【試し読み】覚えてないから、女王辞めていいですか!?

作家:高久ややこ
イラスト:里雪
レーベル:夢中文庫プランセ
発売日:2020/6/12
販売価格:500円
あらすじ

ベロニカは目覚めてびっくり! 残っているのは16歳までの記憶で、忘れている十年の間に自分はアバスカル王国の女王になっていた!? しかもベロニカは無類の年上好きなのに、冷静沈着で苦手な年下の天才少年ティベリオ・バルビエリと結婚したと知って大パニック! 自分が女王になっているということは──ベロニカを溺愛してくれていた兄の前国王も亡くなった!? もしかして自分が原因……?と疑心暗鬼に。そして、いけ好かない夫との夫婦としての記憶も生活も取り戻したくないベロニカは、なんとか逃げ出そうと画策。けれどティベリオは執着心を剥き出しにしてきて!?

登場人物
ベロニカ
目覚めた時には16歳までの記憶しかなかった。忘れた十年間の出来事を知り大パニック。
ティベリオ
常に冷静沈着で、天才少年と称えられていた。現在は宰相でありベロニカの夫。
試し読み

プロローグ

 大陸で最も古い五百年の歴史を持つアバスカル王国。
 その王女として、ベロニカは生まれた。
 老いた国王の若く美しい妾妃が産んだ王女、それがベロニカだ。
 その時、国王アンブロシオは六十五歳。一人息子で皇太子のレオカディオは、すでに四十歳間近であった。周囲は驚きながらも、愛らしい王女の誕生を大いに祝福した。
 アンブロシオがそれまでに得た子供は、すでに他界した王妃の産んだ王子が一人。王子一人だと王位継承争いが起こることはないが、その王子に万が一の事があった場合、次の王位を巡り混乱と争いで国が荒れる怖れがある。そして、皇太子レオカディオと妃の間に子供はいない。王位継承権第二位となる王女ベロニカの誕生は、国にとって重要で意味のあるものだった。
 アンブロシオ王は病弱だった妾妃が己の命と引き替えに産んだ、自分と同じダークブロンドとヘーゼルの瞳を持つベロニカを溺愛し、娘と過ごす時間を増やしたいと王位を息子のレオカディオに譲り……五年後、この世を去った。
 その後、異母兄であるレオカディオも親子ほど歳の離れた妹王女を、可愛がり甘やかした。兄のレオカディオも、ベロニカを眼の中に入れても痛くないほど大切にした。
 その可愛がりようは、レオカディオの妃がベロニカの本当の父親は彼ではないかと疑うほどだった。
 祖父のような年齢の父アンブロシオと、父のような年齢の兄レオカディオに愛情を注がれて育ったベロニカは、自他共に認める『無類の年上好き』に成長した。
 ベロニカは同世代の異性に興味を持つことはなく、ましてや年下など眼中にない。
 眼中にないどころか、異性として男としてみることもない。ベロニカにとって『男』とは、最低でも十歳は年上でなければならなかったのだ。

