【試し読み】離縁するはずだった陛下に(媚薬を使って)溺愛されています
あらすじ
「君と離縁する」──突然、夫のローランに離縁を言い渡されたセシリア。六年前にとある事情から形だけの『白い結婚』をした二人だったが、実はずっとローランを慕っていたセシリアはどうしても別れたくないと媚薬を盛ることを決意する。しかし彼を騙すことはできないと直前になって計画を中止した彼女が媚薬を入れた果実酒を取り戻そうとしたとき、階段から転落し大怪我を負ってしまう。目を覚ますと、そこには心配そうにこちらを見つめるローランの姿が。「そんなに可愛い顔をするな。去りがたくなる」離縁を求めていたはずの彼の態度が甘く豹変していて──!? 愛される幸せを知ったセシリアは媚薬を使ったことを隠し通そうとするけれど……
登場人物
継母に虐げられる日々を送っていたが、和平のために隣国の王子・ローランと結婚する。
寡黙で無愛想な第三王子。セシリアと結婚して六年、突然離縁すると言い出し…
試し読み
プロローグ
激痛で目を覚ました王妃セシリアは、自身が横たわるベッドが、夫で国王ローランのものだとわからなかった。
王城左翼にあるローランの寝室に入ったことが一度もないせいだった。
(ここは、どこ……?)
なめらかな肌触りのシーツに、ふかふかの布団。絶妙な沈み心地のマットの感触は、セシリアを大いに困惑させた。
セシリアが使い慣れた寝具は、決して新しくはないけれど、洗濯したてのお日様の匂いがする清潔なものであったはずだ。こんなに贅沢なものではなく。
誰か呼ばなくては。
淡い金髪に映える空色の瞳を何度かしばたたく。
しかし、目覚めたばかりのセシリアは、体の芯がへし折れそうな激痛をどうにかやりすごすだけで精一杯。口を開くことすらままならない。
「セシリア。大丈夫か?」
艶のある低い声に呼ばれ、セシリアはベッドの傍らに目をやった。
逆光でよく見えない。目を凝らすと、徐々に見えてきたのは、黒髪黒瞳の男の姿。
頭で考えるより早く、思い浮かんだ男の名をかろうじてセシリアは口にした。
「……ローラン様?」
「俺がわかるか? 体中が痛むだろう。ずっと俺が看病につくから、たっぷり甘えてくれていいんだぞ」
ローランは心配そうな顔つきをしていた。早口気味の声は上擦ってさえいる。
「セシリア、君は頭を強く打ってしまったんだ。そのことは覚えているか」
一向にやまない頭痛を押しのけ、セシリアは眉間に皺を寄せて記憶を探る。
激痛の合間に、夜明けとともに濃い霧がゆっくりと晴れていくようにして、途切れがちながらも少しずつ情景が頭に浮かんできた。
「確か私は……大階段から落ちたのではなかったかしら」
「そうだ。とても怖かっただろうに……もう大丈夫だからな。セシリアはもうなにも心配しなくていいからな」
ばらばらに散らばったパズルを当てはめるように記憶を組み合わせたセシリアは、全身の痛みの原因に、ようやく思い当たる。
(もちろん覚えているわ。媚薬を入れた果実酒のボトルを取り戻そうとしたら、突き飛ばされてしまったんだもの)
セシリアの記憶によれば、自身が大階段から転げ落ちたとき、同時に媚薬入りのボトルも落ちていたはずだった。
(ローラン様も、誰も、あの果実酒を飲んでいないってことよね)
よかった。セシリアは胸を撫でおろすが、念のため確認することにした。
「私が取り戻そうとした果実酒のボトルなんですけど。どなたも中身を召し上がっていませんよね?」
「ああ、当然だ」
ローランは大きく頷いて、続けた。
「俺を毒から守ってくれてありがとう」
……?
(毒。……って、どういうこと?)
