【試し読み】聖なる魔女と悪魔の騎士2

あらすじ

魔に魅入られた人の瞳にひそむ黒い炎を視る力『魔女の目』を持つ、元見習い修道女のユーフェリナ。お尋ね者という汚名を返上した彼女は、娼館の店主に転身! 店を切り盛りしながら、ウィルガイストとの契約を解除する策を練るユーフェリナに、ある日〝淫らな不調〟が現れはじめた……!? 原因は魔力の乱れらしいが、事が事だけにエロ悪魔も誰も頼れない! ユーフェリナは力を制御する方法を求め、今は滅びた『魔女の村』にひとり向かうが、そこに現れたのは彼女に好意を寄せる用心棒シグアス。向かった廃村で、彼らを待ち受けていたのは……? 不良修道女×エロ悪魔のダークラブファンタジー!第2巻! 話題のWEB小説を電子書籍化!

登場人物
ユーフェリナ
見習い修道女。魔に魅入られた人の瞳にひそむ黒い炎を視る力『魔女の目』を持つ。
ウィルガイスト
魔剣士。『魔女の目』の力に引き寄せられる悪魔からユーフェリナを守る。
試し読み

第1章 妓館の用心棒

「おい起きろ、ユーフェ! おまえ、なんのつもりだあ!」
「……なによ、こんな朝早く……」
 あたたかな天国の中から、いきなり冷たい空気にさらされたユーフェリナは、抜けるように白い肌にかかる、長く淡い蜂蜜色の髪をかきあげる。そして、安眠妨害者に寝ぼけ眼を迷惑そうに向けた。
 さらさらと耳にかけた髪が流れ落ち、髪にすりこまれた甘い匂いがふんわりと漂う。
 寝起き直後の正体がはっきりしない表情も、並みの男であれば生唾ものだったが、生憎とこちらは財布に火がついた悪魔である。
「この俺から金を巻き上げるとは、いい根性してるじゃねえか、小娘」
「なんのこと?」
「とぼけんじゃねえよ。十五ヴェロスとはよくよく吹っかけてくれるじゃねえか」
「……いい根性をしているのはあなたのほうですよ、ウィルガイスト。あなただからと思って見逃したが」
 寝ぼけ眼の乙女の寝込みを、今まさに襲おうとしているようにしか見えないウィルガイストの肩に、さやに入ったままの剣が置かれた。
 振り向くと、夏空色の瞳をした青年が冷たくウィルガイストをにらみつけている。
「シグアス、おまえ誰に剣を向けてるか、わかってんのか?」
 この妓館の用心棒として雇われている青年は、ウィルガイストのくらく鋭い眼光にも動じず、鞘に入ったままの剣を引く気はないようだ。
「もちろん承知してますが、俺のあるじはユーフェリナで、それをお守りするのが俺の役目だ。いくらあなたとはいえ、ユーフェリナに危害を加えるつもりなら……」
 ふたりの青年の視線が危険な色に絡みあった瞬間、ユーフェリナはようやく目を覚まして彼らの間に割って入った。
「まあまあまあ、ふたりとも。で、ウィルガイスト、こんな早朝になんのご用?」
「なんのご用じゃねえよ、小娘。なんだこの野郎は、なんで貴様がここにいる」
 ウィルガイストはあからさまな不快感を顔に貼りつけると、胡乱そうにじろじろと用心棒をねめつけた。
「俺はユーフェリナの護衛です。あなたのような、危険な輩からのね」
「はっ、そいつぁ初耳だ。おまえはこの妓館の用心棒であって、ユーフェ個人の護衛じゃあないはずだろ」
「今日は店のほうは非番ですから。俺が好きでやってることです」
 シグアスはフェゼルが雇った護衛だが、ひたすら無口でほとんど存在感がなかった男だ。それが今ではすっかりユーフェリナに私淑して、非番の夜でもこうして彼女の身辺警護をしている。
「護衛、ね」
 朝っぱらからの不穏な空気に、さすがに危機感を覚えたユーフェリナだ。ウィルガイストの視界からシグアスの存在を隠すようふたりの間に身を置くと、話題を変えた。
「で、こんな早くからどうしたの」
「どうしたもこうしたも──おお、俺から金を取るとは、どういう料簡だ」
「ああ、そのこと。だって毎晩毎晩、あんたに無料奉仕してたら、この店の経営が立ち行かなくなっちゃうのよ。ときどきなら目を瞑ろうかと思ったけど、ちょっとやりすぎ──」
 ユーフェリナは微笑を浮かべてはいるが、美しい翡翠色の瞳には表情をきっぱり裏切る迫力があった。
「元はといえば、金を出したのは俺だぞ!」
