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【37話】失恋おやゆび姫は溺愛紳士に翻弄されてます

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 呆れた眼差しを向けてくる七瀬課長にも申し訳なくて、早くこの話を終わらせたかった。なのに風見さんは「リスちゃん!」と叫ぶと、いきなり私を抱きしめてきた。
「ちょっ……! 風見さんっ!?」
 すぐに離れようとしたけれど、がっちりホールドされてしまっていて叶わず。周囲からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
 あぁ、もう本当に恥ずかしい。付き合い始めてからというもの、今まで以上に周囲にからかわれるようになったから。
「俺もだよ、リスちゃん! リスちゃん以上に好きになれる子なんて絶対にいないから!!」
 せっかく周囲に聞こえないよう小声で言ったのが台無し。今度は冷やかしの言葉が飛び交った。
「お幸せにね~」とか「あまり見せつけるなよ」とか。和やかな雰囲気に包まれる。
 するとやっと風見さんは私の身体を離してくれて、冷かしてくる先輩たちに「あまり羨ましがらないでください」なんて言い出した。
 そんな彼に心の奥がむず痒くなってしまっていると、いつの間にか隣には七瀬課長が立っていて、呆れた声で話し出した。
「まったく。やっと付き合い始めたと思えば、これだもんな。……星野さん、大変だろ?」
「えっ!? いや、その……」
 返答に困ってしまうと、珍しく七瀬課長はクスリと笑みを零した。
「正直、君たちが羨ましいよ。……素直に想いをぶつけられる若さが」
 意味深な言葉に、ドキッとしてしまった。
 もしかして七瀬課長も、好きな人がいたりするのかな? 七瀬課長の好きな人……ちょっと想像できないけれど、きっと彼に想われる人は幸せだろうな。大人で仕事がデキて、かっこよくて。まさに理想の上司、理想の大人の男性だもの。
 七瀬課長に想われている女性のことを想像しながらも、先輩たちにからかわれている風見さんを眺めては、やっぱり自分は彼が一番好きだと再認識させられていた。
 
* * *
 
「ふたりのラブラブぶりを販売促進部中に見せびらかしちゃってさ。こっちの方が恥ずかしくなるくらい風見さん、有住のこと溺愛しているの伝わってきたよ」
「へぇー、それは見てみたかったな」
 紗耶香の話を聞いて目を輝かせる未知。けれど聞かされていた私は視線を泳がせてしまう。
「もー紗耶香、そんな話を会社でしないでよ」
 小声で訴えるけれど、紗耶香はシレッとした顔で言葉に棘を生やして言った。
「別にいいじゃない。今や風見さんと有住は本社で公認の仲なんだからさ」
「そうだよね、ふたりが付き合っていること知らない人、いないんじゃない?」
 次第にニヤニヤし始めたふたりに、奥歯をギュッと噛みしめたときだった。
「なになに? 俺とリスちゃんの話?」
 突然声が聞こえてきたと思ったら、背中に感じるぬくもり。すかさず腕が回され、背後から抱きしめられた。
「あ、リスちゃんのお友達だよね? きちんと挨拶するのは初めてだよね。いつも俺のリスちゃんがお世話になっています」
「ちょっと風見さん!?」
 いきなりなにを言い出すかと思えば……! とんでもないことを言い出した彼にギョッとしてしまう。
「リスちゃんの大切なお友達だろ? だったらちゃんと挨拶しないと」
「違います! 私が言いたいのは、そういうことではなくてですねっ……!」
 身体を左右に揺らしてどうにか風見さんを引き離したところで、ふたりが我慢できなくなったように噴き出し、笑い出した。
「……ちょっと紗耶香に未知。どうして笑うのよ」
 大笑いするふたりに面白くなくて頬を膨らませて言えば、ますますふたりは笑うばかり。
 するとふたりに代わって風見さんがコソッと耳打ちしてきた。
「きっとふたりは、俺とリスちゃんがラブラブすぎるから笑っているんだよ」
「えっ?」
 目を見開いてしまうと、今度は風見さんも笑い出した。
「もう、風見さんまで……!」
 けれど次第に私もつられるように声を上げて笑ってしまった。
 社員食堂で昼食を取っていた販売促進部の先輩たちも、いつの間にか私たちの周りに集まってきていて、いつものように冷やかしてくる。
 すると風見さんは「やっとリスちゃんが俺のものになったんです。しばらくノロケさせてください」なんて言い出した。
 当然私は赤面してしまい、そんな私を見て紗耶香たちはまた笑い出す。
 しばらく……ううん、私はこれから先もずっと彼の言動に翻弄されていくのかもしれない。
 なのに嫌な気持ちになどならない。むしろ大好きな彼にならどんなに翻弄されても、かまわないとさえ思えてしまうから。

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