【試し読み】内緒で授かったのに、敏腕CEOの一途な愛が溢れて止まりません

作家:田崎くるみ
イラスト:浅島ヨシユキ
レーベル:夢中文庫セレナイト
発売日:2021/7/13
販売価格:700円
あらすじ

大学卒業後、親に決められた相手との結婚が決まっていた五十鈴。せめて本当に好きなひとに初めてを捧げたい、一生に一度の思い出が欲しい。秘かに想いを寄せていた同級生の春和にその願いを叶えてもらい、五十鈴は彼の前から姿を消した。しかしそのたった一度で妊娠し、家から勘当されてしまう。周りに支えられ優春を産み、女手一つで育てようと固く決意していた。あれから三年、CEOとなり立派になった春和と運命の再会。「時間をくれないか? 俺がどれほど君を想っているか、伝えさせてほしい」──知らぬ間に自分の子を産み育てていた五十鈴に寄り添おうと、毎日のように顔を出す春和。五十鈴もまた彼への想いが再び大きくなっていって……

登場人物
源五十鈴(みなもといすず)
親の決めた相手と結婚する予定だったが、春和との子供を妊娠、女手一つで育てることを決意。
三条春和(さんじょうはるかず)
五十鈴の初恋相手であり優春の父親。姿を消した五十鈴の行方をずっと捜していた。
試し読み

『一生に一度の思い出をください』

 誰もが当たり前にする恋愛を、ずっと諦めてきた。
 大学を卒業すれば、両親の決めた婚約者と結婚する。だからドラマや漫画のように誰かを好きになって、その相手の言動に一喜一憂して。
 会えただけで嬉しくて、幸せな気持ちになれるような、そんな恋愛をすることなんて絶対にないと思っていたのに……。
 出会ってしまったんだ。一緒にいるだけで温かい気持ちになれる、とってもとっても大好きな人に。

