【試し読み】社内恋愛を推奨します!?~過保護な社長が私を溺愛しすぎる件~
あらすじ
どうして、ここに社長が!? 朝目覚めて隣に寝ていたのは、勤め先のボスで憧れの人!? しかも処女を捧げちゃった!?──春野すずめは高校卒業後に就職した会社の社長・常磐修平から非常に過保護にされてきた。『合コンと彼氏は二十歳を過ぎてから』などという社訓を掲げられ、出逢いから遠ざけられている。二十二歳になった今もまだ状況は変わらない。なんとか素敵な恋愛がしたい!と隙を狙うすずめ。ある日、やっぱり合コンの邪魔をされて怒るすずめは修平から食事に誘われ、そのまま素敵なバーへ。雰囲気とお酒にフワフワと酔うすずめを修平は熱烈に口説きはじめて…… 「早く、俺に落ちてこい」──社長、その色気、隠してくださいっ!
登場人物
勤め先の社訓により出会いの場に恵まれず、恋愛から遠ざかっていたが…
デザイン会社社長。理不尽な社訓を掲げ、すずめが恋愛するのを阻止する。
試し読み
プロローグ
──ん……。眩しい……。
太陽の光が顔に当たっているようで、とても眩しい。
この日差しの強さから考えて、朝というにはすでに遅い時間になっているだろう。
今日は土曜日。仕事は休みだ。のんびり過ごせる幸せを噛みしめた。
よく寝たなぁと微睡みながら、んーと全身で伸びをする。とても気持ちがいい。
猛暑の夏が過ぎ、ようやく涼しくなってきた十月初旬。
食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋。そして……すずめにとっては、睡眠の秋だ。
つい最近まで寝苦しい夜に悩まされていたが、今はようやく安眠ができるほど気温が落ち着いている。睡眠を貪るのに、最適な秋だ。
薄掛けの布団に包まりながら、惰眠を貪ろうとする。
眠ってスッキリしたと思っていたのだが、なぜだか節々が痛む。特に足の付け根や下半身に違和感あり。
それだけでなく、頭もツキーンと鈍い痛みにときおり襲われる。どうやら身体の調子があまりよくなさそうだ。
しっかりと覚醒していない頭で、そんなことを思う。
肩まで布団を引き上げながら、休養はしっかり取らなくてはと再び眠ることを選択する。
ゴロンと寝返りを打ち、顔に直撃していた日差しから逃げた。これで再び眠ることができそうだ。
だが、なにやら様子がおかしい。寝ぼけていた頭が冴えてきて、今のこの状況に疑問が浮かんでくる。
今、すずめは目を瞑っているので、必然的に周りは見えない。
──でも、感じる。誰かの視線が……。
瞼を開いて、この視線が何なのかを確認した方がいいだろう。わかっているが、なんとなく〝何か〟を確認する勇気が持てない。
目を見開くのではなく、より強く目を瞑る。それも、ギュッと力の限り瞑って現実逃避を試みた。
だが、残念ながらその逃避行は数秒で終わる。すずめの鼻に誰かの指が触れたのがわかったからだ。
パチッと反射的に目を開けると、すずめの視界に飛び込んできた人物を見て「あ、これは終わった」と天を仰ぐ。
すずめの目の前には大人の色気を振り撒き、鮮やかにほほ笑む男性がいる。
そして、その男性をすずめは知っていた。この四年間で、人となりはわかっているつもりだ。
それに、月曜から金曜まで勤め先で顔を合わせている。知らないとはどうしても言えない。
だが、この状況はあまりいただけたものではないだろう。
──どうして、ここに社長がいるの!?
