【試し読み】背徳の甘き毒 眠りの黒い森
あらすじ
十七歳の姿のまま六十七年の眠りから目覚めた、辺境伯令嬢エリノア。兄のイザークに生き写しの青年イヴァンから、家族や密かに慕っていた兄も亡くなったと聞き、衝撃を受ける。その夜、食物や水でも癒えぬ飢餓感に懊悩するエリノアの元に彼が現れ、「君は〝黒い森〟で倒れて以来、人の精気を糧にする身になった」と告げる。信じがたい話だったものの、彼の血を舐めると確かに飢餓感は消えた。もっと効率よく与えられる方法がもう一つある──イヴァンはそう言って、エリノアを強引に抱く。兄と瓜二つの彼が与える精気は甘美で、背徳感をおぼえつつ夜ごと溺れていくエリノア。しかし人外であることに苦しむエリノアの前に、不死者が現れ……。
登場人物
六十七年の眠りから目覚める。歳を取らず人の精気を糧にする人外の身になったと知り、困惑する。
エリノアの兄・イザークに瓜二つの青年。飢えを満たす方法としてエリノアを強引に抱く。
試し読み
*プロローグ
──ふいに誰かに呼ばれた気がして、エリノアは目を覚ました。頭にぼんやりと霞がかかったようになっていて、考えが覚束ない。
(ここは……どこなの? わたしは……)
どうやら自分は、大きな天蓋付きのベッドに横たわっているらしい。
室内に灯された控えめなランプの明かりで、周囲の様子が見える。ベッドの四方から垂れ下がる布はたっぷりのドレープを作り、白い薄布と共に金色のタッセルでまとめられていた。
柔らかな印象のクリーム色の壁には多くの絵が掛けられ、艶のあるマホガニーの家具やあちこちに生けられた瑞々しい花が、ロマンチックな雰囲気を醸し出している。
女性らしく豪奢な部屋には見覚えがあるような気もするが、ないようにも感じた。自分がどこにいるのかがわからないエリノアは、じわじわと不安になった。
ゆっくりとベッドに上体を起こした瞬間、クラリとした眩暈をおぼえる。身体に力が入らず、どうにか足を下ろしたものの、立ち上がるのに失敗して床に倒れ込んだ。
打ちつけた膝と手のひらに、強い痛みが走る。
「……っ」
(どうして? 脚が……)
脚だけではなく腕にも力が入らず、床から起き上がることすらできない。まるで歩き方を忘れてしまったような感覚に、エリノアはひどく混乱した。
どうにか肘で上体を起こし、重い身体を引きずって部屋の扉を目指す。歩けばすぐの距離なのに、這いずることしかできない身体では、扉までがかなり遠く感じた。
やがてようやく扉まで辿り着いたエリノアは、震える手で扉を開けて廊下に出る。人気のない廊下は暗く、しんとして底冷えがしていた。
身体に力が入らない上、自分がどこにいるのかもわからない。そんな状況に次第に恐怖がこみ上げ、目に涙がにじんだ。
(怖い……誰か、誰かいないの……?)
手も身体も、床からの冷気でどんどん冷たくなっていく。
そのとき廊下の向こうにチラリと明かりが揺れ、声が響いた。
「……お嬢さま……?」
燭台を手に螺旋階段から現れたのは、痩せた老齢の男だった。自分を見つめる眼差しに驚愕とかすかな畏怖を感じ、エリノアは不審に思う。
(どうして……なぜわたしを、そんな目で見るの……?)
