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【22話】失恋おやゆび姫は溺愛紳士に翻弄されてます

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 目頭が熱くなっていき、風見さんの顔がぼやけてしまう。すると彼はクスリと笑った。
「先輩らの目がおかしんだよ。リスちゃんはこんなに可愛くて、頑張り屋さんなのにさ。……後輩を見た目で判断するとか最低だよ」
「……えっ」
 ちょっと待って。そのセリフ……聞き覚えがある。
 頭をよぎるのは社内研修中、私のことを庇ってくれたあの日の彼の言葉。
『俺の目はおかしくないよ。むしろお前ら社会人としてどうなの? 後輩を見た目で判断するとか最低だろ』
 さっき風見さんが言ったこととほぼ同じようなセリフ。……もしかしてあの日、私のことを庇ってくれたのは風見さん、なの?
 ずっと探していたあの日の彼が、もしかしたら風見さんなのかもしれないと思うと、信じられなくて彼をまじまじと見つめてしまう。
「えっと……リスちゃん?」
 あまりに私がジッと見つめてしまっていたからか、風見さんは困惑した様子で私の名前を呼んだ。
 けれど私は彼から視線を逸らすことができない。
 思い返せば、風見さんはいつも私のことをひとりの後輩として、見てくれていたよね。仕事の面では見た目で判断されたことなんて、一度もなかった。あの日の彼は風見さんなの?
 疑問は膨れ上がっていき、知りたくて胸を高鳴らせながらそっと問いかけた。
「風見さんだったんですか……? 社内研修中に先輩たちが私の話をしていたとき、ただひとり庇ってくれたのは」
 少しだけ震える声で聞いた途端、風見さんは大きく目を見開いた。
「え、ちょっと待って。もしかしてあのときの話、リスちゃん聞いてたの?」
 困惑しながら聞いてきた風見さんに、確信に変わっていく。
 やっぱり風見さんだったんだ。あの日、私のことを庇ってくれたのは、風見さんだったんだ……!
 やっと見つけることができたあの日の彼。感動と嬉しい感情が溢れ出し、唇をギュッと噛みしめながらも、コクリと頷いた。
「聞いてました。でも顔を見ることができなくて。それであの日、私を庇ってくれた人のことを、ずっと探していたんです。……風見さんだったんですね」
 すると風見さんは目を白黒させた後、視線を泳がせ照れ臭そうに首の後ろに手を回した。
「そうだよ。……研修中、俺も七瀬課長の手伝いで入っていたんだ。そのとき、リスちゃんを見つけた。……誰よりも一生懸命研修に取り組むリスちゃんを」
「……知りませんでした」
 研修中、七瀬課長と一緒に風見さんがいたなんて。ちょっと覚えていなくて素直に言うと、彼は微笑んだ。
「だって俺、資料配ったりしていたくらいの雑用係だったから。それにリスちゃん、集中していたから。だから俺の存在に気づかなかったんだよ」
 そう言うと風見さんは私と視線を合わせるように屈んだ。
 彼の整った顔がすぐ目の前に近づいてきて、ドキッとしてしまう。なのに優しく微笑む彼から視線を逸らせない。
「リスちゃんはさ、身体が小さいことを気にしていて、コンプレックスに思っているかもしれないけど、俺はチャームポイントだと思うよ」
「チャームポイント……ですか?」
 聞き返してしまうと、風見さんはにっこり笑った。
「うん。身長なんて身体の特徴の一部でしかないでしょ? たったひとつの特徴だけがリスちゃんじゃない。それも含めてのリスちゃんなんだよ」
「風見さん……」
 胸が熱くなっていく。
 私……ずっと背が低いことがコンプレックスで、こんな身体、大きらいだった。いつも身長のことばかり気にしていたけれど、風見さんに言われてハッとした。身長なんて身体の特徴の一部でしかないんだ。たったひとつの特徴でしかないんだよね。
 もうダメ。風見さんが私のことを小動物としか思っていないとか、彼は先輩として声を掛けているだけとか。そんな理由なんて考えられない。……私、風見さんが好き。
 あの日庇ってくれて、私のこと見た目だけで判断しない人で。そして今、私の欲しい言葉をくれるこの人が堪らなく好きだよ。
 自覚してしまうと、好きって気持ちが溢れ出し、感情のまま目の前にいる彼に抱き着きたい衝動に駆られてしまう。
「だからリスちゃんは今のままでいいんだよ」
「えっ?」
 そう言うと風見さんは私との距離を詰め、両手を広げてそっと私の身体を抱き寄せた。
 すっかりインプットされてしまった彼のぬくもりに、眩暈を起こしそうになる。今ばかりは、風見さんに抱き着きたい。抱きしめてほしいと願ってしまっていたから。
「誰がなんて言おうと、俺はリスちゃんの味方だから。だから泣かないで」
 心地よいぬくもりと、優しい言葉に、また好きって気持ちが膨れ上がっていく。
 このままずっと彼のぬくもりに包まれていたい一心で、躊躇いながらもそっと彼に体重を預けた。
「……ありがとうございます」
 風見さんの胸元で囁くように感謝の気持ちを伝えると、彼はなにも言わずギュッと抱きしめる腕の力を強めた。
 風見さんが好き。大好き……。
 溢れる想いを心の中で何度も彼に伝えてしまった。

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