【試し読み】香深な恋を秘めたる花~切ないキスに忍ばせた熱情~
あらすじ
有名な建築家を父に持つ桂花は、ある設計事務所に勤め、今は亡き父の弟子であり七年前イタリアへ修業に出た匡を恋しんでいた。――そんなある日、職場の隣に越してきた同業アトリエ事務所の所長の姿を見て、桂花は驚く。野性味溢れる美貌。雰囲気は変われど、ずっと恋焦がれていた匡の姿がそこにあった。しばらく冷たい態度をとり続けていた匡だが、変わらない優しさを次第に見せはじめ、二人の距離は縮まっていく。だが匡の中に桂花への恋情はない――振られたあの時から、それは今も変わっていないはず……? 「キスで、今も昔も口にできないものを感じてくれないか」苦しげに告げる匡の真意を探りながら、桂花はキスに酔いしれていくが……?
登場人物
設計事務所で事務員として勤務。父の弟子であり初恋相手・匡に七年ぶりに再会するが…
桂花の父の愛弟子。イタリアでの修業を経て新進気鋭の建築デザイナーとして活躍。
試し読み
プロローグ 初恋は金木犀とともに散る
十月の肌寒い風が、さわさわと木の葉を揺らして駆け抜けていく。
ふわりと漂うのは、独特の甘い香り。
それは今が旬と橙色に咲き誇る、金木犀のものだ。
その別名を名に持つ、来春大学卒業予定の葛城桂花は、マロンベージュのふわふわとした長い髪を風に靡かせながら、金木犀の木を見上げ悲しげに微笑んだ。
意志の強そうな大きな目が印象的な、溌剌と整った顔立ちの女性である。
季節が巡り、家族が愛した金木犀が咲くたびに、華やかな橙色の花は、桂花の大好きなひとたちの面影を偲ばせる。そんな切ないものになってしまった。
そして──。
「桂花」
場に現れたのは、桂花と同い年のすらりとした白皙の美青年。名を賀上匡という。
中性的に整った顔は、高貴な王子様のように上品で麗しい。
光を浴びれば金木犀の色にも見える、淡褐色の瞳と髪の色をしている。
「……ありがとう、匡。旅立つ前に、ここに来てくれて」
匡の手には、大きなトランクケースがある。
彼はこれから、遠い異国の地に留学する。
いつ帰国できるかわからない、建築設計士としての武者修業のために。
「いいんだ。僕も……最後に見ていきたいと思ったから。丹桂先生の事務所を」
〝最後〟──その言葉に桂花の胸は切なく痛んだ。
金木犀の後ろに広がるのは、約二ヶ月前に急逝した桂花の父、葛城丹桂の会社、建築設計事務所『Eden』がある。正しくは〝元〟で、来週から別の人間が所有する。
この事務所は、建築設計士だった両親が、夢を詰めてデザインして建てたものだ。
賑やかな都心からやや離れている静謐な土地に建てられ、二階は三人の住居部になっており、桂花は両親が揃って仕事をしているのを見るのがとても好きだった。
しかし桂花が十一歳の時に母は病死し、以降父は桂花に愛情を注いで育てる一方で、最愛の妻を亡くした寂しさを埋めるべく、がむしゃらに働いた。数多くの賞をもらってたくさんの大きな案件に関わり、一流建築設計士として不動の地位を築き上げた。
父が有名になり弟子が増えるにつれ、元の事務所では手狭になり、周辺の土地を買い足して増築し、遠目でも洒落たデザインが目を惹く、大きな白亜の建物になった。ちょっとした美術館か博物館にも思えるほどだ。
しかし二ヶ月前、父は突然業界からの引退を宣言した。
その時はすでに自宅兼事務所の売買契約は成立しており、戸惑う弟子たちは、現在関わっている仕事と、多額な退職金を与えられ、父が用意した別の事務所に移籍せざるをえなくなった。
それがすべて完了したのを見届けた父は、そのまま心筋梗塞で倒れて息を引き取った。
彼は薄々己の死期を悟り、急いで生前整理をしたのかもしれない。