部屋からここまで這いずって来たが、萎えた身体にはそれが限界だった。強い疲労感に襲われ、エリノアはそのまま吸い込まれるように意識を失った。
* * *
「……目を覚ましたって……?」
突然駆け込んできた者の言葉に、部屋の主である黒髪の青年が驚きの声を上げる。
そこは重厚な雰囲気の、執務室だった。老齢の城代が動揺しながら説明する。
「先ほど見回りに行ったところ、部屋から這いずって廊下までお出になられておりました。しかしわたくしの顔を見てすぐに意識を失われましたので、ベッドにお寝かせし、急ぎ旦那さまにご報告に参った次第です」
立ち上がった青年は、大股で執務室を出ると廊下を進む。
普段は限られた使用人しか立ち入ることを許されていない尖塔の最上階に、目的の部屋はあった。
扉を開け放つと、中は美しい調度が並び、女性らしい雰囲気にしつらえられている。中央にある大きな天蓋つきのベッドに、一人の少女が横たわっていた。
波打つ長い金の髪、透けるように白い肌、華奢な身体つきの少女は、ハッとするほど整った顔立ちをしている。眠っている彼女は、一見すると〝いつもと同じ〟に見えた。だがよく見れば白い頬には若干の赤味が差し、髪も少し乱れている。これまでなかった生気が確実に感じられ、青年は信じられない思いで少女を見つめた。
「……マルセル、悪いが少し出てもらえるか?」
頷いた城代が部屋を出ていき、青年は少女に向き直る。眠る顔を見つめ、彼は静かに呼びかけた。
「…………。エリノア」
彼女は目を覚まさない。青年はその事実に、複雑な気持ちを味わう。
(本当に……起きたのか)
彼女──エリノア・ユーリエ・グロスハイムは、気が遠くなるほど長く眠り続けていた。
これまでどんな手を尽くしても眠りから覚めず、まるで美しい人形のように毎日髪を梳かして身なりを整えられ、ベッドに横たわり続けているのが常だった。
報告してきた城代のマルセルは、代々グロスハイム家に仕えてきた一族の者だ。最も信頼のおける彼の言葉は疑う余地がなく、青年はじっとエリノアの顔を見下ろす。
(もしもう一度、エリノアが目を覚ましたら……)
そのとき自分は、どんな顔をしたらいいのだろう。
やがて部屋から出ると、廊下にマルセルが控えていた。青年は彼に向かって言った。
「また目を覚ますかもしれないから、彼女の傍に誰か置いてほしい。……イェシカは宿下がり中か」
マルセルの娘のイェシカはこの城に仕える優秀な召使いだが、出産間近のため先週から宿下がりしている。マルセルが頷いて答えた。
「わたくしの妻のレナーテを呼びましょう。お嬢さまのお世話は、滅多な者には任せられません」
「ああ、頼む」
暗い廊下を歩き、階段を下りながら、青年はチラリと老城代を振り返った。
「エリノアが目覚めたら、真っ先に僕に報告するように。──すべての説明は僕がする。彼女に余計な情報を与えるな」
「承知いたしました」
*第一章
目を覚ましたとき、カーテン越しに明るい朝の光が部屋に差し込んでいるのが見えた。
頭に紗が掛かったようで、ひどくぼんやりしている。だが少し前にも自分がこうして目を覚ましたことを、エリノアは思い出した。
ゆっくりと視線を巡らせると、ベッドの脇には一人の老女が座っている。彼女はふくよかな身体を地味な色のドレスで包み、肩にショールを掛けていた。
その顔に見覚えはなく、エリノアは思い切って口を開く。
「……あなたは一体、どなた……?」
絞り出した声は、まるで久しぶりに発声するかのようにかすれていた。
そんな自分に戸惑いつつベッドに起き上がろうとするエリノアの背を、立ち上がった老女が優しく支える。
「わたくしはレナーテと申します、お嬢さま。お嬢さまのお世話をするよう仰せつかった者です。ただ今旦那さまをお呼びいたしますが、その前にお顔を清められますか? 殿方の前にお出になるのですから、御髪も簡単に整えたほうがよろしゅうございますね」