セシリアが果実酒に混ぜたのは媚薬だ。毒なんかではなく。
首を傾げたセシリアは、ローランの言動にも引っかかりを覚えた。
元軍人だったローランには、あだ名がある。
戦場の悪魔。あるいは、冷血動物とも呼ばれていたローランは普段から寡黙で、表情も変化に乏しく、気難しい印象を持たれがちだった。
それなのに、すぐ目の前にいるローランが、優しさに満ちた柔らかな表情をしているのはどういうことか。
「セシリア、君は俺の命の恩人だ。しばらく療養が必要だろうが、意識が戻って本当によかった。これからは毎日、朝も夜も一日中ずっとそばにいて、君に尽くすからな。安心して治療に専念するんだぞ」
甘い言葉を淀みなくスラスラと口にするローランは、セシリアが知る彼とはまるで別人だった。
愕然とローランを見つめるセシリアは、肝心なことを思い出す。
頭を打ったせいにして、いっそ忘れてしまいたいくらい衝撃的な出来事だった。
(そうよ、私は……──)
セシリアはごくりと唾を呑みこむ。
(離縁を言い渡されたのよ)
第一章 媚薬を巡る攻防
「君と離縁する」
──ローランに言い渡された日の出来事である。
まずは早朝。まだ暗いうちに起床したセシリアは、異母弟アデルを迎える準備の最終確認から一日を始めることにした。
「アデルが連れてくる従者は五人と聞いているけれど、あの子のことだから、あてにできないわ。倍の十人ぶんは寝具が必要でしょうね」
「念には念を入れて、十五人ぶんで支度ができておりますよ」
年配の侍女頭ライラが、苦笑まじりに肩をすくめる。
隣国カルトルオの王太子である異母弟アデルは、六歳年下の十六歳。
生意気盛りの年頃だが、これでもかと母親に甘やかされたせいで、我がままな癇癪持ちに育ってしまった。
少しでも気に入らないことがあれば、人目もはばからず怒鳴り散らすので、周囲をいつも冷や冷やさせる。
「私たちが完璧に準備をしたところで、根性悪なアデルのことだもの。難癖をつけてくるに決まっているのよ」
今夜はローランの戴冠二周年を祝う晩餐会が予定されている。
前夜祭から参加したアデルは王城に宿泊していたようだったが、今夜はセシリアの住まいである、この西の離宮を寝床にすると急遽連絡があったのだ。
どうせセシリアに説教をするつもりなのだろう。
用が済んだらさっさと帰国すればいいのに、それほど仲がよくない異母姉の住まいを訪れるだけでなく、わざわざ泊まっていくと言うのだからあきれてしまう。
「まあまあ、そうおっしゃらず。アデル殿下とお会いするのは、セシリア様がカルトルオを出国して以来になるのですから」
「私がラストヴァルにやってきたのは、アデルと同じ歳の頃だったものね」
月日が経つのは早いものだ。
当時のことを思い出すと、つい遠い目をしてしまうが、カルトルオ時代にあまりいい思い出はない。
しかし、はたからは郷愁にひたっているように見えたらしく、ライラが明るい声で仕切り直す。
「次は食材の確認をいたしましょうか。アデル殿下のお連れ様は若い殿方ばかりでしょうから、備蓄倉庫からもあふれるほど準備をしてございますよ」
「ありがとう、ライラ。ひとつしか客間がないこの離宮に、従者をぞろぞろと連れて泊まるだなんて非常識なこと、こんな直前になってアデルが言い出してごめんなさいね」
「たまに賑やかな日があってもよろしいと思いますわ」
そんな会話をしていたときだった。先触れを寄こすことなく、ローランが西の離宮をたずねてきた。
「セシリア。君と離縁する」
応接間に通したローランから開口一番で告げられ、セシリアは茶を淹れるのも忘れて唖然とした。
(聞き間違いじゃなければ、ローラン様は離縁するって言ったかしら)
この西の離宮に、初夜をのぞけば、ローランは近寄ろうともしなかったのに。
(今さら離縁って、どういうこと?)
