【15話】堅物夫(仮)を恋に落とす方法

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 おでこじゃなくて、今度は頬とか? もしかして……唇!?
 考えただけで頭が沸騰しそうだ。恥ずかしい、だけど期待してしまう。
 ドキドキしすぎる胸の鼓動を感じながら、私も孝介さんを見つめ返した。
 だが、私の期待を翻すように、孝介さんはフッと力を抜いて笑う。
「こうして見ていると、穂乃果ちゃんは変わらないね」
「え?」
 どういうことか、と目をパチパチとしばたたかせていると、孝介さんは目尻を下げた。
「出会った頃と変わらない。可愛らしい」
「!」
 孝介さんのそのひと言でハッと我に返った。
 そうだ。今、私が孝介さんの部屋に上がり込んでいるのは、スプリンクラーのせいでもあるが、色仕掛け作戦を決行するためだったじゃないか。
 出会った頃と変わらないということは、子供のままだと暗に匂わせているのだろう。
 それではダメだ。私はとにかく孝介さんに一人の女として見てもらいたいのだ。
 子供のままでは、孝介さんはまた保護者のようになってしまう。
 ここは気を引き締めて、大人な女性を演じなければならない。
 そして、あわよくば孝介さんに私を見てドキッとしてもらいたいのだ。
 子供の穂乃果ではなく、急に大人びて距離が縮まった穂乃果。そんな私を孝介さんに見せつけたい。
 高校生の私じゃない。社会人として一歩を踏み出した、大人の女性だと思わせなくては。
 私はわざとゆっくりとした動きで、髪を耳にかける。
 七海曰く、髪をかき上げたり、耳に髪をかける動作は男心をくすぐるというのだ。
 それならやるべきだろう。髪を耳にかける仕草をしても、違和感がないであろう食事時は絶好のチャンスだ。
 サラサラと口元に落ちてきてしまう髪を、その都度ゆっくりとした動きで耳にかける。
 さて、孝介さんは私のこの仕草を見てどう思っただろう。
 少しは私を大人の女と認識して、ドキドキしてくれただろうか。
 大人の色気を意識しながら、孝介さんをチラリと見つめる。
 だが、残念なことに孝介さんはスマホに目を向けていた。
 なんか色仕掛けをしているのがバカバカしくなってきた。そして同時にむなしさも込み上がってくる。
 だが、しかし。こんなことでくじけない。
 まだ夜は長い。少しでも孝介さんの平常心を乱したいのだ。
 そそくさとカレーライスを食べたあと、お皿を持って立ち上がった私を孝介さんは止めた。
「いいよ、穂乃果ちゃん。そこに置いておいてくれれば。あとは洗っておくから」
「いいえ。ごちそうになったんですから、お皿ぐらい洗わせてください」
 制止する孝介さんをニッコリとほほ笑んで振り切り、シンクへとお皿を持っていく。
 洗剤を付けてキレイに洗ったお皿をフキンで拭いたあと、それとなく孝介さんに近づいた。
 先ほどはソファーに座った私だが、今度は床に座り込む。
 そして、少しずつ孝介さんとの距離を縮めた。そのときに、なにげない様子でカットソーの胸元を広げる。
 七海直伝、その二。胸元をアピールするべし、という教えを忠実に再現してみた。
 さて、この色仕掛け作戦はどうなるか。ドキドキしながら、孝介さんに声をかける。
「何を見ているんですか?」
 孝介さんが手にしている本を覗き込む。七海からの話では、自然体を心がけるのが重要だということだ。
 さりげなく、を念頭に、私は孝介さんに近づいて色仕掛けをしてみる。
 こんなふうに谷間を見せるようなマネ、今までしたことがない。
 羞恥にどうにかなりそうだが、ここはグッと我慢だ。とにかく孝介さんに私が女であるということをアピールしなくては。
 半ばヤケになっている私に、孝介さんは静かに答える。
「経済誌だよ。穂乃果ちゃんは、こういうの読む?」
「いえ……む、難しそうだなぁ」
「……」
 話題が続かない。だって孝介さんが見ている雑誌は、生まれてこのかた開いたことも触れたこともない類の本だった。
 本当ならここから話を広げていき、孝介さんに寄り添うという指示を七海から受けているのだが撃沈だ。
 無理、こんな難しそうなこと話題にできない。
 先ほどまで座っていたソファーにスゴスゴと移動する。
 色仕掛け作戦はことごとく失敗に終わっている。だが、私はまだ諦めていない。
 寝るまでが勝負だ。私は孝介さんにバレないようにコッソリと拳を握り、意を決する。
 七海に伝授された色仕掛け作戦、その三。肌を見せつけてやれ作戦だ。
 だが、しかし。この作戦は最終手段だと七海は言っていた。
 この作戦が失敗に終わった場合。それは私が女認定されていないという烙印を押すことになる。だから、実行に移すには、かなりの覚悟が必要だという。
 すでに後はない状況だ。やらねばならないだろう。

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