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【2話】失恋おやゆび姫は溺愛紳士に翻弄されてます

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 私が配属された先は第一販売促進部。主に消費者向けのプロモーションや、イベント企画をう部署だ。
 紗耶香が配属された先は、オフィスではお隣の第二販売促進部。流通、小売店、代理店向けのプロモーションや、商品の認知度を上げたり、キャンペーンなどの企画を請け負う部署。
 他に第三販売促進部があり、こちらでは社内の営業部門向けのセールスプロモーションを請け負っている。
 第一販売促進部から第三販売促進部は同じオフィス内にあり、時には連携を取って仕事を進められるようになっている。
 ちなみに未知が配属された先は、会社の顔と言っても過言ではない受付。受付に配属されている社員は美人ばかりで、男性社員の間で『高嶺の花部署』と呼ばれているらしい。
 それぞれ配属先は別々だけれど、昼休みは一週間のうち半分は一緒に過ごしている。週末はたまに三人で飲みに行って、それぞれ仕事やコンプレックスの愚痴ぐちを言い合ったり。私たち三人、まだ出会って半年と少しだけれど、友情を築き上げてきた。
「でも有住はさ、なにもそんなに一生懸命背を伸ばす努力しなくてもいいんじゃない?」
「そうだよね、必要ないよね」
 食事を終えた未知に続き、紗耶香までニヤニヤしながら私を見てくる。
 わかっている、ふたりが言いたいことは。わかるからこそイラッとしてしまう。
 箸を置き、ふたりを交互に睨みつける。
「あのさ、言っておくけど風見かざみさんは私のことなんて、これっぽっちも恋愛対象には見ていないからね!」
 念を押すように言っても、ふたりはニヤニヤ笑ったまま。
「もー、いい加減にっ……!」
「なになに? リスちゃんってば俺のこと呼んだ?」
 弾む声と共に、突然ずっしりと背中に感じる重み。そして両肩から伸びてきた長い腕。あっという間に私の身体は背後から抱きしめられてしまった。
 すぐに周囲から冷やかす声が飛んでくる。そして目の前に座るふたりは、余計にニヤけ出した。
 突然こんなことをされたら誰だって慌てふためくはず。けれど私は冷静でいられるほど、すっかり慣れてしまったのだ。いまだに抱き着いている彼の抱擁ほうように。
 彼のぬくもりも、身体の重みも私の身体にインプットされてしまっている。
「もーっ! 風見さん! いい加減にしてくださいっ!!」
 全力で身体を左右に振り、どうにか彼を引き離し素早く立ち上がって振り返ると、風見大志たいしは私を愛しそうに見つめていた。
 甘い瞳に一瞬ドキッとしてしまったけれど、すぐに気持ちを入れ替えて彼を見上げる。
 視線がかち合うと、風見さんはニッコリ微笑んだ。
「言っておくけど、リスちゃんが悪いんだからね」
「どうして私が悪いんですか!!」
 子供みたいにムキになって言い返すと、彼はイジワルそうに表情をゆがめると、少しだけかがみ私の耳元でかすれた声でささやいた。
「抱きしめたくなるほど可愛いからだよ」
「なっ……!」
 鼓膜こまくを刺激する彼の低音ボイスに一瞬で顔が熱くなる。言葉にならなくて、口をパクパクさせたまま風見さんを指差すことしかできない。
 そんな私を見て風見さんはクスリと笑い、私の頭を一撫ですると「またオフィスでね」と言い残し、颯爽さっそうと去っていった。
 しばし彼の背中を眺めてしまっていると、いつの間にか一部始終を見ていたふたりが両隣に立っていて、ポンと肩に手を置いてきた。
「お似合いだと思うけどなぁ、有住と風見さん。それにあれは絶対有住に好意を寄せているでしょ。でなければ、毎日のようにところかまわず抱きしめてこないって」
「右に同じく」
 ふたりに言われても、頷くことなんてできそうにない。
「どうしてそんなことを言うかな? ……ふたりには散々話したでしょ? 風見さんが私のことをどう見ているかって」
「それはそうだけどさ……」
 言葉を濁すふたりに、チクリと胸が痛んだ。
 風見さんは私よりひとつ年上の二十三歳。そして第一販売促進部に所属しており、直属の上司だ。
 我が社の決まりで、新入社員には一年間教育係の先輩社員がつくことになっている。一年間仕事を共にし、みっちりノウハウを指導してくれるのだ。その教育係が風見さんなんだけど……。
 あれは忘れもしない、配属直後のことだった。

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