【試し読み】私たち、付き合っていませんが……!~不器用な同期の甘い誘惑~
あらすじ
営業成績優秀な瑛斗のアシスタントを務める奈緒。言葉が少なく端的に指示してくる瑛斗と彼の意図を的確に汲み取る奈緒は、パートナー歴一年ながら、『付き合っている』と噂されるほど相性が良い。奈緒はその噂を否定しているが、実は一年前、傷心をきっかけに一夜を共にしてから、瑛斗とはひっそりと関係が続いていた。――「誰だってあるだろ? ひとりで夜を過ごしたくない時」そんな彼の誘いに甘え続け、瑛斗に優しくも情熱的に隅々まで暴かれていく奈緒だったが、ある日、彼に好きな人がいると聞いてしまい……。
登場人物
営業部所属。同期の瑛斗とコンビを組んでいるが『付き合っている』と噂されるほど息ピッタリ。
営業部のエース。奈緒がアシスタントになってからは営業成績トップを維持している。
試し読み
第一章 同期ですが
五月連休が明けてすぐの金曜日、朝の日課である衛藤商事の朝礼が終わってから斎藤奈緒は、パートナーの桐谷瑛斗とその日の打ち合わせを始める。奈緒と瑛斗は同期で今年二十七歳になる。二人は入社当初からずっと営業部で一緒だったが、奈緒が瑛斗とコンビを組むようになったのは一年ほど前からだ。その直後から瑛斗は営業成績トップを守っている。
パートナーを組むまで奈緒は瑛斗と挨拶以外の言葉を交わしたことがなかった。というのも瑛斗はほとんど喋らない。寡黙で暗いという印象が強く、打ち合わせも奈緒が一方的に話している。
「今日のアポは午後から二件だったよね? 資料作成は終わっているから確認して」
「ああ」
「そのまま直帰する?」
「いや、金曜だからタブレットを返しに来ないと」
衛藤商事では会社の備品であるタブレットやUSBメモリなど、社外に漏れたら困る情報が入っている端末の持ち帰りは原則禁止となっている。営業で直行直帰がある場合は、特別に事前の許可があれば持ち帰れることになっているが、瑛斗は真面目で堅実すぎるところがあり、彼がタブレットを持ち帰ることはほぼない。
「わかったわ。午後からはこの資料作成と交通費と経費の請求書を作るだけでいい?」
「頼む」
打ち合わせはいつも奈緒が確認事項を済ませる形で終わる。
「桐谷ってすごいよな。今よりも取引先が少なかったとはいえ、アシスタントなしで一年前までひとりでこなしていたんだから」
「一年前だって、営業成績上位でしたよね?」
「ああ、自分で資料作成して、アポを取って取引を成立させるんだから」
「営業トップになったのはやっぱり、斎藤さんのおかげですかね?」
「斎藤もアシスタントの中じゃ、デキるほうだからなぁ。なんせ、去年までは課長のアシスタントだし、鍛えられているだろう。内助の功っていうしね」
同僚たちの無駄話に耳を貸さず、黙々と作業を進める奈緒だ。
「あ、ちょっと訊いてもいい? 桐谷くん」
「ああ」
「この資料って前年度分はどこから持ってきたの?」
「今、流す」
すぐに添付ファイルがメールで届き、奈緒の仕事が進んでいく。
「斎藤、そのグラフだけど、こっちに変えて」
「わかった」
「こっちのグラフ、作り方はわかる?」
「うん、大丈夫」
小声でやり取りをしながら、隣同士のデスクで午前中に資料作成で確認が必要なところを優先的に終わらせていく。
「じゃ、俺、取引先のところに行くから」
「行ってらっしゃい」
昼休憩が始まる直前に、瑛斗が立ち上がった。
「わからないところがあったら、メールして」
瑛斗の言葉に奈緒は頷くだけだった。
「ほら、見たか?」
「あれって阿吽の呼吸ってやつっすか?」
「付き合っていないと、目と目で通じ合っちゃうとか、ないと思わないか?」
同僚たちがまた揶揄うのを聞き流しながら、奈緒は休憩のため立ち上がった。