「でも、あたしが経営するんだもの、あたしのやり方に従ってもらうわ。いいこと? あんたがミリアやアフィシスを独占すると、一晩の収入の二割は持っていかれちゃうのよ。多少は他のお客さんから色つけてもらってるけど、あんたのおかげで収支の釣り合いがとれなくなっちゃうわけ」
「おまえ、俺がここの買い取りにいくら出したと思ってんだ」
 ユーフェリナの話を聞いているのかいないのか、ウィルガイストはギリギリと歯を軋ませたが、さらに畳みかけられた。
「店を潰す気なの? あたしの好きにやっていいって言ったのはそっちでしょ。まあでも、確かに出資者から満額もらうのは気が引けるわね。じゃあ特別優待割引で、通常の三割引にしておいてあげる。四ヴェロスと五十ヴェスを返金するようにアデットには言っておくね。で、用がすんだなら出ていってくださる? あたしまだ寝たいから」
「ユーフェ、おま……」
 だが、シグアスが今度こそ剣を鞘から抜きかけ、金属の音がウィルガイストの注意を完全に引きつけた。
「ウィルガイスト、いい加減になさらないと、本当に抜きますよ」
「俺に剣を向けたらどうなるのか、身をもって思い知るだけだぞ」
「わかっていますが、ユーフェリナの邪魔をする者を放置しておくわけにはいきません。それが俺の仕事です」
 ウィルガイストは頑なな護衛に肩をすくめた。
「やれやれ、おまえに男を骨抜きにする特技があったとは驚きだぜ、ユーフェ」
「失礼なこと言わないで。シグアスは厚意で護衛を買って出てくれてるの」
「馬鹿か、おまえは。こんな夜更けに男を部屋に引き入れて、襲ってくれと言ってるようなもん……」
 ウィルガイストの負け惜しみに、ユーフェリナは表情を変えた。
「自分と一緒にするな!」
 ユーフェリナの手がウィルガイストの頬に伸びたが、それより一瞬早く、シグアスの剣が鞘から引き抜かれた。
「ユーフェリナを侮辱するなら、命を落とすことになってもあなたに剣を向けます、ウィルガイスト」
「やろうってのか?」
 一気に空気が冷え切って、緊張の糸が張り巡らされる。冗談半分だとは思いたいが、ウィルガイストの緋色の瞳には、かなり本気と取れる殺気がちらついていた。
「──はい、そこまで! ここをどこだと思ってるの? ウィルガイストも出入り禁止にされたくなかったら、もうやめなさい!」
「ちっ──」
「ユーフェリナ、本当に彼をこのまま好き勝手にさせておいていいのか? 俺に命じてくれれば、命に代えても……」
「おい小僧、調子に乗るんじゃねえぞ。てめえが命を投げ出したって、俺に一筋たりとも傷なんかつけられや──」
 どうやら収拾がつきそうにない。ユーフェリナは角突き合わせるふたりの男の前で思案顔をしたが、廊下に向かって大声で叫んだ。
「カユス! カユス来て!」
 すると、時を置かずして大柄な男が階段を駆け上がってくると、ひょっこりユーフェリナの部屋に顔を覗かせた。
「どうした、お嬢ちゃん」
 険悪な雰囲気の男たちを見て、年かさの用心棒はニヤニヤと笑った。
「モテる女はつらいねえ」
「そんなんじゃないから! ねえ、なんとかしてよ」
 ユーフェリナの懇願に、大男は夜更けの不躾な客たちを見比べると、シグアスの襟首をつかんで部屋から引きずり出すことにしたらしい。
「カユスさん、放してください! 俺はまだ……」
「護衛もいいが、年頃の娘の寝室で、夜も明けきらないうちから騒ぐのは失礼だろ。そんじゃ、ウィルガイストの旦那、邪魔したね」
「おう、小僧に礼儀ってもんを教えてやれ」
 パタンと扉が閉じられると、ようやく戻ってきた静寂にユーフェリナは肩をすくめた。
「ほんと、人騒がせにもほどがあるわね」
「ああ、まったくだ」
「人騒がせはあんたのことなんだけど……」
 嘆息して、ユーフェリナは長身の青年を見上げた。
 姿形はなかなかに端整で、アクロシアでは珍しい黒髪も手伝って、憂愁を帯びた美青年と映るが、その中身は人間にあらず。
 彼は力を得ることを強く望み、悪魔に姿を変えた『魔性アディルアデル』と呼ばれる存在なのだ。さらには『魔剣士』という二つ名を持ち、剣を取らせたら敵はない最強の剣士だ。
