【試し読み】異世界転職! 週休二日賞与有り、退職金は10億円!?
あらすじ
金持成美、21歳。名前と真逆にド貧乏人生。両親を亡くし天涯孤独。不運に背負った借金を返済し続けている。やっと好条件で正社員採用されたはずが、初出勤日に失業の憂き目。そんな成美の前に奇妙な求人広告が……!? 『急募! 健康な成人女性! 履歴書不要、人柄重視! 週休二日賞与有り、衣食住完備! 退職金は10億円!』 あまりに現実味がないと思いつつ魔が差してアクセスしたら──そこは異世界!? 高飛車な美少年トゥールが現われ、彼の子供を産むことが仕事内容だという。お金のために子供を産むなんて無理!と辞退したい成美だったが、トゥールとの暮らしが居心地よくなってきて……!?
登場人物
天涯孤独で借金の返済に追われる日々を送っていたある日、奇妙な求人広告を発見して…
トリップ先の異世界で出会った少年。中性的で美しい外見とは裏腹に、高飛車で自信家。
試し読み
プロローグ
こちらの世界で七十七億人〝も〟いる『人間』の一人である【彼女】は、高給で好待遇な職を求めていた。
あちらの世界で七十七人〝しか〟いない絶滅危惧種の『人間』である【彼】は条件に合う『人間』を求めていた。
彼等の出会いは奇跡であり、運命的ですらあった──のに、彼女と彼の関係は被雇用者と雇用者で、ロマンチック感ゼロのビジネスライク。
だから、遅れてしまった──自分の気持ちに、蓋をして。
ゆえに、戸惑ってしまった──揺らぐ心を、言い訳で支えて。
「なんで? 高額な報酬の仕事だからって、なんでここまでするの!? あなたに何かあったら、わたしっ……」
聖堂に描かれた天使の如く美しい顔を己の血で染め、仕事から帰宅した彼の姿を目にした途端、彼女の心臓が悲鳴を上げた。
また失うかもしれない恐怖と悲しみが怒りになり、いたわりの言葉を素直に口にすることができない。そのことに彼女は自己嫌悪し、唇を噛んだ。
「わたしは、わたしはっ……あなたが死んだりしたら、困るのよ! 十億円、ちゃんと支払ってもらわないとなんだから!」
それが恋だと気づくには、失い続けた彼女の心は渇き過ぎていて。
「……金のことは心配無用だ。俺が……死んだ、ら魔術が発動しっ……お前は十億相当の金塊と共に、あちらの世界に送還される手はずに……なって、いる……」
「え?」
「俺を……誰だと思っているんだ? 契約金が史上最高値の男、トゥール=ヴィーレーン様だぞ?」
これが愛だと知るには、孤独に慣れた彼の心は硬くなり過ぎていて。
「この世界の、ことなんか……俺のことも……綺麗さっぱり、全部忘れっ……て」
脳に浮かんだ言葉と、口から出た言葉が合致せず。
「幸せに……なれ、なってくれ……」
やっと見つけた大切な存在を彼等は失う────のだろうか?
第一話 嘘でしょう!? 出勤初日に無職になっちゃうなんて!
十億円と、漢字表記されるよりも。
¥1,000,000,000と、数字のほうがより高額に感じてしまうのは、0の羅列による視覚へのインパクトのせいかしら?
まぁ、わたしの通帳に9個もの0が存在したことはないし、これから先も決してないと断言できる。これには多くの日本国民が、同意見のはず!
十億円なんてお金は、庶民には宝くじで当選しない限り一生縁のない金額だもの。
妄想の域に達した十億円よりも、目先の一万円のほうがわたしには価値がありますから! だから、わたしは地道に働いてます。そして、一円でも多く安定して稼ぐために転職を希望しています!
そう、転職!
