【試し読み】おじさま伯爵と奏でる激情の睦言

作家:こいなだ陽日
イラスト:ルシヴィオ
レーベル:夢中文庫プランセ
発売日:2018/11/27
販売価格:300円
あらすじ

皮膚病を患い、痕が残ってしまった伯爵令嬢のメリス。侯爵家の幼なじみと結婚し家を継ぐ予定が、「完璧な自慢の娘」でなくなったメリスを手放すがごとく、両親は別の縁談を急に決めてしまう。十八歳のメリスの結婚相手は、四十一歳のアルヴァー。いざ顔を合わせたアルヴァーは男らしく大人の色気に溢れていた。アルヴァーと過ごすうち、メリスは彼の懐深い人柄にどんどん惹かれていく。とある夜、彼のお土産のチョコレートをきっかけにふたりの仲は急接近。そこでメリスはアルヴァーが抱えた「秘密」を知るのだが──。年上のおじ様に溺愛され幸せに浸るメリス。しかしある日、婚約する筈だったメリスの幼なじみが突然やってきて──!?

登場人物
メリス
幼なじみと結婚し家を継ぐ予定だったが、腕に残った痕のせいで辺境の伯爵家に嫁ぐことに。
アルヴァー
優しく包容力があり、円熟した魅力をもつ。ある秘密を抱えていたため、今まで独り身だった。
試し読み

 メリスは十八歳の娘で、伯爵家の長女として産まれた。母親譲りの淡い水色の髪はこの世界でも珍しく、美女の証しとされている。
 絹のように滑らかで白い肌、桜色の唇、大きな瞳に長いまつげと、髪の色だけでなく、顔立ちも整っていて、まるで人形のようだ。
 そんなメリスの母親は体が弱く、メリスを産んですぐに亡くなってしまった。それから間もなく父親は再婚したが、継母は血の繋がらないメリスのことを可愛がってくれたと思う。
 二歳下となる妹も産まれ、メリスは幸せだった。継母とも、妹ともいい関係を築けている。
 ただ、父親と継母は二人とも神経質で、完璧主義だった。
 例えば絨毯が少しでもほつれようものなら、すぐに新品に取り替えさせたし、服だって汚れたらすぐに処分していた。
 いかなるものにも傷や汚れを許さず、見つければすぐに交換するので、メリスたちはほぼ新品の調度品に囲まれて暮らしている。
 メリスの家は裕福で、いくら物を買い換えたところで、生活が困窮することはなかった。──否、もし生活に影響が出ていたら、両親も少しは変わっていたのかもしれない。
 メリスと妹は自分の親が「異常」であると認識していた。
 しかし、神経質なところを除けば、仕事も優秀で伯爵位ながら王族からの覚えもいい。丁度品を買い換えるたび「またか」とうんざりするものの、両親をいさめることはなかった。
 そんな父親には侯爵家の幼なじみがいる。家族ぐるみの付き合いがあり、次男のキュオスティは面倒見もよく、メリスたちとよく遊んでくれた。
 メリスの家には男児がいないので、侯爵家次男を婿養子に迎えて爵位を継がせる──という話を、両親たちが話しているのを偶然聞いたことがある。
 三つ年上で優しいキュオスティのことは、恋愛感情こそ抱いていないものの、メリスは慕っている。だから、てっきり自分は彼と結婚するものだと思いこんでいた。
 恋をしていないけれど、彼となら結婚してもいい。そして、幸せに暮らせるだろうと思っていたある日のこと、メリスは重度の皮膚病にかかってしまった。
 死に至る病ではないものの、肌が焼けるように熱くなる。痛みでよく眠れず、メリスは病床に伏せることとなった。
 両親は伝手を使い、遠くから名医を呼び寄せ、メリスのことを診せてくれた。医療に心得のあるものを雇い、つきっきりで看病をさせ、尽力してくれたと思う。
 おかげで酷い熱は一週間ほどで引いたものの、メリスの腕には火傷のような醜い痕が残ってしまった。それを見たときの両親の顔は、一生忘れられないだろう。
 それからというもの、両親の態度が急に冷たくなった。
 人形のようだと毎日のように褒めてくれた継母は、メリスを見ると、視界に入れたくないとばかりに顔を背けてしまう。辛辣な言葉を投げかけてくることはなかったが、普通の言葉さえ……そう、朝の挨拶さえもされなくなった。
 メリスの両親は神経質で、完璧主義である。しかし、それは物に対してだけで、まさか痕が残ってしまった自分にまで向けられるはずはない──そうメリスは思っていた。
 その考えが甘かったことを、父親の言葉で思い知らされることとなる。
「メリスの縁談がまとまった。相手はアルヴァー・ガイネス伯爵だ」
 昼下がりのティータイムに突然そんなことを言われて、メリスの頭は真っ白になる。
 幼なじみであるキュオスティと結婚するものだとばかり思っていた。そして、生まれ育ったこの家でずっと暮らしていくのだと。
 驚きのあまり、言葉を失ってしまったメリスの代わりに、妹のパウリナが声を上げた。
「ガイネス伯爵家って……確か、国の端のほうよね? そんな場所に、お姉様はお嫁に行くの? この王都からだと、馬車で五日はかかるわ。遠すぎて、ガイネス伯爵もなかなか舞踏会にも顔をお出しにならないわよね?」
「結婚に場所は関係ない。それに、ガイネス伯爵家は我が家同様、広く事業に手を出している。ガイネス家と繋がりを持てれば、我々も恩恵がある。爵位も同等だし、相手としては申し分ない」
 父親が淡々と答える。実感が持てないメリスは、他人事のようにそれを聞いていた。
「それにしたって、ガイネス伯爵はおいくつなの? かなり年が離れていたはずよ」
「四十一歳だ」
「よ、四十一……!」
 妹は言葉を失う。
 遠方に住んでいるがゆえ、王都の舞踏会になかなか姿を現さないガイネス伯爵の姿は、メリスもぼんやりとしか思い出せない。父親に近い年だと思っていたが、具体的な年齢を上げられると、あらためて年の差を感じた。
「そんなの、あんまりだわ。四十一歳なんて、お父様と同じくらいの年じゃない。おじさまだわ。いくらなんでも、お姉様がかわいそうよ」
 その妹の言葉に、メリスははっとした。
 突然の結婚話に驚きはしたものの、自分のことを「かわいそう」とは思っていなかったのだ。その一言に、胸がしめつけられる思いがする。
 メリスは無意識のうちに痕の残る腕を撫でて、ため息をついた。
「そもそも、お姉様はキュオスティと結婚するのではなくて?」
「キュオスティ君は、お前と結婚する方向で話を進めている」
「えっ……」
 妹も、突然の結婚話に表情を強張らせた。
 メリスはキュオスティと結婚すると思っていたが、それは妹も同じ認識だった。まさか、姉の結婚相手になると思っていた男が自分の相手になるとは、彼女も予想をしていなかったのだろう。
「なにそれ……!」
「とにかく、この話は終わりだ。さあ、部屋に戻りなさい。私はこれから商談があるんだ」
 そして、メリスと妹は父親に追い立てられるように、自室へと戻された。憤慨した妹はメリスの部屋に来たものの、ひとりになりたいと追い返してしまう。
 メリスは病床に伏せている間、部屋に見舞いにきた両親に勝手に換えられた真新しいソファーに腰を下ろして、そっとドレスの腕をまくった。そこには、見るもおぞましい醜い痕が残っている。
 几帳面で、完璧主義の両親。皮膚病にかかるまでは、メリスのことをとても可愛がってくれた。
 病気になったときだって、かなりのお金をかけて名医を呼び寄せていたのを知っている。だから、自分は普通に愛されているのだと思っていた。
 ──でも、それは違った。
 皮膚病は治ったものの、美しい体には醜い痕が残り、メリスは両親にとって完璧な自慢の娘ではなくなったのだろう。だからこそ、遠くに嫁に出されるのだ。
 両親の完璧主義の矛先が、娘にまで向くなんて、思ってもいなかった。流石に、すぐに買い換えられるような物と娘とは扱いが違うはずだと思っていたのだ。
 もし、継母が本当の母親だったら、違ったのかもしれない。……いや、そう思いたい。そう思わなければ、あまりにも救われない。
「……っ」
 メリスは新品のソファーに爪を立てるが、傷をつけることすらできない。爪先が痛んで、メリスは唇を噛みしめた。

