【17話】犬猿同期ふたりの恋愛攻防戦!?

作品詳細

 聞くのが怖いのかも。……だってこんなに意識しているのは私だけでしょ? きっと櫻井は、私のことなんてなんとも思っていない。
 どうするの? 私を抱いたのは気まぐれとか、ただ反応を見て、からかいたかったからって言われたら。
 そんなことを言われたら私、悲しい。
 想像しただけで胸がギュッと痛む。
 だめだ、こいつのそばにいると仕事中なのに余計なことを考えちゃう。
 今はまだ小さなミスだけで済んでいるからいいようなものの、大きなミスをしたら取り返しのつかないことになる。
 小さく息を吐き、部屋から出ようと決めると、櫻井がポツリと漏らした。
「なんか変な感じだよな」
「えっ?」
 隣を見ると、櫻井は懐かしみながら話し出した。
「つい最近入社したばかりだと思ったら、お互い指導する立場にいるんだぜ? 昔は想像できなくなかったか?」
「そりゃ、まぁ……」
 突然どうしてこんな話をはじめたんだろう。疑問に思いながらも歯切れの悪い返事をすると、彼は私を見ながら続ける。
「それだけ俺たちも歳をとったんだよな。……そう思わないか?」
 「ん?」なんて甘い声で尋ねられドキッとする。
「そ、そりゃ当たり前じゃない! 私たち、もう二十八歳だし、入社して六年たつもの」
 ドキドキしていることを悟られたくなくて、ツンとした態度をとってしまう。すると櫻井は、クスクスと笑った。
「それもそうか。じゃあさ、六年もたつわけだし、いい加減俺たちの関係も進展させないか?」
「――え」
 意味深なセリフにジッと彼を見つめると、優しい瞳を向けてきた。普段とは違う櫻井の表情に、胸を鷲掴みにされる。
 なによ、どうして櫻井ってばそんな顔をしちゃっているわけ? 私の反応を見てからかうつもりなの?
 そう思うと下手になにも言えず、キュッと口を結んだ。そんな私に彼は問う。
「なぁ……お前はこの先もずっと俺とは、犬猿同期の関係でいいのか?」
 なに、それ――。彼の真意が掴めず、ただ目を見開くばかり。
 いいのかって……それを聞いて櫻井はどうするつもりなの? 私が嫌だって言ったら、私たちの関係は変わるの?
 それともやっぱり後になって笑って「騙されてやんの」って言うの?
 ますます櫻井の気持ちがわからなくなる。
「なぁ、どうなんだよ片岡」
 それなのに櫻井は私に答えを急かしてくる。
 そもそも聞いてくるなんておかしくない? まずはあんたがどう思っているかを言うべきじゃないの?
 そう思うと、やっぱりからかわれている気がしてならない。
 書類を手に立ち上がり、ギロリと彼を睨んだ。
「いいも悪いも、こういう関係にさせたのはあんたでしょ?」
 そうだよ、元はといえば櫻井が悪いんじゃない。思いっきり突っかかってきて、いつも人のことをからかってくるから。
 私を怒らせるようなことばかり言ってくるから、私も言い返した。そのせいで〝犬猿同期〟とか〝ケンカップル〟なんて呼ばれるようになったんじゃない。
 目を瞬かせて驚く櫻井を再び一睨みして、私はスタスタとイートインスペースを後にした。
 苛々を発散させるように、ズカズカと廊下を渡っていく。
 なんなの、櫻井は。もしかしてあいつ、私が自分のことを意識していることに気づいている? だからあんなことを聞いてきたの? だったら悪趣味だ。人の気持ちを弄ぶなんて最低!
 でも、そんな最低なやつにドキドキしているのは私。……私の方が最悪じゃない。
 歩くスピードは遅くなり、誰もいない廊下の真ん中で立ち止まった。
 たった一度関係を持っただけで意識しちゃうとか、あいつにとったら迷惑な話なのかもしれない。
 それに櫻井の話では、私の方から『もっと』ってねだったみたいだし!!
 もしかしたら私の方から『抱いてよ』って持ちかけたのかも……。そう思うと居たたまれなくなる。
 こんなに悩むことになるなら、逃げずにちゃんと櫻井の話を聞いておけばよかった。
 どんな経緯で一夜を共にしてしまったのかを知ったら、今のように心を乱されることはなかったかもしれないのに。
 けれど今となっては後の祭り。今さら聞けないよ、あの日の夜のことなんて。
 ため息をひとつ零し、オフィスへと戻った。

 その後も櫻井は相変わらず普通に話し掛けてくる。あからさまに私が避けても、気にする素振りなど見せずに。
 次第に周囲から「喧嘩でもしたの?」と囁かれはじめ、ますます私の心は乱されてばかり。
 そんなある日、私はついに取り返しのつかないミスを犯してしまった。
「えっ、届いていないって……搬入は今日の予定でしたよね!?」
 オフィス中に響く部長の焦った声に、みんな手を止め一斉に視線を送った。
「はい……申し訳ありません、すぐに確認し折り返します」
 電話を切ると部長は、オフィスを見回し私の姿を捉らえる。その瞬間、胸がドクンと鳴る。……もしかして私、なにかやらかした?
 不安に襲われ、バクバクと心臓の音が木霊こだまする中、部長はいつになく厳しい表情を見せた。
「片岡、たしかお前だったよな? 明日からはじまるフェアで使うディスプレイの発注をかけたのは」
「は、はい」

作品詳細

関連記事

  1. 【1話】犬猿同期ふたりの恋愛攻防戦!?

  2. 【22話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

  3. 【19話】犬猿同期ふたりの恋愛攻防戦!?

  4. 【52話】恋甘キッチン~溺愛社長の一途な独占欲~

  5. 【4話】堅物夫(仮)を恋に落とす方法

  6. 【49話】恋甘キッチン~溺愛社長の一途な独占欲~

  7. 【48話】恋甘キッチン~溺愛社長の一途な独占欲~

  8. 【5話】堅物夫(仮)を恋に落とす方法

  9. 【5話】堕ちて幸せ!?~復讐に燃える完璧令嬢は魔王の花嫁になりました~

Bookstore

dブックロゴ

bookliveロゴ

PAGE TOP
テキストのコピーはできません。