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【3話】失恋おやゆび姫は溺愛紳士に翻弄されてます

作品詳細

* * *
 
 新入社員には入社式後、二週間の社内研修が実施される。無事に研修を終え、辞令式を経て初めて第一販売促進部を訪れた日。
 緊張でガチガチの中、どうにかみんなの前で挨拶をして、第一販売促進部の七瀬ななせ圭司けいじ課長が、私の教育係を担当してくれる風見さんの元へ連れていってくれたわけだけど……。
 彼は私が目の前に来ると、異様なほどガン見してきた。けれどこの身長のせいで、初対面でまじまじと見られることには慣れていたから、それほど気にせず頭を下げ挨拶をした。
「はっ、初めまして。星野有住です。一年間、よろしくお願いいたします」
 当たり障りない挨拶をし、頭を上げたときだった。
「人間版はな子だ!!」
「――え、キャッ!?」
 突然意味不明なことを叫び出したかと思えば、あろうことか私は彼に真正面から、思いっきり抱きしめられてしまったのだ。
 彼の胸元で視界を遮られ、一瞬なにが起きたのかわからなくなるも、感じる彼のぬくもりと、私の身体をすっぽり包み込むたくましい腕に、次第に抱きしめられていると認識してしまうと、急激に身体中が熱を帯びていく。
「あっ、あのっ……!」
 必死に彼の腕の中でもがくけれど、私の力ではビクともしない。周囲も騒然とし始めて、注目されていると思うとますます恥ずかしくなるばかり。
 為す術なく抱きしめられたままでいると、「風見」と怒りのこもった声と共に、勢いよく彼から身体が引き離された。
 やっと視界が良好になったけれど、壁などの仕切りがない第一販売促進部から第三販売促進部までの社員、みんなから注目を集めていたことを知り、恥ずかしさで押し潰されてしまいそうになる。
 最悪だ、配属初日からこんなに注目を浴びちゃうとか……! それでなくても、この身長で間違いなくある程度注目されちゃうっていうのに!
 それもこれも、いきなり「人間版はな子」とか意味のわからないことを言って、抱きしめてきた彼のせいだ!
 そんな彼は、引き離してくれた七瀬課長に怒られている。
「新入社員の、しかも女子社員にいきなり抱きつくバカがどこにいる」
 ごもっともな七瀬課長のお叱りに、風見さんは反省しているようにも窺える。しばしふたりのやり取りを眺めていると、バッチリ風見さんと目が合ってしまった。
 途端に彼はパッと表情をほころばせ、驚くべき言葉を口にした。
「七瀬課長、すみません。俺、彼女が可愛くて仕方ないんです。なので抱きしめても仕方ないと思いませんか?」
「なに?」
 ギョッとしちゃう発言をしたかと思えば、ツカツカと革靴を鳴らし私の目の前まで歩みを進めてきた。
 なっ、なに!?
 思わず身構えてしまう私に、彼は私と視線を合わせるように屈み、惚れ惚れしちゃうような眩しい笑顔を向けてきたと思ったら、すぐに振り返り七瀬課長に言った。
「安心してください、喜んで教育係を務めさせていただきます! っていうか、俺以外のやつを彼女の教育係にするつもりはありませんので」
 再び優しい眼差しを向けられてしまうと、熱があるんじゃないかってほど私の体温は上昇してしまった。
 風見さんの発言にオフィス内はざわつき出し、ひやかしの声が聞こえてくる始末。七瀬課長は頭を抱え込んでしまい、風見さんは私を見つめたまま。
 こうして私は配属初日にして、販売促進部内で注目を浴びてしまうことになってしまったんだ。風見さんが抱きしめちゃうほど、溺愛している新入社員として。
 しかもそれは部署内だけではなく、本社中に広まってしまった。
 どうやら彼は、社内ではちょっとした有名人らしい。身長百八十センチ。清潔感があって爽やかな印象の黒髪のツーブロックショート。キリッとした切れ長の二重瞼に筋の通った鼻。形のよい唇とすべてが“カッコイイ”を醸し出している。おまけに入社二年目にして仕事がデキる。効率よくテキパキ仕事をこなしていき、人当たりも良い。上司もそんな彼に期待しているとか。
 そんな彼は女子社員からの人気者。噂によると本気で彼女になりたい女子社員も多数いるらしい。
 イケメンで仕事がデキる。そんな男性なら他にもいるけれど、風見さんはそれだけじゃない。
 顔に似合わず大の小動物好きなのだ。その事実を知ったのは、私が第一期販売促進部に配属されて、二日目のことだった。

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