• HOME
  • 毎日無料
  • 【7話】失恋おやゆび姫は溺愛紳士に翻弄されてます

【7話】失恋おやゆび姫は溺愛紳士に翻弄されてます

作品詳細

 この頃には紗耶香と未知とは随分打ち解けていて、休憩時間や昼休みは行動を共にしていた。
 この日の昼休みもふたりと一緒に昼食を取っているときだった。お調子者の同期の男子が、からかい口調で言ってきたのは。
 語尾に怒りを含んで言ったというのに、彼は面白そうにニヤニヤするばかり。
「え、つーかお前の名前、リスだろ?」
「……っ! あ・り・す! 私の名前は有住だから!!」
 おどける彼に強調して言えば、彼は「わざとだよ」と言いながら、笑って仲が良い同期仲間の元へと行ってしまった。
「可愛い呼び名が浸透してよかったじゃない」
「どこがっ!」
 すぐに紗耶香に突っ込みを入れれば、さっきの彼のように彼女は笑い出した。
「もー、有住も過剰に反応するからいけないんだよ?」
「確かに。有住が反応するから、からかいたくなるんだと思う」
 紗耶香に続き、ひたすら大量の食糧を頬張りながら、未知も同感と言うように頷いたけれど、これには反論せずにはいられない。
「だって言われっぱなしじゃ悔しいじゃない? ……本当に私、“リス”ってあだ名、大きらいなのにさ」
 空になった牛乳パックを、ギュッと握りしめてしまう。
 小学生の頃は、みんなと身長はさほど変わらなかった。中には背が高い子もいたけれど、まだまだ背が小さい子ばかりだったし。
 なのに中学に上がると、みんな次々と背が高くなっていって、私だけ取り残された気分だった。
 いつまで経っても伸びない身長。友達との身長差は広がるばかりで、中学二年生の頃からだ。「リスちゃん」って呼ばれるようになったのは。
 それは中学三年生でクラス替えをしても、高校生になっても。……大学生になっても同じだった。背の低い私を見て同性の友達は「可愛い」なんて言ってくれるけれど、そんな褒め言葉、正直嬉しくない。
 この身体のせいで、好きな人ができても、いつも相手にされなかったから。
 こんな身体のままじゃ、一生私は誰にも愛されないんじゃないかって思ってしまったほど。
 でも社会人になれば、新しい環境で新しい出会いもある。そこで私のことを恋愛対象として見てくれる人と、巡り合えるんじゃないかって期待していた。……期待していたのに、一番打ち解けやすい同期たちの間で私はすっかり「リスちゃん」で定着しちゃっている。
「やっぱり私のこと好きになってくれる人なんて、この世にいないのかな……」
 ポツリと漏れてしまった本音。すると紗耶香と未知は顔を見合わせ、言葉を選びながら言ってきた。
「そんなことないって。いるに決まっているじゃない、有住可愛いし」
「そうだよ、世の中には色々な男がいるんだよ? ロリコン趣味っていう人だって……」
「未知!!」
 ロリコンなんて言い出した未知を慌てて止める紗耶香。
 けれど時すでに遅し。しっかりと聞こえてしまいましたよ、ロリコンって言葉が。
「ロリコン……。やっぱり同い年くらいの男子と一緒に歩いていたら、そう思われちゃうのかな?」
「いや、そんなことないって!」
 慌てて否定する紗耶香と、同意するように何度も頷く未知。
 でも、そんな気がしてならない。こんな身体だし、一緒に並んで歩いていたら不釣り合いだよね。もしかしたら、それも私がいつも振られてしまう原因のひとつなのかもしれない。
 その後もふたりが必死にフォローしてくれたけれど、笑顔を取り繕うだけで精一杯だった。
 
 社内研修は実践的な過程へと進んでいき、実際に現場で働く先輩社員が講師として来てくれるようになった。
 大抵は男性社員が多く、同期の女子たちは「次の人はイケメンかな?」とか、「同じ部署で働きたいな」とか。そんな話題ばかりだった。
 そんな日々はあっという間に過ぎていき、社内研修も残り二日。三日後にはそれぞれ別々の配属先になるかと思うと、ちょっぴり寂しくも思う。
 それと同時に、期待は膨らむばかりだった。もしかしたら配属先に私の運命の人がいるかもしれないから。
 なんて考えは、中学三年のクラス替えに始まり、新しい生活を迎えるたびに思ってきたんだけど。
 でも誰だって期待するものじゃない? 新生活ってやっぱりわくわくするものだと思うから。

作品詳細

関連記事一覧

テキストのコピーはできません。