【試し読み】恋クリエーション~大人の恋って難しい!~

作家:水戸けい
イラスト:夢志乃
レーベル:夢中文庫クリスタル
発売日:2016/10/14
販売価格:500円
あらすじ

川村優羽、21歳。見た目は大人、中身は子ども…そんな自分を変えたくて中身も大人になろうと決意し、バーで出会った人にハジメテを捧げてしまおうと大胆な行動に出る優羽。そこで出会った脚本家の小野崎剛は年の差もあってか、初めての優羽を気遣いながら優しくリードしてくれる、まさに「理想の大人」だった! そんな剛から「大人の世界を教えてあげよう」と提案され喜ぶ優羽。自分の知らない世界をたくさん教えられ、少しずつ大人の女性へと近づく優羽の心は、剛に惹かれていくが──。大人の世界を教えると言った剛の本当の思惑は? 優羽は外見に見合った大人に成長できるのか? 自分の本当の気持ちと向き合うラブ・ストーリー。

登場人物
川村優羽(かわむらゆう)
大人っぽい外見にふさわしい中身にしようと、バーで出会った剛に処女を捧げようとする。
小野崎剛(おのざきつよし)
脚本家。コンプレックス克服のために大胆な行動に出た優羽を大人の余裕で優しくリードする。
試し読み

1.

