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『過去に男性に言われて嬉しかった言葉』深志美由紀

深志美由紀です。
今回のテーマは「男性に言われて嬉しかった言葉」。

ああ、どうしよう。思いつきません。このテーマ、今まで出一番悩んでおりますね。嬉しかった言葉……嬉しかった言葉……。

な、ない!(笑)
いや、思い出せばきっと何かあるはずなのですが、だいたい、その言葉はその後覆されている記憶とセットになっていて、単純に嬉しかったという覚えがございません。
うわー、なんか寂しい人生ですね。ちょっと我ながら笑えてきてしまいました。
2度も結婚しているのですから、何か印象的なプロポーズの言葉とかがあってもいいものですが……ない。
なんだか、いつもなんとなく流れで結婚してきたなあ。
男性と交際するときも大体こちらから口説くことがほとんどだし、嬉しかった告白の言葉みたいなものもありません。わあ、なんて恋愛貧乏なのかしら。

ちょっと趣旨とは違いますが、最初の夫と別れてしばらくした頃に彼から連絡があり、「いま、『嫌われ松子の一生』という映画を観ていたら君を思い出して泣いてしまった、どこかで野垂れ死なないように気を付けて」というようなことを言われたことがあります。

「嫌われ松子の一生」とは山田宗樹さんの小説とそれを原作とした映画で、映画では中谷美紀さんが恋愛体質で男と恋に流されて家を追われ、どんどん流転してゆく女性「松子」を演じています。
はたから見ると男に振り回されて騙されるばかりの彼女の人生は不幸そのものなのですが、映画の中で彼女は恋をするたびに「私は幸せでした」と語ります。
彼女に関わる男たちは松子の強く重すぎる愛情を重責に感じたり甘えたり調子に乗ったりして、結果彼女には常に辛い別れが待っているのですが、その彼らの心ひとつひとつに松子は強い記憶を残していくのです。

流れ流れた松子がどうなるのかは映画か原作を確認していただくとして(まあ、どちらも冒頭彼女の死から始まるわけですが)、それを観た元夫が「まるで君のようで心配になってしまった」とわざわざ連絡をしてきてくれたのでした。

なんと失礼な!と怒ってもいいところかもしれないのですが、私は我ながらなんとなく納得してしまい、まあ、そんな風に思われる人生もアリだわね、と思いました。
「男に騙されて続けて最後に野垂れ死にしそうな女」、なんだかカッコイイと言えなくもありません。

そういえば、別件でふと思い出したのですが、若い頃、私は十年ほど地元で趣味のロックバンドを組んでおりました。ちなみにボーカル担当です。
で、そのバンドのドラマーの男性が某県警の鑑識課に勤めていたのです。
鑑識ということは、県内で殺人事件などが起こると真っ先に現場に向かって現場の保持や証拠集めなどをする職業。
そんな彼が、私を見てしみじみと、「殺人事件の被害者が若い女性だと言われると、美由紀ちゃんだったらどうしようと毎回ドキドキするんだよね」と言ったことがありました。

彼によると、私はいかにも痴情のもつれで殺されそうに見えていたようです。ちなみに当時の私の職業は場末のキャバ嬢でした。さもありなん。
というわけで立て続けにそんなことを言われた私は、「ああ、はたからは危機感がなく危な気な女性に見えるんだなあ、気を付けよう」と反省?したりもしたのですが、今は出逢い系で知り合った男性たちとフラフラSMなんかをしているお陰で、別の意味で事件に巻き込まれそう、気を付けてと友人一同に言われているのであんまり成長していません……。

というわけで、男性に言われて嬉しかった言葉は「君って痴情のもつれで殺されそう」ということにしておこうかと思います(笑)。

まあ普通なら本当に怒るところなのかもしれないですが、自分としてはなんだか光栄だな、と思わなくもありません。
なんかロックではないですか。
ある意味、面白そうな人生に見えているということで。

本当は至って真面目に、地味に生きているんですけどね……。

深志美由紀(ミユキミユキ)
  
2010年10月、「花鳥籠」にて無双舎主催第一回団鬼六賞優秀作を受賞。
現在、官能小説を中心にティーンズラブ・恋愛小説など、新聞、雑誌、電子書籍他で執筆活動中。

作品紹介

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