【16話】犬猿同期ふたりの恋愛攻防戦!?

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『私と彼の関係は?』

「片岡先輩、先週渡した企画案、見てくださったでしょうか?」
「え……企画案?」
 指導を任された新入社員に問いかけられ、キョトンとなる。けれどすぐにハッとし、慌ててデスクに山積みになっている書類の中から、一番下に置かれていた企画案を見つけ苦笑い。
「えっと……ごめんなさい、今すぐに確認します!」
 顔の前で両手を合わせ謝罪すると、後輩は怒るどころか、心配してきた。
「いいえ、まだ締め切りまで時間があるのですぐにではなくても大丈夫です。それより片岡先輩、大丈夫ですか? 最近、お疲れですよね?」
 うぅ、指導している後輩にも心配され情けない。
「ううん、疲れているわけじゃないの。ごめんなさい、心配かけちゃって。今日中には目を通しておくから」
「わかりました。でも本当に無理なさらないでくださいね」
 「失礼します」と言って去っていく後輩の背中を見送った後、深いため息が漏れた。
 本当、なにやっているんだろう。先週頼まれていたのに、忘れていたなんて。
 櫻井と一夜を共にしてからというもの、いつもの自分らしく仕事に取り組むことができなくなっていた。
 これまでだったら絶対にしないようなミスを繰り返し、みんなに謝るばかり。おまけに新入社員にも心配される始末。
 チラッとオフィスで同僚と話している彼を見る。
 真剣な面持ちで取り組む姿は、凛々しく見えて胸が鳴る。……って、そういうのはおかしいから!
 慌てて首を左右に振り、ドキドキをかき消す。
 最近の私は本当におかしい。たしかに櫻井は世間一般的に見たらカッコいい部類に入ると思う。
 でも今まで一度も男として意識したことはなかった。まるで女友達のようになんでも言いたいことを言えたし、女らしく振る舞うことさえしなかった。
 それが今はできていない。嫌でも意識しちゃうし、なぜかカッコよく見えてしまう。
 おかげで仕事に身が入らず、小さなミスを繰り返していた。
 だめだ、一度気持ちをリセットさせよう、同じ空間にいたら、どうしても気になって見ちゃうから。
 後輩の企画案を持ち、オフィスを後にした。
 向かった先はイートインスペース。そこで珈琲を飲みながら、企画案に目を通していく。
 誰もいないスペースはシンとしていて、集中しやすい。……うん、オフィスを出てきてよかったかも。いっそのこと、ここで仕事をしたいくらいだ。
 そんなことを考えながら珈琲を飲み、荒々しいけど勢いのある企画案に口元を緩ませていると、ドアが開く音がした。
 咄嗟に視線を向けると、イートインスペースに入ってきたのはパソコンを手にした櫻井だった。
 ちょっと待って、嘘でしょ!?
 せっかく落ち着いた胸の鼓動が、忙しなく動き出す。
 けれど私の事情を知らない櫻井は、迷いなくこちらにやって来た。
「お疲れ」
「……お疲れ様」
 平常心を装い、彼を見ることなく挨拶を返す。
 すると櫻井は席ならいくらでも空いているというのに、私の隣の席にパソコンを置き、自販機に向かった。
 え、どうしてわざわざ隣の席を選ぶの? 非常に困るんですけど。
 ひとり慌てふためく私とは違い、櫻井は至って通常運転。自販機でブラック珈琲を購入すると、私の隣の席に腰を下ろし、手にしていた書類を覗き込んできた。
「なに? 後輩の企画案見てんの?」
「う、うん、そうなの」
 不自然に思われないように視線を逸らしながら答える。
「そっか、大変だな」
 すぐに櫻井は離れてくれて、持ってきたパソコンを開いた。
 ホッと胸を撫で下ろし、残りの珈琲を一気に飲み干す。
 櫻井と一緒にいたら仕事にならないし、ドキドキしているのを気づかれたくない。
 櫻井はあの一夜の後の月曜日、普通に私に声を掛けてきた。爽やかな笑顔で「おはよう」と。
 こっちはどんな顔をして会えばいいのかと、散々気に揉んでいたから拍子抜けするほどだった。
 その後も彼は、まるであの日の夜のことがなかったように接してくる。
 そんな彼に対して私は普通でいられなくなった。もう二週間もたっているというのに、あの日の朝、私を見る櫻井の妖艶な表情も息遣いもぬくもりも、すべて鮮明に覚えているから。
 意識しないようにすればするほど空回りし、今までのように接することができなくなった。
 できるだけ話さないように、関わらないようにしている。そのくせ気になってチラチラと見てばかり。
 矛盾する言動に頭を悩まされていた。
 それなのに櫻井は、あの日のことに触れることもなく、本当に今まで通り接してくるからたまったものじゃない。今みたいに、気軽に話し掛けてくるし。
 そっと隣に座る彼の様子を窺うと、パソコンを眺め難しい顔をしている。
 ねぇ、櫻井……私、あんたに聞きたいことがたくさんあるんだけど。人のことを抱いておいて、どうしてそう平然としていられるの?
 私にちゃんと話したいことがあるって言っていたよね? それはもういいの? それに怒っていないの? 黙って帰ったことに対して。
 なによりあんた、どういうつもりで私のことを抱いたの?
 ずっと心の中で繰り返し訴えてきた想い。こんなに近くにいるのだからいつでも聞こうと思えば聞けるのに、それができない。

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