意味がわからない。
ローランと結婚したのは、セシリアがこの国にやってきていくらも経たない頃のこと。
つまり、それから六年間もの年月がすぎている。
なぜ今になってそんなことを言い出したのか、ローランの考えがまったく理解できなかった。
「今ならアデル殿下の一行と一緒に帰国できるだろう? さすがに君一人で帰国させるわけにはいかないからな」
「え……? いえ、そういうことではなくて……」
「返事は明日にでも改めて聞く」
「ちょ、待って……っ」
うろたえるセシリアの制止を、ローランは聞こえなかったふりをした。
「じゃあな」
去り際に冷たく一瞥し、問答無用で背を向けたのだった。
──そして、とっぷり夜が更けてから、アデルが西の離宮にやってくる。
「なにゆえ義姉上は晩餐会に参加していなかったのですか」
セシリアと顔を合わせるなり、酒気をたっぷり帯びたアデルはがなり立てた。
病弱と偽り、セシリアは前夜祭に続いて晩餐会も欠席していた。
出席すべき会合にセシリアが姿を見せないのは毎度のことだったので気にしていなかったが、さすがに今回ばかりは参加すべきだったのでは、と胸が重くなってくる。
「そういう約束でローラン様と結婚したからよ」
「見え透いた嘘をつくな。正直に言えばいいだろ、ローラン陛下に愛想を尽かされたからだってさ」
「アデル、酔いすぎよ。お水でも飲んで落ち着いてちょうだい」
「できそこないの駄目王族のぶんざいで、この僕に説教をするなっ!」
冷水を注いだグラスを差し出すが、アデルは心底わずらわしそうに振り払った。
「そもそも義姉上に王妃なんて務まるはずがなかったんだ。義姉上は昔と全然変わらないんだな。その器量の悪さは、死んだ母親譲りだったのか?」
「もうわかったからやめて。他国の王妃を直接ののしったなんて誰かに知られたら、カルトルオの不利益になりかねないのよ。あなただって国を代表して招かれた王太子なのだから──」
「義姉上がどうしても説教をしたいというなら、僕も言わせてもらう。ローラン陛下との間に未だ子どもを授からないことを恥ずかしいと思わないのか?」
痛いところを突かれた。
返答できず、セシリアは黙りこむ。
恥ずかしいもなにも、ローランと性的に交わったことなど一度もなかった。
「我が国の立場を考えれば、二人目三人目が産まれていても当たり前の年月が経っているだろうに。まったく、義姉上ときたら無能もいいところだな」
「アデルが言うことはもっともだけど……でも、まだローラン様だって若いのだし」
ローランは今年で二十八歳になった。そしてセシリアは二十二歳である。
子どもを作るのにまだ充分猶予がある年齢と言えそうだが、アデルは攻撃的な口調を崩さない。
「若ければ子どもができるだなど本気で考えているのは、救いようのない馬鹿だけだ。義姉上がこんな調子では、母上はいつまで経っても報われない」
「……お義母様がどうかしたの?」
唐突な義母の登場に眉をひそめると、アデルはいかにも偉ぶってフンと鼻を鳴らした。
「いつまでもぼんやりとしている義姉上に心を痛めて、惚れ薬を渡すよう、僕に頼んできたんだ。おいたわしいことだと思わないか? 母上の自尊心がどれだけ傷ついたか、義姉上にわかるわけがないよな」
「惚れ薬って、なによそれ」
「いわゆる媚薬だよ。そんないかがわしいものを、よりによって王太子である僕に託さねばならなかった母上の気持ちを少しは察しろ」
アデルは酒臭い息をまき散らすのも構わず、離宮に持ち込んだ荷物の山から木製の小箱を従者に取ってこさせると、小箱ごとセシリアの手に押しつけた。
「ご使用方法については、どうぞこちらをお読みになってください」
たちの悪い酔っ払いと化したアデルに代わって、説明書とおぼしき紙片を従者がそっと手渡した。