「先輩たち、無駄話が多いけど、終わります? 今日はアポ入っていないんですか?」
こそこそとやり取りをしている同僚の後ろを通って、奈緒は二人にだけ聞こえる声で言った。
「聞こえていたのか。お前たちもこそこそ付き合っていないで、堂々とすればいいだろ? 社内恋愛禁止ってわけじゃないし」
わざと聞こえるように言っていたくせにと思いつつも、奈緒はにっこりと笑って否定する。
「だから、付き合っていないんですってば! 先輩たちだけですよ。そんなくだらないことをいつまでも話しているのは」
奈緒はそう言ったが、その噂は社内全体に広まっていることも知っている。瑛斗と会話が成立するのは奈緒だけだと、なぜかそんなことを言われるようになって、二人は付き合っているから言葉が少なくても通じ合っている……というようなことになっているらしい。
奈緒も瑛斗とパートナーを組むことが決まった時は、戸惑いがあった。それは彼がほとんど喋らない寡黙な態度だからということだけではない。
(あれから一年が経つんだ)
奈緒はそんなことを思った瞬間、その当時のことを思い出してしまう。休憩のためオフィスの外に出てカフェに入った奈緒は、注文したカフェランチを食べながらこの一年間を振り返っていた。
一年ほど前のことだ。
六月に入る直前、五月最後の金曜日の朝礼後に営業部全員がその場に残された。課長のデスクの前に全員が立ち、一人の男性社員が前に出てきた。その男性は、嶋本啓介で当時は主任だった。
「突然のことですが、来月六月一日より営業部の課長を務めさせていただくことになりました」
突然の報告にその場にいた全員が驚いていたが、何よりもその次の言葉に奈緒は衝撃を受けた。
「私事ではありますが、この度婚約いたしまして……」
(婚約? 私、何も言われていないけど)
当時、奈緒は啓介と付き合っていた。社内恋愛で秘密にしていたのだが、ここ最近啓介が忙しくて会っていなかった。だからサプライズのプロポーズなのかと勘違いしそうになった矢先だ。
「衛藤京香さんと婚約しまして、来年の六月には結婚を考えております」
啓介の言葉に奈緒は頭の中が真っ白になった。衛藤京香は社長令嬢で、その年に本社の受付に配属された新卒社員だ。奈緒たちは本社から少し離れた都内の支社に勤めている。本社とはさほど接点はないはずだと思っていたが、そうでもなかったようだ。
啓介に野心があるとは思っていたが、まさか社長令嬢を口説き、婚約するとは奈緒は考えもしなかった。しかもこの日まで別れ話の一つもなく、別れを突き付けられてしまった。頭の中が整理できないまま、その夜、啓介の婚約を祝う宴会を営業部みんなで開くことになった。啓介の隣には若くて可愛らしい女性、彼女が京香だと紹介されてみんなが知るところになる。当たり前のように啓介の隣に座り、絵に描いたような幸せそうなカップルが上座にいた。奈緒は一番離れた席を選んで座っていた。
賑やかな宴会だったが、奈緒はひとり荒んだ気持ちで参加していた。その席で奈緒は一部の女性たちが固まっているのを見ていた。彼女たちは小声で啓介の悪口を言い始めている。どうやら、その女性陣の中に啓介と関係があった人がいたようだ。
(いったい、何人の〝彼女〟がいたのかしら? 彼女だと思っていたのは私だけなのかなぁ。だから別れ話もないのか)
荒んだ気持ちでついつい飲みすぎてしまって、宴会が終わる頃にはふらつきながら歩く始末だ。
「斎藤、大丈夫? 送っていくよ」
瑛斗がそう言ってくれて、なぜか奈緒は彼とホテルに入ってしまった。
「一人でいられないんだろ。いいよ、俺を使って」
瑛斗とのセッ○スは啓介とはまったく違って丁寧で優しくて、そうかと思えば奈緒の弱い部分を見つけ出して執拗に攻めてくる。だからこそ、何もかも忘れるのにちょうどよかったのに……。
翌朝の土曜日、瑛斗は奈緒に言った。