父は桂花にはマンションを用意していたが、現実感がないまま四十九日が目まぐるしく過ぎゆき、そして今日──改めて元我が家を眺めてみると、夢でも見ていたかのように、慣れたはずの風景を遠くに感じてしまった。
ただ、桂花が大好きな金木犀の香りだけが、妙に懐古的な感傷を深めるのみ。
「桂花、本当にひとりで大丈夫か?」
匡は心配げな顔で、桂花に声をかける。
「大丈夫だよ。もう就職先も決まっているし、お父さんが遺産や住む場所も用意してくれていたから。生きていけるよ、ひとりで」
わざと笑顔でそう告げると、匡は微笑み返しながらも、どこか寂しい翳りを見せた。
「そう……だよな、桂花は強いから……」
そして匡は金木犀の木を見上げた。
女性のように長い睫毛。彫刻のような美しい横顔。
金木犀を愛おしげに見つめる面差しには、夢幻の如き儚さがあった。
見ている最中に彼が消えてしまいそうで、桂花はそっと匡から目をそらした。
彼は、ワケアリで父が連れてきた、当時高校を卒業したばかりのアルバイト生だった。
物腰は上品で優雅だったが、父も彼も素性を明かさなかった。それでも、匡の振る舞いを見ていれば、彼がどこかの良家の子息だろうことは容易に推測できた。
見目麗しいイケメンであるものの、整いすぎた顔からは感情が読めない。それが冷たくも思えて、苦手意識を募らせた桂花は当初、彼とはかなり距離をあけて接していた。
初めての同い年の弟子だが、仲良くなりたいなどとは思わず、温室育ちのお坊ちゃまは、父のスパルタに音を上げて、すぐにいなくなるだろうと思っていたのだ。
……そう、事務所の社員たちと同じく。もって数週間だろうと。
ところが匡は事務所の一階の仮眠室で寝泊まりをし、大学ではなぜか建築とは無関係の学科を履修しながら、授業がない時は父から設計士としての知識や技術を一から学んだ。
父だけではなく、先輩たちからの厳しい扱きにも耐え、毎夜日付が変わってもなお、設計図を引いて練習したり、事務所で手掛けた過去のデザインを覚えて学んだりと、勉強をし続けた。
数ヶ月経っても変わらぬ匡の根性と真剣さ。それを知った桂花は、差別意識を向けていたことを恥じ、次第に応援してあげたい気分になった。父とふたりだけだった食事に匡を招いたり、差し入れを作ったりするうちに会話も増えた。
匡も最初こそ他人行儀だったが、次第に兄のように弟のように桂花に心を許し始めた。
本当の家族みたいで、父も交えて笑顔に満ちていた日々。
そして彼の素顔に触れるにつれ、次第に桂花の心には、匡への恋心が芽生えた。
初恋、だった。
彼の勉強の妨げにはなりたくなくて、想いは告げるつもりはなかったが、隠すつもりもなく。手が触れた時の微妙な変化を思えば気づかれていたのかもしれないが、匡はふたりの関係を変えようとはしなかった。
そう。彼にとって桂花は、恩師の娘であり、彼の夢を理解して応援する、身内のような友達──それが桂花の立ち位置であり、この先もそんな関係を彼も望んでいるのだと、桂花は理解した。
それでもいいと思った。彼のそばにいられることが幸せだったから。
彼はこれからも父の事務所にいてくれるだろう。自分は、彼がプライベートでも一緒にいたいと思える、心地よい場所になれればいいと思っていたのだ。
しかし事態は急転直下。父は育てた弟子たちに父のブランドを継がせず、彼の時代を強制終了させ、急逝した。
それからはあっという間の二ヶ月で、桂花はどう過ごしていたのかよくわからない。ただ、心が現実に追いつかなかった間、匡が温かく支えてくれたことは確かだ。
元々匡は、父が事務所を閉じる頃に、大学卒業が確定したらイタリアで修業したいと、父と桂花にもその意志を伝えていた。しかし父が急逝した後は、留学予定を延長して、四十九日が過ぎるまで桂花のそばで、色々と力になってくれたのだ。