「実は、ローラン陛下のお渡りがまったくないことは知っていたんだ」
ぎくりとセシリアは身構える。
おびえる小動物のようなセシリアの反応が面白かったのだろう。アデルは得意げにまくし立てる。
「近いうちに必ず、ローラン陛下に愛妾を持つよう進言する廷臣が出てくるぞ。義姉上がお払い箱になるだけならまだマシだけどな。我が国の立場はどうなるか──かなりまずいことになるに決まってるだろうが」
脅すような低い声に、セシリアは返す言葉を失った。
(この様子だと、ターナー夫人のことも知っているわよね)
薔薇夫人の異名を持つ、ターナー侯爵夫人ミアリーの鮮烈な美貌が脳裏をかすめた。
ターナー夫人は若くして未亡人となった悲運の女性だが、気さくな人柄で知られており、絶世の美貌との落差も相まって、人々の心をまたたく間にとりこにする。ローランもその一人だった。
「これはお願いなんかじゃない。命令だ。ローラン陛下との子どもを一日でも早く授かるための努力を惜しむな!」
ほとんど怒鳴るようにアデルは言い捨てると、その直後にはソファに倒れこむようにして酔い潰れてしまったのだった。
(……こんな調子じゃあ、離縁を言い渡されたなんて言えないわ)
散々な一日だった。
アデルと従者たちが寝静まる時間になっても、セシリアに眠りは訪れなかった。
まだ時刻は夜明け前。カーテンの隙間から窓の外をうかがうと、暗い夜空に満月がぽっかりと浮かんでいた。
(少し歩いてこよう)
このまま横になっていても、どうせ眠れないのだ。
セシリアは腰まである髪を軽くまとめて結び、ガウンを羽織って外に出た。
気分がすっきりしないときなど、たまにこうして一人で出歩いていた。
警備上好ましくないだろうが、歩き慣れた場所にしか出向かないし、ライラも黙認している習慣のようなものだった。
涼しい夜風に乗って、こそこそとした話し声が聞こえた気がしたのは、薬草園のそばを通りかかったときだった。
セシリアは足を止める。背丈より、うんと高い生垣の向こうから響く声に聞き耳を立てた。
「……だから、頼んだぞ。……──しかしだな」
「それは……だったのですから……」
声が小さすぎて、会話の内容はほとんど聞こえない。
セシリアは生垣の隙間から向こう側をのぞいてみた。
男が二人、立ち話をしているのが見えた。
(あれは……ウェイド?)
でっぷりと腹が突き出た中年男のほうは、最近繰り上がったばかりの新宰相ウェイドで間違いない。
煌々とした月光に照らされた、もう一人の男のほうは知らない顔だったが、文官の制服に、鮮やかな若葉色の腕章を巻いていた。任官から一ヶ月未満の新人であることを示すものだった。
「しっかり勉強してもらわんと困るぞ、ピート」
ウェイドに叱咤され、ピートと呼ばれた若い文官が「はい」と、しおらしく頷いたところで、セシリアはその場を離れようと足を一歩引いた。
(ウェイドの推薦で城勤めに入った新人が、なにか仕事でやらかして、特別指導中ってところみたいだけど……。こんな夜中だからって、盗み聞きはよくないわよね)
きた道を戻ろうと、セシリアはさらに数歩あとずさるが、うっかり小枝を踏んでしまった。
「誰だっ!」
小枝を踏み抜く乾いた音にウェイドが誰何する。しかし、この薬草園も含め庭園のすみずみまで知り尽くしたセシリアにとって、この場から逃げきることなど造作もない。
(うまく撒けたかしら)
たびたび肩越しに振り返り、背後を確認しながら離宮へと戻る途中、人工湖を通りかかった。
王城から少し離れた場所にある人工湖が、百年以上前に防火目的で造られたものだとセシリアに教えてくれたのは、ローランだった。
他に水路が確保され、定時巡回経路からもはずれて数十年が経過した現在、誰も寄りつかないさびれた場所となっていたが、王都を囲む森に住まう野鳥が水遊びに飛来する、風光明媚な穴場と化している。