 初めて訪れた好きな人が生活している部屋。玄関のドアが閉まると同時に早急に唇を塞がれた。
「んっ……」
 ドアと彼に挟まれ、身動きがとれない。
 人生初めてのキス。どう応えたらいいのかわからなくて、ただされるがまま。
 だけど大好きな人とのキスはまるで夢のように幸せだ。
 私、みなもと五十鈴いすずは大学卒業を迎えた今日、勇気を振り絞って一世一代の告白をした。大学のサークルで出会った、同い年の三条さんじょう春和はるかずに。
 どんなに強く想いを寄せていても、私と三条君の進む道が重なることはない。たとえ三条君が私と同じ気持ちになってくれたとしても。
 それなら一度だけでいいから、愛する人に私のすべてを奪ってほしいと思ったの。
 熱いキスに蕩けて力が入らなくなった私の身体を、三条君は軽々と抱き上げた。
 三条君は器用に私が履いていたパンプスを脱がせると家に上がり、私をお姫様抱っこしたまま廊下を進んでいく。
 その間も頬や額などキスが落とされる。
 部屋の明かりを灯すと、そこは八畳のワンルーム。本棚には仲良くなるきっかけとなった、たくさんの本が並んでいる。
 ベッドにそっと私を下ろすと、すぐに三条君が覆い被さってきた。
「源……」
 余裕ない表情で私を見つめる彼に、ドキドキしすぎて胸が苦しくなる。
 これからすることを考えると、自分で誘っておきながら恥ずかしくてどうにかなりそう。でも今日この瞬間を逃がしたら、もう二度と彼に触れてもらえなくなる。
 大きな手が頬に触れ、熱い瞳を向けられた。
「今ならまだ我慢できる。……いいのか? 本当に」
 ここまできて私の気持ちを確かめる三条君に、大きく目を見開いた。
 お願いしたのは私のほう。それなのに、どうしてそんなに優しい声で気遣ってくれるの?
「やっぱり嫌だと思ったら、遠慮なく言って。源に後悔してほしくない」
 後悔だなんて、するはずないよ。三条君に抱いてもらえないことのほうが後悔する。
「嫌じゃないし、後悔もしない。だからお願い、三条君。なにも聞かずに私のことを抱いて」
 自ら彼の首に腕を回して抱き着いた。
「後になって『無理』って言っても、止められないからな」
 苦しげに言うと三条君は荒々しく私の唇を塞いだ。
「んっ……」
 すぐに口を割って舌が入ってきて、執拗に私の舌を搦めとる。
 息する間もなく彼の舌が口内を行き来して苦しい。
 キスしている間に彼の手が私の服を捲り上げ、肌へ直に触れた。それは徐々に上がっていき、軽く私の身体を浮かすとあっという間にブラジャーのホックを外されてしまう。
 すぐに胸を揉みしだかれ、耳を塞ぎたくなるような声が止まらなくなる。
「あっ……んっ」
 触れられているだけでこんなに気持ちいいなんて……。
 初めての感覚に、次第になにも考えられなくなる。
 私に触れる彼の手は優しくて、愛されていると錯覚しそう。
 でも今、この瞬間くらいそんな勘違いをしてもいいよね。もう二度とこんな幸せな時間を過ごすことはできないのだから。
 すべてを身体に刻んでいきたい。その一心で彼の愛撫を全身で受け止めた。
 初めての体験は痛みを感じたものの、それ以上に幸せに満ち溢れるものだった。
 いつの間にか眠ってしまったのか、気づいたら私は三条君に抱きしめられていた。
 彼からは規則正しい寝息が聞こえてくる。顔を上げると、気持ち良さそうに眠る三条君がいて、笑みがこぼれる。
「可愛い寝顔」
 この寝顔もしっかりと目に焼きつけていきたい。
「ありがとう、三条君。私の無理なお願いを聞いてくれて」
 起こさないようにそっと感謝の言葉を口にした。
 卒業式後に、いきなり「私のはじめてをもらってほしい」なんて言われて、相当困らせたよね。
 そんな三条君に私は「一生に一度のお願い。なにも聞かずに抱いてほしい」と懇願したんだ。
 後悔はない。これで前に進める。親が決めた、数回しか会ったことのない婚約者との結婚も受け入れることができる。
 来月から三ヵ月間、婚約者の家に住み込みで花嫁修業をして、それから結納を交わし、半年後に結婚する予定だ。
 婚前に花嫁は三ヵ月間、住み込みで花嫁修業をするのが婚約者の家のしきたりらしい。
 その間、夫となる相手とは、寝食をともにしてはだめという。イマドキなかなかないよね。
 ひとりでやっていけるか不安だけど、今日という思い出があればこれからどんなことが待っていても、乗り越えられる。
 本当にありがとう、三条君。
「ずっとずっと、大好きだよ」
 言えなかった愛の言葉を寝ている彼に囁き、最後に「幸せになって」と言い、私はそっとベッドから出た。
 そして着替えを済ませると、逃げるように三条君の家を後にした。
 時刻は夜明け前の四時過ぎ。最寄り駅まで走って向かい、タクシーに乗り込んだ。
 卒業式の日だけは、友達の家で一緒に過ごしたい。
 両親に外泊のお願いをしたのは今回が初めてだった。
 父親は、世界的にも有名な電化製品の会社の社長。高校までずっと女子校育ちで、学校の送迎はもちろん、どこに行くにも車で送ってもらっていた。
 習い事も数多くこなし、たくさんの教養を身につけさせてもらった。
 愛情も注いでもらい、なに不自由ない暮らしをさせてくれた両親にはとても感謝している。
 私が両親にできる親孝行は、父親の会社のために結婚すること。もちろん相手は申し分ない相手だし、両親も私の幸せを考えて選んでくれたんだと思う。
 だから大学を卒業したら結婚することを、受け入れるつもりでいた。……三条君と出会うまでは。
 窓の外に流れる景色を眺めながら、母親に今日一日友達と過ごしたいから、帰るのは夜になるとメッセージを送った。
 家に帰ったら、現実に引き戻される。だから今日だけは幸せの余韻に浸ってもいいよね。
 この日、私は朝からずっと三条君との思い出の地を巡った。
 出会った大学のキャンパス。初めてふたりで出かけた映画館、食事をしたカフェ。
 よく、試験勉強のたびにふたりで利用していた図書館。
 彼と過ごした時間は私の一生の宝物。この四年間で多くの思い出ができた。
 すべての思い出を胸に刻み、これから先の長い人生を生きていこう。大丈夫、婚約者の彼だって悪い人ではないはず。
 はじまりは政略結婚でも、幸せになることはできるよね。……ううん、幸せにならないと。両親のためにも、そして自分自身のためにも。
 明日から三条君のことは、心の奥深くにしまっておこう。──そう、決心したんだけれど……。