「斎藤が悪いわけじゃない。誰だってあるだろ? ひとりで夜を過ごしたくない時……誰かの温もりが欲しい時ってやつ。たまたま昨夜は俺も斎藤もそういう気分だった。それに俺が誘ったようなものだから、全部俺のせいにしておけばいい」
瑛斗の言葉に奈緒はその時だけと思って甘えてしまった。あれだけ酔っ払っていたのに、瑛斗との行為はすべてを覚えていた。
そして一週間も経たないうちに六月に入り、新課長に就任した啓介から奈緒は呼ばれた。彼の婚約発表からこの日まで一度も話をしていなかった奈緒は、彼の言い訳が聞けると思っていたが、瑛斗も一緒に呼ばれてがっかりしていた。
「斎藤、俺はもう営業に出ないから、今月から桐谷のサポートについてほしい」
その言葉に奈緒は気まずさを覚えたが、一緒に聞いていた瑛斗は何もなかったかのように快諾した。
「斎藤、今日の午後は時間ある?」
瑛斗に聞かれた奈緒は小さく頷く。
「午前中に俺の隣のデスクに移動して。午後から今後の打ち合わせをしたい」
「わかった。午前中、桐谷くんはアポがあるの?」
「いや、課長の仕事を何人かで分けるらしくて、その話し合い」
瑛斗は必要最低限のことしか話すつもりはないらしい。奈緒もそれで十分だと思っていた。お互いに仕事だけをしっかりやっていればいいと……。
カフェで食事を終え、食後のホットコーヒーを飲みながら奈緒は深く息を吐いた。
(嫌な記憶を思い出しちゃったなぁ。そういえば、あれ以来仕事の話以外で課長と話すことはなかった)
啓介の弁解も聞かずに、何もなかったかのように過ごしている。
あの夜、一夜を共に過ごした奈緒と瑛斗だが、二人は付き合っていない。
だが、あの夜からこの一年、二人は時折一緒に夜を明かすことがある。奈緒は啓介と別れてから、一人で過ごす夜がどうしてもつらい時があって瑛斗に甘えている。
「俺も誰かと酒を飲んで、温もりが欲しいと思う日があるから。別に斎藤だけのせいじゃないよ。それに斎藤の身体とは相性もいいし、そういう寂しさを埋めたい周期みたいなのも一緒みたいだし」
瑛斗は気にしていないと言わんばかりで、奈緒も割り切ってその関係を続けていた。
お互いに次の相手ができるまで、と奈緒は勝手に考えている。
(そうね。そろそろ一年が経つんだもの。いい加減、この関係も清算したほうがいいのよねぇ。来月、課長が結婚するのは決定みたいだし、それが終わって落ち着いたら一度、話し合うべきね)
啓介が結婚したら、奈緒も新しい一歩を踏み出せるような気がしていた。
思い出に浸った奈緒だが、会社に戻ると仕事に頭を切り替えた。資料作成の続きをやり終えた頃、電話が鳴った。
「お疲れ様です、桐谷くん」
『お疲れ様、問題なく一件目の契約が取れた。契約書を添付したから確認して』
「かしこまりました」
『斎藤、面談だよな?』
「そういえば、今日って言われていたけどまだ呼ばれていないから。何かあるの?」
『面談の時にその契約の報告を頼むよ。もう一件のほうは、戻ったら俺が報告する』
「わかったわ」
瑛斗と電話を切り、奈緒は契約書の内容を確認した。
(うわぁ、すごい。当初の予定よりも二十パーセント上乗せしているなんて)
いったいどんな営業トークをしているのか、奈緒には想像もできない。普段から簡潔に話すことが多い瑛斗の営業トークを見てみたいと思っていた。
それから二十分ほどが経ってから、課長の啓介に呼ばれた。
「斎藤、遅くなって悪いな。面談、大丈夫か?」
「あ、はい。先に一件、ご報告させていただいてもよろしいですか?」
「桐谷が契約を取ったのか」
「はい、契約書も課長のほうに送付してあります」
「マジか。この取引先にこの条件で頷かせるって……」
啓介も驚いていて、なぜか奈緒は勝ち誇った気分だった。
「この契約の発注は?」
「終わらせました。そちらの伝票も一緒に」
