【試し読み】この出会いは偶然……? それとも運命ですか?

作家:泉怜奈
イラスト:夢志乃
レーベル:夢中文庫クリスタル
発売日:2016/9/16
販売価格:500円
あらすじ

『ミハルと出会えたのは、運命だと思う。だからきっと、一旦離れ離れになったとしてもまた会える。絶対』念願のロンドン研修で、憧れのブライダルコーディネーターの息子と出会った巳春は彼に一目惚れしてしまう。情熱的な彼とのロンドンでの日々が終わり、日本に帰国後、彼に再会した巳春は彼が教えてくれなかった事実を知る。傷つき憤慨するが、情熱的に口説かれるとそれに抗えぬまま関係が復活し――。激しく求められ、彼に溺れれば溺れるほど、心に一線を引こうとする巳春に彼の焦燥は募り……。求めあっているふたりのすれ違いラブストーリー。桐谷兄弟シリーズ第二弾。

登場人物
鈴木巳春(すずきみはる)
研修に行ったロンドンである男性と恋に落ちる。帰国後思わぬ形で再会することに。
桐谷昴(きりやすばる)
美しい顔立ちと均整の取れた八頭身で日本人離れした風貌。情熱的に巳春を口説く。
試し読み

夢への第一歩

「確か、えーっと……ウォルトン・ストリート沿い。あ、あった。この通りだ」
 灰色の石畳の道をゴロゴロとスーツケースを押しながら、サウス・ケンジントン駅から歩いて5分、この辺かなと、立ち止まり周りを見回した私は、白い壁に目的の通り名を見つけ、思わず歓喜の声を上げた。
 ジョージアン様式の白いタウンハウスが立ち並ぶロンドン屈指の高級住宅街、ウォルトン・ストリートに出ると、18番の家を探す。
 白く塗装された気品のある外観のレイト・ジョージアンスタイルに圧巻され、思わず感動のため息が漏れた。
「こんな素敵な家に居候させてもらえるなんて夢みた~い」と、独り言まで漏らしてしまう始末だ。11時間半のフライトの疲れさえ、吹っ飛んでしまった。
 セレブが多く住んでいることでも知られているウォルトン・ストリートのシティハウスは、どの家も全く同じデザインで、遠くから見ると三日月型にゆるくカーブしながら立ち並んでいる。そのため、この形状をクレッセントという。黒のペンキで塗られた鉄製の柵、レイリングも統一され、更に高級感を醸し出していた。
 これら全く見た目が同じのタウンハウスは番号で振り分けられていて、それで屋号を確認していくしかないのだ。
「あった~!」
 18番を見つけるとしばしその前で立ち止まり、タウンハウスを見上げた。どの家にも、地下があるのだけれど、階段を数段上がった地上より少しだけ高い位置に1階があるのでそれは半地下のような感じだ。外観は地上3階建てになっており、一軒が縦に細長いデザインなのだ。
「落ち着いて、巳春みはる。ふぅー」
 たかぶる鼓動を鎮める様に深呼吸をし、ショートカットの髪を指ですいてでつける。それからエントランスポーチの階段を上がった。ドアの横についている呼び出し鈴を鳴らし、息をひそめて待つ。
 ドキドキと自分の鼓動だけが耳にこだまし、更に緊張してしまう。何度も家の番号を確かめ、気持ちを落ち着けようとするが、不安と興奮が混ざり合い、どうにも落ち着くことが出来ない。
 今日からお邪魔することになっているミランダ・ファースの家で間違いありませんようにと祈りながら待っていると、玄関のドアがゆっくりと開いた。
 玄関を開けた婦人は私の顔を凝視した後、優しく微笑んだ。
『ハーイ、あなたは……ミハルかしら?』
 目の前でそう言った婦人は、エレガントな雰囲気でブルネットの髪はところどころメッシュのようにプラチナブロンドが混ざり耳元でゆるくカールしている。年齢相応の顔のしわはとても魅力的で知的さを醸し出していた。そう、確かに彼女は、私が写真で見たことのある、ブライダルコーディネーターのミランダ・ファースだ。
