【19話】犬猿同期ふたりの恋愛攻防戦!?

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「社用車を手配しておく。万が一の対策はこっちでやっておくから、事故には気をつけて行ってこい」
 部長の言葉に櫻井と顔を合わせる。そしてふたりで大きく頷き、「はい」と返事をした。
 同僚にも快く送り出され、櫻井と急いで社用車のワンボックスカーに乗り込み、車を発進させる。まずは櫻井がハンドルを握ってくれた。
「お互い免許持っていてよかったな」
「……うん」
 高校を卒業と同時に両親に勧められて免許を取った。大学は都内への進学が決まっていたし、免許は必要ないと言ったのに、いずれ必要になる時がくるからと言われ、取らせてもらったことに感謝しないと。
 レンタカーを借りてみんなで旅行へ行って、運転は定期的にしていたから大丈夫。
「首都高に入ったし片岡、今のうちに寝とけ」
「え?」
 ね、寝る? まだ午前中なのに?
 横を見ると、櫻井は前を見据えたまま言った。
「ここから先、道のりは長いんだ。お互い仮眠を取りながら、なるべく止まらずに向かおう。……大丈夫、きっと間に合うさ」
「櫻井……」
 どうしよう、また涙が溢れそうになる。
 普段は言い合いばかりしていたけれど、出会ってからずっと櫻井は私がピンチの時は助けてくれたよね。
 悩んでいる時も、困っている時もさり気なく声を掛けてくれた。それなのに素直になれない私は、ちゃんと彼に伝えることができていなかった。
「ほら、早く寝ろ」
 荒々しく言うけれど、それは彼の優しさだって伝わってくる。自分のミスじゃないのに、こうして一緒に広島まで行ってくれようとするなんて、どこまで櫻井は優しいの?
「……わかった、じゃあ寝るね」
「おう、寝ろ寝ろ」
 瞼を閉じると、「お前が起きていたって、運転の邪魔になるだけだ」なんてことを言う。
 いつもの私だったら、すぐに言い返すところだけれど……。部長にかけ合ってくれた彼の姿が目に焼き付いて離れてくれない。
「櫻井」
「ん? どうかしたか?」
「ありがとう」
「えっ……?」
 素直な想いを吐露した瞬間、彼は驚きの声を上げた。今、櫻井がどんな顔をしているかわからない。でもそれ以上なにも言わないってことは、私の気持ちが伝わったと思ってもいい?
 瞼を閉じたままでいると、大きな彼の手が躊躇いがちに私の頭に触れた。その瞬間、息が止まりそうになる。
 え、櫻井……?
 思わず目を開けそうになり、固く瞼を閉じた。
「同期なんだ。……普段からもっと頼っていいんだよ、バーカ」
 悪態をつきながらも、私の頭を撫でる手は優しい。
 どうせ私が起きているって気づいているんでしょ? まんまとドキドキさせられている私がおかしい?
 そんなことを思いながらも、彼に対する想いで胸がいっぱいになる。
 なんだかんだ言いつつ、そうやって力になってくれる櫻井に感謝だよ。
 彼がここまで協力してくれたんだもの。なにがなんでも明日のオープンまでには間に合わせたい。
 そのためにも今はしっかり寝て体力をつけよう。
 その後もなぜか、彼の手は私の頭上から離れたり撫でたりを繰り返す。櫻井に触れられるたびに心地よくなり、私はいつの間にか寝てしまった。

 その後、夜の十九時半には問屋に着くことができた。
 連絡がいっていたから、残って待ってくれていた取引先と一緒に荷物を詰め込み、お礼を言ってすぐに広島を発った。
 それから運転を交代しながら深夜の高速道路を走り抜け、東京にある百貨店に着いたのは朝の五時。そこから連絡を受けた同僚や業者たちが来てくれて、急ピッチでディスプレイに取りかかった。

「本当にこの度は申し訳ありませんでした!」
 ギリギリで準備を終え、オープンした百貨店。その事務室で私たちのことを寝ずに待ち、手伝ってくれた部長に深々と頭を下げた。
「いや、間に合ってよかったよ」
「……はい」
 間に合って本当によかった。
「しかしその分、部長をはじめ皆さんに迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ありません」
 無事にオープンできたのは、みんなの力があったからだ。たくさん謝って感謝してもしきれない。
 いつまでも顔を上げられずにいると、部長は私の肩をポンと叩いた。
「片岡、顔を上げなさい」
 そう言われ、ゆっくりと顔を上げると、部長は眉尻を下げ困った顔を見せた。
「何度か言おうと思ったんだが片岡、お前はなんでもひとりで抱え込むところがある。今回のように櫻井はもちろん、私や同僚たちを頼っていいんだ」
「部長……」
 すると部長はにっこり微笑んだ。
「運転疲れただろう。今日と明日は櫻井と有休をとれ。申請は私が出しておくから」
「え、でも……」
 迷惑かけた上に明日まで休むわけには……。
 やんわり拒否しようとしたものの、すぐに部長が被せてきた。
「休んでリフレッシュしてこい。……櫻井となにがあったか知らないが、お前たちふたりの言い争う声が聞こえてこないと、みんな仕事にならん」
 部長らしくないセリフに目を見開いてしまう。驚く私を見て再び部長は私の肩を叩いた。

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