「わかった。この処理を先にするから、五分ほど待ってもらってもいいか」
奈緒は自分のデスクに戻り、啓介の仕事が終わるのを待っていた。
営業部ではだいたい二ヶ月に一回程度、課長と面談がある。これは支社だけでなく、衛藤商事本社も含めて支社もすべてが行うことになっている。後輩育成はもちろんだが、ほかにも離職者を減らすための施策だと奈緒は聞いていた。
(だけど気まずいのよ。元カレと二人きりでミーティングルームなんて)
奈緒だけが意識しているのはわかりきっているが、それでも意識してしまうものだ。
「斎藤、待たせたな」
啓介のその一声で奈緒は立ち上がり、ファイルを持ってミーティングルームに向かった。
「今月も無事に桐谷が営業トップを守りそうだな」
啓介はそう切り出した。
「そうですか」
「アシスタントとしてサポートしている斎藤の功績も大きいと思うが、案件が多くて大変だとか、困っていることはあるか?」
「桐谷くんからの指示は的確ですので、特に困るということはありません。アポの共有も早いですし、資料作成の時間を考えてくれているので」
毎回、同じやり取りから始まるミーティングでは、パートナーへの不満があるのかどうか、仕事のやり方に対しての疑問などを聞かれることが多い。
啓介のパートナーだった時よりも瑛斗のアシスタントのほうが、奈緒は仕事がやりやすいと感じていたが、それは言えずにいた。
啓介も営業の手腕はあったし、仕事ができる人だった。そのかわり、彼の思い通りにアシスタントが動く必要性があった。瑛斗は違う。奈緒にやり方は任せてくれて、瑛斗の考え方と違う時は指摘が入るが理由もわかりやすく奈緒はすぐに納得できる。
啓介の場合は、俺のやり方に合わせろと言わんばかりの高圧的な態度になることが多かった。
(課長と二年くらい付き合っていて、私だけが結婚を意識していたなんて知られたくない)
二人で話している時に毎回、奈緒はそんなことを考えていた。
啓介は人当たりがよく、現場も熟知していることから課長としての信頼も厚いし、嫌いな人は少ない。いい顔をみんなにするから、奈緒以外にも複数の彼女がいたのだろう。その女性たちが誰なのか、奈緒は別れた後に気付いてしまった。もちろん、全員ではないが、そのうちの一人は翌月に退職している。今も会社に残っている女性たちの中には、奈緒が彼と付き合っていたことを知っている人がいるかもしれないが、彼女たちから直接言われるようなことはなかった。
そういうことに一番興味がなさそうな瑛斗には気付かれていて、奈緒はそのことに驚愕した。
「斎藤、もうすぐ一年が経つが、お前は俺に何も言うことがないの?」
突然、話題が変わり、奈緒は衝動的に言葉にした。
「一年が経つまで何も言わせてくれなかったのに、今さらそんなことを言えるんですか?」
「そうだな。結婚式は来月の二十日だ。支社のみんなには申し訳ないが、招待しないことになった」
「招待されても行くつもりはありません。末永くお幸せにと言えばいいですか?」
奈緒は可愛くない言い方をしたが、今さら啓介に未練があるわけではなかった。
「お前も早く幸せになってほしいと願っているよ」
啓介がそう言い、奈緒は立ち上がった。
「面談、以上でいいですか?」
「これからも引き続き、桐谷を頼むよ。斎藤をパートナーにしてよかったと思っているから」
啓介からそう言われたが、奈緒は何も答えなかった。
むしゃくしゃしながらデスクに戻ると、伝票整理を始めた。交通費などの経費申請をしながら、時計を見つめる。
(そろそろ戻ってくると思うんだけど)
十七時を過ぎ、奈緒は瑛斗を待っていた。憂さ晴らしに付き合ってもらいたいと思う相手は、瑛斗しか思いつかなかった。
「ただいま戻りました」
瑛斗が営業部に戻り、そのまますぐに啓介のデスクへと向かった。
