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【20話】失恋おやゆび姫は溺愛紳士に翻弄されてます

作品詳細

「リスちゃんさぁ、そんな身体じゃ今まで誰にも好きになってもらえなかったでしょ?」
「だろうね。つーかリスちゃんと街を歩いたりしたら、俺ら捕まっちゃうだろ」
 そう言って大笑いする先輩たちだけれど、これにはさすがに作り笑いさえできなくなる。
 いくら酔っているとはいえ、あんまりだ。
 それでも相手は酔っている先輩。唇をギュッと噛みしめ、ひたすら耐えた。
「それなのにさぁ、リスちゃん張り切りすぎ。子供は子供らしくしていればいいのに、一人前に企画書上げちゃったりしてさぁ」
「……え」
 さすがに声を上げてしまった。すると先輩たちは畳み掛けるように言ってきた。
「そうそう、子供なのに生意気だよ? 企画書提出するなんて」
「せっかく可愛いのに、そんなことされたら憎らしく思っちゃうじゃん」
 なに、それ。私はただ仕事をしただけなのに。第一うちの会社は、仕事に関しては先輩後輩関係なくがモットーじゃない。それなのに、どうしてそんなこと言うの?
 悔しくて膝の上で拳をギュッと握りしめた。
「小学生みたいな見た目で、おまけに可愛げないんじゃ誰も好きになってくれないよ?」
「だよなー。俺も無理だわ、リスちゃんは」
「俺も俺も。さすがに恋愛対象外」
 先輩たちの言葉が胸に突き刺さる。
 今まで同じようなことを、何度言われてきただろうか。我慢して聞き流していたけれど、もうダメだ。さすがに限界。
 いつの間にか騒がしかった個室内は静まり返っていて、悪酔いしている先輩たちをみんな遠巻きに見ていた。そして私に憐みの眼差しが集まってくる。
「ちょっとあんたたち、ふざけすぎ! いい加減にしなさいよ!!」
 状況を把握した松本さんがこっちに来てくれたけれど、みんなの視線が突き刺さる現状に、悔しくて恥ずかしくて泣きたくなってしまい、たまらずバッグを手に立ち上がった。
「すみません、お先に失礼します!」
 大きく頭を下げ、駆け足でドアへ向かっていく。
「え、あっ! リスちゃん!?」
 すぐに松本さんが私を呼ぶ声が聞こえてきたけれど、立ち止まることなく玄関へと走っていく。
 その最中もさっきの先輩たちの言葉が頭の中で繰り返される。
 どんなに歳を重ねても、私はこの先もずっと誰かの恋愛対象になることはできないのかな? この身体のせいで誰にも好きになってもらえないの? 仕事だってっ……!
 玄関へ辿り着く前に涙が溢れ出す。すれ違う店員は何事かと振り返って見てくるけれど、早くひとりになりたい一心だった。
 玄関のドアに手をかけたと同時に、自分で開けるより先にドアが開いた。
「わっ! びっくりした……って、リスちゃん!?」
「……風見さん」
 ドアの先に立っていたのは風見さんで、私を見るなり驚き目を見開いた。それは私も一緒。まさかこのタイミングで風見さんが来るなんて。
 すると彼は険しい表情を見せ、私の腕を掴んだ。
「どうしたの? ……なにされたの?」
 確信を得た目に、たじろいてしまう。
 けれど頬を伝っていく雫を感じてしまい、言葉が出てこない。泣いているんだもの。ここで「なにもありません」は通用しない。でも――。
「……なんでも、ないです」
 顔を下に向けそう言うしかなかった。だって言いたくないよ、風見さんに。さっきのことを知られたくない。……もしかしたら、風見さんも先輩たちと同じかもしれないから。私のことなんて、恋愛対象外かもしれないから。
「なんでもないわけがないでしょ。……誰かになにかされたの? 言ってよ。でないとわからないだろ?」
 私の腕を掴む力を強める風見さん。彼は心配してくれているんだと思う。けれど今の私にはそんな風見さんの優しさが辛い。
 ますます胸は痛み出し、大粒の涙が零れ出す。
「すみませっ……失礼します」
 辛くて、思いっきり彼の腕を振り払い、全速力で居酒屋を後にした。
「リスちゃんっ!」
 背後から風見さんの切羽詰まった声が聞こえてきたけれど、立ち止まることなく前へ突き進んでいく。駅近くにある居酒屋。外に出ればすぐ人混みに紛れることができた。
 風見さんが追い掛けてくるかもしれないと思うと、真っ直ぐ駅に向かう気になれず、反対方向へと足を進めていった。
 次第に歩道を歩く人も街灯の数も減っていく。当てもなく進んで行くと、見えてきたのは小さな公園。
 ポツリポツリとある園内の街灯が、滑り台とブランコを映し出した。周囲は住宅街でとても静か。
 まるで吸い寄せられるように公園内へ足を踏み入れた。
 小さなブランコの前で立ち止まり、おもむろに乗るとギィ……と鉄のびた音が静かな公園内に響き渡る。
 走ってここに辿り着く間に涙は止まっていた。見上げれば、雲ひとつない夜空に星が光り輝いていた。

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