィアによくしてくれた。
 特に隣に立つハーフエルフの騎士エルダーは、親友と言っても過言ではないほど仲を深めた。
 でもそうした間柄を作ることは、そもそも魔女にとっては許されないことだった。
 魔女には、二つの大きなおきてがある。
『魔女の秘密を同族以外に明かすべからず』
『人と必要以上に関わるべからず』
 そのうちの一つをオリヴィアは破ってしまっている。
 こうなったらもう他の魔女とも関わることはできないだろう。そして地下に戻れば、ようやくできた仲間とももう会うことはない。
(けど、そうするべきだ……。みんなに会う前の私に、私はまた戻ろう)
 そしてもう二度と仲間も友人も作らない。
 そんな覚悟で、オリヴィアは深い迷宮の奥に戻った。

 ──はず、だったのだが。

「頼むオリヴィア! この恋を終わらせてくれ!」
 仲間たちとの別れから一年が経ったというのに、今日もエルダーは魔女の庵に飛び込んでくる。
 王の許しを得たオリヴィアはネーア国の地下迷宮ダンジョンの最下層に庵を構えている。
 魔法がかかったその場所は、地下でありながら陽光を模した光に照らされ、庵の周囲は美しい泉が湧き木々が生い茂っていた。
 そこをかき分けやってきた騎士を見て、オリヴィアは魔女のローブの下でうんざりした顔をする。
「……エルダー、今度は誰に惚れられたの?」
「ネヴィア伯爵家のご令嬢だ」
「どうせまた、良い顔したんでしょう……」
 あんたは無駄に顔がいいんだからとこぼすと、凜々しい顔がぬっと目の前まで迫ってくる。
「顔が良いのは生まれつきだし仕方ないだろ。それに惚れられるようなことはしていない」
 確かに、この男の魅力は持って生まれたものだった。
 人間とエルフの混血であるエルダーは、純血のエルフと違って三十三という年相応の顔立ちをしている。そして人とエルフの良いところを絶妙に受け継いでいた。
 鋭利な耳を覗かせるダークブロンドの髪は品良く整えられ、目鼻立ちは驚くほど整っていた。
 けれどそこには豊かな表情が浮かび、高潔さよりも親しみやすさが勝る。
 エルフらしい長身に、人間のしなやかな筋肉を纏った彼は少々大柄だが、それでも威圧感を覚えないのはその穏やかな表情故だろう。
 エルフ然とした冷たさがあれば距離を置く者も出てくるであろうが、彼にはそうしたものがない。
 むしろ彼に近づきたいと思わせる絶妙な色気と隙があった。
「惚れられるようなことはしてないって言うけど、どうかしら?」
「本当だって! 特別なことなんて、何もなかった」
「じゃあ何がきっかけで相手はあなたを好きになったわけ?」
「夜会で彼女が落としたハンカチを拾った」
「それ、顔が良い男がやっちゃ駄目なやつだから! 『この出会いはきっと運命!!』って女子が思っちゃうやつだから!」
 そのうえ彼は英雄の一人。その付加価値に、女性はみな軽率に運命を感じてしまうのだ。
「でも、俺にとっては運命じゃない。……だって俺の運命は、もう別にいるからな」
 キザったらしい台詞を吐き、騎士エルダーはオリヴィアの手を取った。
「何度も言うが、君こそが俺の運命だ」
「……それ、一体何百人に言ってきたの?」
 思わず尋ねてしまったのは、目の前の男がネーア国一のプレイボーイだからである。
(そういえば初めて会ったときも、両手に美女を侍らせていたっけ……)
 当時のエルダーはもっと若く、更にチャラチャラしていた。
 あれから時が経ち彼はもう三十三だが、なおも女子人気に陰りはない。
 短く髭を生やし、大人の渋さと色気を醸し出したことで彼に言い寄る女性の幅は年々広くなっている気がする。
 とはいえ本人曰く、その状況は不本意らしい。
「確かに百人単位で言ったことは否定しない。でも今の俺は、たった一つの恋に生きる一途な男だ」
「そういう台詞がするっと出てくる時点で、一途感がないのよねぇ」
