【14話】堅物夫(仮)を恋に落とす方法

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「お邪魔します、孝介さん」
「どうぞ」
 インターフォンを押すと、少しの間のあと孝介さんがドアを開いてくれた。
 だが、彼の表情からは困惑めいた何かを感じ、ズキンと胸が痛む。
 孝介さんにとって私は『招かれざる客』であることは間違いない。
 お隣さん同士になったときに、孝介さんからは『お互いの部屋の行き来は止めよう』ときっぱりと言われていた。
 緊急事態だとはいえ、孝介さんにとっては苦渋の選択だったに違いない。
 それなのに、彼の優しさにつけ込むようなことをしてしまった。
 そう思う反面、これを逃したら孝介さんを〝落とす〟チャンスは巡っては来ないという焦りもある。
 両極の思いに、自分でも何とも言えない気持ちだ。
 だが、私はやる。これを逃したら孝介さんは私のことを女だと一生思ってくれないだろう。
 保護者のつもりでいられるのも今日までですよ、孝介さん。絶対に私のことを意識させてみせる!!
 そんな決意に似た気持ちを抱きながら、リビングに通されてグルリと周りを見回す。
 孝介さんらしいモノトーンの落ち着いた雰囲気の部屋だ。
 部屋の中をキョロキョロと見回していると、孝介さんは少し困ったように笑った。
 その笑みは、いつもどおりの孝介さんで内心ホッと胸を撫で下ろす。
「穂乃果ちゃん、ご飯は食べたのかい?」
「いえ……ご飯を作っている最中にIHコンロが故障して」
「それでスプリンクラーまで誤作動してしまった、ということか」
 その通りです。ガックリと項垂れていると、孝介さんはソファーを指差して私に座る様に促してきた。
「少し待っていて。穂乃果ちゃんの口に合うかどうかわからないけど、今日はカレーライスを作ったんだ。良かったら食べるかい?」
「い、いいんですか!」
 項垂れていた私だったが、ピョコンと顔を上げる。
 期待に心躍らせ目をキラキラ輝かせている私の顔を見て、孝介さんは苦笑いする。
「そんなに期待しないで。普通のルーを使って作ったカレーだから」
「孝介さんの手料理、初めて! 本当にいいんですか?」
 嬉しくて思わず声が上擦ってしまう。孝介さんが作ってくれたものなら、どんなものでも嬉しい。万が一、マズイ料理が出てきたとしても完食する自信がある。
 しかし、そんな心配は無用だろう。
 キッチリ堅実な孝介さんのことだ。レシピ通りにピシッと作っているだろうからマズイなんてことはあり得ない。
 孝介さんはフッと噴き出すように笑ったあと、カレーを温め直してくれた。
 部屋に漂う美味しそうなスパイシーな香り。思わずお腹の音が鳴ってしまいそうだ。
 しばらくすると、孝介さんはお皿にカレーライスを盛り、テーブルに置いてくれた。
「ほら、召し上がれ」
「うわぁ! ありがとうございます」
 ほんわかと湯気が立ち上り、食欲を誘う香りがまたいい。
 何より一番のスパイスといえば、孝介さん手作りという点だ。それだけで幸せである。
 手をポンと合わせて「いただきます!」と元気よく言ったあと、スプーンを手に取った。
 嬉々としてカレーをスプーンで掬い、口に頬張る。
 ピリッとしたスパイシーな辛さ、だけど後から野菜の甘さが口いっぱいに広がる。とても美味しい。かなり美味しい。
 孝介さんは謙遜していたが、このカレーライスはかなりのレベルだ。
 美味しい! と連呼する私を見て、孝介さんは少しだけ照れている様子である。
「ありがとう。美味しそうに食べてくれて良かった」
「だって本当に美味しいですもん。お世辞じゃないですよ!」
「ははは。ありがとう」
 日頃仏頂面で感情が読めない孝介さんだが、今の彼はとても穏やかに見える。
 こんな彼の一面を見れたのは、やっぱりお隣同士だからだ。
 最初は「なんて無茶なことを考えついたんだ!」とお父さんに対して怒り心頭だったが、今はとても感謝している。ありがとう、お父さん。
 嬉しくて美味しくてニコニコしながら食べる私を、孝介さんがジッと見つめていることに気が付いた。
 その途端、ドクンと大きく胸が高鳴る。
 こんなに至近距離で、孝介さんにジッと見つめられる。そんな機会、今までにあっただろうか。いや、ない。今までに一度たりともない。
 もしかして、このままキスなんてしちゃうのだろうか。
 先日のデコチューのように、不意打ちで孝介さんは私に触れてくれるかもしれない。
 この前はおでこにキスをしてくれた。まだ、そのキスの意味を聞いてはいないのだが、期待してもいいだろうか。

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