【試し読み】出会って5分で偽装婚!~彼としっとり生活はじめます~
あらすじ
広喜には想い人がいる。それは大切にしてくれた人への純粋な思慕。彼を想い続け、いつまでも前に進めずにいた広喜に母がお見合いを勧めてきて…? 自分の身を案じてのこととは、わかっている。わかっているけど! 思わず家を飛び出してしまう広喜! 行きつけのショットバーで飲んだくれ潰れてしまったところを介抱してくれたのはマスターの息子の唯一だった。「帰りたくないなら、俺と結婚を前提に付き合っているフリしない?」と、とんでもない提案を! だってまだ出会って5分ほどしか経ってないし。そう思いつつも、広喜の想い人を知っているという言葉にほろっとしてしまい、偽装婚と同棲を了解してしまうのだが……。
登場人物
忘れられない想い人がいるため恋には消極的。勧められたお見合いを断り、家を飛び出す。
広喜行きつけのバーのマスターの息子。広喜の相談にのり、結婚前提の恋人のフリを提案する。
試し読み
彼が私の頬を撫でる。
それだけでグッと感度が増していく気がする。
私が体を動かすだけで、シーツの衣擦れの音がやたら耳についた。
体には何も纏っていないから、シーツが冷たくて気持ちいい。
私と同様に何も纏っていない彼が私を見下ろして目を細めた。
彼と体を重ねるのは何度目だろう。
多分両手で数えられるくらいのはずなのに、私たちはぴったりと馴染む。彼の言葉を借りるなら『相性がいい』んだろうな。私は彼以外男性を知らないけど。
頬を撫でていた彼の手がスッと首元を撫でた。
「んっ……」
小さな私の反応も、彼は見逃さない。
首元を撫でていた手はそのまま胸へ降りてくる。
「感度上がってきてるね……」
向かい合って、手で表情を隠そうとする私の手を彼が掴んだ。
私が彼を見上げると、フッと笑って「そろそろ大丈夫かな」と言った。
秘部の割れ目に彼の陰茎の先をあてがう。そのまま擦りつけると、私の蜜でじゅぷじゅぷと淫猥な水音を立てた。
「や……やぁ……」
羞恥から身をよじるけれど、彼は陰茎をグッと押し当てる。その勢いで、秘部の口が開いた。
ゆっくり、ゆっくりと彼が侵入してくる。
今日が初めてじゃないから、もうそんなにキツいわけではない。むしろ、幾度となく繰り返される愛撫とキスに秘部から溢れ出す蜜はシーツをぐっしょりと濡らしていた。
彼は掴んでいた私の手をほどき、シーツの上に腰を下ろすと、私の腰を両手で掴み、またゆっくり押し進めた。
もどかしくて、頭がおかしくなりそうになる。
彼はいつも、こんな風にゆっくり、じっくり私を愛する。
初めてのときも、そうだった。
「全部入ったよ」
彼がそう言って私のお腹を撫でるときには、ぐったりしていて……。
疲れた私を抱き上げて、彼の上へ座らせる。
「んぁあ……」
抱きかかえられる体勢になると、彼がもっと奥深くに刺さる。
「動くよ?」
優しく揺り動かされて、膣肉を撫でるように快感を与えられる。そのたびに「ぁっ……ぁ」と声が漏れるけれど、疲れすぎて羞恥も感じなくなってくる。
私は彼の首に腕を回し、しがみつくような形になった。
けれど彼は私の腰を両手でしっかりと掴み、幾度となくゆっくりと貫き、最奥に陰茎の頭を擦りつける。
膣から陰茎が引き抜かれ、押し込まれるとじゅぷじゅぷと音を立て、泡立っているのがわかった。
「ぁあ……だめ……そこ、やなの……」
「うん、ここ、好きだよね」
膣内の奥、そのくぼみに彼の硬くて熱い先を押し当てられると快感が一気に押し寄せてくる。快楽で伸縮する膣肉を感じても、彼の陰茎は動きを止めないし、速めもしない。何度も私のいいところを攻めて苦しそうに首筋にキスするのだ。
「あ……だめ……私もうっ……」
「何度でも、イっていいよ」
苦しそうに、彼の声が上ずる。
彼の言葉を最後まで聞かずに、足のつま先からビリビリと快感が駆け抜けていった。本日何度目かの絶頂を迎えたのだ。