「だが黙していても気持ちは伝わらない。特に、君のような女性にはな」
 言うなり腰を掴まれ、逞しい腕にぐっと抱き寄せられる。
 その拍子にローブのフードが外れ、素顔と波打つ黒い髪がこぼれた。
「いつ見ても、君は本当に美しい」
「あなたみたいな若造の言葉なんてちっとも響かないわ。それに私が美しいのは、魔女として当然だもの」
 オリヴィアは、美しい顔をつんと逸らす。
 魔女──それは魔力を摂取することで永遠の命と美しさを維持できる特殊な存在だ。
 それ故気味悪がられることも多いが、それを加味しても人目を引く美貌をみな持っている。
 オリヴィアも例外ではなく、彼女の顔を見た者はみな息を呑みその美しさに目を奪われる。
 だから目の前の男の褒め言葉なんて、ちっとも嬉しくない。
 言われ慣れているし、もっと詩的な賛辞を貰ったこともある。
(嬉しくない……、全然嬉しくないんだから……)
 しかし慌ててフードをかぶり直したところで、彼女の頬は僅かに赤く染まってしまった。
 魔女は、美しい。
 オリヴィアはその中でもとびきり綺麗なほうで、言い寄られたのは初めてではない。
 でも、心の底から好きになってしまったのは、目の前のこの男だけなのだ。
 そして好きな男からの言葉に取り乱すくらい、男性経験がないのである。
 しかしそれを認めたくなくて、オリヴィアはエルダーをぐっと押しのける。
「それより、あなたは私の薬を求めて来たんでしょ?」
「君のことも求めてる」
「そういうのはいいから、お代をちょうだい」
「では、俺の甘いキスを」
「お子様のキスなんていらないわよ!」
 オリヴィアはもう百年以上生きている。だからエルダーなんて子供みたいなものだと自分と彼に言い聞かせるが、なぜだか目の前の男は妙にニコニコしている。
「な、何よ?」
「お姉さんぶってる君は可愛いなと思って」
「ぶってるんじゃなくて、実際私のほうが年上なんだからね!」
 それを魔力でも証明してやろうと、彼女は手の上に火の玉を出現させる。
「理解できないって言うなら、その身体に教えてあげるわ」
 火の玉をどんどん巨大化させていると、エルダーは慌てて降参するように両手を上げた。
「ちゃんとわかってるって」
「ならさっさとお代を出しなさい」
「お代は金貨一枚、だろ? ちゃんと用意してるよ」
「なら、あとは忘却草の──」
「つぼみだろ? ほらこれだ!」
 言って、エルダーは素材を押しつけてくる。
「今度からは、無駄なことをせずすぐに渡しなさい」
 金貨とつぼみを受け取ると、オリヴィアは庵の奥にある作業場へと移る。
 週に一度は調薬を頼みに来るエルダーのために、彼用の薬釜がいつも用意されている。
 かまどにも常に火を入れ、鉄の釜の中では不気味に輝く緑色の薬液が煮えていた。
 そんな薬液を一匙すくい、オリヴィアは香水の瓶に詰める。
 そこに先ほどのつぼみを投入すると、薬液に触れた途端つぼみは美しく花開く。
 薬液と花は金色の光を放ち、香水瓶に反射してキラキラと瞬いた。
「望みを叶え、恋を遠ざけよ」
 そして呪文を唱えながら蓋をすれば薬は完成だ。
 緑から金色へと変わったその香水は、恋心を消す妙薬だ。
 人の心を変える薬は製造が難しく、オリヴィアのような魔女にしか作れない。その中でも彼女の薬は効き目が強く、エルダーは誰かに惚れられるたび、この薬を求めてやってくるのだ。
「あとは『今ある恋を消して』って唱えれば完成。でも唱えてしまうと効果は長続きしないから──」
「すぐにかければいいんだろ? もう散々やってるし大丈夫だ」
「でも本当にいいの? 消えた恋は二度と戻らないし、その子を好きになる可能性はない?」
「俺は一生、君一筋だ」
 そこで薬を奪われ、エルダーは嬉しそうに小瓶を掲げてみせる。
「調子の良いことばっかり言うんだから」
 呆れたふりをしつつも、オリヴィアは内心でほっとする。
