【22話】堅物夫(仮)を恋に落とす方法

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 お父さんが孝介さんの直属の上司でなくなった今、もう彼と会うことはない。
 だから、最後ぐらいは見栄を張りたい。
 子供は子供らしく、少しだけ背伸びをしたっていいだろう。
 私は、孝介さんの目を見つめる。もう、これが……最後だ。
「ありがとうございます、孝介さん。少しの間だけだったけど、孝介さんの近くに住めたこと……嬉しかったです。いい思い出ができました」
 最後ぐらいはニッコリと笑って別れよう。
 無理してほほ笑んだ瞬間、なぜか私は孝介さんの腕の中にいた。
「え、孝介さん?」
 戸惑ったなんてものじゃない。どうして私は今、孝介さんの腕の中にいるのだろう。
 彼の腕の中でカチンと固まる私の頭上から、優しげな声が聞こえた。
「反則技を使ったな、穂乃果ちゃん」
「え? え?」
 反則技とは一体何のことだろう。
 私はただ、孝介さんにこれ以上迷惑をかけたくなくてさようならをしただけだ。
 訳が分からない状況に、私は慌てふためいてしまう。
 私の頭をゆっくりと撫でる大きな手。こんなふうに何度か孝介さんに頭を撫でられたことはあったが、身体と身体を密着させて撫でられるなんてことはなかった。
 大人が子供を可愛がる。今まではそんな感じだったのに、この状況はどういうことなのだろう。
「俺は昔から、穂乃果ちゃんの泣きそうになりながらも笑う表情に弱いんだ」
「孝介さん?」
 孝介さんの腕の中から彼の顔を見上げると、困ったように眉を下げる孝介さんと目が合う。
 だが、その目は今まで見たことがないほど情熱的で、身が焦げてしまいそうなほどだった。
 熱い視線が絡んで、視線を逸らすことはできない。
「君のお父さんは俺を信用してくれている。穂乃果ちゃんを托された手前、手を出すわけにはいかないだろう?」
「え?」
 目を丸くして口を薄く開く私を、孝介さんは流し目で見つめてくる。
 今まで見たことがないほど色気を纏う彼に、私は目を奪われた。
「ずっと我慢していたのにな。この前、穂乃果ちゃんにあれこれ色仕掛けされて俺が揺れなかったとでも?」
「だって! いつもと同じだったじゃないですか。動揺なんて全然していなかった!」
「揺れていた。理性はグラグラだった。だからすぐに寝たふりをした。これ以上、君に色仕掛けされたら我慢できる自信がなかったから」
 本当なのだろうか。孝介さんはこんな私に欲情してくれていたというのか。
 彼の目はとても真摯で嘘をついているようには見えない。
 信じていいのだろうか。先ほどから胸の鼓動がどんどん速くなっていくのがわかる。
 まだ半信半疑の私の顔を、孝介さんは覗き込んできた。
 急に近づいた視線に、私はビクッと身体を震わせる。
 その様子がおかしかったのか。孝介さんは目を細めた。
「穂乃果ちゃん、寝たふりをする俺に触れようとしただろう?」
「気付いていたんですか!?」
 寸でのところで止めて良かった! 思いっきり動揺する私の手首を、孝介さんは突然握ってきた。
 ドクン。胸の鼓動がより大きく高鳴った。
「この手を掴んで、そのまま押し倒したかった。そう言ったら、穂乃果ちゃんは怯えてしまうだろうか」
 孝介さんの声が艶めき始めた。それに勘づいた私は、身体中が熱くなっていく。
 返事がほしい。そう目で訴えられ、ゆっくりと唇を開いた。
「怯えない……怯えるわけないじゃないですか。私、孝介さんにギュッてしてもらいたい」
「!」
 孝介さんは目を見開き、驚いているのが窺える。
 だが、次の瞬間。彼の目は男の色を濃くさせた。
 そんな孝介さんに気が付き、私は彼に告げた。
「私のこれからの全部。……全部受け取ってください」
「穂乃果ちゃん」
「私を本当のお嫁さんにしてください」
 
 
 一世一代の告白をしたあと、孝介さんに「シャワー浴びておいで」と甘く囁かれシャワーを浴びたのだが……すでにやらかした感満載だ。
 今、私の手元にあるのは、バスタオルが一枚のみ。
 孝介さんが仕事で家を空けていたとき、確かにこの部屋に入り浸っていた、だが、食事やお風呂などはすべて自分の部屋で済ませていたので、孝介さんの部屋に着替えはない。
 仕方がなくバスタオルを身体に巻き付けて出ると、入れ違いに孝介さんが浴室へと入っていく。
 シャワーを浴びている音がリビングにも洩れ響いてきた。
 その音を聞くたびにドキドキして、どうしたらいいのかわからなくなってしまう。
 これから起きるであろう色めいたアレコレを考えていると、ドアを閉める音とともに、孝介さんがリビングにやってきた。

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