 自ら悪魔ウィルガイストと名乗る彼を人々は恐れたが、反面、そのとてつもない力を我が物にしようと、彼と悪魔の契約を結びたがる人間は後を絶たない。
 しかし、彼との契約に差し出すものは、自身にとって最も大切なもの。悪魔を意のままに操ろうと契約した者は、彼にすべてを奪われた挙句、生き延びた者はいないという噂すらあった。
 そんな悪魔と現在、契約を結んでいるのが、この娼館のにわか主人ユーフェリナである。
 彼女は自ら望んで悪魔と契約を結んだのではない。彼女の魔力を欲したウィルガイストが、ユーフェリナを神殿から連れ去り、彼女の居場所を失わしめた。
 ゆえに、その行為の対価として、彼女の力を欲して群がってくる他の悪魔どもから、ユーフェリナの身を守るという契約を結んでいる。
 しかし、彼女が望んで交わした契約ではないはずなのに、ユーフェリナの身体には悪魔の印が刻みつけられ、もはや悪魔にかれている状態だ。納得いくものではない。
 だが、新月の晩に力を増した悪魔たちが、ユーフェリナの魔力に惹かれて殺到してくるのは事実だ。それらを撃退してもらっている間は、ユーフェリナも無理にウィルガイストを追い出すことができないのだった。
 この悪魔を追い払っても問題なく過ごせるよう、策を練っている最中なのだが、目下、これといった有効な打開策はなく、日々が虚しく経過するばかりだ。
「なんだっておまえに護衛なんて。俺の契約だけじゃ不満ってわけか」
 ベッドに腰を下ろしてユーフェリナを横目で見るウィルガイストに、少女は首を振った。
「だって、あんたの契約はあたしを悪魔から守ることでしょ。人間相手の護衛を頼んだら、どうせ別契約だって無理難題を吹っかけるくせに」
「悪魔に物を頼むってのは、そういうことだろ」
「だからあんたには頼まないの」
 ユーフェリナはふたたびベッドにもぐりこむべきかどうか迷ったが、ウィルガイストがそこに居座る気だと察して、あたたかなベッドをあきらめた。
「下でカユスが構えてんのに、なんだって奴がおまえの部屋をわざわざ護衛するんだ」
「……こないだの新月の晩にね、壁をよじ登って、この部屋に侵入した奴がいるんだって。たまたまカユスが巡回してたときに気づいたらしいんだけど。それでシグアスが心配してくれて、非番の日は部屋の前で不寝番ふしんばんを務めてくれてるってわけ。あんたは毎晩お楽しみのようだから知らないだろうけど」
「──ふん。いい年をした男が、女に手出しもせずに黙って見張りなんて、ありえるかよ」
「だから! あんたと一緒にしないでよね! 自分がスケベだからって、他の人もみんなそうだと思ったら大間違いなんだから。それに部屋の中に入れてるわけじゃないもん」
 せっかくのかわいらしい顔に、憎たらしいまでの不満を乗せ、ユーフェリナは黒髪の悪魔に舌を出した。
「男ってもんがわかってねえな、お嬢ちゃん。いざとなりゃ、野郎なんざ頭じゃなくてこっちでモノを考えるんだよ」
 ユーフェリナはしかし、それ以上ウィルガイストに取り合うのをやめることにした。彼と口論したところで、世の男性の常識がどちらかに覆るわけでもない。
「ふん、自分の尺度でしか物を計れないだけでしょ」
「そのうち、いやでも思い知ることになるさ」
 無言でにらみあった一瞬後に、ユーフェリナが先に視線を逸らした。次元の低い言い争いに、嫌気がさしたのである。
「で、用がそれだけなら、もう出ていってくれる?」
「馬鹿言うな、ここだって半分は俺のものだぞ」
 そう言ってウィルガイストは大きな欠伸をすると、なぜかユーフェリナのベッドにもぐりこんだ。
「あの、ねえ……? ここあんたのベッドじゃないんだけど」
「俺を寝床から追い出させたのはおまえだろ」
「部屋の中に男を引き入れたら、襲ってくれって言ってるようなものなんでしょ? そんなのまっぴらごめんだから、出ていってほしいんだけど」
「心配すんな、小娘ガキだけにはどうしたって食指が動かねえから」

※この続きは製品版でお楽しみください。

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