旦那さま──というのが誰なのか、エリノアにはわからない。頭がぼうっとしていて、何も思い出せなかった。
エリノアはレナーテに問いかけた。
「ごめんなさい……わたし、寝起きで頭がぼうっとしている上に、何だかフラフラしていて。ここは一体どこなの?」
混乱しながらも抑えた口調で問いかけるエリノアに、レナーテが申し訳なさそうな表情を浮かべる。彼女は答えた。
「申し訳ございません。すべては旦那さまがご説明するとおっしゃっておられますので、わたくしからは何も申し上げることはできないのです」
「あの……旦那さまって」
「ああ、お嬢さまの配偶者という意味ではございません。この城の主で、ベルンシュタイン地方を治められる、辺境伯でいらっしゃいます」
ベルンシュタイン──という地名には、聞き覚えがある。エリノアはレナーテを見つめて言った。
「このお城は、何という名前なの?」
先ほどは「何も答えられない」と言っていたレナーテだが、それくらいは教えてもいいと判断したらしい。彼女は穏やかに答えた。
「──ここはベルンシュタイン辺境伯がお住まいになる、ブルヒアルト城です」
レナーテの手伝いを受けながら、エリノアは洗面器を使って顔を洗い、髪を整えた。レナーテは長く召使いとして仕えてきた者らしく、作業が丁寧で手際が良い。
しばらくすると部屋の扉がノックされ、一人の青年が入ってきた。その姿を見た瞬間、エリノアの心臓がドクリと音を立てる。
「あ……」
──癖のない漆黒の髪、琥珀色の瞳、そして鋭さを感じる端正な顔と鍛え抜かれた長身。それにはひどく見覚えがある。
気づけば勝手に、言葉が口を突いて出ていた。
「お、兄さま……」
頭の中に掛かっていた紗が急に取り払われたかのように、エリノアの思考が正常に動き出す。
目の前にいるのは、エリノアの兄のイザークだ。幼い頃から一緒に育ったのだから、間違いようがない。
しかし〝兄〟を前にして安堵する一方、エリノアは突然強い不安に苛まれた。自分は何か、重大なことを忘れているような気がする。思い出すのも恐ろしい、忌まわしい何かを──。
(わたし……わたし、は……)
「──エリノア?」
ベッドに近寄ってきた青年が、じっとエリノアを見下ろしている。彼はその顔に驚きの色を浮かべてつぶやいた。
「本当に目が覚めたなんて……信じられない。君がこうして起きて、話をしているなんて」
(……君?)
青年の呼びかけに、エリノアはふと違和感をおぼえる。
兄はいつもエリノアを、〝お前〟と呼ぶ。兄であるはずの目の前の青年は、態度がどことなく他人行儀に感じた。
戸惑うエリノアを見つめ、青年はベッドの脇の椅子に腰を下ろして言った。
「起き抜けに混乱しているところを悪いが、訂正させてくれ。僕は君の兄のイザークではない」
「えっ?」
「僕の名は、イヴァン・ヘルムート・フォン・グロスハイムだ。祖父は君の弟のエヴァルト──つまり僕は、君の又甥に当たる」
エリノアは驚き、目の前の青年を見つめた。
エヴァルトは確かに、エリノアの弟だ。しかし彼はエリノアの四歳年下のため、現在十三歳で、孫がいるような年齢ではない。
ふいに青年に左手を握られ、エリノアはビクリと身体を震わせた。間近で見ても、彼の整った顔は兄としか思えない。
青年──イヴァンはエリノアと視線を合わせ、ゆっくりと言った。
「信じられないかもしれないが、よく聞いてほしい。君が目覚めたのは、六十七年ぶりだ。君は十七歳の姿のまま、年老いることなく……ずっと眠り続けていたんだ」
あまりに荒唐無稽な話に、エリノアは思わず言葉を失くす。
最初の衝撃が過ぎ去り、やがてエリノアは小さく笑いながら「……嘘よ」と言った。
「どうしてそんな冗談……お兄さま、ひょっとしてエヴァルトと一緒にわたしを騙そうとしているの? だとしたらひどいわ。そんな話、信じるわけがないのに」
「……エリノア」