 緊張と興奮、そして歓喜が一気に押し寄せてきて、すぐに返事が出来ず、固まってしまう。
『は、はい。はじめまして。ミハル・スズキです。1ヶ月お世話になります』
 お辞儀をしようとしたとき、ミランダに抱きしめられ、親しみを込める様に頬にキスをされた。
『まぁこんな可愛らしいお嬢さんだなんて。これからがとっても楽しみだわ。さあ中に入って。部屋を案内するわ』
 ミランダの温かみのある笑顔に私はようやく肩の力を抜いて笑顔を作った。
『1階にはリビングルーム、奥にダイニングルームがあって、そこからテラスに出ることが出来るのよ。天気のいい日は大概ここで昼食やアフタヌーンティを取るの』
 入ってすぐに、1階の部屋の説明をしてくれた。スーツケースは取りあえず階段の横に置いておく。
 ロンドンのタウンハウスは地下にキッチンがあり、1階にリビングルームとダイニングルーム、2階3階は寝室となっているのが一般的で、彼女の家も典型的なロンドンのタウンハウスだった。
 彼女は私の顔を見ながら説明してくれ、納得していることを確認すると手を取って移動する。その親身な対応に私は感動していた。
『地下にキッチンや収納庫があって、ちょうどテラスの下が中庭になるの。キッチンは自由に使ってちょうだい』
 今度は階段を上り始める。
 2階の踊り場に出ると、この階は彼女の寝室と書斎になっていると説明してくれた。
 そして更に階段を上がり3階へ辿たどり着くと、一番奥の部屋に向かった。
『ここがあなたの部屋よ。何かいるものがあれば遠慮なく言ってね。さあ入って』
 案内された部屋に言われたとおり入ると、まず目に入ったのが正面の大き目の窓だった。
 それに吸い寄せられるように近づいて外を見る。そこにはロンドンの絶景が広がっていた。
『うわぁ、素敵! ロンドンの街並みが見渡せるんですね』
 窓の外に広がるパノラマを見て、感動のあまり声が上ずってしまう。そんな私の横に来て、彼女は声を出して笑った。
『夜になるとイルミネーションでテムズ川がキラキラしてとても綺麗なのよ。向こう側にロンドン塔が見えるでしょう?』
 絵葉書などでよく見る景色を目の前に、私は興奮を隠せないまま何度もうなずいた。
『こんな素敵なお部屋で過ごせるなんて夢みたいです。ありがとうございます』
 感激のあまり、じわりと涙があふれだしそうになる。
『そんなに喜んでもらえるなんて。私も嬉しいわ。この部屋はゲストルームなのよ。だからお部屋にバスルームもあるし。快適に過ごしてもらえるんじゃないかしら』
 彼女は部屋をぐるっと見回し、バスルームのドアを指差した。
 ミランダに手を引かれ、バスルームのドアの前に連れて行かれる。中を見せてもらうと、トイレとシャワーブース、洗面台が、こじんまりしたスペースに上品に配置されていた。バスルームは全面タイル張りで白と黒で統一されたシックな内装だ。
 部屋もベージュとオフホワイトで統一され、ナチュラルシックなインテリアだ。セミダブルのベッド、サイドテーブル、クローゼットや机は黒い塗装がされた家具で統一されている。
『なんだか夢みたい』
 思わず口からこぼれた言葉に彼女はまた声を出して笑った。
『スーツケースを取ってきて、荷ほどきが終わったら1階でお茶をしましょう。ゆっくりお話ししたいわ』
 何から何まで親切にしてもらい、感謝の気持ちでいっぱいになった。
『はい、すぐに行きます』と返事すると、彼女は『慌てなくても大丈夫よ』と言って部屋から出ていった。
 こんな素敵な部屋で、憧れのミランダ・ファースの助手としての研修が始まるのだ。心躍らずにいられるわけがない。しかも彼女は親切で親しみやすい人だった。
「うわぁーい!」
 くるっとターンをするようにゆっくり回りながら部屋をうっとりと眺めた。

