【4話】デキる上司が狙うは恋愛戦力外のシンデレラ

作品詳細

 以前の補佐は健太と接するたびにシナを作って甘えたような話し方をしてきたので、たいそうやりづらかった。
 それでもまともに仕事をこなしてくれればいいのだが、ミスが多くて満足できる状態ではなかった。ミスをカバーするために、却って健太の仕事が増えることもあった。あまりにひどいため、主任になったのと同時に補佐の変更を願い出た。
 そうして新たに来たのが、中途入社の愛梨であった。
 男性社員の中には女子社員はオフィスの飾りと思っている輩もいる。仕事半分、目の保養半分。だから可愛ければよりいいと言う。
 だから愛梨に対しては、「外見がすげー地味」だの、「いつまでリクルートスーツで来る気だよ」などと少々バカにするような者もいるが、健太にとってはそんなことはどうでもいいことだ。
 上目遣いで見つめてこず、甘えた声も出さず、なおかつ仕事を正確にこなしてくれるのが一番ありがたいのだから。
 そんなことを考えながらエントランスまで来た健太は、今日の営業先に電話を入れておこうと思い立った。
 マメな連絡と訪問は顧客管理に欠かせないものだ。訪れた先の雑談から情報を得て新規獲得につながることもある。
 と思ったのだが、いつも入れているはずのところにスマホがない。たしか、オフィスを出る前に着信があって、その後……デスクに置いたのだ。
 健太は額に手のひらを当ててため息を吐いた。
 ──肝心なもの忘れて営業に出るって、アホだろ。
 自らに悪態をつきながら、速足でエレベーターに向かう。一度「行ってきます」と言って出たのに、忘れ物を取りに行くなんてちょっと間抜けだ。
 気恥ずかしく思いながらエレベーターを降り、オフィスに通じる廊下の角を急いで曲がったところで、ふわっとした柔らかな衝撃を体に受けた。誰かとぶつかったと認識すると同時に、微かなフローラル系の香りが健太の鼻孔をくすぐった。
「きゃっ」
 カシャン……と僅かに硬質な音がした後、目の前に尻もちをついている女性の姿が目に入った。
 紺色のスーツに一つに束ねた黒い髪は、自分の営業補佐の愛梨だと思えた。
 かなり勢いよくぶつかったせいか、彼女のメガネは吹っ飛び、お尻を撫でつつ顔をしかめている。
「ごめん! 急いでいたもんだから、怪我はない?」
 健太は膝をついて愛梨の顔を覗き込んだ。
 ──あれ? この子、園田さんだよな?
 メガネのない顔は初めて目にするもので、しかも至近距離だ。思いもよらず、まじまじと見つめてしまう。長い睫毛に黒々とした大きな瞳。きめの細かい白い肌にぷっくりした赤い唇。派手なメイクをしているわけではないのに、決して地味ではない顔がそこにあった。
 ──この子、部署内の誰よりも可愛いんじゃないか?
「……はい、大丈夫です。私こそすみません」
 愛梨は脇に落ちているメガネを取ってかける。途端にいつもの地味な愛梨に戻ってしまった。
「でもよかったです。高倉さんが戻ってきてくれたから、走って追いかけずにすみました」
 そう言って愛梨は健太に手の中のものを差し出した。
「しっかり持っていたので、落とさずにすんでよかったです。壊れていないはずです」
 それは健太のスマホだった。
「ありがとう。俺が忘れたの、気づいてくれたんだ」
「はい。倉庫から戻った時にたまたま高倉さんのデスクを見たんです。あ、忘れてるって思って、急いで行けば追いつけるかなって……私も速足だったから」
 健太は愛梨の手からスマホを取るついでに、腕を引いて立ち上がるのを手伝った。思ったよりも軽い体重だったために引く力が勝ってしまい、愛梨の体が健太の胸にぽすんとぶつかった。
 再び女性特有の柔らかさが健太の体に伝わってくる。
「何度もぶつかっちゃって、ごめんなさいっ」
「いや、俺の方こそ。強く引っ張り過ぎた。ごめん」
 慌てて離れ、すかさず頭を下げた愛梨の頬は赤く染まっている。
「あ、あの、いってらっしゃい!」
 そう言って愛梨は逃げるようにオフィスに戻っていった。
 ──かなり、柔らかかったな……。
 メガネが外れた顔の可愛さも衝撃的だったが、瞬間とはいえ二度も触れた愛梨の胸の感触に驚いていた。健太の女性経験からすれば、リクルートスーツの中に隠れた肢体は、多くの男性にとって相当に魅力的なものに思えた。
 自分の魅力に気づいていないのか。それともわざと地味に装っているのか。そうであるなら何故隠すようなことをするのか。
 補佐としてそつなく仕事をこなし、仕事を押し付けられていても嫌な顔をしない。おまけに今のやり取りから判断すれば、かなり性格がいい子だと思える。
 ──気になる子だな。
 入社以来仕事ばかりしていた健太だったが、久々に異性に興味を持てた瞬間だった。

作品詳細

関連記事

  1. 【1話】氷姫を蕩かす熱愛~侯爵様の優しいキス~

  2. 【5話】デキる上司が狙うは恋愛戦力外のシンデレラ

  3. 【43話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

  4. 【1話】幼なじみエリート上司と一途で秘密な両想い

  5. 【4話】国王陛下の寵愛蜜戯~獰猛な独占欲~

  6. 【10話】幼なじみエリート上司と一途で秘密な両想い

  7. 【42話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

  8. 【16話】氷姫を蕩かす熱愛~侯爵様の優しいキス~

  9. 【17話】氷姫を蕩かす熱愛~侯爵様の優しいキス~

Bookstore

dブックロゴ

bookliveロゴ

PAGE TOP
テキストのコピーはできません。