 ペンペンと小さな手が私の頬を叩く。
「んっ……」
 重いまぶたを開けると、目に飛び込んできたのは愛しい宝物。
「マーマ!」
 どんなに疲れていても、つらいことや悲しいことがあっても、この子が笑顔で「ママ」って呼んでくれただけで私も笑えちゃうから不思議だ。
「おはよう、優春まさはる
「ママ、はよー」
 まだ「おはよう」が言えないのが、たまらなく可愛い。
 布団から起き上がり、優春を抱き寄せて自分の膝の上に乗せた。
「早いね、優春もう起きたの?」
「うん!」
 元気よく返事をした優春を抱きしめる。
 大学を卒業して三度目の春がやってきた。本来なら私は、両親が決めた相手と結婚するはずだった。
 でも、優春を授かったことによって未来は変わった。
「朝ご飯にしよっか」
「マンマ! マンマ!」
「ご飯ね」
 今年で二歳になる優春を下ろしてキッチンへ向かうと、優春はとことこと私の後をついてくる。
「待ってて、すぐに作るから」
「はーい!」
 小さなキッチンでさっそく調理に取りかかる。と言っても、あまり時間がないから、簡単に味噌汁や卵焼き、それとおにぎりにしよう。味噌汁は優春の好きな豆腐とわかめがいいかな。
 鼻歌が出ると、優春も真似をして「フン、フ~ン」なんて言うから、思わず笑ってしまった。
 優春を授かったことに気づいたのは、婚約者の家で花嫁修業をしている真っ只中だった。
 最初は慣れない環境で体調を崩しているだけだと思っていた。でも、生理がきていないことに気づき、ちょっとした匂いで気持ち悪くなり、吐き気も止まらない。
 ネットで検索をして、それらすべてが妊娠したときに生じる症状だとわかった瞬間、頭が真っ白になった。
 婚約者とは一度も身体の関係を持っていない。それに私が経験をしたのは、たったひとりだけ。
 三条君との子供に間違いなかった。
 だけど、私はもう結婚する身。どうしたらいいのかわからなくて、一週間ほどひとりで悩みに悩んだ。
 まずは病院を受診して、本当に妊娠しているか確認する必要がある。考えるのはそれからだと思い立ち、お暇をもらって知り合いに会わないように、少し遠い場所にある産婦人科医院へと向かった。
 病院を訪れるまで、ずっとどうしたらいいのかその答えは出なかった。でも、医師から「ご懐妊です。おめでとうございます」と言われ、初めて本当に三条君との間にできた赤ちゃんが、自分のお腹の中にいるんだと実感できたんだ。
 私に産まないという選択肢はなかった。だって大好きな人との間に、命を授かることができたのだから。
 その命を、私の生涯かけて守っていきたい。たとえこの先、どんなにつらいことが待っていても。
 強い決心で私は両親や婚約者とその家族に立ち向かった。
 当然激昂され、婚約は破棄された。それだけではない、子供を産むつもりなら、両親から親子の縁を切ると言われてしまった。
 それでも私は、お腹の中にいる子供を産みたかった。その気持ちは変わらず、二度と源の家の敷居を跨ぐことは許さないと言われ、両親に勘当されてしまった。
 世間知らずな私が、誰にも頼ることなく出産してこうして優春を育てるのは、並大抵のことではなかった。
 救いは両親から手切れ金だと言って渡された百万円。そのおかげで今住んでいる、築四十五年になる1Kのアパートを借りることができた。
 身元保証人には事情を知っても雇ってくれた、今の職場である定食屋の大将と女将さんがなってくれた。
 ふたりはアパートが見つかるまでの間、住み込みで働かせてもくれた。本当に感謝してもしきれない恩がある。
 それに新しくできた友達だっている。
 私はとても恵まれていると思う。周りの人たちに支えられて、こうして優春と決して裕福ではないけれど、幸せな日々を過ごすことができているのだから。
 とはいえ、定食屋だけの給料では貯金などできる余裕もなく、優春が寝たあとに深夜零時まで在宅の仕事をしている。
 システムに関する問い合わせに対応するオペレーターの仕事だ。
 パソコン貸与で高時給。優春のための貯金が少しずつできている。おかげでちょっぴり寝不足だけど。
 食事中、ついあくびをしてしまうと優春が小首を傾げた。
「ママ、ねんね?」
「え? あ、ううん大丈夫。眠くないよ」
「んと?」
「本当」
 笑顔で言えば、優春はにっこり笑う。その口にはご飯粒がたくさんついていて、笑ってしまった。
「もう、優春ってばお弁当たくさんつけて」
 ご飯粒をとってあげながら、一緒に朝食を食べているこの時間も幸せだと感じる。
 両親を悲しませることになってしまったし、婚約者にも迷惑をかけた。でも自分の選んだ道に後悔はない。
 だってこんなに可愛い顔で笑う子と会えない未来など、考えられないもの。
 なにがあっても、ひとりで優春を立派に育ててみせる。
 食べ終えるとふたり仲良く手を合わせた。
「よし、じゃあ優春。保育園に行く準備をしようか」
「するー!」
 ふたりで片づけをして着替えをし、戸締りの確認をする。
「行くよ、優春」
「うん!」
 小さな手をしっかりと握り、保育園へと向かう。
 保育園は徒歩十五分ほどの場所にある。その道中、優春は保育園で覚えてきた歌を歌っている。
 可愛い歌声を聞きながら、今日も仕事を頑張ろうと思った。

※この続きは製品版でお楽しみください。

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