◆ ◆ ◆

 急に決まった縁談だったが、日程も急だった。一週間後には家を発つようにと言われる。
 相手は今回が初婚のようだが、四十一歳という年齢のこともあり、挙式は行わないようだ。
「あなたも、その腕でドレスなんか着たくないでしょう? 丁度よかったわ」
 視線をあわせることなく言われた継母の台詞が、棘のように胸に刺さる。
 腕を隠せるドレスなんていくらでもあるし、今もそうしたデザインのドレスを着ているというのに、継母にとっては隠れる部分の痕でさえ許せないのだろう。
 結婚式は行われず、相手方の家に行く際も両親は見送るだけで、同行しないようだ。これには妹も再び文句を言ったが、まるで相手にされない。
「昔の女性の結婚はそうだったし、珍しくもないわ」
 再婚となる父親と華々しい結婚式を挙げていたにも関わらず、継母はさらりと言ってのけた。
 突然決まった結婚だけれど、両親は傷物になったメリスを手放したいのではなく、素晴らしい相手を探してくれたのかもしれない──という、一縷の望みはあった。
 それでも、結婚式をせず、親も同行せず、まるで荷物を送るかのように自分だけが相手の家に行くという現状に、やはり自分は手放されるのだと思い知らされる。
 そう考えると、ひどく惨めな気分になった。
 しかし、妹のほうがメリスよりも落ちこんでいた。泣いている妹を見ると、かえって気分が落ち着く。
「うっ……、私も怪我をしたら、きっと捨てられるんだわ」
「あなたは、お母様の本当の娘だから大丈夫よ……きっと」
 泣きじゃくる妹を慰めつつも、「きっと」という言葉を付け加えてしまう。「絶対」なんて言葉は、使えなかった。
 どう考えても、両親は異常である。
 少し傷ついただけで、毎日のように交換される丁度品──その都度おかしいと伝え、医者に診てもらうべきだった。考えてみれば、日に日に酷くなっていった気がする。
 後悔しても、もう遅い。結婚は決まってしまった。
 会話をしたことがなければ、顔もよく覚えていないガイネス伯爵がどんな人かは分からない。
 それでも、この家にいるよりはましだとメリスは思った。急に冷たくなった両親も、悲痛にくれる妹を慰めるのも、使用人たちの哀れむような眼差しも、もう嫌だ。
 どんな人かは知らないけれど、醜い痕のある娘を嫁にしてくれるのだから、きっとガイネス伯爵はいい人だろう。四十一歳まで独身だったというのが気になるけれど、この際、几帳面で完璧主義でさえなければいい。
 泣きはらして目の周りを真っ赤にした妹の背中を撫でながら、なにがなんでも幸せになってやるとメリスは思った。

※この続きは製品版でお楽しみください。

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