第一話 最悪な一日。

「…………んんっ~」
 爽やかさの中に優雅な甘さを抱いたネロリの香りに導かれるように、ベロニカは目覚めた。
「あぁ、良い香り……ふぁあ~……少し腰が痛いわね。寝過ぎちゃったんだわ、きっと……あら?」
 彼女の寝ていたそこは、いつも自分が使っているベッドではなかった。
 普段、彼女の使用している寝具は東洋の緋牡丹ひぼたんを大きく刺繍した豪華絢爛けんらんなものだ。
 今、目覚めたばかりのベロニカの父親譲りのヘーゼルの眼に映っているのは、落ち着いた藍色の寝具だった。夜の闇に海の青を流し込み、丁寧に練り上げたような藍色はベロニカの象牙色の肌の美しさを引き立てている。気品が有り、大人の女性に相応しいものだった。艶も肌触りも良い極上のシルクで作られ、王女であるベロニカにも解る一級品ではあるが、如何せん色が彼女の好みではない。
「品良い色だとは思うけれど、十六歳のわたしにはまだ似合わないわ」
 男は落ち着いた年上が好きなベロニカだったが、身の回りの品物や衣類は鮮やかで派手な色を好む。こんな地味な色合いは、ベロニカの趣味ではない。
 しかも、このネロリの残り香……ベロニカが最近使用している香油は薔薇であって、ネロリではない。このベッドの持ち主は、ネロリの香油や香水を好む人物だろう。
「わたしのベッドではないわね……なぜかしら?」
 寝心地の良い天蓋付きのベッドはキングサイズよりさらに広い。どう考えても特注品だ。枕の数からしても、独り寝に使う物ではなさそうだ。
「ここは……」
 上半身を起こすとその動きに合わせ、クセのない真っ直ぐな長いダークブロンドの髪がさらりと流れた。
「…………お兄様が長いのがお好きだから伸ばしてるけれど、少し切ろうかしら?」
 ベロニカは父親譲りの美しい髪をうっとうしげにかき上げ、周囲を見回した。
 彼女の自室より広く、壁には扉が五カ所。両開きの扉は出入口、右奥の扉は書斎への扉、左手前は隣室へ繋がる扉、左奥の扉は浴室、一番近くの扉は簡易衣装室。そして、大きな窓の外には庭園に面したバルコニー。彼女はこの部屋を、よく知っていた。
「ここはお兄様の……国王陛下の寝室ね」
 十歳までこの部屋で、兄と寝起きしていた。壁に飾られた猛々しい赤い竜の大型のタペストリーは、国王の寝室の証だった。
「お兄様、ネロリの香油を使うようになったのね。ふふ、わたしの大好きな香りだわ……」
 父の死後、ベロニカの兄レオカディオは王妃ではなく、幼い妹のベロニカと寝ていた。
 もちろん、純粋に寝ていただけ。行き過ぎた過保護のせいであって、近親相姦などのやましいことなど何もない。この兄の異常なまでのベロニカ至上主義に家臣達は辟易しつつも、それ以外は特にこれといった問題のない、いや、それどころか非常に有能な国王であることから、ベロニカへの溺愛をいさめる者はいなかった。
 だがそのせいで王妃には別の部屋が与えられることになり、そんな仕打ちを受けた彼女がベロニカに嫉妬し憎むのは当然であり仕方がないことで……レオカディオと義姉デルーミアの間は冷え切っていた。
 成長した今は兄と同じベッドで眠ることはないが、ベロニカは自分が義姉である王妃に嫌われていることを自覚している。王妃に冷たくされても、そうさせてしまったのは兄レオカディオに甘えていた自分が悪いと思っているので、申し訳なく思うことはあっても恨むことはなかった。近年、ベロニカは兄と距離をおくことを心がけている。だから、この部屋に入ったのは久しぶりだった……。
「お兄様、いつの間にお部屋の模様替えをなさったのかしら? 壁の色もカーテンも家具も寝台も、室内の物すべてを替えるなんて……これって、義姉様の趣味なのかしら?」
 隣国のグラノジェルス王国から嫁いできた王妃は、普段の装いから明るい色合いの物を好むとベロニカは考えていたが、思い違いのようだった。
「わたしの趣味ではないけれど不思議と落ち着くし、居心地が良いわ」
 ふぅ、と息を吐いたベロニカは、一度起こした上半身を再び寝具へと戻した。背に当たる感触は硬過ぎず柔らか過ぎず、彼女の好みの硬さだ。
「寝心地最高! そうだわ! わたしもこのベッドを製作した工房に、新しいベッドを注文しっ……」
 ──コンコン。
 控えめなノック音が、ベロニカの言葉を止めた。ベロニカの返事を待つことなくそれは押し開かれた……驚愕より、歓喜の色の濃い表情の侍女の手によって。
「失礼いたしまっ……べ、ベロニカ様!?」
 三十代前半であろうその侍女は、国王付きの侍女である証の深緑色の侍女服を着ていた。
 ふくよかで、その顔は美しさではなく愛嬌が勝っている。ベロニカは国王付きの侍従と侍女を全員の顔を知っているわけではないが、この特徴的な侍女ならば一目でも見ていれば忘れることはないという自信があった。なのに、この侍女のことは記憶にない。こんなにも存在感のある侍女なのに、見覚えが全くない。
「あなたの名前は?」
「え? 私の名前ですか!? エ、エメリーナですわ、ベロニカ様っ……」
 ベロニカを食い入るように見つめ、エメリーナと名乗って顔色を変えた。信じ難いものを見るようなその視線は、ベロニカに疑問と不快感を与えた。
(自分の名前を知らないことに、こんなに驚くなんて。この侍女は自意識過剰なのかしら?)
「…………エメリーナ。わたし、着替えたいんだけど?」
「ベロニカ様! 閣下をお呼び致しますわ! しょ、少々お待ちくださいませっ!」
「は? 閣下? 誰よ、それ? 呼ぶならお兄様を、陛下を呼んできてちょうだっ……ちょ、ちょっと!? 待ちなさっ……あ~ぁ、行ってしまったわ」
 興奮した様子の侍女はベロニカの言葉を聞かず、開けたばかりの扉から走り去ってしまった。さすがに寝ている場合ではないと、起き上がったベロニカは。
「あら?」
 自分の着ている夜着が見覚えのないものだということに、今更ながら気づいて首を傾げた。
「わたしの物ではないのに、わたしのために作られたとしか思えない着心地の良さなんて……なんだか、少し気味が悪いわね」
 ラベンダー色の夜着は光沢のあるシルクで、袖や裾にはレースがあしらわれている。
 しっとりと肌に馴染み、ベロニカの肢体を包み込んで……豊かな胸とその先端が、生地を押し上げていた。
「……あら?」
 気のせいだと思うが、急に自分の胸が大きくなっているような感覚がした。
 成長が加速する年頃だと、侍女頭のトニアに諭されたばかりだったが……成長期とは乳房が一晩でこんなにも育つものなのかと、ベロニカは感心してしまった。
「成長期って凄いのね……。この胸の大きさに合わせて、手持ちのドレスもぜんぶ作り直さないと!」
 胸が一晩で育つなど有り得ないことだったが、ベロニカは基本的に大雑把であり……幸か不幸か、細かいことは気にしない〝得〟な性格だった。
「あ! ついでだから新しいドレスも作ろうっと♪ そうね……せっかく胸が大きくなったのだから、以前のデザインよりもう少し大人っぽい感じのが欲しいわね!」
 そして、恐ろしいほど楽天的で前向きな思考の持ち主であり、好奇心も旺盛だった。
「我ながら素晴らしいおっぱいね……どれどれ?」
 ベロニカは夜着の上から自分の両胸をすくい上げるように持ち、その大きさと重さを自らの手で確認した。
「きゃあ、すごい! これなら寄せて上げなくても、谷間ができちゃうわ!」
 その瞬間だった。
 ベロニカの頭の中で、声がした。

※この続きは製品版でお楽しみください。

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