【試し読み】雇われプリンセスは今日も激忙

作家:朝陽ゆりね
イラスト:杉本ふぁりな
レーベル:夢中文庫プランセ
発売日:2018/4/13
販売価格:300円
あらすじ

孤児院育ちのリリーは独り立ちを目前に控え、身の振り方を思案する毎日。そんな時、自分にぴったりな条件の求人が舞い込む…しかも王宮勤め! あっさりと採用され歓喜するも、仕事内容は、『家出した王女の替え玉となって大お見合いパーティに参加すること』だった。「そんなの無理ー!!」とリリーはパニック。そしてパーティまでの2週間、替え玉になるべく数々の厳しいレッスンに耐えるものの、さすがにめげそうになるリリー。しかし正体不明の麗しい青年アンドリューから煽られ、ついやり遂げることを約束してしまう。替え玉作戦は無事に成功するのか!?しかしリリーはアンドリューのことで頭がいっぱいで…?

登場人物
リリー
孤児院から独り立ちのために王宮勤めに。しかし仕事内容が王女の替え玉と知り困惑。
アンドリュー
厳しいレッスンにくじけそうなリリーを励ます、見目麗しく笑顔の優しい青年。その正体は…
試し読み

「うーむ」
 リリーは腕を組んで、さらに続けて「むー!」っと唸った。
 半月後、十八歳の誕生日を迎える。十八になればこの施設を出なければいけない。ここオーバラン王国では子どもを大切にする習慣から、親を亡くした子ども、事情で親が育てられない子どもが問題なく生活できるよう孤児院が充実している。孤児院と呼ぶよりも居住学校と言ったほうが適切かもしれない。実際にここでは日々の生活だけではなく、学業や職業訓練も行っているからだ。
 そんな院の決まり事は「十八歳の大人になったら独立すること」であった。ここを出たあとの道筋は男女によって若干差があるが、女子の場合は、

一、修道院に入る
二、どこかに就職する
三、自ら店を開く
四、結婚する

 であった。ちなみにこれが男子の場合は、四が「軍に入る」に変わる。
 そういうわけでリリーは卒院を二週間後に控え、どの道を選ぶか思案していたのだ。
(神さまには申し訳ないけど、修道院はイヤだわ。子どもが好きだから、好きな人と結婚してその人との子どもを産んで育てたいもの。自分で店を開くのも難しいわよね。ここで習ったことは基本中の基本だから、どこかに弟子入りして、本格的に鍛えてもらわないと。商売はちょっと向いてないと思うし。ってことは、就職するか結婚するか……就活か婚活か、どっちの活動をすべきかってことよね)
 そこまで考えて、はぁ、とため息を落とす。
(就職はしてから合わないと思えば辞めることはできるけど、結婚はそうはいかない。生涯をともにする人は慌てずじっくり選びたい。でもわたしには時間がない)
 となると、答えはおのずと一つに絞られる。
(やっぱりどんなに考えても就職活動をして、勤め先で自分に合った素敵な男性を見つけるしかないわね)
 こんなことをこのひと月、ふた月思案し続けていた。ちなみにその都度同じ結論に至るのではあるが。
「リリー」
「あ、はいっ」
 廊下から院長の呼び声がする。リリーは慌てて立ち上がり、扉に駆け寄って開けた。
「なんでしょうか?」
「あなた、卒院後のこと、まだ悩んでいるでしょ?」
「はい」
「さきほど、王宮の人事院の方が来られたのだけど、新しい求人募集がなされたのですって。これがその内容なのだけど、あなたにちょうどいいみたいだからどうかと思って」
 渡された紙を受け取って見てみると、以下の条件が書かれていた。