「エヴァルトもきっと、その辺に隠れているんでしょう? 出ていらっしゃい、わたしは怒ったりしないから──」
エリノアは笑って扉のほうを見やる。
しかしイヴァンは椅子から立ち上がると、エリノアの二の腕をつかんだ。そして強引に視線を合わせ、強い口調で言う。
「エリノア、嘘じゃない。信じられない気持ちはわかるし、突然こんな話を聞かされて混乱していると思う。だが僕が君の兄ではないことも、君が六十七年眠り続けていたことも、どちらも本当の話なんだ」
「────」
真剣な顔でそう告げられ、エリノアは呆然と彼を見上げた。
(六十七年……眠っていた? 年老いることなく? 嘘よ。そんな話、信じられるわけがない……)
ふと視線を巡らせ、エリノアはイヴァンの背後に控えていた痩身の老人と目が合う。
その顔をじっと見つめたエリノアは、彼が最初に目を覚ましたときに廊下で自分を見つけた人物だと気づいた。
エリノアを見つめた老人が懐かしそうに目を細め、「お嬢さま、わたくしに見覚えはございませんか」と問いかけてくる。
「えっ……?」
「わたくしはこの城で育ち、やんちゃをしていた幼少時には、いつも不手際をお嬢さまに庇っていただきました。階段の踊り場にある高価な骨董の壷を割ってしまったときも、お嬢さまはご自分がやられたとおっしゃって」
使用人の子どもの不手際を庇った覚えは、何度もある。弟の格好の遊び相手だったその少年は、エリノアにとってもう一人の弟のような存在で、くすんだ金髪にひょろりとした体型の子どもだった。
「……マルセル……?」
恐る恐るつぶやくと、老人がうれしそうに破願した。
「さようでございます、お嬢さま。これほど長い年月が経ち、再び言葉を交わせるようになったとは……感無量でございます」
エリノアはますます混乱していた。
自分が知るマルセルは、十歳の少年だ。このように背丈があり、丁寧な口調で話す痩身の老人などではない。
だがくすんだ金髪とその顔立ちには確かにマルセルの面影があり、懐かしそうに涙ぐむ姿が嘘だとは思えなかった。
(六十七年も経っただなんて……わたしは今、八十四歳ってこと? 眠り続けていたのが本当だとしても、まったく老いもしないだなんて、そんなことがありえるの……?)
もしありえるとしたら、それは既に、人の理から外れた存在ではないだろうか。
そう考え、混乱を極めたエリノアは、自分の身体を抱きしめる。身体の奥底から震えがこみ上げて、とても平静ではいられなかった。
エリノアは視線をさまよわせながら小さな声で言った。
「ごめんなさい。どうかわたしを……一人にして」
押し殺した声で告げるエリノアを、イヴァンがじっと見つめてくる。彼は息をついて言った。
「──わかった。急に思いもよらぬ話をされて、君も混乱しているだろう。追々さまざまなことを教えていこうと思うが、今日はやめておく」
「…………」
「しかし、これだけは知っていてほしい。祖父のエヴァルトも、僕も──ここにいるマルセルだって、君が目覚めるのをずっと待っていた。だからこうして起きて話してくれて、とてもうれしく思っている」
イヴァンの言葉に、エリノアはぎゅっと唇を噛む。
彼の言葉が真実なら、エリノアは長く家族のお荷物になっていたということだ。若い姿のまま老いずに眠り続ける娘の存在は、家族にとってきっとひどく恐ろしく、信じられないものだったに違いない。
どこから見ても〝兄〟としか思えないイヴァンが、手を伸ばしてエリノアの髪に触れてくる。ビクリと身をすくめるエリノアの髪を優しく撫で、彼が言った。
「また来るよ、エリノア。どうか悩み過ぎず……身体を労わってくれ」
ベッドに横たわり、エリノアはぼんやりと真上の天蓋を見つめる。気づけばまた眠っていたようで、時刻は既に午後になっていた。
朝、イヴァンと話をした内容を夢だと思いたかったが、どうやら現実のことらしい。エリノアの心には、戸惑いが根深くあった。自分は六十七年間、眠っていた──そう言った彼の言葉は、到底信じられるものではない。あまりに突拍子がなく、冗談としか思えない話だ。