正直桂花は、匡が海外行きを断念してくれるのを願っていたが、彼の情熱が冷めていないことを悟り、自分は立ち直ったからと匡を送り出すことにしたのである。
そしてこれから、彼は旅立つ。
桂花の手が届かぬ、遠い場所に。
大丈夫かと問われるたびに、大丈夫ではないと桂花は言いたかった。
〝だからそばにいて〟
〝わたしを置いていかないで〟
〝どうしても行くなら、わたしも連れていって〟
……何度それを口にしかけたことだろう。
しかしそのたびに、匡に期待を寄せていた亡き父の言葉が思い出された。
──匡には天性の素質がある。しかしあまりにもそつなくこなす優等生すぎるんだ。この業界で名を残すためには、野心ともいうべき、がむしゃらな情熱が足りない。すべてを犠牲にしてまでも打ち込み、成し遂げたいというほどの激情が。
──いいか、桂花。匡が自らの意志で夢に向かって動き始めた時、邪魔をするな。
──匡には俺のすべてを刻み込んだ。荒波でも負けない才能を、開花させてやってくれ。
羽ばたこうとする匡を応援することは、父の遺志でもある。
強くなんてない。今だって、旅立とうとする匡にひとりにしないでと縋りたい。
しかし、自分の存在が匡の夢を押し潰す、彼の重荷にはなりたくないのだ。
だから──。
「ええ。わたしは強いから平気。だから匡は心配しないで、思いきり夢に向かって走って」
桂花にできることは、彼にとって退路になるものを断ち、笑うこと。
彼が後ろ髪を引かれる思いにならぬよう、溌剌な笑みを作ること。
そう、いつもの通り。
「……ありがとう」
匡には、これから未知数の未来が輝いているというのに、どこか悲しげだった。
それが、ぎりぎりの精神状態で本心を隠している桂花を強く刺激する。
匡はいつ日本に戻るかわからない。そのまま海外に永住してしまうかもしれない。
仮に日本に戻ってきても、その時は妻子がいるかもしれない。
匡を見るのは、これで最後だと覚悟しなければ──。
何度も言い聞かせてきたはずなのに、もう会えないと思うと切なくて苦しくて、桂花は思わずほろりと涙を流してしまった。
慌てて涙を拭ったが、匡はそれに気づいてしまったようだ。
桂花の顔に向けて、男にしては繊細で美しい指が近づいてくる。
桂花は反射的に彼の手を掴むと、俯きながら声を振り絞った。
「──好き、だったよ」
もう会えないのなら、最後にひと言、切なくて痛む胸の内を伝えたかった。
初めての恋。初めての告白。
過去系で言葉にしたものの、匡の顔を見られなかった。
今、彼はどんな顔をしているのだろう。
きっととても困っているだろうと思う。
別に彼の枷になりたいわけではない。
邪魔をしない代わりに、そっと……彼の心に残りたかった。
金木犀の香りのように、懐かしく思い出してくれる……そんな程度でいいから。
なけなしの勇気が終わりを告げて、手足が震え始める。
「どこにいても、わたしは匡の一番のファンだよ。それだけは変わらな……」
最後まで言えなかったのは、唇を塞がれたからだ。
柔らかな──匡の唇によって。
「──!?」
ただ唇を押しつけられているだけの口づけは、桂花を驚愕させて固まらせた。
今、いったいなにが起きているのだろう──。
やがて唇を離した彼は言う。
「日本に戻ってきたら、一緒に……働こう」
広い世界に出て、建築家として大成したい匡にとって、帰国の期限などないも等しいことはわかっているはずだ。中途半端で帰国するくらいの覚悟なら、そもそも桂花を残して海外へは行かないだろう。だから彼は、待っていてほしいとも言わない。
いつとは言わない、不確かな再会の約束──それはつまり、ないのも同じだ。