一、年齢──十六歳~二十歳くらい
二、性別──女
三、外見──金髪直毛、緑眼
四、体格──身長一六〇センチ前後、体重四十五~五〇キロ内

「ぴったり」
「でしょ? どんなお仕事の内容かは面接しないと教えてもらえないようなのだけど、王宮で働けるなんて名誉だわ。それにどんな仕事に従事していても充実した福利厚生は平等に受けられるし、衣食住は保障されているから安心よね。急いでいるようなので、今すぐにでも応募してきたらどうかしら」
「はい! 行ってきます!」
 紙を握りしめながらリリーは駆け出した。
 孤児院には大勢の子どもがいる。公共施設の人事担当者は施設の子どもたちを優先的に面接し、採用するよう国王命令を受けている。そのため定期的に情報交換にやって来る。今日もその一環として出向いてきて、院長に仕事を紹介したのだろう。
 リリーは王宮までの道のりを心弾ませながら早足に進んだ。
(これだけ募集要項が細かいのだもの、該当者は多くないはず。何人採用されるかわからないけど、滑り込めそうな気がする!)
 そう考えながら、ではここまで年齢や外見を細かく求められる仕事とはなんだろう、と思う。
(劇団員とか?)
 同じような娘がずらりと並んで踊る様子をイメージしてみる。王宮で行われるイベントで、花輪やリボンや大判のスカーフなどを持って踊り、舞う、華麗な歌劇団。
(そんな華やかなものではなく、単純に王さま方王族の好みでメイドを同じ感じに揃えたいとか)
 王宮の至る所で忙しく働いている若い娘たち。髪の色も髪形も目の色も身長も服装もみんな一緒……と、リリーはぶるぶると首を振った。
(なんだか気持ち悪い。それはちょっとイヤかも)
 そうこうしているうちに王宮に続く正門に到着した。
 門番にどこへ行けばいいのか聞こうとしてはっと気がつく。立て看板が出されており、それぞれの求人別に行き先が示されている。リリーは自分の目的の求人看板に歩み寄り、内容を確認した。
(え、っと……右側の小門から入って左側の扉から入るべし、か。こっちね)
 場所を見つけるのは簡単だった。小門を越えると、すでに扉の前には同じような身長の金髪娘たちが並んでいるのですぐにわかった。
 待つことしばし。目の前に並んでいた娘が中に入り、出てきたのでリリーの番になった。
「失礼いたします」
 丁寧に言い、扉を開けて中に入る。小さな部屋の中央部分に長テーブルがあり、そこに五人の男女が並んで座っている。その前まで進んで深く礼をした。
「リリーと申します」
 言って顔を上げると、驚いているような五つの顔とぶつかる。
「え?」
 あまりに五人が同じような顔になっていることにリリーまで驚き、思わず言葉をこぼしてしまった。
「君、今から私が言うことを復唱するように」
「はい」
 中央に座る老人が言ったので、少しでも印象がよくなるように元気よく返事をする。
「本日はようこそお越しいただきました。まことにありがとうございます」
「本日はようこそお越しいただきました。まことにありがとうございます」
 言われるままに復唱するが、中身はなんだかよくわからない。だが、まだ続くようである。
「長旅の方々もいらっしゃることでしょう。存分にお楽しみくださいませ」
「長旅の方々もいらっしゃることでしょう。存分にお楽しみくださいませ」
「ご無沙汰しておりますわ。ご機嫌麗しく。本日はよろしくお願いいたしますね」
「ご無沙汰しておりますわ。ご機嫌麗しく。本日はよろしくお願いいたしますね」
「バッチリだ! あ、いや、ここまでです。もういいですよ」
「はい!」
「みなさん、異存は?」
 老人が問うと、左右に座る四名が口々に同意して拍手する。
「採用だ!」
「え……」
「名前はリリーだったね。ファミリーネームは?」
「いえ、ありません。孤児なので……」
「そうか、ではリリー、君を採用する。いいかね?」
「は……はい!」
 よくわからないが、就職先が決まったようだ。それも王宮での仕事だ。
「なにか質問は?」
「えーっと、えーっと、あの、住み込みでしょうか?」
 とにもかくにもリリーにとってもっとも大切な問題は住むところだ。それさえ決まればあとの条件はなんとかなるし、なんとでもできる。
 リリーの問いに、老人が破顔してうなずいた。
「もちろんだ。衣食住は保障する」
「であれば結構です! よろしくお願いいたします!」
「よろしい。では、こちらへ。仕事の詳細と給料などを説明するので」
「はい!」
 リリーが元気に返事をすると、五人が立ち上がり、そのうちの四人は奥の扉へ、一人はリリーがこの部屋に入るために開いた扉へそれぞれ歩き出した。
「リリー、こちらだよ」
 老人に促されて四人のいるほうに歩き出すと、閉じられた後方の扉から声が聞こえてきた。
「面接は終了しました。申し訳ありませんが、お引き取りください」
 リリーはその言葉に、本当に自分が採用されたのだと実感したのだった。

「ちょ! 待ってください!」
 テーブルに両手をついてリリーは立ち上がり、叫んでいた。
「待てません。こちらには時間がないのです。あなたには二週間でプリンセス・マリアナになっていただきます」

※この続きは製品版でお楽しみください。

関連記事一覧

テキストのコピーはできません。