 これでいよいよ、私も大人の仲間入りなのね。
 ぎゅっと目を閉じた川村優羽かわむらゆうは、さきほど会ったばかりの男、小野崎剛おのざきつよしの唇を受け止めた。やわらかく唇を押しつぶされて、体の力を抜かなければと思うのに、どうしても緊張でこわばってしまう。それをあやすようなキスが、いくつもいくつも唇に降ってくる。
「ん……、う」
「怖がらなくていい」
 低くささやかれた声は艶やかに優羽の鼓膜をくすぐった。
「っは……、ぁ」
 ゾクリと背筋が震えて肌が粟立ち、わずかにあごを持ち上げると唇が薄く開いた。そこに、剛の舌がチロリと触れる。
「ふ……、ぅん」
 ヌラリと入り込んできた舌は、優羽をおびえさせないように、そっと上あごをくすぐってきた。ジワンと波紋のように広がる甘い刺激がくすぐったくて、優羽は思わず笑みを浮かべる。すると剛の目元が優しくゆるんだ。
 あ──。
 ドキリ、と優羽の心臓が跳ねる。それと同時に全身のこわばりがほぐれた。
 この人に任せていれば、大丈夫。
 どこから出てきた確信かはわからないけれど、心の底からそう思った優羽は唇の開きを大きくして、おずおずと舌を伸ばした。それを捉えた剛の唇に鋭く吸われ、腰が震える。
「ふっ、ぅん、んっ」
 舌の根元に官能の震えが走り、体中に広がった。その一瞬の出来事に、優羽の胎内がわずかにうるむ。
 私……。
 こんなふうに反応をするんだと、優羽は不思議に思った。剛の手が優羽のカットソーの中に入り、ブラジャーに指がかかる。大きくも小さくもない胸が、カットソーの中でブラジャーから解放された。やわらかい乳房は若さの張りで、下着の支えを失っても形よく盛り上がっている。それを手のひらで包まれて、やわやわとみしだかれると妙な心地がした。
 女同士、冗談で胸を触り合ったことは幾度かある。けれど剛の指はそれとは違う感覚を、優羽に与えた。
 どこがどう、とは言いづらい。ただ、なにかが違っている。それは指が、女の細く繊細なものではなく、力強く節くれだった、大きく長い男のものだからだろうか。
「っ、ん」
 キスはまだ続いている。剛の唇は優羽の唇から完全に離れることなく、角度を変えて幾度も繰り返し触れてくる。まるで洋画のキスシーンみたいだと、優羽はぼんやり考えた。
 剛の指が胸のとがりにひっかかり、尖りの周囲を指の腹でクルクルとでられる。くすぐったくて、けれどじゃれあいとは違う淡い熱の感覚があって、優羽は剛の腕をつかんだ。
「……は、ぁ」
 熱の塊が唇からこぼれ出る。じわじわと体内が炭火で温められているようだ。皮膚の内側がポッポッと熱を浮かべて、しびれに似た感覚の浮き上がりに包まれる。
 痺れている足をツンと突かれれば、音がウワンと広がるように刺激が走る。それとおなじ原理だろうか。剛の触れるところを中心に、不思議な感覚が全身へと広がっていく。
「んっ、ぅ……、ふ」
 れたキスの音が頭の中に響いている。ときおり漏れる音のある息。それらが重なり、優羽の思考回路はゆっくりと動きを落として、眠りの世界に入る直前のように、ボヤンとしてきた。
「は……、ふぅ、んっ」
 耳裏に唇の感触。そこから濡れた息がすべって首筋に落ち、鎖骨に触れたかと思うと離れて、乳房にかかった。ツンと尖った部分を舌先ではじかれて、色づきの周囲をなぞられて、濡れた部分にかかる息にもどかしさが募る。けれどそれをどうしていいのか、優羽はわからなかった。
「っは……、ぁ、あん」
 ただ剛の腕を掴んで、こらえるしかない。剛の舌はクルクルと優羽の尖りとたわむれていたかと思うと、わずかに離れて先端を突いたり、色づきごと唇でおおい尽して乳口のシワをほぐすように動いたりした。
「ふ、ふぁ、あっ、あ……、あっ」
 優羽の瞳がうるむのとおなじ速度で、下肢も濡れた。ジワジワと官能に追い詰められて、優羽は唇から舌をのぞかせ身を震わせた。
可憐かれんな反応だな」
 クスリと漏れた剛の笑みが、濡れた胸先に触れて、それすらも甘い痺れに生まれかわる。
「すごく、可愛いよ……、優羽」
「は、ぁ、……そんな」
「本当だ。とても愛らしいね」
 ニコリとされて、優羽は頬が熱くなるのを感じた。そんな言葉をいままでかけられたことはない。すくなくとも、優羽の覚えている褒め言葉は「大人っぽいね」というものがほとんどで、可愛らしいなんて言葉は、ついぞ向けられた記憶がなかった。
 私、可愛いって言われた。
 優羽の心がフワリと喜びにふくらみ、それは笑みへと形を変えた。剛の笑みが深くなり、ついばむキスが与えられる。
「小野崎さん」
「剛……、と」
「剛さん」
 うん、と喉奥で返事をした剛の唇は優しくて、優羽は目を閉じ心ごと彼にゆだねた。濡れた胸先を指ではじかれつままれて、優羽は下唇をんで刺激を堪えた。すると剛に耳朶みみたぶを噛まれる。
「声、抑えないで」
「……、んっ」
 フルフルと優羽が首を振れば、クスクスと揺れる剛の息が耳奥に注がれる。
「恥ずかしがり屋なんだな」
 ほかの人はどんな反応をするのだろう。大人の女性はもっと大胆に、奔放に声を上げて腕を絡めるのかもしれない。
 洋画やドラマで観たような、あんな態度がふつうの態度なのかな。
 そうは思っても、実践するのは難しい。優羽は首をすくめて目を閉じた。
 こんな反応をするなんて、あきれられてしまうだろうか。
「本当に、可愛いな」
 予想とは正反対の感想をつぶやかれ、優羽はギュッと剛にしがみついた。もっと可愛いって言ってほしい。もっと優しく触れられたい。
 その望みが聞こえたわけではないはずが、剛の唇や指は優羽の願ったとおりに、優しく肌に触れてくる。カットソーをめくられて、優羽は剛を掴む手を離した。服を脱がされるなんて、ちいさな子どもになったみたいだ。
 裸身となった上半身が、剛の視線に撫でられる。彼の手は優羽の両脇を掴み、腰までのなだらかな曲線をなぞるとスカートのホックに指をかけた。
 ヘソにキスをされ、ホックを外される。ファスナーが下ろされてウエストがゆるんだ。タイトスカートに包まれていた腰から下が自由になり、ショーツが現れる。