桂花が少しでも傷つかないようにという、別れの挨拶なのだ。
寄り添うのは気持ちではなく、仕事だと口にしたのが、優しい彼らしい。
彼には桂花への恋情はない──。
そう感じた桂花は、会釈のように軽く頷くと、薄く微笑んで言う。
「身体に気をつけて頑張ってね」
「……ああ」
「きっとお父さんが、匡のこと……、一番に可愛がっていた愛弟子のこと、見守っていてくれるわ」
「ああ。先生に恥じないように、早く一人前になれるように頑張るから」
強い意志を宿した目で、力強く匡が頷いた後、わずかな沈黙が流れる。
匡はなにかを言いたげに口を動かしたが、言葉は出てこなかった。
「そろそろ、時間が迫っているでしょう? ここでお別れしましょう」
ここ──大好きな金木犀の木の前で。
「じゃあね。見送らないよ。元気でね!」
桂花は笑顔で手を振ると、匡に背を向け歩き出す。
それは一見、薄情にも思える呆気ない別れ方だが、悟られるわけにはいかなかった。
こんなに……涙で歪んでいる顔は。
「桂花!」
背中から声が聞こえたが、聞こえぬふりをして、橙色の地面を歩き続けた。
優しい風に混じる、噎せ返るような金木犀の香り。
甘くて切ない思い出を宿した──残酷な香り。
心が痛んでやまないこの花を、この先も嫌いになることはないだろう。
「匡……、好きだよ……。ずっと一緒に……いたかった……!」
その香りが消えても、桂花は声を殺して泣き続けた──。
第一章 再会は、隣のアトリエから突然に
九月中旬──。うろこ雲が、真昼の蒼天に広がっていた。
街角にある橙色の花を見て、今年二十九歳になる桂花は表情を緩める。
「金木犀が満開になった! 今年は開花が早くて嬉しくなっちゃうわ」
大好きな花の切ない香りを吸い込むと、揚々として桂花は歩き出した。
匡と別れてから、七度目の秋がやってきた。
この季節は特に、彼への封じた恋心を煽られ、胸が疼く。
決して匡のことを忘れるなと、告げられているかのようだ。
……別の男性を好きになろうと努力もした。
しかしどうしても匡と比較してしまい、匡への想いの方を強めてしまうのだ。
キスをされそうになると、匡との思い出が穢れる気がして拒んでしまう。
匡の影を引きずる関係は、長く続くはずがなかった。
そして現在、三十路突入直前。結婚どころか恋愛予定もない。
匡がいなくなった後、桂花が就職したのはあるハウスメーカーの事務職だった。
小さい頃から、建築設計に関する適性がないことを痛感していた桂花は、せめて父の仕事と無関係ではない職を選んだつもりだった。
そしてOLとしての忙しい毎日を過ごし、大切な者たちを失った痛手が薄れ始めた頃、ようやく手つかずだった……父が日常でよく使用していたものの整理をしていると、父の手帳が出てきた。何気なくぱらぱらと見ていると、斜めに書き殴られたある文字に目を奪われたのだ。
『裏切られた』──その文字のインクは滲んでいた。
悔し涙なのだろうか。もしかすると、父の突然の引退劇は、父の体調不良だけが起因ではないのかもしれない。
記されていた欄は、父が亡くなる前の設計コンペが行われた日のものだ。
そのコンペは、名だたる建築家が参加する大きなもので、父は自分ではなく、精鋭社員たちにチームを組ませ、事務所として参加した。
この時点で、父は弟子たちに後継させる気だったように思えるが、父が熱意をもって指導した上でのコンペ結果は、予想外にもいい評価を得られなかった。
改めて考えればそれから、父は色々と考え込むようになり、引退したのだ。
体調不良もあったろうが、母との思い出が残る事務所を畳んだ起因のひとつとして、もしもコンペの審査自体、裏切り者によって仕組まれていたと父が考えていたら?
