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【4話】失恋おやゆび姫は溺愛紳士に翻弄されてます

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「えっと……風見さん、これは一体?」
「可愛いだろ? うちのはな子」
 出勤した私を見るや否や勢いよく駆け寄ってきた風見さん。すると私の前にいきなりフォトアルバムを広げてきたのだ。
 風見さんがページを勝手にめくってくれるアルバムは、可愛いハムスターの写真で埋め尽くされていた。
「はぁ……」
 確かに可愛い。可愛く写るように絶妙なアングルで撮られているものばかりだし。
 ページを捲られるがまま、はな子の写真を眺めてしまっていると、風見さんは耳を疑うようなことを言ってきた。
「そっくりだと思わない? はな子に」
「…………へ?」
 随分と間抜けな声が出てしまった。
 えっと……もしかしてもしかしなくても、似ているというのは……。
「私に、ですか?」
 恐る恐る自分を指差しながら彼に問い掛けると、風見さんは満面の笑みで頷いた。
「はな子が人間になったんじゃないかって思ったよ」
 そういえば昨日もそんなこと言っていたよね!? やっと言葉の意味が理解できた。そういうことだったんですね。
 けれどあんまりじゃない? ハムスターと似ているなんて……!
 これから一年間指導を仰ぐことになる先輩とはわかってはいるけれど、言わずにはいられなかった。
「それは私の身体が小さいからですか? だからはな子に似ているなんて言うんですか? だったら失礼です!! 私……背が低いこと、ずっとコンプレックスなんです」
 拳をギュッと握りしめ抗議すると、彼は目をパチクリさせた。
 言ってやった! と達成感に浸ったのも束の間、風見さんはなぜか目を輝かせいきなり両手を広げたかと思えば、昨日同様、また私を真正面から力いっぱい抱きしめてきた。
「あ~可愛い! 反抗心剥き出しの目とか本当にそっくり!!」
「ちょっ、ちょっと風見さっ……」
「言った後の満足そうな表情も似ていて、もうびっくりだよ」
 興奮状態の風見さんはこれでもかってほど、私をギュッと抱きしめてくる。
 もうなんなの!? 困る、こんなこと!!
 行き場を失った手でバッグを、たまらず彼の身体に思いっきり押し当てると、どうにか解放してくれた。
 すかさず距離を取りバッグを両手で胸の前で抱え込み、彼を睨む。なのに風見さんはそんな私を見て、ますます嬉しそうに顔を綻ばせた。
「その顔もいいね、可愛い。スーツのポケットにしまいこみたいくらい」
「なっ……!」
 とんだ殺し文句にぐうの音も出なかった。
 その日から、風見さんに“人間版はな子”として、ところかまわず抱きしめられる日々が始まってしまったのだ。
 最初の頃は抱き着かれるたびに注目されちゃっていたけれど、日常化すると「また始まった」みたいな目で見られて、冷やかされてばかりだった。
 そしてどこで聞きつけてきたのやら、風見さんにも「リスちゃん」と呼ばれるようになってしまった。
 風見さんは筋金入りの小動物好き……いや、もはや小動物マニアで頻繁にはな子の写真を見せてくる。休憩中に小動物のネット動画を見ては「可愛い」って言っているし。
 けれどそのおかげで女子社員の間で、風見さんが私を頻繁に抱きしめるのは、大好きな小動物に似ているからと結論づけたらしく、よく聞く怖い嫌がらせや陰口を言われることはなかった。
 でも、な。彼が私を抱きしめるのは、はな子にそっくりで、小動物みたいだからだと思うと、私の女心はちょっぴり痛むばかりだった。
 
* * *
 
「でもさ、もしかしたら例の彼が風見さんかもしれないじゃない?」
「それ言えてる!」
 社員食堂を後にし、化粧室でメイク直しをしていると、未知と紗耶香が突然そんなことを言い出した。
「それはないよ! ……あの人は、絶対に風見さんじゃない」
 少しでも大人っぽくなりたくて、いつもつけている口紅をギュッと握りしめてしまう。
 けれどふたりは鏡越しに目を合わせ、互いに首を傾げた。
「可能性あると思うけどなぁ」
「ねぇ」
 そんなわけないよ。あの人が風見さんだなんて。私を小動物としか見ていない風見さんなわけがない。
 ふと、鏡に映る自分の姿を見つめてしまう。
 化粧室の大きな一枚鏡の中には、私の両隣に紗耶香と未知が映っている。
 ふたりに挟まれて立つと、自分の身長の低さが浮き彫りだ。おまけになに? ふたりに比べたらどんなにメイクで背伸びしても、私の童顔と幼児体型では、てんで子供に見えてしまう。
とてもじゃないけれど、社会人に見えない。高校生でも通じるくらいだ。
 せめてもう少し背が高かったら、年相応に見られていたのかもしれないのに。
 好きな人に、恋愛対象に見てもらえていたかもしれないのに――。
 身長百四十五センチ。童顔に幼児体型。……こんな身体、大きらい。

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