【2話】堅物夫(仮)を恋に落とす方法

作品詳細

 今、高槻家のリビングには私とお父さん、そしてお父さんの部下である永倉ながくら孝介さんがいるのだが、不穏な空気を醸し出している。
 それは、神妙な顔をして二人がとんでもないことを言い出したため、私の怒号が響き渡ったからだ。
「何よ、それ。私のこと、信用していないの!?」
「いや、穂乃果のことは信用しているに決まっているじゃないか」
「じゃあ、どうして!? 孝介さんに監視を頼むだなんて!」
 私はお父さんをキツく睨みつけているのだが、睨みつけられている当の本人はどこ吹く風だ。それがまた私の怒りに火を注ぐ。
 ギュッと拳を握りしめ、より一層お父さんを睨みつけようとしたのだが、「フフッ」と楽しげな笑い声にそれを阻まれた。
「孝介さん! 笑いごとじゃありません」
「悪い、穂乃果ちゃん」
 謝ってはいるものの、孝介さんの目は笑っている。
 あまり笑顔を見せてくれない孝介さんが笑っているなんて……激レアかもしれない。
 永倉孝介さん、三十歳。彼は背も高く、顔も精悍せいかんな男性だ。
 あまり表情を表に出さない性格のようで、先ほどみたいにふいに笑顔を見せられると、それだけで胸が高鳴ってしまうほどステキな男性である。
 しかし、通常はド真面目と言い切ることができるほどお堅い雰囲気の人。百八十五センチの長身は、より威圧的に感じるのだ。
 だが、私は知っている。彼がとても慈愛溢れる人だってことを……
 彼と初めて会ったのは、この高槻家のリビングだ。
 当時、高校生だった私は、孝介さんを見て固まってしまった。
 今まで男性との接触はほとんどない生活を送ってきたから、男性が家にいることにとても驚いたし、緊張したのを覚えている。
 お父さんは孝介さんのことをとても可愛がっているようで、たまに我が家に呼んではご飯を食べたり、お酒を飲んだりしている。孝介さんのことを、とても気に入っているのだ。
 私は、初めのうちは孝介さんと挨拶程度の話しかできなかったが、今は普通に話すことができるまでに成長した。
 いや、普通には話せない。嘘をつきました、私。
 ドキドキしすぎて、切なくて、苦しくて。挙動不審になってしまうようになったのは、いつの頃からだったろうか。
 そう。私、高槻穂乃果は、お父さんの部下である永倉孝介さんを密かに想っているのだ。
 そんなことお父さんには内緒だし、もちろん本人である孝介さんに告白できるわけがない。
 ただ、こうしてときおり会えることだけで満足しているあたり、まだまだ子供で恋愛偏差値は底辺だということだ。
 孝介さんは大人の男性。結婚だって視野に入れている女性がいるのかもしれない。
 いや、いるだろう。これだけステキな男性なのだから。
 堅い雰囲気はあるものの、孝介さんの容姿はまさに〝イケメン〟なのだ。
 孝介さんの周りには大人でキレイな女性がたっぷりいることだろう。
 私がその中に入っても、孝介さんをゲットできる確率は……かなり低めであることは間違いない。
 多くの女性が惹かれるであろう孝介さんに、うちのお父さんはとんでもないことを頼んでしまった。
 お父さんからしたら白羽の矢を立てたつもりでいるのだろうけど、孝介さんからすれば、たまったものじゃないだろう。
 災難。それ以外の言葉は思いつかない。
 娘溺愛の過保護すぎるお父さんは、信頼できる部下の孝介さんに「一人娘の監視をしてくれ」と頼んだというのだ。
 怒りすぎて目眩がする。ソファーにフラフラしながら座りこむと、お父さんはシレッと言った。
「孝介の方から、穂乃果を見ていると言ってくれたんだ」
「違うでしょ? 言わせたんでしょうが!」
 この期に及んでそんなことを言うのか、うちのお父さんは!
 今までお父さんにされた、あんなことやこんなこと。それらは、他人を巻き込むケースが多かった。
 今までのことは水に流してあげてもいい。だけど、今回だけは絶対に許してはならないだろう。孝介さんに迷惑がかかることは決してしてほしくないのだ。
 だけど、お父さんが私の言うことを聞くわけがない。

作品詳細

関連記事

  1. 【3話】堅物夫(仮)を恋に落とす方法

  2. 【33話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

  3. 【4話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

  4. 【30話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

  5. 【3話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

  6. 【5話】堅物夫(仮)を恋に落とす方法

  7. 【1話】堅物夫(仮)を恋に落とす方法

  8. 【1話】氷姫を蕩かす熱愛~侯爵様の優しいキス~

  9. 【28話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

Bookstore

dブックロゴ

bookliveロゴ

PAGE TOP
テキストのコピーはできません。