同じベッドには勤め先のボスであり、すずめの憧れの人がいた。
驚きのあまり叫びたくなったが、人はビックリしすぎると声が出なくなるのか。口をパクパクと動かすだけで、肝心の声が全く出てこない。
そんなすずめに、社長はドキッとするような魅惑的な笑みを浮かべて言った。
「今日から、俺はすずめの婚約者だな」
「………………は?」
ニヤリと意味深に笑う社長を見て、頭の中が真っ白になる。
こうして、常磐社長との婚約を巡る闘いの火蓋が切って落とされたのだ。
1
「すずめちゃん、ようやく合コンに連れ出せそうよ」
「本当ですかっ!」
緩くウェーブがかかったマロンブラウンの髪を揺らし、百五十五センチの小柄な身体をピョコンと跳ねさせた。
思わず声を上げてしまった、と春野すずめは慌てて口を押さえる。
キョロキョロと辺りを見回し、お目付役がいないことを確認して大きく息を吐き出した。
ここは、TOKIWAデザインというデザイン会社だ。主に環境デザインや空間デザインに特化しており、常磐修平という業界では名の通ったデザイナーがトップを務めている。
小規模なデザイン会社ではあるのだが、社長の常磐を始め、社員はエリートばかりが揃っている先鋭集団だ。
そのため、知名度がかなり高いことで知られているのである。
そんなデザイン会社に、すずめは高校卒業後に入社した。この会社では、初めての高卒採用だったようだ。
何でも事務全般をこなしている専務の母校がすずめと同じ商業高校だったらしく、その縁で高校に求人を出したのだと聞いたことがある。
すずめが入社してから高卒採用はなく、年下の後輩が入ってくる気配はなし。
入社してきてもすでにこの業界が長い人材や引き抜きなどの中途採用が多く、すずめより年上ばかりだ。
そんな訳で、勤め出して四年が経過したが、ずっと末っ子のような立場のままで皆にかわいがってもらっている。
四年間で仕事にはすっかり慣れ、楽しく仕事をさせてもらっている。だが、一つだけ不満がある。
でも、それがどうやら解消されそうな雰囲気だ。だからこそ、必要以上に興奮してしまったのである。
ワクワクする気持ちを抑えながら、もう一度周りを見回した。オフィスには運よく誰もおらず胸を撫で下ろす。
すずめより八歳年上のキレイ系お姉様であり、直属の先輩にあたる若松に手招きされ、そそくさと会議室へと入る。
なんとか誰にもバレずに会議室に入ることができてホッとしていると、若松がピースサインをしてニンマリと笑う。
「今週の金曜日、合コンのセッティングができたわよ。すずめちゃん、予定はどう?」
「大丈夫です! 月末でもないし、残業にならないと思います」
グッと親指を立てて大きく頷くと、彼女は手を合わせて謝ってくる。
「なかなかセッティングできなくてごめんね」
「いえいえ、若松さんのせいじゃありません。元はと言えば、社長のせいなんですから」
鼻息を荒くして憤慨すると、彼女も困ったように頬に手を当てて首を傾げた。
「常磐社長。すずめちゃんがあまりにかわいいからって、理不尽な社訓を勝手に作ったわよねぇ」
「かわいいっていうより、社長は私を妹みたいに思っているんですよ! 過保護というか、なんというか」
むくれて怒っていると、若松はクスクスと楽しげに笑う。
「未成年でうちに入社してきたのは、すずめちゃんが初めてだったから。社長はあらゆることが心配で仕方がなかったのよ。就職を機に一人暮らしも始めた訳だし。社長としては、言わばお兄さんみたいな気持ちでいたのよ、きっと」
「お兄さん……? あんな過保護な兄を持った覚えはないんですけど」
一つ年下の生意気だがかわいい弟がいるだけで、兄姉はいない。それなのに、いきなり年の離れた兄ができても困ってしまう。
それも必要以上に過保護で、それこそ目の届く場所にいないと気に入らない様子だ。
常磐に妹弟がいるとは聞いたことがないが、もしいるようなら間違いなく過保護になっているだろう。シスコン、ブラコン。そんな彼が、容易に目に浮かぶ。
すずめが憤慨するのには話せば長いけど、きちんとした理由がある。若松も言っていたが、常磐が勝手に作った社訓のせいだ。
『合コンと彼氏は二十歳を過ぎてから』などというふざけた社訓を打ち出し、ことごとく出会いの場からすずめを遠ざけようとしてきたのである。
高校ではなかなか素敵な出会いはなく、恋愛なんて全然できなかった。
だからこそ、社会人になったら素敵な恋愛がしたい。ずっとそんなふうに思っていたのである。
しかし、それを常磐は理不尽な社訓を掲げて片っ端から潰していったのだ。
そんなとんでもない社訓だったが、二十歳になるまで律儀にその約束を守ってきた。
常磐がこんな社訓を作り出した理由はなんであれ、確かに社会人として仕事ができるようになってから恋愛をしようと思い直したのである。
社会人になったばかりで浮かれていたら仕事にならないだろう。そんな常磐の親心(?)からの考えだったのかもしれない。
そう思ったからこそ、二十歳になるまでは仕事優先にしてきたし、合コンなどの席にも行かなかった。
晴れて成人を迎え、「これで恋愛ができるぞ!」と意気込んでいたのに、なぜか常磐は『社訓は継続のままで』と言ってきたのである。
この発言には、かなり反発した。約束と違うじゃないか、と常磐に訴えたのに、聞く耳を持ってくれない。
『二十歳を過ぎてからとは言ったが、過ぎたらいいとは言っていない』などと、理不尽極まりないことを言い、社員にも『すずめに恋はまだ早い! わかっているな、お前たち』と脅しを含ませながら周知させたのだ。
