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【14話】失恋おやゆび姫は溺愛紳士に翻弄されてます

作品詳細

 申し訳ない気持ちで埋め尽くされてしまう中、聞こえてきたのは深い溜息。
 顔を上げると風見さんは私に背を向け、給湯室へ向かっていた。
「あっ……」
 後を追い掛けるも、泣きそうになる。
 こんな風見さん、初めてだから。彼の背中から怒っているのが伝わってくるから。
 風見さんはシンクにかごを置くと、湯呑を流し台に入れ始めた。その様子を私は一歩後ろで眺めることしか出来ずにいた。
 どうしよう、風見さんを怒らせてしまった。どうしたらいいんだろう。
 溢れそうになる涙を堪えるように、唇をギュッと噛みしめてしまう。すると湯呑をすべて流し台に置き終えた風見さんは、ゆっくりと私の方へ視線を向けた。
 目が合い、ドキッとしてしまう。そんな私に風見さんは一歩近づき、真意の読み取れない表情で私の顔を覗き込んできた。
 少しだけ身体を後ろに反ってしまうけれど、風見さんは表情を変えず私を見つめたまま言った。
「あのさ、ちゃんとわかってる? リスちゃんは女の子だってこと」
「……え」
 てっきりまた怒られると思っていた私は、少し拍子抜けしてしまった。すると風見さんは少しだけムッとした後、私の両手をギュッと握りしめた。
「かっ、風見さんっ!?」
 ギョッとし慌てる私とは違い、風見さんは冷静。
「こんなに細い腕であんな重いものを、運べるわけがないでしょ?」
 風見さんの言いたいことは理解できる。その通りだと思う。こんな小さな身体で重いものを運べるわけがなかったんだ。
 でも――やっぱり風見さんも同じなんだ。いつもなにかするたびに言われてきた。
「有住みたいな子供ができるわけないでしょ?」って。それは高校生、大学生になっても同じ。みんな私の見た目で判断して、子供扱い。風見さんも同じなんだね。私のことそう思っているんでしょ?
 いつも言われてきたことなのに、風見さんに言われると胸が痛んでしまう。そしてなぜか悔しくて、悲しくて本音が漏れてしまった。
「風見さんも私のこと、子供扱いなんですね」
「……え?」
 私の腕を掴む力は弱まり、彼は目を見開いた。
「確かに私の身体ではあの量を運ぶのは無理かもしれません。……でも子供扱いはしないでください。私だってもう二十二歳の大人です」
「リスちゃん……」
 やだな、言ったあとで後悔してしまった。大人ですなんて言いながら、こんなことを言う時点で子供だって。けれど彼は意外なことを言い出した。
「俺はリスちゃんのこと、子供扱いした覚えは一度もないけど?」
 驚き今度は私が目を見開いてしまう。すると風見さんはふわりと頬を緩めた。
「こんなに細い腕をしている女の子が、無理するなって言いたかったの」
「……女の、子?」
 たどたどしい声で聞き返してしまうと、風見さんはクスリと笑った。
「そうだよ、リスちゃんは子供じゃない。女の子……いや、二十二歳の大人の女性だろ? そんな子が無理して運ぶ量じゃなかった。……どうするの? 怪我して傷が残ったりしたら」
 そう言うと風見さんは腕を引き、私の身体を抱き寄せた。
 いつもとは違い、優しく抱きしめられ胸がトクンと鳴ってしまう。
 やだな、いつもだったらすぐに全力で離れようとするところなのに。今は全然嫌じゃない。むしろ彼のぬくもりが心地よい。
「仕事頑張るのはえらいけど、無理は禁物。片付けが遅くなったって誰も文句言わないんだから、慌てなくてもいいんだよ」
「風見さん……」
 違うのに。私はただ面倒なだけで、無理しちゃっただけなのに。
 勘違いさせたままでいるのがしのびなくて、両手で彼の胸元を押して距離を取り、見上げた。
「あの、違うんです。私はその……ただ、何回かに分けて運ぶのが面倒で、無理しちゃっただけで。だから本当、自分が悪いんです。すみませんでした」
 素直に謝ると風見さんは目をパチクリさせた後、「プッ」と噴き出し、大声で笑い出した。
「アハハハッ! なんだよ、それ。もーリスちゃん可愛いなぁ」
「え、なっ……!」
 声を上げて笑い出した風見さんに面食らってしまったのも束の間、彼はいつものように力いっぱい抱きしめてきた。
「あー可愛い。欲張ってひまわりの種を寝床に一生懸命運ぶ、はな子みたい」
 またはな子!? ――そう、思うのにな。いつものようにイラッとしない。力いっぱい抱きしめられているのに、離れてほしいと思えない。
 それはきっと、風見さんは他の人とは違うから。私をひとりの人間としてちゃんと見てくれているから。……女の子扱いしてくれているのが、わかったからだ。

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