【26話】犬猿同期ふたりの恋愛攻防戦!?

作品詳細

 どうも企画課のみんなは、すでに私と櫻井が付き合っていると勘違いしているようだ。
 彼女だけじゃない、他の同僚からも同じようなことを言われたことがあるから。
 最初は否定していたけれど、毎日のように言われては次第に面倒になり、そういうことにしておいた。
 でもみんなに付き合っていると勘違いされるということは、私も櫻井のことが好きだと思われているってことだよね?
 また答えの出ない無限のループに陥りそうで、考えることをやめた。それに今は休憩しているとはいえ仕事中だ。
「そろそろ再開しようか」
「はい、お願いします」
 気持ちを入れ替え、彼女との打ち合わせを再開させた。
 打ち合わせ終了後、用事を思い出しオフィスに戻る彼女と別れ、経理課へと向かった。
 廊下を突き進んでいくと、ふと聞こえてきた声に足が止まる。
「……よね、片岡さん」
 自分の名前にドキッとし、思わず聞き耳を立てる。
 数メートル先の資料室のドアが半分空いていて、どうやら話し声はそこから聞こえてきているようだ。
 気づかれぬよう足音を立てずに近づき、そっと中の様子を盗み見る。そこには広報部の女性社員ふたりがいた。
 盗み聞きなんて悪いと思いつつ、自分の名前が聞こえた以上気になる。ふたりはいったいなんの話をしているのか。
 罪悪感よりも好奇心が勝り、彼女たちの会話に耳を傾けた。
「櫻井くんに好かれていい気になっているよね。知ってる? まだ返事は保留中らしいよ」
「うそなにそれ、最悪! あんなに好きって言ってくれて、態度でも示してくれているのに保留にするとか、櫻井くんが可哀想」
 けれどすぐに聞かなければよかったと後悔する。聞こえてきた自分の悪口をこれ以上聞きたくなくて、足早にその場を後にした。
 けれど次第に歩くスピードは落ち、廊下の中腹で完全に立ち止まる。
 逃げたのは、彼女たちが話していたことが正しかったからだ。櫻井は何度も気持ちを伝えてくれているのに、私はいまだに一度も彼に自分の気持ちを伝えていない。
 櫻井が答えを求めてこないことをいいことに、曖昧なままでいる。でもそれってずるいよね。向こうは真剣に気持ちを伝えてくれているのに、私は答えが出ないからと理由をつけて、保留にしたままなんて。
 一歩、また一歩と力ない足取りでオフィスへと向かう。
 きっとそう思っているのは、彼女たちだけではないはず。……もしかしたら櫻井も思っている? いい加減早く返事をよこせって。
 いつの間にか企画課のオフィスに着き、ドアを開けると近くにいた櫻井に不思議そうに声を掛けられた。
「あれ、戻り早いな。経理課へ行くって聞いていたけど、もう用事は済んだのか?」
 彼に言われ、経理課に行くことをすっかり忘れていたことに気づく。
 でも素直に「忘れた」とは言いづらい。だって言ったら櫻井、また心配してくれるでしょ? 曖昧な関係でいる私のことを。
「片岡? どうかしたのか?」
 なにも言わない私に彼は首を捻った。
「ううん、なんでもない。ただ、その……」
 あれ、どうしよう言葉が続かない。櫻井の顔がまともに見られなくて、視線は下へ向かっていく。
 私、今まで櫻井とどんな顔をして接していたんだっけ? それさえわからなくなり、混乱する。
「ごめん、仕事に戻るね」
 視線を逸らしたまま伝えると、彼は戸惑いながら「あぁ」と返事をした。それを聞き、急いで自分の席へ向かう。
 椅子に座り、自分の胸元に手を当てると心臓は忙しなく動いていた。
 六年もずっと一緒にいたのに、なにこれ。どうして今さら彼との接し方に迷うの? これまで通りでいいじゃない。それなのに……。
 それからというもの、櫻井に声を掛けられてもうまく話せなくなり、自分から避けるようになってしまった。

「どうして避けるのよ。だって菊も櫻井のこと、気になっているんでしょ?」
「それはそうだけど……」
 櫻井とギクシャクしはじめてから一週間後、仕事終わりに久しぶりにふたりで飲みに行こうとなり、先に仕事が終わった私は、真理が所属している経理課へ向かった。
 服装は自由な私たち企画課とは違い、経理や総務、広報は規定の制服の着用が義務付けられている。
 仕事が終わり、誰もいない控室で着替える真理を椅子に座って待っていた。
 そこで話は自然と櫻井のことになる。「最近どうなの?」と聞かれ、まさに悩んでいた私はすぐに今の状況を話すと、先ほどの言葉が返ってきた。
 煮え切らない返事をした私に、真理はロッカーのドアを閉め、小さく息を漏らした。
「櫻井は決して冗談で菊に告白したわけじゃないと思うよ? あれはどう見ても本気でしょ」
 断言する真理に、複雑な気持ちになる。
「櫻井が本気だから、うまく話せないの」
「どうして?」
 着替えを終え、真理は隣に座ると尋ねてきた。そんな真理に今の想いを吐露する。

作品詳細

関連記事

  1. 【29話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

  2. 【3話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

  3. 【4話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

  4. 【5話】堅物夫(仮)を恋に落とす方法

  5. 【27話】犬猿同期ふたりの恋愛攻防戦!?

  6. 【36話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

  7. 【4話】堅物夫(仮)を恋に落とす方法

  8. 【29話】犬猿同期ふたりの恋愛攻防戦!?

  9. 【23話】堅物夫(仮)を恋に落とす方法

Bookstore

dブックロゴ

bookliveロゴ

PAGE TOP
テキストのコピーはできません。