【4話】堅物夫(仮)を恋に落とす方法

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 目の前の孝介さんに見つからないように、ゆっくりと息を吐き出す。
 孝介さんは、私を見つめる視線を強めた。再び、私の胸が大きく高鳴る。
「俺は君が高校生の頃から知っているが」
「は、はい」
 孝介さんは、何を言うのだろうか。少しだけ期待をしてしまう。
 だが、次の孝介さんの言葉は、私が思い描いていたドキドキ胸キュンなセリフとはほど遠かった。
「君は、危なっかしすぎる」
「な!?」
「君のお父さん、高槻部長が心配するのもしかたがないと思う」
 真顔で言われると凄みが増す。冗談……じゃないですよね、はい。
 思わず小さく縮こまってしまう。
 危なっかしすぎるとは、世間知らずだと言いたいのだろう。
 残念ながらそのことについて反論はできない。
 まずは世の男性のあしらい方もわかっていないどころか、まともに話すことも難しい状況である。
 この世の中には男と女。二つの性別がある。
 その片方とだけしかコミュニケーションをとれないようでは、確かに危なっかしいと言われても仕方がないのかもしれない。
 ガックリと肩を落とした私だが、さすがに今回のことは反論しなければならないだろう。
 お父さんの命令で、私を監視するという孝介さん。
 それでは仕事の一環だと言わんばかりではないか。時間外に私を見ていなくちゃいけないのだ。
 お父さん個人から時間外手当が出るのならまだしも、たぶん出ない。
 善意というヤツで監視をするつもりなのだろう。
 それでは孝介さんに申し訳ないし、そんな理由で私の傍にいてほしくはない。
 だが、初めての一人暮らしだ。お父さんからの監視の目を気にせず、思いっきり楽しみたいと思っているが、一方では心配もあるのは確かだ。孝介さんが近くにいれば心強い。
 孝介さんは私の憧れの人だ。憧れで終わってしまうだろうなぁとは思っている。
 恐れ多くて彼女の座がほしいだなんて言えない。言うだけはタダだとしても言えるもんか。
 そんな孝介さんが隣に越してくる。想像するだけで、おいしい展開であることは間違いない。
 私にとっては、なかなかに魅力的な展開ではあるが、孝介さんのことを思うと断固として反対しなくてはならないだろう。
「で、でもですね! これはちょっとやりすぎじゃ……」
「やりすぎ? 全然これでも足りないぐらいだ。本当は一緒に住んだ方がいいと思うのだが……」
 とんでもない。孝介さんと一緒の部屋で二人きりでいたら……挙動不審だけじゃ済まないだろう。
 私が声にならない叫びを上げようとすると、すかさずお父さんが間に入ってきた。
「それは絶対に認めないぞ! 孝介は穂乃果の監視と、夫になりすますだけでいい!!」
 フンと鼻息荒く言うお父さんを見て、孝介さんは困ったように眉を下げた。
「と、部長が言うものだから」
 やっぱり孝介さんの中では、お父さんが一番なのだ。
 私のことを心配してくれてもいるだろう。だけど、そこは『尊敬する上司の大事な娘さん』だからであって、それ以上でも以下でもない。
 悲しくなってしまうが、それが現実なのでしょうがない。
 私は苦笑しつつ、肩をすくめた。
「は、はぁ……あのですね、孝介さん。私のこと妹みたいに可愛がってくれるのは大変ありがたいですし、嬉しいですけどね」
「それならいいじゃないか。俺は今から君の仮の夫だ」
「!」
 いいじゃないか、って……よくないからこれだけ抗議をしているのですけど。
 そんな私の抗議の声もむなしく、孝介さんは有無を言わさないとばかりの威圧的な態度で私に忠告した。
「嫁は嫁らしく、他の男性に近づかないこと。いいね?」
 どうやら、私には何一つ決定権も拒否権も残されていないらしい。
 過保護『すぎる』父と、上司を尊敬し『すぎる』父親の部下を止めるすべもなく、ただ私は途方に暮れたのだった。

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