ボスの命令は絶対。そんな社員ばかりの我がデザイン会社で、社長の鶴の一声を無視できるような輩は一人としていない。
二十歳になる前までは『すずめが成人になったら、合コンセッティングしてあげるから』なんて言っていた先輩方は、社長の命令に逆らえないと言って前言撤回してくる始末。
社外なら大丈夫だろうと学生時代の友人に頼んで合コンに行こうとしたり、男性を紹介してもらおうとした。
だが、なぜかことごとく参加できない。そのたびに残業になったり、常磐に呼び出されたりして出会いの機会を潰されていく。
そんな状況を見て、すずめが二十二歳になるまで社長は邪魔をしてくるのではないか、と諸先輩たちは予想していた。
二十二歳ともなれば、大学卒業の子たちと同じ年になる。そうしたら、きっと恋愛も解禁になるはずだと慰めてくれていたのだが……。
しかし、こうして二十二歳になった今も、常磐は目を光らせているように感じるのだ。
そちらがそういう態度なら、こちらとしても受けて立つ。どうにかして恋愛をしてやるという気持ちになってくるというものだ。
常磐修平という人は、ワイルドイケメンである。男らしさに色気をプラスさせたその容姿は、向かうところ敵なしと言ってもいいだろう。
その上、デザイン会社のヤリ手社長として有名だ。女性に苦労などしたことがないはず。
常に女性の影を匂わせているような男性が、どうしてすずめの恋愛に口出しする権利があるというのか。
『自分だけ恋愛をしていてずるい。私にだって恋愛させてほしい!』
そんなふうに呑み会の席で常磐に直談判をしているのだが、『あのなぁ。俺に女と遊ぶ、そんな暇な時間が存在すると思うか? ずっと仕事ばかりしているぞ。知っているだろう?』と言って否定してくるのだ。
確かに仕事の鬼であり、ワーカーホリック気味なところがあるのは知っていた。
だが、絶対に女性の一人や二人はいるはず。恋愛を楽しんでいそうなリア充っぽさを感じるからだ。
それなのに、すずめに恋愛するななどと言うのは理不尽極まりないだろう。
若松も『さすがに社長はやりすぎよねぇ』と同情してくれ、今回常磐の目を盗んで合コンのセッティングをしてくれたのだ。
常磐に対しての小さな反抗。だが、これを区切りとして常磐には妹扱いを遠慮してもらえたらとも思っている。
すずめにとって、常磐は憧れの人だ。仕事はデキるし、部下思いで懐が深く格好いい大人の男性。憧れるなと言われても無理だろう。
そんな男性が、すずめを妹として心配してくれる。それは、とても嬉しい。だけど、何だか複雑な気持ちになってしまうのである。
妹ではなく、女性として見てほしい。そんなふうに考えてしまうからだ。
とにかく、常磐には大人の女性として扱ってほしいと願っているのである。
常磐に大人の女性と認めてもらえれば、一人前の社会人になれたような気がするからだ。
四年間、コツコツと仕事に取り組んできた。立派とまでは言えないけれど、しっかりと自分の足で立つ社会人にはなったはずだ。
だからこそ、恋がしたいと言っているのに、社訓を勝手に作った張本人が目を光らせて恋人を作るのを阻止してくるのだからいただけない。
とにかく、今のすずめには視野を広げることが必要だ。
しかし、身近に常磐修平という素敵すぎる男性がいるせいで、男性に対するハードルが高くなっている気がする。
なかなか恋に落ちるには難しいものがありそうだが、出会いがなければ何も始まらない。
やる気満々の様子を見て、若松が忠告をしてくる。
「すずめちゃん、金曜日だけど普段着でいらっしゃいね」
「え? 合コンって気合い入れてオシャレしていく場だと思っていたんですけど」
首を傾げて不思議がっていると、彼女は真剣な面持ちで諭してきた。
「いい? すずめちゃん。貴女がいつもと違う服装で気合い入れて会社に来たら、社長に〝今夜は合コンに行くんです〟って言っているようなものよ」
「……なるほど」
「今まですずめちゃんが合コンに行こうとしているのを社長が嗅ぎつけられたのは、いつもより気合いの入った洋服を着てきたからなのよ、きっと」
確かにその通りだ。深く頷くと、彼女はグイッと顔を近づけてくる。
「社長が勝手にすずめちゃんだけに作った社訓の義理はとっくの昔に終わっているの」
「は、はい」
彼女の目が凄んでいて怖い。声が上擦りながらも返事をする。
コクコクと何度も頷いて肯定すると、彼女も満足げに頷く。
「それなのに、うちの社長は意気地なしというか。なんというか……」
「え?」
言っている意味がわからず聞き返したが、彼女は視線を泳がせて話題を変えようとしてくる。
「とにかく、すずめちゃんは気合いを入れてオシャレをしないこと。いつもと違うってわかったら、絶対に社長が不審がるからね」
「了解です!」
敬礼でもするように背筋を伸ばす。
決戦は金曜日。すずめにとって、生まれて初めての合コンだ。
気合いを入れていると、若松はどこか意味深に笑う。その笑みに気がついたが、頭の中は合コンに向いていたため特に気に止めなかった。
初めて行く合コンで、運命の人に出会ってしまったらどうしよう。
先走った考えで浮かれているが、常磐に合コンのことがバレたらすべて水の泡だ。
そこから金曜日までは、平静を取り繕うのに苦労した。
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