 エルダーの好意を無下にするくせに、彼が薬を求めるたびに安堵している自分がいる。
 薬で消した恋心は絶対に戻らない。そしてオリヴィアへの愛を理由に、エルダーは数え切れないほどの恋を消してきた。
 そして恋心が一つ消えるたび、彼はまだ自分から離れていかないのだと安心してしまう。彼の想いを受け入れる気がないくせに、勝手なものだと我ながら思う。
 その裏に数多の消えた恋があるというのに、それを喜ぶ自分を浅ましくも思った。
「そうだオリヴィア。もう一つ、君に払いたい報酬がある」
 物思いに耽っていたオリヴィアに、エルダーが再び距離を詰めてくる。
 とんでもないことを言い出すのではと警戒し、後ずさろうとしたところで、彼女の鼻がひくりと動く。
「こ、この匂い……は……」
「フリオのピザ屋で買ってきた特製ピザだ。ほら、欲しいだろ? 欲しいだろ?」
 ピザの箱を魔法の鞄から取り出し、エルダーがにやりと笑う。
 箱の周りには匂いを消す魔法までかけられているのを見ると、この不意打ちをやりたいがためにわざわざ無駄な手間までかけたらしい。
「ぴ、ピザなんて……ピザ……なんて……」
「いらないなら、俺が一人で食べるぞ」
「……い、いる……」
 敗北感と共に手を差し出せば、大きな平たい箱がぽんと乗せられた。
「相変わらず、オリヴィアは食べ物に弱いな」
「あなたが餌付けしたせいよ……」
「知ってる。だからちゃんと責任は取るさ」
 そして更に、彼は焼き菓子が入った包みも鞄から取り出してくる。
「俺とデートしてくれるなら、他にもいっぱい食べさせてやるぞ」
「それは、絶対にしない」
「でもこの場所は地上から一時間はかかるし、ピザはどうやっても冷めちまうだろ。けど一緒に街に来れば、熱々のピザが食べ放題だぞ」
 エルダーの提案に、オリヴィアの心は激しく揺れる。
 でも、もしそれに釣られればきっとデートは一度では終わらない。
 二度、三度と続き、毎日でも彼に会いたくなってしまう。
(これ以上は駄目。絶対に、求めたら駄目……)
 なぜならオリヴィアは魔女だ。この迷宮の魔に囚われ、ここで産まれた魔女だ。
 そして離れてはいけない、大事な理由が今はある。
 少しの間なら問題ないが、もしエルダーとデートをしたら──そして今以上にエルダーを好きになってしまったら──、少しではきっと満足できなくなる。
「私はね、冷めたピザが好きなの。熱々なんて、絶対食べない」
 エルダーと自分に言い聞かせ、彼女は箱からピザを一切れ取り上げる。
 がぶりと食らいつけば、あまりのおいしさに魔力を帯びた瞳がきらきらと輝く。
「ほんと、子供みたいに可愛く食べるなぁ」
「子供じゃないわよ。あなたより、ずっとずっと年上なんだからね」
 むしろあなたのほうが僕ちゃんじゃないと言うと、彼はおかしそうに笑う。
「なら年下らしく、お姉様にご奉仕させていただきましょうか」
 言いながら、エルダーが彼女のためにとお茶を入れてくれる。
 その背中を見ていると、初めてこのピザを食べたときのことを思い出す。
 この味を教えてくれたのは目の前のハーフエルフで、そのときも彼は微笑ましいものを見るようにオリヴィアを見て微笑んでいた。
 そしてその笑顔に、多分彼女は恋をしてしまったのだ。

第一章

 遙か昔、世界の全ては地の底にあった。
 この世界の大地には、豊富な魔力が宿っている。それが外へと流れ出し、結晶化したものを魔鉱石、それが固まり更に大きくなったものは魔核と呼ばれ、人々の生活を支えていた。
 特に魔核から溢れる魔力は強大で、それを用いれば万物のあり方さえ変える力が手に入ったと言われている。
 故に大地の底に転々と存在する魔核のそばで、人々は生きていたのだ。
 人々は魔核から力を引き出す『魔法』と呼ばれる技術を編み出し、魔法は数多の国を生み出し豊かな生活を作り出した。
