【3話】堅物夫(仮)を恋に落とす方法

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 お父さんの願いはただ一つ。一人娘である私に近づく男や、厄介事はすべて排除したいのだ。
 そのためになら、なんでもしようとするだろう。
 だけど、これだけは……孝介さんにこんな無茶ぶりをするのは絶対に許せない。
 一触即発。私とお父さんはバチバチと火花を散らしていたのだが、急にお父さんは手をポンとわざとらしく叩いた。
「ああ、そうそう」
「この上まだ何か言うつもりなの? お父さん。まさか孝介さんにこれ以上迷惑をかけるつもりじゃ」
「お前たちは結婚したから」
「………………へ?」
「という設定で、よろしく」
「意味が全くわからないんですけど!」
「お前は既婚者。夫がいる。人妻だ」
「人妻って……わ、わ、私、孝介さんと結婚するの?」
「結婚をする訳じゃない。穂乃果をむやみやたらに結婚させるわけがないだろう?」
「でも、だって……人妻って?」
「あくまで人妻というスタンスで、ということだ」
「全然意味がわかんない! 私は誰とも結婚していないし、夫もいません!」
 彼氏だっていないのに、どうやったら夫ができるのか。教えてもらいたいものだ。
 ギリギリと歯ぎしりをしそうなほど怒り狂っていると、お父さんは湯飲みに手を伸ばしながら言う。
「そういう設定なら、お前に悪い虫がつくこともないだろう? 名案だ、なぁ孝介」
「そうですね」
 思わず目を見開いてギョッとしてしまう。慌てて孝介さんを食い入るように見つめた。
「孝介さん!? ちょっと正気ですか?」
「何が?」
 シレッとなんでもないように言う孝介さんを見て、私の方が慌ててしまう。
 孝介さん、貴方……ことの重大さと大変さを全然理解していないと思うのですけど。
 相変わらずの無表情さに、私は大きくため息をつく。
「ですから! うちの父の陰謀ですよ! 孝介さんが私の監視をするために私が住む部屋の隣に引っ越すとか、結婚設定するとか」
「……」
 私の抗議を黙ったまま聞いている彼に、私は痺れを切らして半ば叫ぶように言う。
「とにかく、です。すぐに断ってください。無理することないですから」
 頼むからそんなとんでもないことを了承しないでほしい。
 そんな私の願いは、すぐさま粉々に砕け散った。
「いや、俺は了承した」
 あんぐりと口を大きく開ける私をチラリと見たあと、孝介さんはコーヒーに口をつけた。
 その優雅な動きを見る限り、平常心といった雰囲気だ。
 こんなこと何でもないような様子の彼に、私は大慌てだ。
「やっぱり孝介さん、異常ですよ? 大丈夫ですか! うちの父なんて裏切っていいですから。もし父が孝介さんに不利になるようなマネをするようでしたら私が全力で止めますので安心してください」
 とにかく孝介さんには目を覚ましてもらわなくてはいけないだろう。
 孝介さんは、必要以上にうちのお父さんのことをとても尊敬しているということは知っている。
 尊敬している人が頼んできたことは、引き受ける。そんなふうに孝介さんは考えているに違いない。
 だけど、そんなのは絶対におかしい。
 尊敬している人の頼みならなんでも聞く、なんてことになったら、孝介さんの意思はどうなるというのか。
 必死に説得するのだが、お父さんをいたく尊敬している孝介さんは考えを変えない。
 ジッと私を見つめる彼の目はとても真剣で、一人で騒いでいるのがバカらしく感じてしまう。
 盛大にため息をついて、ソファーの背にもたれかかる私に、孝介さんは静かに口を開いた。
 前のめりになりつつ手を膝のところで組む孝介さんは、大人の色香が漂っていてカッコいい。
 思わずドキンと胸が大きく高鳴ってしまう。
「穂乃果ちゃん」
「な、なんですか?」
 ドキドキしすぎて口から心臓が飛び出してしまいそうだ。
 息苦しくて、自分の胸の鼓動がうるさすぎて、孝介さんの声が聞き取りにくい。

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