「──いい景色ね」
穏やかな春風が吹き抜ける湖のほとりに立ち、独り言のように小さく呟く。
静かな湖面が鏡となって、夜空を飾る欠けひとつない月を映し出していた。
『俺と結婚するか?』
この人工湖でローランにそう訊かれたのは、六年前のことだった。
当時第三王子だったローランが、まだ国軍に籍を置いていた頃だ。
『はい。ローラン様と結婚します』
ターナー夫人のことが頭をかすめたが、こんな機会は二度とないと思って返答したセシリアの頬は、赤く染まっていたに違いない。
やがて王妃となり、離縁を言い渡されてしまう日がくるなんて、これっぽっちも想像せずに──。
「──……こんなもの、使うつもりはなかったけど……」
離宮に戻ったセシリアは、アデルに押しつけられた小箱の蓋を恐る恐る開けてみた。
世界中のありとあらゆる災いを封じたという、決して開けてはならない箱を開けるかのように勇気を振り絞ったのだけれど、中に収められていたのは、なんの変哲もないクリスタルガラスの小瓶だった。
媚薬を使うなんて、絶対に駄目。ローラン様をだますのと同じことじゃない。
強い拒絶の気持ちで小瓶を摘まみ上げてみる。
栓が施された小瓶の中で、無色透明の液体が揺れるのを見つめるセシリアの頭の中に、ローランの声が反響した。
──君と離縁する。
(嫌だ。ローラン様と別れたくなんかない)
いつのまにか汗ばんでいた掌で、媚薬の小瓶をキュッと握りしめたのだった。
*
母の顔は覚えていない。
母が亡くなったのは、セシリアがたった三歳のときだったから。
喪が明けきらないうちに後妻をめとった父王は、彼女とその取り巻きの言いなりで、セシリアを空気同然の存在しない人間として扱った。
そもそも父王は政略結婚だった母を愛していなかった。
身分差で結ばれなかった昔の恋人を忘れられず、喪中だというのに新王妃として迎えてしまった。
新王妃となった義母の画策で亡き母の実家が没落すると、後ろ盾を完全になくしたセシリアの扱いは輪をかけて苛烈さを増し、その日の食事にも事欠くありさまだった。
どうにか命を繋げたのは、まだ母が実家で少女時代をすごしていた頃から、長らく仕えていたライラが侍女を続けてくれたおかげだ。
「セシリア様のお嫁入先にもついていって、必ずや、お守りいたしますからね」
それがライラの口癖。
「ふふ、頼もしいわね」
と答えるものの、内心では完全に諦めていた。
(お嫁になんて行けるわけがないのに)
こっそりため息を吐きながら見回した自室は、かつて物置部屋として使われていた場所。
王城最北に位置するその空間は常に湿っぽかった。夏はどこからともなく虫が侵入し、冬は隙間風で手がかじかむ、王城中の不快を集めたような嫌な場所だった。
そんな劣悪な環境に放りこまれれば、義母と父王にとっての自分は憎しみの対象ですらあったのだろうと嫌でも気づく。
正確に言えばセシリアの実母が憎まれていたのだろうが、その忘れ形見である第一王女の存在は、どれだけ丁寧に洗濯しても絶対に落ちない頑固な染みのように、忌々しいものだったに違いない。
(まるで飼い殺しの家畜じゃないの)
食料となりうる家畜のほうがまだ人の役に立つというものだ。
王女としての責務はおろか、日がな一日ぼんやりとすごすセシリアは、要するに家畜以下。存在価値のない王女をめとろうとする勇者などいるはずがない。
私は死ぬまで物置部屋から出られないんだろうな。
そんな空虚を心に抱えたセシリアにとって、隣国ラストヴァルに向かうこととなったのは、まさに青天の霹靂だったのである。
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