自ら望んでする人もいれば、諸事情により仕方がなくする人もいるし、転職するにあたって重視することは個人個人によって違う。
給与や福利厚生などの待遇を重視する人、いままで身につけた知識や技術のスキルアップを目指す人。やりがいを求める人、社会の役に立ちたいと望む人、etc.。
求職者は「これだ!」と感じた求人に応募し、将来への希望に満ちたきらきらした瞳で面接担当者に仕事への情熱を熱く語る……でも、わたしには今まで一度もそれができていなかった。
だってわたしにあるのは仕事への情熱ではなく、お金への欲望オンリーだから!
転職で重要視するのはお給料! そう、お金、money!
わたしが夢や理想よりお金に執着するようになったのには、理由がある。
先月の誕生日で二十一歳になった成美の名字は、『金持』だ。
『金持』という家名に相応しく、東京都内の高級住宅地に建つ白亜の豪邸で生まれ育った。
その地域でも有数の資産家だった父は一代で成り上がり会社を経営、母は元キャビンアテンダント。優しい両親と何不自由なく暮らす〝お嬢様〟だった。
でも、それは過去の話で……今現在、わたしはお金持ちのお嬢様じゃない。
はっきり言えばお金持ちどころか、借金持ち!
この歳で約一千万円借金を抱えるド貧乏女だ。
その借金を作ったのはわたしじゃないし、もちろん、亡くなった両親でもない。借金の元凶は、父の友人だったA氏だ。
娘のわたしから見ても心配になるほど、父は良い人だった。成り上がりとは思えない、とても温厚な性格で人を傷付けたり、疑うこともできないほど善人だった。
そんな父の性格をよく知っていたA氏は土下座一つで父を連帯保証人にして新規事業立ち上げのためだと多額の借金をし、半年後に音信不通、行方不明になった。
今思うとすべてはA氏の計画で、最初から父に借金を肩代わりさせお金を持ち逃げするつもりだったのだろう。
父は騙され、信じていた友人に利用されたのだ。保証人だった父は負債返済のため、経営していた会社も都内一等地にあった持ち家も、ガレージに整然と並んでいた高級車も……すべての財産をいったん手放し現金化し、返済にあてることにした。
その額はA氏の借金額を充分に上回り、手元に残ったお金で今までのように贅沢な暮らしは出来なくとも、今後も家族三人が慎ましく暮らしていけるはずだったのに──。それができなかったのは、A氏がお金を借りた先が銀行ではなく『投資家B氏』だったから。A氏の借金はB氏からとある消費者金融へ……『niconicoファイナンス』へと流れていった。
結果、半年間で借用証の金額は、実際に借りた金額の数倍のものに膨れ上がっていた。
犯罪的な金利に、さすがに父も弁護士をたてて争おうとした。
そして、母と共に弁護士事務所へ向かう道中、多重事故に巻き込まれて亡くなった。
当時十七歳だったわたしは世間知らずなお嬢様で、富裕層から落ちた環境の変化と両親が亡くなったショックで心神衰弱となり、治療のために入院した。
その間に、両親の葬儀は今まで一度も会ったことのない親戚によって済まされていて、退院したわたしに残されていたのは両親の位牌と、葬儀代とお墓代として多額のお金を引き出された通帳で……。葬儀代の相場など知らないわたしは、親戚にお金を騙し取られたことも気付かず、葬儀をしてくれたこと、お墓を準備してくれたこと、一人で生活するアパートを紹介してもらったことに深く感謝していた。
ちなみに、その親戚は自称親戚で、詐欺を生業にしている赤の他人と知ったのはつい最近だ。十七歳のわたしは財産も両親も失い、消費者金融……違法な闇金の金利であれよあれよと膨れ上がった借金は、詐欺師にお金を取られたために返済しきれず、残った一千万円を背負った。
自活しなくてはならなくなったわたしは、寝る間を惜しんでバイトに明け暮れた。返済のお金だけじゃなく、生きていくための生活費も必要だから、毎月利子分を支払うだけで精一杯。だから、元本が十七歳の時から一円も減っていない。
※この続きは製品版でお楽しみください。