 タイトスカートを持った剛が、それを枕元に置いた。シワにならないように、という配慮だろうか。その動きを見ていると、彼がいたずらっぽく片目を閉じて、上着を脱いだ。引き締まった肉体が現れ、優羽はドギマギする。男の裸をこんなに間近で見たのは、父親以外ではじめてかもしれない。
 すごく、キレイ。
 剛は均整の取れた引き締まった肉体をしていた。肩から腕にかけては力強く、胸板も広く厚い。といって、運動選手のように盛り上がっている、というわけではなく、いわゆる細マッチョという部類に属する肉体と言えばいいのか。
 吸い込まれるように指を伸ばした優羽は、剛の肩から腹までを指先で味わった。はちきれそうな力強さが皮膚の下で躍動している。彼は自分を「オジサン」だと言っていた。けれど肉体はちっとも、優羽の考えるオジサンではない。だったらなんだと問われれば困ってしまうが、オジサンという言葉でくくってしまえない若々しさのある体つきだった。
 筋肉の薄い溝をなぞる優羽の指が、腹筋を通ってズボンに触れる。優羽はその指をどうしていいか、わからなくなった。
 彼が優羽にしたように、ベルトを外してズボンを脱がせたほうがいいのか、どうなのか。
 ためらっていると手首を掴まれて、そっとシーツの上に置かれた。額にキスをされて、目を上げると剛の瞳に優羽の心は抱きしめられた。
 ホウッと思わずため息がこぼれ落ちる。
 これが大人の余裕というものだろうか。
 剛の手は優羽のショーツに触れて、それをゆっくり引き下ろした。足首からそれが抜ければ、優羽は一糸まとわぬ裸身となる。羞恥やためらいがないわけではないが、剛のやわらかな瞳がそれを抑えてくれていた。
「優羽」
 褒めるように呼ばれて、うれしくなる。優羽がほほえむと、剛も笑った。それがうれしくて手を伸ばせば、手の甲にキスをされた。
 剛の手が優羽の太ももに触れる。いよいよ、誰にも許したことのない場所を開かれるのかと、優羽はちょっぴり怖くなった。
 でも、きっと大丈夫。
 彼は手慣れているようだから、うまくやってくれるはず。
 これで私は、一人前の女になるんだ。
 優羽は期待と不安に胸をとどろかせながら、剛の手に脚を開かれた。反射的に湧き上がった羞恥が、内ももに力をこめる。それを察していたのか、剛の手は素早く動いて優羽の脚が固く閉じる前に秘裂に触れた。
「すこし、濡れているね」
「っ……、ご、ごめんなさい」
 意外そうに、おもしろそうに剛が片方の眉を持ち上げる。
「そんな反応をされたのは、はじめてだ」
「ごめんなさい」
 どうしていいのかわからない優羽は、ただ謝罪した。剛はますます愉快な顔になり、優羽の膝に唇を寄せる。
「濡れているのは、俺を感じている証拠。──それを謝罪されるのは、心外だな」
「……ごめんなさい」
 消え入りそうな声を出して身を縮めると、グイと膝を胸につくまで押し上げられた。
「本当におもしろいな、優羽は」
 返事のしようがなくて、優羽は下唇を噛んで顔を背けた。頬に優しい視線が触れる。からかわれているのだとわかって、ますます恥ずかしくなった優羽はシーツを握った。
「どうせ握るなら、俺にしがみついてくれ」
「ひゃっ」
 耳裏をめられながら言われて、短い悲鳴を上げつつ反射的に言われたとおりにした優羽の、繊細な部分に触れている剛の指が動いた。濡れ具合を確かめているのか、指は入り口を丹念になぞり、ゆっくりと沈んでいく。
「っ、ん……、ぅ」
「もっと、体の力を抜いて」
 そう言われても、羞恥と緊張を簡単に取り去れはしない。
 優羽が首を振ると、そうかと剛が息を吐いた。
 あきれられたかと心配した優羽の不安は、すぐさま剛が吹き飛ばしてくれる。
「君に望むのではなく、俺が優羽のこわばりをほぐすべきだったな。──すまない」
「そんな……」
 未熟な自分をいたわってくれる剛に大人の余裕を感じて、優羽は恥ずかしくなった。
「あの、私──」
 ここで処女だと告白したら、剛はどうするだろう。初対面の男に与えるものじゃないと、行為を止めてしまうだろうか。それとも、処女を手にすることができると喜ぶだろうか。
「うん?」
 剛が首をかしげて、優羽の発言の先を待つ。優羽はためらい、ちいさく首を振った。
 大人の女になるために、勇気を出してバーに入って、ここまでこぎつけたんだもの。大人っぽいって言われる外見にふさわしい女になりたくて、奮起したんだから。だから、ここで台無しになるようなことは言えない。
「その、慣れてなくて……、ごめんなさい」
 は、と剛が破顔して、目じりに優しいシワが走る。ああ、これが彼の言う「オジサン」の証なんだなぁと、優羽は愛しさを視線に乗せて彼の目じりを見つめた。
「そんなことを気にしていたのか。──そのぶん、オジサンが慣れているから、大丈夫」
 言ってから、剛が照れ笑いを浮かべる。
「これだと、怪しいオジサン発言になってしまうな」
 つられて優羽も笑った。
「うん、いい顔だ。そうやって、笑っていると可愛いよ」
 また、可愛いと言われた。
 キュンと優羽の胸が絞られる。
 平均よりも高い身長と、一重の瞳。ぽってりとした唇に細面という容姿の優羽は、いつも年齢よりずっと上に見られてきた。本当はフリルやリボンが大好きなのに、そういうものは悲しくなるほど似合わない。告白をされたこともあるけれど、大抵は「思っていたのとは違っていた」と、身勝手な発言でフラれてしまう。いわゆる外見と中身のギャップにコンプレックスを持っていた優羽は、大学を卒業する前に中身も外見に合うものになって社会人デビューしようと、覚悟を決めてバーに入った。
 そこで声をかけてくれた剛に誘われるままにホテルに来て、大人の階段を登りはじめたときに、まさかずっと求めていた褒め言葉を与えられるなんて──。

※この続きは製品版でお楽しみください。

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