 だが万能とも言われた魔法は、争いをも生み出した。
 より力のある魔核を得ようと人々は戦争を始め、人を殺すために編み出された魔法は魔力をけがし、魔核を歪めた。
 歪んだ魔核から生み出される魔力は、生き物の心を犯し狂わせる。
 狂った生き物はその容姿を醜い獣へと変貌させ、『魔物』と呼ばれるそれらは、人の命を理由もなく貪った。
 数多の生き物が魔物に堕ち、その手によって数多の命が食い散らされた。
 そして多くの国が滅び、人々は魔物から逃れるために地底の世界を捨て地上へと出た。
 地上には魔力がなく魔法も使えないに等しいが、それ故魔物もなかなか出てこれない。
 しかしその分、人々は不自由な生活を強いられることとなったのだ。

 ──それから二千年以上が経ち、現在。
 地上では再び多くの国が生まれ、彼らは地下にある失われた都市から発掘される資源を用いて生活をしている。
 地下の遺物は魔力を帯び、魔法の力を秘めている。それを用いれば地上でも魔法が使えるため、重宝されているのだ。
 しかし魔核によって歪められた地下の都市は迷宮と化し、魔物が蔓延る危険な場所だ。
 それでも人々は貴重な資源やそれがもたらす富を求め、迷宮を下っていく。
 そんな迷宮の中でも、ネーア国の地下にあるものは規模が大きかった。
 だからこそ危険も大きく、ここで命を落としたものは少なくない。
 地下に潜む魔物の数は尋常ではなく、みな強かった。時には地上に溢れ出るほどのそれは、いくら倒してもきりがないほどであったのだ。
 それでも平和と資源のために、国は特殊な騎士団を編成し、冒険者を雇い、何百年もかけて探索と魔物の駆逐が進められていた。
 投入された者たちは『探索隊』と呼ばれ、彼らは命がけで探索範囲を広げてきたのである。
 彼らの最終目標は、地下深くにある魔核を探し出して砕くことだった。
 魔核が砕ければ歪んだ魔力は消え、魔物は死に絶え二度と生まれない。そうなれば安全に地下に立ち入ることができるし、遺物の回収も更に進むと考えられていたのである。
 そして最初の探索隊が迷宮に足を踏み入れてから四百五十年後、最下層に初めてたどり着き、魔核を砕いた探索隊を手助けしたのが、オリヴィアだった。
 オリヴィアは魔女だ。
 魔女は魔核を用いずとも魔法を使える存在で、その命は迷宮で生まれる。
 その特異な存在がどうやって生まれるかなど秘密は多く、また強大な魔法を使えるが故に多くの者が魔女を恐れている。
 人の姿をしているがその本性は魔物に近いとされ、実際魔女と呼ばれる人々は迷宮の中で暮らしていても魔物に襲われることがない。
 それ故迫害もされ、魔女の多くは迷宮の中で息を潜め、ひっそりと暮らしている。
 ただ、他の国では迷宮を探索する者たちの手助けをする役目を担い、地上近くで庵を構えている者もいる。
 そうした暮らしへの憧れや、魔女に対する迫害と偏見が強いネーア国に嫌気がさし、多くの魔女は別の迷宮に移り住んでしまった。
 結果、今なおネーアの迷宮に残っているのはオリヴィアだけだった。
 そんな彼女の庵に、エルダーが顔を出すようになったのは三年前のこと。
 当時、彼女の住む庵は迷宮の下層にあり、人の往来はほぼなかった。
 ネーアの地下迷宮は大まかに四層に別れており、地上に近い方から上層、中層、下層、そして魔核の隠された最下層は深層と呼ばれている。
 元々オリヴィアは上層で暮らしていたのだが、とある事情で人間嫌いを拗らせていた彼女は、当時あえて人の来ない下層に庵を構えていたのである。
 庵の周りには強力な魔物が跋扈ばっこし、道は入り組み罠も多い。
 それ故たどり着くのが難しく、本当に時折しか人は来なかった。
 そんな場所に、エルダーはある日突然現れたのだ。

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