 置きざりにしていたスーツケースを取りに行き、荷物を片付け終わるとすぐに彼女の元へ向かった。
 ダイニングルームをのぞくと、ミランダがテラスに紅茶とスコーンとジャムの軽い軽食を用意してくれていた。
『さあこっちに来て座ってちょうだい。あまりお腹はすいてないかもしれないけれど、アフタヌーンティをしましょう』
 彼女に薦められるまま籐製とうせいのソファに座る。差し出されたティーカップを受け取ると、彼女は私の横に腰かけた。
『さて、自己紹介しましょうか。私の名前は知っていると思うけれど、ミランダ・ファースよ。ミランダと呼んで頂戴ね』
 茶目っ気たっぷりにウィンクする。私はそんな彼女に自然に微笑み返した。
『33歳になる息子がいて、週末仕事がなければ昼食を取りにここにやって来るから、そうねぇ……、この週末紹介出来るかしらねぇ』
 ミランダ・ファースは未婚だと知っていたから、まさか子供がいるとは想像もしていなかった。しかも33歳の息子さんだなんて! 随分早くにシングルマザーになって、忙しい仕事との両立に大変だったに違いないと思った。
『息子さんもロンドンに住んでらっしゃるんですか?』
『ええ、紳士服のブライトンでマーケティングディレクターをしているの。オールド・ボンドストリートに会社があるからメイフェアに住んでるわ』
 オールド・ボンドストリートは高級ブランドが立ち並ぶ界隈かいわいだ。メイフェアは高級住宅街でも知られている。
『33歳でマーケティングディレクターだなんて凄いですね』
 私が驚愕きようがくするも、ミランダは肩をすぼめただけで、鼻にかける様子はない。しかも、ミランダ自身もサウス・ケンジントンの高級住宅街に住み、日本でもミランダ・ファースの特集が組まれるほど有名なブライダルコーディネーターなのだ。それを全く鼻にかけることもなく親切で親しみやすい彼女に益々好感が増し、尊敬の念を抱いた。
『さて、じゃあ今度はミハルの番よ。名前はさっき聞いたから、飛ばしていいわ』と、笑う。その気さくさに勇気をもらい、私も砕けた感じで話すことにした。
『えっと、私は、独身の29歳です。ブライダルコーディネーターになりたくて、KIRIYAエンタープライズに入社したんですが、赤坂のホテルのフロントスタッフに配属になってしまったんです。でもどうしてもブライダルコーディネーターの夢が捨てきれなくて、しつこいほど異動願を出して……、やっと念願が叶ってホテル・レストラン部門企画部に異動になりました』
 彼女は私の目をしっかり見て、頷きながら聞いてくれている。
『あなたの英語は英国イングリッシュね。凄く綺麗きれいなアクセントだわ。確かにこれだけ英語を話せればホテルのフロントとして重宝されたでしょう』
『そ……、あ、ありがとうございます』
 ついつい日本人の悪い癖で「そんなことはありません」と謙遜しようとしたが、寸前で言葉をひっこめた。
『高校生のころ、交換留学でハイドパーク近くのホストファミリーにお世話になってたんです。この辺も、散策したこと思い出して、凄く懐かしくなりました』
 その後、大学の卒業旅行で独りイギリスからアイルランドまで旅行したことなどを語った。
『まぁ、こんなに可愛らしいのに、行動力があるのね。頼もしいわ。ブライダルコーディネーターには必要な要素よ』
『私、留学していた時に、ホストファミリーの娘さんの結婚式に参加させてもらったんです。ガーデンウェディングでした。凄く素晴らしい結婚式で、とても楽しかったし何よりすごく感動したんです。老いも若きも日付が変わっても楽しそうに踊り続けていて……祝福された結婚式なんだって、子供の私にも伝わってきて……。人生の幸福な門出の演出を出来る仕事がしたい! 純粋にその時そう思いました。ずっと後でその結婚式を手掛けたのがミランダ・ファースなのだと知りました。だから、あなたが昔、仕事をされたことのあるKIRIYAエンタープライズに就職したんです。すぐに夢は叶わなかったけど、やっとチャンスをつかんで、今回、憧れのミランダの傍で勉強出来るなんて……夢みたいです』
 興奮のあまり一気に話し切り、息が切れてしまう。ミランダはそんな私の表情を、目を丸くして見ていた。
『まぁ、なんて素敵な偶然なのかしら。私の仕事を見て、夢を膨らませて、ブライダルコーディネーターになりたいと思ってくれたなんて!』
 彼女は本当に感動したのか胸を手で押さえて驚いた表情をしている。
 私はというと、思いの丈を伝えることが出来たことに達成感に似た満足感を得て放心していた。
『まだ会ったばかりだけれど、ミハルがそこにいればぱっと雰囲気が明るくなるのよ。あなたのそのリスのように大きな愛らしい瞳はキラキラしていて、笑顔がとっても素敵で、若くてエネルギッシュで、ブライダルコーディネーターにとてもあっていると思うわ』
 憧れの人の思いがけない言葉に、瞳からふわっと涙が溢れだした。この言葉だけでこれからどんな苦難が待ち構えていようとも、前向きにこの仕事に向かっていける。そう強く感じさせてくれるほどの威力があった。
『はい! たくさんの人が幸せを感じられるような結婚式にずっとずっと携わっていきたいです』
 ミランダの前でそう断言すると、ますますやる気が湧いてきた。
 私にとっては人生の運を根こそぎ使い果たしたようなビッグチャンスを掴んだに等しい。
 望んでいた部署に異動できただけでなく、英語が出来ることが功を奏し、憧れのミランダ・ファースの下で1ヶ月の研修という夢のような待遇を得たのだ。
 この経験は自分の人生の宝になるに違いないと私は胸を躍らせずにはいれなかった。

※この続きは製品版でお楽しみください。

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