力なく私が彼に寄りかかる。
それでも、彼は陰茎を抜かず、ただ静かに抱きしめるだけだ。
私は、まだ私の中で熱を失っていない彼の硬く熱いものに、ああ、今日も明け方までしてしまうんだ……と思いながらもどこか静かに興奮していた。
疲れ切った私に、何度も彼はキスを落とす。
それが深くなって、舌を絡め合い、ついばみ合うとまたそろそろと彼の腰が揺れ動いていく。
***
「広ちゃん、ごはんよ」
階下でお母さんが私を呼ぶ。
自室のベッドでうつぶせに寝ていた私は顔だけ上げる。
「今行くー」
大きな声で返事をしながらも、腰は重かった。すぐに枕に顔をつけた。
小学生の時、この町に引っ越してきて与えられた一人部屋。二十二歳になった今も、親元を離れずこの部屋を使っているなんて思いもしなかった。
美大を出て、就職もせず、両親にはフリーのイラストレーターをやるだなんて言ったけど、実際はほぼ仕事なし。いいや、仕事はそれなりに紹介してもらえている。ただ、なんとなく、受ける気になれなくて断っていた。自分なんかが選べる立場じゃないのにね。
息苦しいのは、今、ベッドでうつぶせに寝ているからではないだろう。
私は手をつき、やっとのことでベッドから起き上がった。
けだるい……。
ベッドの上に座り、部屋を見渡した。けして綺麗に整理整頓ができているとは言えない部屋。イラストを描くために新調した机も埃をかぶっている。
スケッチブックにも、ずいぶん触れていない。
ふいに、ドアがノックされた。返事をする前に扉が開けられ、お母さんが顔を出す。その表情は呆れているようにも、心配しているようにも見える。
「ごはんよ」
「はーい」
心配をかけたくなくて、明るく笑う。重い腰を上げ、自室を出た。
階段を降り、台所の四人掛けテーブルの椅子に腰かける。
テーブルにはごはん、鮭の塩焼きにお味噌汁、漬け物が揃っていた。手を合わせ「頂きます」と言って箸を持ち、食事をしていく。不味いわけではない。だけど、仕事もロクにせず、親の脛を齧っているような現状に美味しくごはんを食べられる余裕なんてなかった。
「広ちゃん、あのね、お話があるの」
お母さんがそう言って、私の向かいに座った。
「えへへ、なあに?」
私は精一杯ニコニコしてそう言った。
もともと明るくていい子ね、と近所で評判だった私はもうそういう風に振る舞うしか取り柄がなかった。
「広ちゃんさえよかったら、お見合いしてみない? そろそろ、広ちゃんも、ね?」
お母さんの言葉に私は絶句して、箸を止めた。お母さんは私の反応を見ながらも、言葉を続ける。
「お母さんのパート先でね、同僚の息子さんがいい人らしいのよ」
お母さんの気遣いが、痛かった。
「そう、なんだ……」
私は弱々しく笑い、そのまま砂のような食事をかきこんだ。
「それでね──」
依然として話し続けるお母さんの内容を話半分に聞き、無理やり食事を終えると立ち上がった。
「ごめん、今、依頼の仕事が立て込んでるからその話は後で……」
空になった食器を持つ。
お母さんは「そう……」と残念そうに言った。
私は胸を痛めつつ、食器をシンクに持って行き、ササっと洗うと逃げるように自室に戻ろうとした。
自室に続く階段を上ろうとするとき振り返り、まだ椅子に座ったままの背を丸めたお母さんを見ると、さらに申し訳ない気持ちになった。
それだけは、気持ちに応えることができない。
私は顔を背け、階段を上っていった。
自室につき、扉を閉めると安堵と罪悪感が胸をついた。
私は埃をかぶった机に近づくと、その上に置いているスケッチブックを手に取った。開くと懐かしいラクガキ。紙を撫でると、もともと筆圧が強い私のイラストは表面がボコボコしていた。
どのイラストも、春都お兄ちゃんが喜んでくれたものだ。
「春都お兄ちゃん……」
※この続きは製品版でお楽しみください。