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【5話】デキる上司が狙うは恋愛戦力外のシンデレラ

作品詳細

二章 初めてのお誘い
 
『園田さん、明日一緒に営業に行こうか』
 そう健太に言われた瞬間、愛梨は固まってしまった。
 愛梨のデスクに手を置いて、顔を覗き込むようにして微笑んでいる彼はとても爽やかで、語尾に疑問符がつく言い方だった。
 男性が苦手な愛梨にとっては、仕事とはいえ……いや、彼女の場合は仕事だからこそ男性と行動を共にするのはハードルが高いことなのだ。即答できない。
 ──ど、どうしようっ。聞かれたということは、断る余地があるの?
 営業補佐の仕事は、オフィスでのデスクワークだけではない。
 彼らがスムーズに仕事ができるようサポートするために、契約書や見積もりなどの書類作成をするのは勿論だが、日々のスケジュール管理をしたり、代わりに来客の応対をしたり、ときに一緒に外回りをすることもあるのだ。
 向かいに座っている加奈子と弥生も週に二度くらい、営業と一緒に外回りに出ている。
 だからこそ彼女たちは、一緒に過ごす機会が多くなる健太の補佐になりたがっているわけだけれど、その本人は今まで一度も補佐と一緒に出掛けたことがないという。
 サポート業務はオフィス内に限るから外回りはしないと、補佐についた当初に聞かされていた。だから愛梨も安心していたのだけれど。
『仕事は、立て込んでないよね?』
 健太は愛梨のデスクとパソコンモニターを見て言う。
 たしかに今はほかの子から回ってきている仕事もない。そういえばここ一週間ほどは、その日に間に合わなかった仕事を押し付けられることが少なくなった気がする。
 心なしか加奈子と弥生の無駄なおしゃべりも少なくなったような……。
 ふたりに目を向けると、健太の方を向いた目が大きく見開かれており、口をあんぐりと開けていた。やはり相当に驚いているようだ。
 ──でもどうして急に、一緒に営業に?
 そう思ったけれど、営業補佐としては当然の業務なのだ。今まで一度も同行がなかったのがおかしく、不思議に思う方が間違っている。
 そして断る理由も見つからない。
『はい……同行します』
 
 そんなわけで、今日は初めての営業に出ることになっていた。
 ──緊張する……。
 服装はいつものスタイルだけれど、メイクはほんの少し濃い目にして、頬にはチークを入れてある。血色の悪い肌だと不健康な印象を与えてしまうから、それだけは避けようと思ったのだ。
 けれど──。
 出勤するなり、加奈子がふんわりウェーブの髪を揺らしながら駆け寄ってきた。遅れてショートボブの弥生も愛梨の元にくる。
「やだ~。園田さんったら、なによ、その地味な恰好! 今日のあなたの一番の仕事は、会社と営業の華となることなのに~」
 開口一番、加奈子にダメ出しをされてしまった。
 ふたりの服装は淡い色を基調にしたオフィスカジュアル。暖色系の柔らかな風合いが女性らしさを際立たせており、爪にはネイルを施してある。ふんわり漂ってくる香りはブランド物のコロンだろう。
 女子力の高い二人に比べ、愛梨の爪は綺麗に切りそろえてあるだけでコロンもつけない無味乾燥なスタイルだ。
「……ダメですか? 営業は清潔感が第一だと思うんですけど」
 これでもブランド系のスーツで仕立てがよく、しかもしわのないものを選んできたのだ。
「まったく、保険セールスじゃないんだから。清潔感はいいけどさ、せめてもっと明るい色の服にしなきゃ、笑顔も映えないじゃない。それじゃ高倉さんが気の毒。まるで役目を果たせないじゃない」
 弥生も加奈子に賛同し、げんなりとした表情を作った。
 今日の愛梨の仕事は健太の隣でひたすらにこにこして、企業の担当さまに愛想を振りまくことだと言うのだ。
「でも、これしか持ってないんです」
 苦笑いする愛梨を見て、弥生がこの世の者ではない生き物を見るような目で見つつ、呆れたように言った。
「ほんと? いまだにそんな服しか持ってないなんて、信じられない! お洒落しようと思わないの?」
 合コンの時には一度も言われなかったことだけれど、何故だか今日は二人とも容赦がない。
 健太と一緒に出かけるからなのか、それとも仕事だからこそ言っているのか。
 どちらかといえば前者かもしれない。きっと綺麗ではない愛梨が絶大な人気を誇る健太の隣に立つのが許せないのだろう。
 逆に、綺麗ならばそれはそれで嫉妬して攻撃をするのだろうけれど……複雑な乙女心である。
「ね、ひょっとして。あなたのクローゼットの中身は全部リクスーなの?」
 尋ねられた愛梨は自室のクローゼットを思い浮かべてみる。
 普通の服がないわけではないけれど、メリーに就職が決まった際に通勤用として買ったのは同じようなデザインで地味な色の服ばかりだ。

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