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【8話】失恋おやゆび姫は溺愛紳士に翻弄されてます

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「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」
「いってらっしゃい」
 昼休みも残すところ、十五分。早くしないと昼休みが終わってしまう。
 社内研修で使用されている階には、会議室や資料室のみ。だから私たち以外の社員はほとんど訪れない。
 トイレを済ませ、研修場所である会議室へ戻ろうと廊下に出て、来た道を戻っていく。すると、通り道のドアがないオープンな給湯室から、男性の話し声が聞こえてきた。
「やっぱダントツ一番は坂上未知ちゃんだろ」
「あ、お前も?」
 え、未知?
 友達の話題に足は止まってしまい、聞き耳を立ててしまう。
「あの子美人だよな。大人っぽいし」
「同感。あぁいう子が彼女だったらって思うよ」
 どうやら複数人いるようだ。それにしてもさすがは未知だ。入社して間もないのに、早速先輩たちの目にとまるなんて。でも納得。未知はお世辞抜きに美人だと思うから。
「あー、でも俺、横田紗耶香ちゃんも好きだな」
「好きってあの胸が、だろ?」
「そりゃ男なら誰だって好きだろ」
 そう言いながら笑う先輩たちに、なんとも言えない気持ちが込み上げてくる。
 いや、なにを話そうと先輩たちの自由だと思うけど、自分の友達が性的な話のネタにされているのを聞かされているこっちとしては、嫌な気分になる。
 不可抗力とはいえ、このままずっとここで盗み聞きしていたら、ますます嫌な気分になりそうだ。
 給湯室で話している先輩たちに気づかれないよう、そっと会議室へ戻ろうとしたけれど……。
「新入社員っていえば、あの子! 星野有住」
 自分の名前が突然出て、身体は硬直してしまい、驚くほど心臓はバクバクし始める。
 え、わっ私!?
 気になり再び息を潜めて、聞き耳を立ててしまった。
「あぁ、あの小さい子」
「最初はびっくりしたよ。どうしてここに小学生がって思ったくらい」
「俺も! 真っ先に目がいったし」
 けれどすぐにこの場を去らなかったことを後悔してしまった。
 やっぱりそう、だよね。誰にだって同じことを思われてきたし、言われてきた。それは社会人になっても変わらないんだ。
 ズキズキと痛み出す胸。私に聞かれているとは夢にも思わないであろう先輩たちは、私の話を面白可笑しく続けていった。
「彼氏とかいるのかな」
「えー、いるわけねぇだろ。あの子と一緒に並んで街を歩いていたら、職務質問とかされそうじゃん。俺は恋愛対象外だね」
「俺も無理だな。どんなに性格良くても、あの身体じゃなぁ……」
 もうこんな話を、今までに何度聞かされてきただろうか。
 やっぱり大人になっても、同じなんだ。私……ずっとこのまま誰にも恋愛対象に見てもらえることができないのかな。
 悲しくて切なくて、苦しくて。心の中は色々な感情で埋め尽くされていく。
 だめだ、もうそろそろ昼休みも終わってしまうというのに、泣くわけにはいかない。
 必死に涙を堪え、今度こそ気づかれないように会議室へ戻ろうとしたとき、笑い声をかき消す声が聞こえてきた。
「俺はそう思わないけど」
 さっきまで笑っていた先輩たちからの「え、本気で言ってるの?」と、疑う声が耳に届いた。
 私も信じられなくて、ジッと耳を傾けてしまう。すると耳を疑いたくなるような言葉が聞こえてきた。
「可愛いだろ? 研修中も誰よりも一生懸命だし。お前らの目、おかしいんじゃないのか?」
 う、そ。本当に……?
 びっくりしすぎて思わず声が出てしまいそうになり、慌てて両手で口を覆った。
「はぁ? それはお前の目の方だろ?」
 反論する先輩に、また信じられない言葉を繰り返した。
「俺の目はおかしくないよ。むしろお前ら社会人としてどうなの? 後輩を見た目で判断するとか最低だろ」
 怒りを含む声に涙が溢れそうになる。
 さっきまで笑っていた先輩たちはなにも言い返せないのか、押し黙ってしまった。
 どうしよう……すごく嬉しい。
 いつも見た目で判断されてばかりだった。それなのにこの人は違う。ちゃんと私のことを見てくれる人だ。身長が低いとか、そんなことで判断しない人――。

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