しかし目が覚めたとき、エリノアは確かに長く眠っていたような気がして、初めは記憶すら覚束なかった。立ち上がろうとしても身体に力が入らず、床を這いずることしかできなかった。
だが老いもせず何十年も眠り続けるという話が、はたして本当にありえるのだろうか。そんな考えが頭の中を駆け巡り、エリノアは混乱する。
その後、レナーテがスープとパン、チーズを運んできたが、エリノアは食が進まなかった。ひどくお腹が空いているように感じるのに、なぜか喉を通らない。喉の渇きをおぼえ、何度も水を飲むものの、一向に治まる気配がなかった。
レナーテが気遣う口調で言った。
「きっと長くご自分で食べ物を摂取していなかったため、すぐには受けつけられないのでしょう。時間が経てば、自然と喉を通られますよ」
「…………」
彼女の言葉を聞いたエリノアの中に、ふと疑問がこみ上げる。
(六十七年間眠っていたのが本当なら……わたしはずっと、飲まず食わずでいたってこと? それとも誰かが、少しずつ食べさせてくれたのかしら)
眠っている人間に水分はどうにか与えられても、固形物を咀嚼させることは難しかったに違いない。スープ状にしたにせよ、そんなわずかな栄養で人は長く生きられるものなのか。
「あの、レナーテ……」
エリノアが疑問をぶつけようとした瞬間、レナーテが水差しを持ち上げて言った。
「新しいお水を汲んで参りますね。それからこのあと、旦那さまがお部屋にいらっしゃるそうです。どうかお待ちくださいませ」
──イヴァンが、自分に会いにくる。
そう考え、エリノアは複雑な思いにかられた。あの、どこから見ても兄としか思えない青年は、「自分はイザークではない」とエリノアに説明した。彼はエヴァルトの孫だと言っていたが、エリノアはそれを事実として受け入れられていない。
エリノアの心には、イヴァンに会って詳しい話を聞きたい気持ち、そして会いたくない気持ちの両方があった。真実ならばすべてを知りたいと思うが、知るのが怖い。一方で「真実であるはずがない」と考えている自分もいて、心の中は混沌としていた。
部屋を出て行ったレナーテがいつまで経っても戻らず、エリノアは次第に不安をおぼえる。この部屋はかつてエリノアが使っていた私室ではなく、どうやら城の尖塔の最上階にあるようだ。
調度は愛用していたものもあれば見覚えのないものもあり、美しく整えられた室内の様子からは、自分がとても大切にされていたことが伝わってくる。一体誰がこうするよう指示してくれたのかと考え、エリノアの心臓が嫌な風に跳ねた。
(そういえば、わたしの家族は──一体どこにいるの? お父さま、お兄さま、それにエヴァルトは……)
母親は幼少期に亡くなっているため、彼ら三人がエリノアの家族だ。もし彼らがこの城にいるのなら、真っ先に目覚めた自分の元に来てくれるはずではないか。
そのときノックの音が鳴り響き、水差しを手にしたイヴァンが部屋に入ってきた。
「やあ、エリノア。気分はどうだ」
エリノアは蒼白になっていた。たった今頭の中をよぎった考えが恐ろしくて、イヴァンに返事をすることができない。
そんなエリノアを見つめ、彼は気遣わしげな表情で言った。
「顔色が悪いな。喉が渇くというから、レナーテの代わりに僕が水を持ってきた。好きなだけ飲むといい」
「……ありがとう」
イヴァンが手ずからグラスに注いでくれた水を、エリノアはぎこちなく受け取る。
ベッドの横に座ったイヴァンが、じっとこちらを見つめていた。どんな顔をしていいかわからず、エリノアはほんの少しだけ水を口に運び、うつむいて手の中のグラスを気まずく握りしめる。
やがてイヴァンが口を開いた。
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