コンペを競ったライバルや審査員は、父の顔馴染みの者もいた。
父はストイックなまでの実力主義者だ。その父を絶望させて悔し涙を流させ、事務所を消滅させた犯人が、父の死を踏み台に業界にのさばっていたら──そう思うと、桂花に怒りが湧いてきた。それゆえ、父が死してもその精神はなくなることはないと、その裏切り者に堂々と宣言したくなったのだ。
名も顔も知らぬ裏切り者への糾弾も兼ねて父の事務所を復活させ、父が伝えたかったものを正当に受け継いでいけば、父の無念も晴れ、喜んでくれるのではないか。
父の事務所『Eden』を復活させることが、真実の供養だと考えたのである。
しかし、建築家の才能がない桂花ひとりでは、再生も無理な話だ。
仮に借金をして、今は別のひとの手に渡っているあの土地や建物を買い戻せたとしても、社員を雇う余裕などない。運良く理想とする社員を見つけて雇用できても、裏切り者への脅威となるような大仕事を手掛けるコネも実績もない。桂花が父の娘であっても、看板を掲げる彼女自身に、建築業界で通用できる実力と信頼がないのが痛手だった。
協力者が必要だ。桂花の想いに共感し、ともに粉骨砕身して動いてくれる人間が。
そして今夏、父の弟子だった元社員のひとりを探し当て、再会した。
それが、父の事務所でエース級だった、森戸涼亮だった。
森戸は桂花より五歳年上で、やや垂れ目がちな好青年風のイケメン。彼は父の事務所のムードメーカー的な存在でもあり、唯一匡の味方になってくれた社員だ。
彼もまた学生時代から注目を浴びるほどの才能があり、厳しい父に弟子入りをしてからもコンクールなどで実績を作りつつ、桂花にもなにかと声をかけてくれた優しいお兄さんでもある。
最終コンペでもリーダー格として指揮をとり、父が死んだ時は誰よりも嘆きが強かった。
彼もまた、匡同様に一から修業をしたいと国内に留まり、あえて父のツテを断った……ところまでは知っていたが、最終的にどこに勤めたのかは確認していなかった。
再会した彼は、ずっと大手設計事務所で仕事をして、半年前から独立したらしい。
父のメモのことは話さなかったものの、父の意志を継いだ事務所を再建したいという桂花の願いに、森戸は大いに賛同し、協力を申し出た。
そして彼は、彼のオフィスを土台にした『Eden』の再築──いや、新生『Eden』にすることを提案し、そのためには桂花の助力が必要だと、自分のオフィスに誘ったのだ。
──彼の娘である桂花ちゃんがいてくれれば、僕のオフィスが丹桂所長の遺志を継いでいることは周知の事実となる。まずは業績を伸ばして注目されるようにしよう。
建築業界は信用と実績が第一だ。どんな信念があろうとも、それによって周囲に評価されている事実を公然とした結果として作らないと、生き残れない。
──新生『Eden』は僕ときみのふたりが共同経営者だ。必ず、実現しようね。
力強く握手を交わし、桂花が森戸のもとに転職してから三ヶ月目。
匡と別れた金木犀の季節になっても、まだその夢に向かって話は進んでいなかった──。
弧を描いた硝子の正面が印象的な、二十階建てオフィスビル。
高級ホテルかと見紛うほど、その内装は格調高いことで有名だ。LEDで色が変わる噴水を囲むようにして、吹き抜け式に地下から三階は飲食店や雑貨店、四階以上は主にクリエイター系のベンチャー企業のオフィスが入っている。
オフィス用エレベーターで六階、右手に少し歩けば、銀色の洒落た看板がかけられた『MORITO Design』がある。
オフィスに戻る前、表情を硬くさせた桂花は、化粧室で自身をチェックした。
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