ぼそぼそと二人が話しているのを横目に、奈緒は申請書の作成をしていた。
「おめでとう。新規案件をうまくまとめたな」
啓介の声が響き、デスクの下で小さくガッツポーズを決めた奈緒だった。
「ありがとうございます。斎藤の資料が先方の心をがっちりと掴んでくれたので、スムーズに契約に至りました」
瑛斗がそう言っているのが聞こえ、奈緒は嬉しくて仕方なかった。さっきまでのイライラが吹っ飛んでしまう。
「お疲れ、斎藤。面談は終わった?」
「終わった。それより、桐谷くん、おめでとう。二件目も無事に契約が取れたのね」
「ありがとう。斎藤の資料があってこそだよ」
瑛斗はタブレットを所定の位置に戻し、そして帰り支度を始めていた。
「あ、ちょっと待って。交通費とか申請するものがあるなら、置いて帰って。ついでにまとめちゃう」
「領収書はここに置いておくよ。斎藤、残業しなくていいからな」
「うん、これだけ入力したら帰る」
奈緒はそう言い、領収書と一緒に瑛斗からの合図を受け取った。彼の人差し指が奈緒の人差し指にわざと触れる。これが二人の合図だ。
(桐谷くんと飲みに行ける)
奈緒はすぐに入力を終わらせたが、定時を過ぎてしまった。営業部では残業をするのはわずかな人で、たいてい一人か二人ほどしか残らないようにしている。
奈緒は会社を出て、スマートフォンのメッセージを見ながら店を目指した。奈緒と瑛斗が二人きりで会う時は、いつも瑛斗が店を選んでくれるのだが、彼は会社から近いのに穴場な店をよく知っていて同僚に会うことはなかった。
今回の店も会社からほど近くて通り沿いにあるのだが、奈緒も足を踏み入れるのに勇気がいる店だった。看板が目立たないのもあり、ここであっているのか確認してしまう。そして何より中の様子がまったくわからない店なので、営業しているのかどうかで躊躇ってしまう。それでも瑛斗が待っていると思った奈緒はドアを開けて中に入った。
(落ち着いた雰囲気のレストランって感じ)
中に入ると今回も、拍子抜けするほど普通の店だった。瑛斗は店の奥にいて、奈緒は彼の目の前に座った。
「お疲れ、斎藤」
「お疲れ様」
奈緒が座るとすぐに生ビールが運ばれてきて、瑛斗が注文してくれたのだと気付いた。
「とりあえず、今週も無事に乗り切れました。斎藤のおかげだ。ありがとう」
「桐谷くんのスケジューリングが上手なだけよ。サポートしやすくてこちらこそ、ありがたいわ」
ビールのグラスを重ね、乾杯すると仕事の話は終わりにする。食事の時は主に、食事の話しかしないのも二人の中では暗黙のルールだった。
「創作料理のお店なのね」
「うん、生蛸のカルパッチョ、美味いな。洋風刺身盛り合わせもどうかと思ったけど」
「オリーブオイルと岩塩で食べると、あっさりしているのね」
食事の感想を言いながら、適度なアルコールを流し込む。お腹が満たされると、二人は会計を済ませて店を出てきた。食事は基本的に割り勘で、この後に行くのはいつものホテルだ。
だが、この日は違った。
「斎藤、こっちだ」
いつものホテルに向かおうとする奈緒を制し、瑛斗が逆方向に歩いていく。
「どこに行くの?」
「話があるんだろ?」
彼は奈緒のことを見透かしているようにそう言ってきた。奈緒は図星をさされ、黙って彼の後を付いて行く。
瑛斗はコンビニに入り、奈緒も一緒に入った。
「飲み物とつまみは俺が適当に買うけど、必要なものがあれば買って」
瑛斗の言葉に奈緒は彼の家に連れていかれるのだと感じ取った。化粧水や洗顔フォームなどがセットになったものを買い、ほかにも旅行用のシャンプーセットを買った。
そして奈緒ははじめて瑛斗の部屋に行くことになった。
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