【5話】堅物夫(仮)を恋に落とす方法

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(これは、もしかしたらチャンスなのかもしれない……!!)
 孝介さんは上司命令に近い形で、私の監視と結婚をしているそぶりをすることになったわけだ。
 義務感と責任感、そして信頼と尊敬をしている上司の頼み事ということで、このとんでもないことを引き受けたのだと思う。
 だが、私にしてみたら、そんな義務感だけで傍にいてほしいとは思わない。
 私のことが好きだから、心配だから傍にいる。そう言ってほしいのだ。
 だからこそ、この提案をお父さんと孝介さんがしてきたときは断固反対の姿勢を見せていた。
 しかし、冷静になって考えてみたら、これはチャンスなのかもしれない。
 孝介さんにとってはアンラッキーかもしれないが、私にしてみたらラッキーだ。
 私を子供扱いする孝介さんに、一人の女として見てもらえるチャンスが巡ってきたと思っていいだろう。
 そう考えれば、監視役として孝介さんが隣に住むことは決して悪いことばかりではない。
 やっと引っ越しを終えた私は、ソファーに座って考える。
 憧れの孝介さんと壁を隔てて、隣同士で暮らしていくのだ。
 それも偽りだとはいえ、結婚をしている設定なんておいしいシチュエーション。これを使わない手はない。
 そうと決まれば、少しでも孝介さんと接近できるよう努力のみだ。
 洗面所に飛んでいき、身だしなみを整える。
 ああ、危ない、危ない。顔が脂でテカテカだ。こんな顔で孝介さんに会うことはできない。
 あぶらとり紙で脂を吸ったあと、ファンデーションで押さえる。
 先日買ったばかりの薄いピンクの口紅を唇に乗せたあと、髪をブラッシングした。
 サラサラの黒髪は健康的に見えるが、やっぱり色気や大人な女を目指すためにはカラーリングも必要だろうか。
 また、その辺りはゆっくりと考えることにして、私は「ヨシッ!」と鏡の向こうの自分に気合い入れをする。そのあと、隣の部屋に住む孝介さんを訪ねた。
 まだ荷物の搬入が終わったばかりなのだろうか。扉は開け放たれている。
 コンコンと扉をノックして、中にいる孝介さんに声をかけた。
「孝介さん、引っ越し作業は終わりましたか?」
 すると、すぐさま中から孝介さんが顔を出した。
 いつもはスーツ姿の孝介さんだが、今日はラフな格好だ。
 Tシャツとチノパンという、ナチュラルな装いなのに、大人の色気がダダ漏れな気がする。
 今日もとてもステキな孝介さんを見て、ドキッと胸が高鳴るのを感じた。
 そんな私の気持ちとは真逆で、孝介さんは通常どおりの無表情さで答えた。
「ああ、穂乃果ちゃんか。終わったよ」
 ふぅ、と息を吐き出す仕草もまた色気がダダ漏れでセクシーだ。
 クラクラしている自分を叱咤し、私は孝介さんにニッコリとほほ笑みかけた。
「あがっても」
「ダメだ。穂乃果ちゃんはいかなるときも、俺の部屋に上がってはダメ」
 あがってもいいですか、という問いかけを最後まで言わせてもらうことができず撃沈だ。
 いかなるときも孝介さんの部屋に上がってはダメなんて。これは手厳しい。
 私は納得がいかなくて、キュッと唇を噛みしめた。
「ど、どうして!?」
「若いお嬢さんが男の部屋に一人で入るのは感心しないな」
 確かにその通りだろう。
 男性に免疫がない私にも、それぐらいは理解できる。
 だけど、私と孝介さんの間柄なのだ。部屋に上がるぐらいなんてことはないだろう。
 私は孝介さんのことが好きだ。だけど、孝介さんは私のことなんて可愛い妹止まりだ。
 それなら、そんな気遣いは無用だと思う。
 さすがに私は反論した。
「で、でも。私と孝介さんの仲なんだし」
 食い下がる私に、孝介さんは神妙な顔つきで言い切った。
「親しき仲にも礼儀あり。だから、俺も穂乃果ちゃんの部屋には上がらない。約束しよう」
 そんな約束しなくてもいいのに!
 そう叫びそうになったが、これ以上言ったらお説教コースだ。
 もしかしたら、お父さんの耳に入ってしまう可能性だってある。
 そうなってしまったら、また面倒くさいことになるのは必至。それだけは、さすがに勘弁してもらいたい。
 しょうがない、ここは折れておこう。

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